スペシャライズドが誇るクロスカントリーMTBの最高峰モデル、新型Epic 8が登場した。パリ五輪へ向けてサポートアスリートの強力な武器となるべく走破性、効率性、軽量性を突き詰めて進化。同時に先進の電子制御システム「フライトアテンダント」搭載モデルが初お披露目した。実走インプレッションを交えてお伝えする。



スペシャライズド S-Works Epic 8 photo:Makoto AYANO

「オフロードで最も速いバイク」とスペシャライズドが謳うEpic。2003年のローンチ以来8代目のモデルとなるEpic 8は、年々起伏や厳しさを増すオリンピックやワールドカップ等といった世界レベルのクロスカントリーコースに対応すべく開発された。開発にあたったスペシャライズドのライドダイナミクスチームが目指したのは「比類なき走破性」「最先端の効率性」「究極の軽さ」だ。

Epic 8は年々起伏や厳しさを増すクロスカントリーレースコースに対応すべく開発された

Epic 8は120mmトラベルのバイクの中で最高の走破性をもち、自社テストの中で最もペダリング効率に優れたフルサスペンションXCバイクとなった。そして重量も先代のS-Works Epicから76グラムの軽量化に成功した。

より厳しい起伏や悪路に対応できる120mmトラベルのサスは3ポジション可変で、ブレーキは4ピストン(スラムLEVEL)を標準仕様とする。ダウンチューブにはSWATストレージシステムを搭載。S-Works完成車には一体式のRoval Control SLコックピットが搭載され、電動シフト&電動ドロッパー専用設計となる。

リアトライアングル。低めのBBによるプログレッシブなジオメトリー photo:Makoto AYANO


開発ベースとなったのは先代のEpic EVOだ。そしてEpic8のジオメトリーは「長めのリーチ」「低めのBB」「寝かせたヘッドアングル」という現代のXCコースに適したプログレッシブなジオメトリーへとチューニングされた。先代Epic EVOと比較した数値で、ヘッドチューブ角度は0.7°寝かされ、BBは8mm低めに。リーチは15mm長くなり、シートチューブ角度は1° 立ったものに。

チューンナップを受けたEpic 8 のジオメトリー

赤が新型Epic 8のジオメトリー(青は先代モデルのEpic EVO)

ワイヤレス&ケーブル内蔵によりクリーンなコックピットに
フォーク上部にあるのがフライトアテンダントのコントロールモジュール



ダイナミックな走りのためにサスペンションは3モードでコントロールが可能に。フルストロークの「ワイドオープン」、レースコースの80%で最適なコンプレッションの「マジックミドル」、そしてスプリントやフルパワーをかける際のロックアウト。中間的なコンプレッションの「マジックミドル」は、トレールでのペダリングを伴う攻めた走りの際に万能なモードとなる味付けだ。ライドダイナミクスチューンによりサスペンションのペダルボブを20%軽減し、先代Evo比で12%スムーズな走りを実証済みだという。それらのチューン最適化によりブレインシステムは搭載されない。

サスユニットのマウント部は中空構造のブラダー成型となる
ショックエクステンションはカーボン製。ピボットボルトはチタン製に



軽量化へのブラッシュアップも極められた。リアショック周りのボルトなど金属パーツをチタン製に置き換え、ショックエクステンションはカーボン製に。リアサスをトップチューブ下に取り付けるマウント部を見直し、中空構造のブラダー成型とすることで軽量化。加えて連続したカーボンレイアップにより強度アップも達成している。またSWATストレージやステアリングブロック(回り過ぎ防止機構)など新機能を付加しながらも軽量化に成功、完成車重量で先代のS-Works Epicから76グラム軽量に仕上げている。そのうえリアブレーキケーブルをフレームに内蔵し、クリーンなコックピットに。

ダウンチューブにSWATストレージが装備される
SWATストレージを外した状態。CO2カートリッジホルダーも



スラム傘下のロックショックスによるサスペンションの電子制御システム「Flight Attendant (フライトアテンダント)」搭載S-Works完成車の実車が今回の発表会に持ち込まれ、トレイルで実際にテストライドすることができた。フライトアテンダントはコントローラー、前後サスペンション、ペダルセンサー内蔵クランクの4つのパーツからなり、ワイヤレス通信により制御を行う。スラム製コンポとともに搭載される完成車ごとに設計・設定されることが前提となる。Epic8の3モードでコントロールできるサスペンションを、路面の情報やライダー荷重を感知して自動制御するオートマチックシステムとなり、ライダーによるレバー切り替え操作はほぼ不要になる。

ダウンカントリー最速を目指した Epic 8 EVO

Epic 8 EVO

同時にダウンカントリー的なEpic 8 EVOも登場する。サスペンションストロークで F:130mm / R:120mmをもつモデルとなる。Epic 8では3つあったサスポジションはオープンとロックアウトの2モードに。強力な4ピストンブレーキを装備し、タイヤにはアグレッシブな同社製 Purgatory 2.4” F / Ground Control 2.35タイヤを搭載。フレームは共通ながらダウンカントリーライドを速く走れ、かつ楽しめる仕様となる。

先代Epicと新Epic 8のユーザー像移行イメージ



フライトアテンダント搭載のS-Works Epic 8をフォレストバイクでインプレッション

今回のプロダクトローンチはメディア関係者を対象に神奈川県小田原市のMTBトレイル「フォレストバイク」を会場に開催された。プレゼンテーションの後、セッティングを済ませたS-Works Epic 8 やEpic 8 EVO、ミドルグレードの同Comp、すでに発表済みのEpic World Cupなどが用意され、トレイルで存分に比べながら試乗することができた。ここではフライトアテンダント搭載のS-Works Epic 8を中心にライドフィールをお伝えしよう。

スペシャライズド S-Works Epic 8 photo:Makoto AYANO

試乗車はカタログデータで10.24kg(Mサイズ)と軽量。話題の新型XCタイプのフライトアテンダントも発表前で実機を国内で確かめるのは集まった関係者にとっても初めてのことで、その動作は興味の的だ。もともと2021年後期に発表されたシステムだが、現物が国内に持ち込まれた例は今までほとんど無かったようだ。

通信状態のフォーク上部のコントロールモジュール
フライトアテンダントの初期設定はスマホのアプリ経由で行う



前後サスペンションを制御する各部センサーの通信初期設定はスマートフォンのアプリ経由となるが、山間地にある会場は携帯キャリアの電波状況が悪く、このセッティングにまず手間取った。教訓を伴う実践的TIPSも学べた後、本格的なテストライドとなった。

フライトアテンダントはFサス肩にあるランプの点灯で動作モードの状況が確認できる。左グリップ下のサムボタンによってレーススタート時に必要なロックアウトを行った後、オートモードに切り替えるだけ(もちろんロックアウトが不要なら最初からオートでも良い)。

あとは路面の振動やライダー荷重の入力情報をセンサーで感知して、状況に応じて開放(オープン)から「マジックミドル」、ロックアウトまで3段階のサスペンションポジションを自動で切り替えてくれるシステムだ。

スペシャライズド S-Works Epic 8 パンプトラックでフライトアテンダントの動作をチェックした photo:Makoto AYANO

トレイル走行に出る前の練習コース的なパンプトラックで動作をまず確かめてみるが、サス肩のランプは頻繁に点滅し、ポジション切り替えを行う。ペダルパワーを掛けると「マジックミドル」に、下りや大きめのギャップを感知するとオープンに切り替わる。

この自動モード切り替えはかなり頻繁で、しかもライダー側の判断からの遅れを感じない。もしマニュアルで操作するなら変化に富むパンプトラックでは忙しくレバーを操作しなくてはならないだろうが、それに負けないほど素速くモードが切り替わっていると感じる。いや、よほどテクニックのあるXCOアスリートなら手動でも間に合うだろうが、アマチュアであればフライトアテンダント任せのほうがよほど的確だ。

それはつまりレース中のアスリートにもサスモード切り替え操作ぶんの余裕を与えてくれることにつながることは容易に理解できる。それほどまでにモード変更は素速い。スラムのTタイプトランスミッションを搭載するが、その変速ポイントの位置決め機構ゆえのラグにのみ集中すれば良いことになる。

もしも変速操作だけならケーブルによるマニュアルシフトが最速である場合があったとしても、並行してサスモードとドロッパーポスト動作まで行うことを考えれば、フライトアテンダントのメリットは計り知れない。

フォレストバイクのメイントレイルに出て走れば、その恩恵を存分に感じることができる。より難しい条件のXCOレースコースでこのバイクに乗ったアスリートと戦わなければならない他社サポート選手は明らかに不利だ。

Epic 8 Expert
Epic 8 Expert photo:Makoto AYANO

フライトアテンダントの搭載されないEpic 8やミドルグレードモデルのExpertやComp等が趣味でXCレースを楽しむアマチュア選手の現実的なバイク選択にはなるだろう。S-Worksの後にExpertに乗ってみれば、そのストローク感の深さや素直さに感心する。グリップシフトのようなロックショックスのツインロックによりサス作動量をコントロールするが、その操作による扱いやすさも好印象。ただしフライトアテンダントと比べてしまうとどうしても煩雑さを感じてしまうが...。

Epic 8 Expertのヘッド部のケーブルルーティング
Epic 8 Expertのリアショック部



Epic 8 Expertのリアステー部
Epic 8 Compのサスコントロールはグリップ部で行う



120mmストロークサスの味付けは、スムーズなバームが切られたフォレストバイクのトレイルでは必要十分すぎる作動感と良好なストローク感だったが、例えば東京五輪MTBコースとなった修善寺の「枯山水」や「浄蓮の滝」セクションでは大いに武器になってくれるだろう。

ダウンカントリー向けにEVOが用意されるが、Epic 8およびExpertやCompでもかなりの下りを含むトレイルライドに対応できそうだ。例えばXCレースに使うマシンとオフに里山ライドを楽しむバイクを一台でこなすことは十分に可能だろう。新Epic 8はそうしたキャパシティを備えているバイクだ。

例えばSDA王滝など難易度としてはイージーな地形のコースではEVOでなくともEpic 8で十分以上だろうし、テクニックに優れないライダーでもダウンヒルを安全に走れるだろう。もちろんパワーロスなく攻めて速さを求めるなら、先に発表されているリア75mmストロークのEpic World Cupという選択肢も用意されているのだ。

Epic World Cup
Epic World Cup photo:Makoto AYANO

Epic World Cupのリアサスは75mmストロークだ
Epic WCのリアステー部は75mmストローク





※記事訂正(2023.3.17)
フライトアテンダントについて「パリ五輪を見込んで開発され、まずはスペシャライズドとキャニオンのみに展開が許され、同2社のサポートアスリートのみが五輪で恩恵を受けることになる。五輪閉幕後に他社にも実装が許されるという必勝システムだ」
と記述しましたが、スラム社および完成車メーカー各社に確認したところ、フライトアテンダント搭載モデルは3月以降に複数社から発売・デリバリーされることが確認できました。該当部を削除して訂正します。


text&photo:Makoto AYANO
スペシャライズド EPIC 8シリーズ
フレーム リアショック フォーク コンポーネント 税込価格
S-WORKS EPIC 8 S-Works FACT 12m Carbon RockShox SIDLuxe ULTIMATE Flight Attendant RockShox SID ULTIMATE Flight Attendant SRAM XX SL Eagle AXS 1,793,000円
S-WORKS EPIC 8 FRAMESET S-Works FACT 12m Carbon RockShox SIDLuxe ULTIMATE RockShox SID ULTIMATE - 770,000円
EPIC 8 EXPERT FACT 11m Carbon RockShox SIDLuxe Select+ RockShox SID Select+ SRAM GX Eagle AXS 990,000円
EPIC 8 COMP FACT 11m Carbon RockShox SIDLuxe Select+ RockShox SID Select SRAM GX Eagle 627,000円
EPIC 8 EVO COMP FACT 11m Carbon Fox Float Performance Fox 34 Performance SRAM GX Eagle 627,000円

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