ポッジオで飛び出した三強による三つ巴スプリント。ミラノから291kmかけて到着したサンレモで、ペテル・サガンとジュリアン・アラフィリップを下したミカル・クウィアトコウスキーがモニュメント初制覇を果たした。



曇り空のリグーリア海岸を進む曇り空のリグーリア海岸を進む photo: TDWsport / KT


ミラノ〜サンレモ2017コースプロフィールミラノ〜サンレモ2017コースプロフィール image: RCSsport3月18日(土)、イタリアに春の訪れを告げる第108回ミラノ〜サンレモが開催。「ラ・プリマヴェーラ(イタリア語で春を意味)」と呼ばれるクラシックの中のクラシックは、午前10時、気温15度/晴れのミラノでスタートが切られた。

5km地点から逃げた10名の先頭グループ5km地点から逃げた10名の先頭グループ photo: TDWsport / KTニュートラル走行を含めるとほぼ300kmを走ることになる世界最長レースが始まると、5km地点でアラン・マランゴーニ(イタリア、NIPPOヴィーニファンティーニ)やフェデリーコ・ズルロ(イタリア、UAEチームエミレーツ)、トムス・スクインシュ(ラトビア、キャノンデール・ドラパック)ら10名が逃げグループを形成する。レース時間が7時間に達する長丁場だが、逃げグループのタイム差は5分前後に押さえ込まれた。

エフデジやディメンションデータ率いるメイン集団が逃げを追うエフデジやディメンションデータ率いるメイン集団が逃げを追う photo: TDWsport / KT内陸のロンバルディア平原は春らしい太陽に包まれたが、寒々しいトゥルキーノ峠を越えてリグーリア海岸に達するとそこはどんよりとした曇りの天気。若干の追い風に吹かれながら逃げる10名を、ディメンションデータやクイックステップフロアーズ、エフデジ、そしてボーラ・ハンスグローエが追いかける。

発煙筒がたかれたコースを進む発煙筒がたかれたコースを進む photo: TDWsport / KTリグーリアの街並みと緩やかな起伏があるオーシャンロードでタイム差は2分を推移し、レースはそのまま後半のアップダウン区間へと入っていく。残り60kmを切り、トレ・カーピ(3つの岬)に差し掛かるとメイン集団はにわかにペースアップした。

チプレッサでメイン集団のペースを作るトム・デュムラン(オランダ、サンウェブ)チプレッサでメイン集団のペースを作るトム・デュムラン(オランダ、サンウェブ) photo: TDWsport / KTスプリンターを欠いたアージェードゥーゼールはフィニッシュ46km手前のカーポ・チェルヴォ(1.4km/平均3.7%)でのアレクシ・グジャール(フランス)のカウンターアタックでレースを動かしたが、メイン集団は動じずに追走を継続。グジャールの攻撃は失敗に終わり、スプリンターチームが集団先頭で競り合いながらチプレッサ(5.65km/平均4.1%)に突入する。

ポッジオに向けて集団を牽引するトム・ボーネン(ベルギー、クイックステップフロアーズ)ポッジオに向けて集団を牽引するトム・ボーネン(ベルギー、クイックステップフロアーズ) photo: TDWsport / KTフィニッシュ22km手前でピークを迎えるチプレッサの登坂が始まるとすぐにレース序盤からの逃げは吸収される。登坂力とスプリント力を兼ね備えたマイケル・マシューズ(オーストラリア)に有利なタフな展開に持ち込みたいサンウェブが集団先頭でペースを作ると、ここでマーク・カヴェンディッシュ(イギリス、ディメンションデータ)が脱落する。

ティム・ウェレンス(ベルギー、ロット・ソウダル)のアタックも決定力を欠き、トム・デュムラン(オランダ、サンウェブ)による献身的なペースメイクによってメイン集団は人数を減らした状態でチプレッサの頂上をクリアした。

続く平坦区間でトニー・ガロパン(フランス、ロット・ソウダル)やフィリップ・ジルベール(ベルギー、クイックステップフロアーズ)が先行するシーンも見られたが、ボーラ・ハンスグローエの集団牽引によってアタッカーは引き戻される。自身40回目のモニュメント出場(サンレモは12回目)で、現役引退までのカウントダウンが始まっているトム・ボーネン(ベルギー、クイックステップフロアーズ)がメイン集団を引き続けた。

そして迎えた最後の難所、ポッジオ(距離3.7km/平均3.7%)の上り。ここでもデュムランが身を粉にする走りを見せ、アタックを許さない(それでいてピュアスプリンターにダメージを与える)ハイペースで集団を牽引する。デュムランの鬼引きが終わるとチームスカイのコントロールに切り替わった。



ポッジオでアタックを仕掛けるペテル・サガン(スロバキア、ボーラ・ハンスグローエ)ポッジオでアタックを仕掛けるペテル・サガン(スロバキア、ボーラ・ハンスグローエ) photo: TDWsport / KT


先頭グループを形成するペテル・サガン(スロバキア、ボーラ・ハンスグローエ)、ミカル・クウィアトコウスキー(ポーランド、チームスカイ)、ジュリアン・アラフィリップ(フランス、クイックステップフロアーズ)先頭グループを形成するペテル・サガン(スロバキア、ボーラ・ハンスグローエ)、ミカル・クウィアトコウスキー(ポーランド、チームスカイ)、ジュリアン・アラフィリップ(フランス、クイックステップフロアーズ) photo: TDWsport / KT残り5.5km地点に位置するポッジオの頂上に向かって世界チャンピオンが動いた。ブラケットを握ったままシッティングで集団先頭に出たサガンがダンシングで加速。最大勾配8%の区間でアタックを仕掛けたサガンに反応することができたのはジュリアン・アラフィリップ(フランス、クイックステップフロアーズ)とミカル・クウィアトコウスキー(ポーランド、チームスカイ)だけだった。

先頭でスプリントするペテル・サガン(スロバキア、ボーラ・ハンスグローエ)、ミカル・クウィアトコウスキー(ポーランド、チームスカイ)、ジュリアン・アラフィリップ(フランス、クイックステップフロアーズ)先頭でスプリントするペテル・サガン(スロバキア、ボーラ・ハンスグローエ)、ミカル・クウィアトコウスキー(ポーランド、チームスカイ)、ジュリアン・アラフィリップ(フランス、クイックステップフロアーズ) photo: TDWsport / KTサガン、アラフィリップ、クウィアトコウスキーという今シーズンすでに成績を残しているパンチャー系選手3名による先行が始まった。クウィアトコウスキーが公開しているSTRAVAデータによると、ポッジオの前半は平均400W前後のパワーで登坂。後半は平均600W前後のパワーでサガンに食らいついている。

ハンドルを投げ込むペテル・サガン(スロバキア、ボーラ・ハンスグローエ)、ミカル・クウィアトコウスキー(ポーランド、チームスカイ)、ジュリアン・アラフィリップ(フランス、クイックステップフロアーズ)ハンドルを投げ込むペテル・サガン(スロバキア、ボーラ・ハンスグローエ)、ミカル・クウィアトコウスキー(ポーランド、チームスカイ)、ジュリアン・アラフィリップ(フランス、クイックステップフロアーズ) photo: TDWsport / KT精鋭トリオは約10秒のリードを得た状態でポッジオの頂上をクリアすると、スイッチバックが続くテクニカルな下り区間でリードを広げることに成功。ポッジオを下りきった時点(残り2.2km)でタイム差は18秒。

5秒遅れのメイン集団はアレクサンドル・クリストフ(ノルウェー、カチューシャ・アルペシン)先頭5秒遅れのメイン集団はアレクサンドル・クリストフ(ノルウェー、カチューシャ・アルペシン)先頭 photo: TDWsport / KT後方集団にエーススプリンター(ヴィヴィアーニとガビリア)を残したクウィアトコウスキーとアラフィリップは積極的にローテーションに加わらず、自ら攻撃を継続するしかないサガンが長い時間先頭を引き続ける。何とか集団スプリントに持ち込みたいトレック・セガフレードやバーレーン・メリダがアシストを総動員して追撃するも、先頭三強の背中は近づいてこない。

モニュメント初制覇を果たしたミカル・クウィアトコウスキー(ポーランド、チームスカイ)モニュメント初制覇を果たしたミカル・クウィアトコウスキー(ポーランド、チームスカイ) photo: TDWsport / KT10秒程度のリードを守ったままサガン、クウィアトコウスキー、アラフィリップが残り1kmアーチを通過し、ローマ通りの最終ストレートにやってきた。逃げ切りが決まった。

表彰台 2位ペテル・サガン(スロバキア、ボーラ・ハンスグローエ)、1位ミカル・クウィアトコウスキー(ポーランド、チームスカイ)、3位ジュリアン・アラフィリップ(フランス、クイックステップフロアーズ)表彰台 2位ペテル・サガン(スロバキア、ボーラ・ハンスグローエ)、1位ミカル・クウィアトコウスキー(ポーランド、チームスカイ)、3位ジュリアン・アラフィリップ(フランス、クイックステップフロアーズ) photo: TDWsport / KTライバル2人の様子を伺いながら最初にスプリントを開始したのはそれまで先頭を引き続けていたサガン。持ち前の加速力で初優勝に向かって突き進んだが、スリップストリームを利用して食らいついたクウィアトコウスキーとアラフィリップのスプリントが伸びる。

横並びで接触しながらフィニッシュラインにハンドルを投げ込む三つ巴のスプリント。先行するサガンを差し切ったクウィアトコウスキーが10cm程度の差で先着した。

「サガンをスプリントで破ったなんて信じられない」。勝利したクウィアトコウスキーはフィニッシュ地点で待っていたガールフレンドと抱擁し、目を赤らめて表彰台裏でインタビューに答えた。「サガンがポッジオで動いてくるとは思っていなかった。エリア(ヴィヴィアーニ)の指示で自分がすかさず彼のアタックに反応。仮に飛び出しても集団スプリントに持ち込まれると思っていたけど、サガンは先頭をハイスピードで引き続けた。自分にできることはスプリントに集中することだけだった」。

2014年の世界チャンピオンが、2015年と2016年の世界チャンピオンに勝利した。クウィアトコウスキーはストラーデビアンケに続くUCIワールドツアーのイタリアンクラシック連勝だ。

クウィアトコウスキーの最終スプリントの最大出力は1220W。最高速64.1km/hでフィニッシュしている。なお、5秒遅れの集団先頭でフィニッシュしたアレクサンドル・クリストフ(ノルウェー、カチューシャ・アルペシン)の最高速は67.0km/hだった。

「ミラノ〜サンレモで勝つための手段を尽くした」と語るのは主役としてレースを動かしたサガン。2013年に続く自身2度目の2位を経験したサガンは「ポッジオでは本能のままにアタックした。観客にとってはスペクタクルなレースだったと思う。良いショーだった」と振り返っている。

そしてサガンのアタックに真っ先に反応したアラフィリップが3位に。「初めてのミラノ〜サンレモでの3位には満足している。すべての力を尽くしたけど、最後は脚が空っぽだった。自分よりも前でフィニッシュした2人の面子を考えると、何も後悔することはないよ。サガンはスーパーストロングだった」。1990年生まれの2人に敗れた1992年生まれのアラフィリップは2015年のリエージュ〜バストーニュ〜リエージュに続くモニュメント表彰台をつかんだ。

この日の平均スピードは40.73km/h。これは過去10年間で最も遅いスピードだった(2007年43.67km/h、08年41.14km/h、09年44.42km/h、10年42.83km/h、11年43.49km/h、12年42.63km/h、13年43.75km/h、14年42.41km/h、15年43.27km/h、16年42.39km/h)

選手コメントはこちら→クウィアト「サガンは異次元の存在ではない」サガン「最強の選手が勝つわけじゃない」



ミラノ〜サンレモ2017結果
1位 ミカル・クウィアトコウスキー(ポーランド、チームスカイ)     7h08'39"
2位 ペテル・サガン(スロバキア、ボーラ・ハンスグローエ)
3位 ジュリアン・アラフィリップ(フランス、クイックステップフロアーズ)
4位 アレクサンドル・クリストフ(ノルウェー、カチューシャ・アルペシン)  +05"
5位 フェルナンド・ガビリア(コロンビア、クイックステップフロアーズ)
6位 アルノー・デマール(フランス、エフデジ)
7位 ジョン・デゲンコルブ(ドイツ、トレック・セガフレード)
8位 ナセル・ブアニ(フランス、コフィディス)
9位 エリア・ヴィヴィアーニ(イタリア、チームスカイ)
10位 カレイブ・ユアン(オーストラリア、オリカ・スコット)
11位 マグナスコルト・ニールセン(デンマーク、オリカ・スコット)
12位 マイケル・マシューズ(オーストラリア、サンウェブ)
13位 ソニー・コルブレッリ(イタリア、バーレーン・メリダ)
14位 ダニエーレ・ベンナーティ(イタリア、モビスター)
15位 フランチェスコ・ガヴァッツィ(イタリア、アンドローニジョカトリ)
16位 ルカ・メズゲッツ(スロベニア、オリカ・スコット)
17位 ベン・スウィフト(イギリス、UAEチームエミレーツ)
18位 ティム・ウェレンス(ベルギー、ロット・ソウダル)
19位 エドヴァルド・ボアッソンハーゲン(ノルウェー、ディメンションデータ)
20位 マルコ・カノラ(イタリア、NIPPOヴィーニファンティーニ)
194位 内間康平(日本、NIPPOヴィーニファンティーニ)         +17'22"
DNF 中根英登(日本、NIPPOヴィーニファンティーニ)

text:Kei Tsuji
photo:TDWsport