2021年モデルでアップデートが行われ、ケーブルフル内装式となったスコットの"FOIL"。現代のエアロロードとして求められるスペックとなったエアロロードのミドルグレード完成車"FOIL30"をインプレッションする。



スコット FOIL30スコット FOIL30 photo:Makoto AYANO/cyclowired.jp
現代のエアロロードでは必須となっているカムテール断面のチューブ形状に先鞭をつけたのは、スコットであることはご存知だろうか。初代FOILがリリースされた2011年当時、エアロロードの主流はNACAの翼断面形状であり、前方投影面積の低減と整流効果にのみフォーカスしたバイクが多く存在した。

空気抵抗の低減を突き詰めた翼断面形状が与えられたバイクは、エアロダイナミクスが重要となる平坦系のレースに投入され輝かしい成績を収めてきた。しかし、ロードレースは登りや横風がレースの行方を左右することも多く、レースバイクに求められる性能はエアロであり、軽量であり、適切な剛性を備えていることだった。

三拍子揃ったロードバイクを開発するべくスコットが世界に先駆けて導入したのが、冒頭でも名前をあげたカムテール形状のチューブだった。翼断面チューブの後端部を切り落としたD型シェイプは、翼断面形状と比較し軽量で剛性バランスを調整しやすく、エアロ性能も犠牲にせず、横風には強いというメリットを持つ。その有用性はFOILの登場以後エアロフレームのスタンダードとなったことからも明らかだろう。

細身のシートステーとすることで、パリ~ルーベを制覇できるほどの衝撃吸収性を実現した細身のシートステーとすることで、パリ~ルーベを制覇できるほどの衝撃吸収性を実現した スコットが先鞭をつけたカムテールは健在だスコットが先鞭をつけたカムテールは健在だ エアロダイナミクスを意識したブレード形状のフォークエアロダイナミクスを意識したブレード形状のフォーク


エアロロード時代の転換点を作った初代FOILは登場から5年後の2016年にモデルチェンジが行われた。主な変更内容はカムテールの形状ブラッシュアップと、各チューブのインテグレーテッドデザイン化とリア三角のドロップドシートステー化。

2代目FOILで特筆すべき点は、マシュー・ヘイマンによる北の地獄"パリ~ルーベ"制覇だろう。快適性にフォーカスした専用マシンが投入される中、エアロロードを使用したヘイマンによる勝利は、FOILが持つエアロダイナミクスだけではなく安定性を証明することに成功し、プロトンを代表するマシンとしての地位を獲得した。

ドロップドシートステーとD型チューブによりエアロダイナミクス向上を図ったドロップドシートステーとD型チューブによりエアロダイナミクス向上を図った シンクロスと共同開発を行ったCRESTON IC SL(ステム一体型ハンドル)がアセンブルされているシンクロスと共同開発を行ったCRESTON IC SL(ステム一体型ハンドル)がアセンブルされている

ダイレクトマウントと通常ハンガーに対応するエンドが採用されているダイレクトマウントと通常ハンガーに対応するエンドが採用されている スリムなヘッドチューブを採用しているスリムなヘッドチューブを採用している


スコットは現在も見劣りしないフレームワークを2016年に作り上げ、2021年モデルにおいてもFOILの基本設計はこの2代目を踏襲している。技術の進化が反映されやすいエアロロードにおいて、息の長いフレームワークはエアロダイナミクスに優れているということの証明になるはずだ。

基本のフレーム造形は変わらないと言っても、2018年にはディスブレーキ化を果たすなど細部のブラッシュアップは都度行われている。ディスクブレーキ搭載モデルのフロントフォークは、ただ単にブレーキキャリパーを装着しただけではなく、空気の流れを意識しエアロフラップがエンド付近に設けられた。レースマシンとして妥協のないエアロダイナミクスをFOILに与えるというスコットの姿勢が伝わってくる。

そして、2021年モデルで満を持してFOILはケーブルフル内装バイクへと進化を遂げた。採用されるシステムは現行ADDICT RCの開発で実現した独自のもの。シンクロスと共同開発を行ったCRESTON IC SL(ステム一体型ハンドル)を利用し、フレーム内部へとケーブルを導いていく。

ハンドルバーステムのクランプ部はカバーで覆うハンドルバーステムのクランプ部はカバーで覆う ダウンチューブからチェーンステーまで繋がっているような造形ダウンチューブからチェーンステーまで繋がっているような造形


スコットの内装システムの特徴は、コラムの中心軸をヘッドチューブに対して3mm後方にオフセットさせた「エキセントリックフォークシャフト」を採用し、ベアリングとフォークコラム前方の間にケーブルを通すスペースを確保したこと。このオフセット設計によりコラムは真円形状のままとされ、剛性を確保することに成功しているという。

また、広い空間が作り出されているため、電動シフトのケーブルだけではなく機械式のワイヤーを通すことが可能となっている。今回インプレッションを行うFOIL30は、シマノの機械式変速コンポーネントULTEGRAを採用。ミドルグレードかつ機械式変速ながら、フル内装が実現されており、トップグレードと遜色のないスッキリとしたルックスとエアロダイナミクスを獲得している。

分割式コラムスペーサーなどもエアロを意識した作りだ分割式コラムスペーサーなどもエアロを意識した作りだ カーボン製のエアロシートポストがアセンブルされているカーボン製のエアロシートポストがアセンブルされている フォークエンドには整流効果を発揮するフラップが備えられているフォークエンドには整流効果を発揮するフラップが備えられている


FOILシリーズに用いられるカーボンはADDICT RCとは異なり、トップグレードのFOIL PROはHMXという物が採用されている。今回ピックアップするFOIL30はHMFというグレードとされており、フレーム重量が1060g、フォーク重量が365g。ホイールセットはシンクロスのRR2.0で、完成車重量は8.1kg。

現代エアロロードに求められるスペックを網羅したスコットのFOIL。今季、チームDSMが駆るバイクのミドルグレードを藤野智一(なるしまフレンド)と福本元(ペダリスト)の二人がインプレッションを行う。その実力は如何に。



― インプレッション

「FOILシリーズらしい高い剛性が光るスプリンターマシン」藤野智一(なるしまフレンド)

「FOILシリーズらしい高い剛性が光るスプリンターマシン」藤野智一(なるしまフレンド)「FOILシリーズらしい高い剛性が光るスプリンターマシン」藤野智一(なるしまフレンド) photo:Kenta Onoguchi
FOILは歴代のモデルどれに乗っても高い剛性があり、スプリンター向けのバイクという印象を持っていたんですが、今回のバイクもその系譜を引き継いでいると実感させられましたね。実際に乗ってみて際立つのは高い剛性であり、平地やダッシュが好きなレーサーのニーズに応えてくれると思いました。

ヘッドからダウンチューブ、ボトムブラケットハンガー部分が非常に硬く作られていて、ライダーのパワーをすべて受け止めてくれるようでした。スプリントでハンドル周りに力を込めても、自分の力が逃げること無く思い通りに動いてくれます。瞬間的に加速するのではなく、スーッとスピードが伸びていくようでした。

ただ高剛性フレームということもあり、自転車がライダーに求める進ませ方には特徴があって、そこから外れるとペダリングがしっくりこなくなります。例えば、スプリントする際は車体の振りは小さめにする方が良いでしょう。FOILは車体が起き上がろうとする力が強いので、それに抗って車体を大きく振ってしまうとペダリングが重くなってしまう感覚があります。

「地面に吸い付くようなスタビリティによって安心感がある」藤野智一(なるしまフレンド)「地面に吸い付くようなスタビリティによって安心感がある」藤野智一(なるしまフレンド) photo:Kenta Onoguchi他にもケイデンスは90rpmほど、慣れていない方でも70~80rpm程度の早めの回転で、程々のトルクを掛けていくペダリングの方がしっくりきますね。30km/hほどの速度域で走れる方がこのようなペダリングをすると、バイクが小気味よく反発しスムーズに進んでくれるので、レースのフィニッシュや、帰宅するまで体力を残せると思います。

対して、トルクフルなペダリングでガンガン踏んでいくと相応のスピードが出ていきますが、その分体への負担も大きくなるでしょう。スプリントの場面ではアドバンテージですが、そこまで如何に体力を残すかが大切です。元気なうちはアグレッシブに楽しめますが、登りや長距離を走った後にはバイクの良いところを引き出すにはスキルが求められる印象でした。登りにおいてもパワーで押し切れる人であれば5km程度の緩斜面のヒルクライムであればスピードを維持できると思います。

はっきりとしたスイートスポットはあるものの、レーサーではない方でもこの自転車で走っていくうちに特性を把握し上手に扱うことで、FOILの良さは引き出せますし、どんな遊び方もできるはずです。見た目のカッコよさで選んだとしても、先程も説明したようにギア比とケイデンスに気をつければロングライドも楽しめるでしょう。

コーナリングは進入から脱出まで一貫して安定していますね。地面に吸い付くようなスタビリティと適切な剛性感のおかげでハンドリングに安心感があり、ホビーライダーからレーサーまでどの様なサイクリストでも思ったように曲がれるはずです。エアロロードにありがちな車体を倒し込む時の反応が鈍いということもありませんでしたし、思ったように車体を動かすことができます。

エアロロードではありますが、横風の影響なども考えると40mmハイトのホイールがちょうど良さそうです。サイクリングで登りによく行く方であれば、カンパニョーロのBORA WTOやロヴァールのAlpinist、マヴィックならローハイト系のほうが、このバイクの性能を引き出してくれるでしょう。

「FOILが求める走らせ方を把握すると良さを引き出せる」藤野智一(なるしまフレンド)「FOILが求める走らせ方を把握すると良さを引き出せる」藤野智一(なるしまフレンド) photo:Kenta Onoguchi
機械式ULTEGRAの完成車で53万円ほどという価格は、特徴的なカラーと走行性能を考えるとお手頃かなと思います。機械式変速を内装化しているので、ワイヤーが内部で引っかかる実感は正直ありますが、走行感に影響を与えるほどではありません。気になるのであれば後々DI2にアップグレードしてあげてもいいでしょう。


「フレームは高剛性だが、タイヤのチョイスで良いバランスを出している」福本元(ペダリスト)

エアロロードということもあり先入観として硬いというイメージが合ったのですが、乗ってみると想像以上にバランスが取れているバイクでした。完成車パッケージとして28Cのタイヤが装着されているということも影響していると思うのですが、それを加味した上でも40km/h、パワーでは250~300Wほどを出力する場面で高い性能を発揮してくれたので、上位グレードに匹敵するのではないかと思わされました。

「フレームは高剛性だが、タイヤのチョイスで良いバランスを出している」福本元(ペダリスト)「フレームは高剛性だが、タイヤのチョイスで良いバランスを出している」福本元(ペダリスト) photo:Kenta Onoguchi
ミドルグレードということもあり完成車の重量が8kgほどですが、リムブレーキで同価格帯であれば7kg台のバイクが多いと考えると数値的には重めですよね。ですが、ディスクブレーキが主流となった最近の自転車は手に持った時の重さと、走行している時の重量感はいい意味で乖離していて、FOILも走行感としては軽やかな自転車になっています。

エアロロードの走行感でイメージするのは直進安定性の強さだと思われますが、FOILは車体の倒れている角度に対して、イメージよりも切れ込んでいきます。もちろん危うさは無く、コントロール下にはおかれています。また、ホイールベースが987mmとあまり長くなく、走行した印象としても自然にコーナーをクリアできるので、アンダーステアが出てヒヤッとするようなことは無いでしょう。

バイクとしての剛性感としては硬すぎず、柔らかすぎずのいい塩梅と感じています。フレームの剛性はミドルグレードながら高めという印象で、特にハンドル周りは硬く、スプリント時にバイクを振った時にダイレクトな操作感があり、まさにスプリンターマシンという感じです。

光の加減によってフレームカラーが変わって見えるスコット FOIL30光の加減によってフレームカラーが変わって見えるスコット FOIL30 photo:Kenta Onoguchi
他にもBB86という幅広シェルを採用している影響もあり、ボトムブラケット部分も硬め。トルクを掛けるペダリングをした時にフレームが撓んで、反応がワンテンポ遅れるということはありませんでした。各社のフラッグシップホイールを装着すると、プロレーサーが使用しても活躍できるくらいのポテンシャルはありそうです。

それでも乗り心地が硬すぎないという印象になっているのは28Cのタイヤが大きく影響していると感じます。リアバックの路面追従性も高いと思うのですが、太めのタイヤをアセンブルすることでパッケージとしてのバランスを整えているのでしょう。逆に、23Cや25Cのタイヤを装着すると、より剛性感が際立ってくると思いますね。

「ハイパワーでも応えてくれる性能を持っている」福本元(ペダリスト)「ハイパワーでも応えてくれる性能を持っている」福本元(ペダリスト) photo:Kenta Onoguchiフレームは高い剛性を持っているので、勢いよくトルクフルに踏んでしまうと、踏み続けるのに相応の体力が必要になってきます。FOILに乗る上ではなるべくケイデンスは75~85rpm程度のリズムを保ち、程よくトルクを掛けるペダリングが、ライドの終盤まで脚を残せる方法かと思います。

インナーローでクルクルと回すペダリングもFOILのイメージとは合致しません。なので登りのシチュエーションにフォーカスすると、40km/hほどのスピードを出した後の登り返しや、3~4%程度の登りは得意ですが、勾配が急で距離も長いところばかりを攻めるならば、違う選択肢があるでしょう。FOILが活きるのはスピード域が高いシチュエーションや、アップダウンが小刻みに続くようなライドですね。

元々高い平地巡航性能を備えているバイクなので、ホイールはカンパニョーロ BORA WTOの33mmや、マヴィックのKysirium Carbonのような軽めのミドルハイト系を選び、登りをカバーするのはありでしょう。見た目的にはディープリムを組み合わせたいですが、フレームが高剛性なので、硬すぎないホイールというというのも選択肢としては有力です。

機械式ULTEGRA完成車で税込53万円は納得できますね。フレームに内装されるワイヤーによってハンドルが切りにくいということもありませんでしたし、完成車パッケージとして満足できると思います。今までレースやイベントに参加していて、そろそろリムブレーキからディスクブレーキに乗り換えようと考えている方、特にフラッグシップに乗りたいけど、予算の折り合いをつけるのは難しい方にフィットするモデルだと思いました。


スコット FOIL30スコット FOIL30 photo:Makoto AYANO/cyclowired.jp
スコット FOIL 30
フレーム:FOIL Disc HMF F01 AERO Carbon tech.Road Race geometry
コンポーネント:Shimano Ultegra
ホイールセット:Syncros RR2.0 Disc 28 Front / 28 Rear Syncros RWS
タイヤ:Schwalbe ONE Race-Guard Fold 700x28C
重量:8.1kg
サイズ:XXS、XS、S、M、L
価格:489,000円(税抜)



インプレッションライダーのプロフィール

藤野智一(なるしまフレンド)藤野智一(なるしまフレンド) 藤野智一(なるしまフレンド)

92年のバルセロナ五輪ロードレースでの21位を皮切りに、94/97年にツール・ド・おきなわ優勝、98/99年は2年連続で全日本選手権優勝など輝かしい戦歴を持つ。引退してからはチームブリヂストンアンカーで若手育成に取り組み同チームの監督を務めた。2012年より出身チームのなるしまフレンドに勤務し、現在は神宮店の店長を務める。ブリヂストン時代にはフレームやタイヤの開発ライダーも務め、機材に対して非常に繊細な感覚を持つ。

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福本元(ペダリスト ピナレロショップ青山)福本元(ペダリスト ピナレロショップ青山) 福本元(ペダリスト ピナレロショップ青山)

東京都港区に構えるペダリスト ピナレロショップ青山の店長。中学生からロードバイクを楽しみ、高校に上がるとともに競技生活をスタート。実業団レースでE1まで昇格し、富士ヒルクライムでゴールドを獲得したレーサー。その経験を活かし、ショップではスクールなども担当。接客のモットーは「要望を実現できる方法を考える」こと。

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ウェア協力:カステリ

text:Gakuto Fujiwara
photo:Kenta Onoguchi、Makoto AYANO