フルリニューアルを果たしたパナレーサーのベストセラーグラベルタイヤ「GRAVELKING」をインプレッションする。新たなモデル「X1」を追加し、トレッドパターンとケーシング、サイズの選択肢が大幅に増えたグラベルタイヤの王者の使用感をフィールドで確かめた。



パナレーサー GRAVELKING X1 photo:Makoto AYANO

ますます熱を帯びる世界のグラベルシーン。3月1日、グラベル界をホットな話題が賑わした。高いシェアを誇るパナレーサーのGRAVELKING(グラベルキング)が新たなモデルを追加し、フルリニューアル。ケーシングやサイズのバリエーション豊かに全ラインナップを刷新したのだ。

1952年の創業以来、自転車タイヤ&チューブ専業メーカーとして挑戦を続けるパナレーサー。そんな同社が誇るのが、誕生から10年を迎えたグラベルタイヤ、GRAVELKINGだ。

そのラインナップの誕生は「グラベル」という概念がまだ世界に浸透していなかった2014年の春。北米を発信源として生まれたばかりのグラベルライド向けタイヤとして登場したGRAVELKINGは、当時は驚きと困惑をもって迎えられたという。しかしそれからわずか10年でグラベルライドはメジャーな地位を確立。同時にGRAVELKINGも確固たる人気を築き上げ、その名のとおりグラベルの王者的な存在のタイヤに。世界に認められる日本製タイヤとして確かな人気とシェアを獲得するに至った。

今までにない新たなトレッドパターンのGRAVELKING X1 photo:Makoto AYANO

それから10年。タイヤやリムを巡る規格も流行とともに変化してきた。とくに近年のワイドリム化や新ETRTO規格導入によりグラベルバイクの足回りも大きな変革を迫られることに。そして自由な乗り方が身の上のグラベルライドでは、様々なスタイルでライドを楽しむユーザーが生まれ、そのスタイルはさらに多様化する傾向を見せている。

新GRAVELKINGは、そんな多様性に富むグラベルマーケットのニーズに応えるべく、従来からの強みを生かしながら性能向上を図る技術革新が導入された。グラベル専用「ZSG GRAVEL Compound」、新開発の素材を採用した「TuffTex(タフテックス)」ケーシング、さらに「BeadLock」でビードまわりをアップデート。新開発ケーシングの「R」スペック、そして新たなトレッドパターンの『GRAVELKING X1』がラインナップに加わった。

GRAVELKING X1 カット図 (c)パナレーサー

ラインナップはトレッドパターン別に、舗装路からライトな走りに適したスタンダードモデルの「GRAVELKING」、オンロードからグラベルまでカバーするハイブリッドの「GRAVELKING SS」、「This is グラベルタイヤ」と呼ぶべきトラディショナルなブロックパターンの「GRAVELKING SK」、そしてよりアグレッシブでレーシーな新設計トレッドデザインによりあらゆる路面での直進性、トラクション性能の向上を図った「GRAVELKING X1」を追加し、全4トレッドパターンで展開することに。

GRAVELKING トレッド別に4種のラインナップ (c)パナレーサー

そして各パターンには、std(スタンダード)、+(プラス:耐パンク性能)、R(軽さ、しなやかさ)の3スペックのケーシングを揃えるに至ったのだ。

軽さとしなやかさ、乗り心地のよさにフォーカスした新ケーシングの「R」スペックは、チューブラータイヤで培った技術を応用し、stdスペックより転がり抵抗を約9%低減、乗り心地を約5%向上している。

GRAVELKING SS+ カット図 (c)パナレーサー
GRAVELKING SK+ カット図 (c)パナレーサー



「+」スペックはサイドカットを含めた耐パンク性能の向上と、転がり抵抗を約31%低減、乗り心地を約6%向上させている。
「std」スペックもしなやかな走りと高い耐パンク性能を実現。転がり抵抗を約18%低減、乗り心地を約4%向上させている(いずれも従来比)。

クラフトマスターの手により兵庫・丹波工場で一本一本作られている
新たな金型により生み出されるGRAVELKING
工場にて生産段階のGRAVELKING



新たな展開に際して単なる素材変更にとどまらず、TLR(チューブレスレディ)のセットアップ性も改善した。最新のグラベルマーケットに合わせた「BeadLock」を開発し、ビードまわりのアップデートを行うことでセットアップ性を改善。より取り付けやすく、ビードが上がりやすいといったユーザビリティも向上させた。

全方位に進化を遂げた新生GRAVELKING。今回はパナレーサーが「次世代フラッグシップ」と謳う新トレッドパターンのX1を選び、セットアップからフィールドでの走行感までをインプレッションした。


GRAVELKING X1 インプレッション

パナレーサーより発売日前に受け取ったGRAVELKING X1をホイールへの取り付けからライドまで長期テストすることができた。仕様はstd(スタンダード)ケーシング、サイズは700✕40C。カラーはブラック。異種のホイールで試すために35Cサイズも受取り、様々なケースで念入りにテストさせてもらった。

パッケージも刷新されたパナレーサーGRAVELKING photo:Makoto AYANO

サイコロ型の箱パッケージに丸められた状態で入ったX1は、伸ばしてみただけで従来モデルと比べてしなやかな柔軟性ある素材感だと感じる。ビードに折れ癖もつかず、トレッドやサイドのしっとりした触感だけでリムにスムーズに収まりそうな予感がして好印象だ。

まず実測重量は470.5gと、カタログ値より約9.5g軽かった。用意したホイールはアルミホイールのマヴィックALLROADとカーボンホイールのジャイアントCXR-1で、ともにリム内幅は25mmで、最新ETRTO規格採用モデルだ。

カタログ重量480gのところ470.5gと9.5g軽量だった photo:Makoto AYANO

取付け時にリムに嵌め込んでいく際にタイヤレバーを最小限使用したが、頑張れば手だけでも入るレベルだった。そしてビード上げはフロアポンプだけで成功。条件を変えて4本取り付けを試したが、4本ともすんなり成功した。従来モデルのGRAVELKINGはややビードが緩く(長く)リムには収めやすかったが、リムテープを2重にするなどしてビードを上げる必要があったりと、取り付けにやや苦労することがあったのでこのセットアップ性の向上は好印象だ。

初期セットアップのため高めの3気圧でシーラントを入れない状態で放置してみたが、気密性のいいマヴィックALLROADホイールの場合は2日経っても圧の低下がほとんどなく、シーラント無しでも使用できるぐらいのエア保持性があった。ただしあくまでTLRタイプなのでシーラント併用はマストだろう。筆者の場合、仮にTLタイプであってもパンク時の自己修復のためシーラントは必ず使用する派だ。何よりそのほうが安心だし、ほとんどパンクしないというチューブレスのメリットを享受できるから。

タイヤサイドにはチューブドorチューブレスでの最大空気圧表示がある photo:Makoto AYANO

今回はポピュラーなスタンズ製シーラントを使用した。頻繁にタイヤ交換すること、気密性が良かったことで注入量は40CCほどで控えめに。筆者は最近、脱脂のためタイヤ内部を中性洗剤等で十分に洗浄して成型時の油分を落としてからシーラントを入れる方法を試しているが、そうすることでシーラントが弾かれることなく、ケーシングへの馴染みが良くなることで膜となって定着しやすい印象がある。内部を確認できるわけではないから確かなことだとは言えないが、エア漏れが発生する確率は少なくなっている気がする。皆さんもぜひ試してほしい。

センタートレッドは密に配置されて転がり抵抗が少ない photo:Makoto AYANO

ホイールへのセットアップは何ら問題なく、好印象。内幅25mmのフックレスリムにセットした状態でタイヤサイドは素直に立ち上がり、いいラウンド形状となっている。走ってみるとタイヤの弾み感を感じることができて、快適で転がりも軽い感じで、非常に良い感触だ。タイヤサイドとコンパウンド共にしなやかな素材になったからだろう。走っていて楽しくなるような感触の良さがある。

X1のトレッドパターンは、近年の筆者が体験的に好んできたパターンにかなり近づいた。ノブはセンター部には密に配されて舗装路でも転がりが軽く、かつサイドにかけて疎になっていくためバイクを倒しこんでいくに従ってグリップが高くなる配置だ。

回転方向(Rolling Direction)マークはタイヤサイドにかなり小さく入るため、探すのに苦労するかもしれない。前輪は気にするべきだろうが、後輪側は好みに応じて逆向き(トラクションが増える)を試しても良いかもしれない。

GRAVELKING X1でグラベルを走る。新しいトレッドパターンはオールラウンドな性能を発揮してくれた photo:Gakuto Fujiwara

センターにノブが密に配され、連続的に繋がったトレッドパターンが良い点は、舗装路で転がりが軽いだけでなく、ルーズなグラベルでも速く、それなりにグリップが効くこと。これがヤスリ目やセンタースリックに近いパターンではトラクションを掛けてグラベルを走っている際にスリップが発生してしまい、ペダリングロスが生じてしまう。シクロクロスやMTBなどと違ってグラベルではフロントタイヤのサイドグリップを効かせるシーンよりも、上りでグリップを失いたくないシーンのほうが多いかもしれない。砂目やダイヤ目パターンなどよりも、X1のパターンは転がり・グリップ共に良く登ってくれる。そしてノブが密になっているぶんパンクにも強い傾向がある。

弾むような走りでオフロードでの快適性が高い photo:Gakuto Fujiwara

40Cサイズはノブが張り出してないこともあり、やや細身に感じる印象で、速さを求めたいグラベルレース的な走りではメインのサイズとなりそうだ。タイヤにしなやかさがありつつ、転がりも軽いので舗装路をメインに走っても走りは重く感じない。

サイズ展開についてパナレーサーは35・40・45を「ホットサイズ」として位置づけたとのことで、標準的なグラベルライドなら40Cを基準として、舗装・未舗装路のミックス路面でのオールロード的な乗り方なら35Cを、よりガレたタフなグラベルが多めなら快適性向上のために45Cを選ぶ感じだろうか。そしてオンロード的な使用に向く26・28・30Cや、ファット系に振りやすい650Bサイズまでもが取り揃えられるラインナップの豊富さだ。

舗装路でも転がりが軽く走れる photo:Gakuto Fujiwara

セットするバイクにタイヤ太さの制約があるケースも考えると、オールロードバイクには35Cメイン(フロントに40Cが入る場合も)、フロントシングルギア採用でタイヤクリアランスに余裕が大きなグラベルバイクなら45Cを基準にしても良さそうだ。45Cと太めでもトレッドが丸く、ノブは低いため転がり抵抗は低そうだ。

X1を2週間ほど使ってみて、そのオールラウンドさに感心。X1だけでほとんどすべての路面状況をカバーできると感じた。様々なグラベルへの対応力があって、かつスムーズな路面でも転がり抵抗が低く、速く走れる。他の従来モデルGRAVELKINGのトレッドパターンを使った経験を思い出しながら比較すると、X1の転がりはSKより良いのでは?と感じるほど好印象だった。もっとも、そのSKも従来モデルとパターンは同じに見えてもケーシングもコンパウンドもビードもサイズも、すべてフルモデルチェンジを受けているため、正確に比較するならすべてのモデルで試さなければいけないのだろうが。

ラインナップを改めて見直せば、新GRAVELKINGはオンロードからオフロード、通勤からグラベル、ラフグラベル、マッド(ルーズ路面)まで、すべてのシチュエーションに対応できるほどの多様な選択肢が用意されている。走り方から適したタイヤを想像して選ぶこと自体が楽しくなるタイヤになった。まさにこれから先の10年で、ラインナップすべてを使いこなしたいと感じるグラベルタイヤだ。

パナレーサー GRAVELKING X1 photo:Makoto AYANO




パナレーサー GRAVELKING X1(今回テストしたモデル)
タイプ:TLR
サイズ:700×35・40・45C
ケーシング:std(スタンダード)(R、+スペックもあり)
重量:420g(35C)、480g(40C)、560g(45C)
サイドカラー:ブラック、ブラウン
税込み参考価格:6,600円

テスター 綾野 真/ ロード、グラベル、MTBライドすべてを楽しむシクロワイアード編集長。オールロードライドへの研究に余念がなく、愛車はFサス付きグラベルロードのジャイアントREVOLT-Xだが、4月にはChapter2 KAHAも増車予定。6月には3度目のアンバウンドグラベルに出場予定だ。
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