チーム戦を展開するベルギー勢を打ち破り、トーマス・ピドコック(イギリス)がシクロクロス男子エリートレースを制覇。ジュニア(2017年)とU23(2019年)に続く、史上3人目のシクロクロス世界選手権3カテゴリー制覇を成し遂げた。



ワールドカップ総合勝者、エリ・イゼルビット(ベルギー)ワールドカップ総合勝者、エリ・イゼルビット(ベルギー) photo:Nobuhiko Tanabe最前列でスタートを待つトーマス・ピドコック(イギリス)最前列でスタートを待つトーマス・ピドコック(イギリス) photo:Nobuhiko Tanabe

14カ国合計36名の男子エリート選手がスタート。ラース・ファンデルハール(オランダ)がホールショットを決める14カ国合計36名の男子エリート選手がスタート。ラース・ファンデルハール(オランダ)がホールショットを決める photo:Nobuhiko Tanabe
3日間に渡り続いたシクロクロス世界選手権の最終カテゴリーは男子エリートレース。38段の長い階段やハイスピードダウンヒルを含む1周3,100m/獲得標高60mの超ドライコンディションコースに向け、ヨーロッパや北米はもちろん、中東や南米勢も含む14カ国合計36名の選手が一斉に飛び出した。

かつて6年間アルカンシエルを奪い合ってきたワウト・ファンアールト(ベルギー)とマチュー・ファンデルプール(オランダ)不在の戦い。ディフェンディングチャンピオンがいない世界選手権は1974年以来48年ぶりだが、それゆえトーマス・ピドコック(イギリス)やエリ・イゼルビット(ベルギー)を筆頭に、誰が勝ってもおかしくない緊張感溢れる戦いが繰り広げられることになる。

独特の低いポジションからラース・ファンデルハール(オランダ)がスタートダッシュを決め、すぐさま8名という最大人数でアメリカに乗り込んだベルギー軍団がチーム戦を開始する。トーン・アールツ(ベルギー)によるアタックはピドコックが潰し、続くマイケル・ファントーレンハウト(ベルギー)の加速にもピドコックは瞬時に反応。差をつけにくい高速コースを舞台に、全9周回中の3周目までは10名前後の大きな先頭グループが牽制なしの「前に進む」レースを展開した。

ベルギーが人数を揃えた10名以上の先頭グループベルギーが人数を揃えた10名以上の先頭グループ photo:Nobuhiko Tanabe
先頭グループ内でレースを進めるトーマス・ピドコック(イギリス)先頭グループ内でレースを進めるトーマス・ピドコック(イギリス) photo:Nobuhiko Tanabe
クレマン・ヴァントゥリーニ(フランス)が先頭グループを牽引クレマン・ヴァントゥリーニ(フランス)が先頭グループを牽引 photo:Nobuhiko Tanabe
レース中盤戦の4周目、先頭グループを形成したのはベルギー勢5名(ファントーレンハウト、アールツ、スウェーク、イゼルビット、ソエテ)とオランダ勢2名(ファンデルハール、ファンケッセル)、そしてピドコック、クレマン・ヴァントゥリーニ(フランス)という合計9名。ファントーレンハウトがアタックを繰り出すも再度ピドコックに封じられ、女子U23レースで明暗を分けたテクニカルセクション手前でピドコックがインを突き先頭に立った。

そのキャンバーセクションをスムーズにこなしたピドコックの背後では、ベルギーのエースを担うイゼルビットが前輪を滑らせて落車した。素早いリカバリーによってロスを最小限に留めたイゼルビットだったが、先頭でアタックを継続するピドコックとの間には僅かな、しかし明確な差が生まれる。2番手ファントーレンハウトは前を追うことができず、代わって追いかけたイゼルビットも思うようにペースを上げられない。ヴァントゥリーニが牽く3位グループがイゼルビットを飲み込んだことで、レース状況は逃げるピドコックと追う追走グループという形勢に。

力強い走りで独走するトーマス・ピドコック(イギリス)力強い走りで独走するトーマス・ピドコック(イギリス) photo:Nobuhiko Tanabe
大声援の中を独走するトーマス・ピドコック(イギリス)大声援の中を独走するトーマス・ピドコック(イギリス) photo:Nobuhiko Tanabe
積極的に2位争いをリードするラース・ファンデルハール(オランダ)	積極的に2位争いをリードするラース・ファンデルハール(オランダ) photo:Nobuhiko Tanabe
エリ・イゼルビット(ベルギー)がファンデルハールに食らいつくエリ・イゼルビット(ベルギー)がファンデルハールに食らいつく photo:Nobuhiko Tanabe6番手を走るトーン・アールツとイェンス・アダムス。ベルギーは数的有利を活かしきれなかった6番手を走るトーン・アールツとイェンス・アダムス。ベルギーは数的有利を活かしきれなかった photo:Nobuhiko Tanabe


「彼ら(ベルギー勢)と戦争する気持ちで立ち向かった」と振り返るピドコックが、残り4周突入時に得たリードは20秒。2番手グループには普段パウェルスソースのチームメイトであるベルギー3名が入ったものの、グループ内の戦いに注意を向けたことでタイム差はいっそう広がっていく。1周回で15秒のリードを上積みしたピドコックがアルカンシエル獲得を確実なものにしていった。

パワフルかつスムーズ。昨年7月の東京オリンピックMTBレースを思わせる独走で、ピドコックが逃げ続けた。後方ではファンデルハールとイゼルビットの2位争いが加熱し、今季わずか5レースしか走っていないヴァントゥリーニはファントーレンハウトと共に前を追いかけた。その後ろにはアールツとスウェーク、イェンス・アダムス(ベルギー)が続き、ベルギーの数的優位は後半になるにつれ崩れていった。

イギリス選手権を2度制した時と同じスーパーマン乗りでフィニッシュするトーマス・ピドコック(イギリス)イギリス選手権を2度制した時と同じスーパーマン乗りでフィニッシュするトーマス・ピドコック(イギリス) photo:Nobuhiko Tanabe
チームスタッフと抱き合うトーマス・ピドコック(イギリス)チームスタッフと抱き合うトーマス・ピドコック(イギリス) photo:Nobuhiko Tanabe2013、2015、2016年に続く世界選エリート表彰台を射止めたラース・ファンデルハール(オランダ)	2013、2015、2016年に続く世界選エリート表彰台を射止めたラース・ファンデルハール(オランダ) photo:Nobuhiko Tanabe


レース半分の時間を独走したピドコックがフィニッシュラインにやってくる。長い下り後のジャンプセクションでウィップを決め、フィニッシュライン上ではナショナル選手権を2度制した時と同じ"スーパーマン乗り"を披露する。会場に詰め掛けた7,000人のファンの前で、イングランド・リーズ出身の23歳が世界チャンピオンに輝いた。

「僕たちはプランを持ってこのレースに挑み、それを愚直に実行した。それが上手く行って本当に良かった」とレース後インタビューで話したピドコック。2017年のジュニア、2019年のU23に続く3度目のシクロクロス世界選手権優勝であり、カテゴリー完全制覇はラース・ボーム(オランダ)とニルス・アルベルト(ベルギー)に続く3人目という快挙だ。

ファンデルハールとイゼルビットによる白熱した2位争いはスプリントに持ち込まれた末、ファンデルハールが先着。イギリスとオランダ、ベルギーがそれぞれ金銀銅メダルを使み、ベルギー勢と対等以上に渡り合ったヴァントゥリーニはファントーレンハウトに次ぐ5位となった。

シクロクロス世界選手権2022男子エリート表彰台:2位ファンデルハール、1位ピドコック、3位イゼルビットシクロクロス世界選手権2022男子エリート表彰台:2位ファンデルハール、1位ピドコック、3位イゼルビット photo:Nobuhiko Tanabe


ピドコックら、上位選手のコメントは別記事で紹介します。
シクロクロス世界選手権2022男子エリート結果
1位 トーマス・ピドコック(イギリス) 1:00:36
2位 ラース・ファンデルハール(オランダ) +0:30
3位 エリ・イゼルビット(ベルギー) +0:32
4位 マイケル・ファントーレンハウト(ベルギー) +0:52
5位 クレマン・ヴァントゥリーニ(フランス) +0:57
6位 トーン・アールツ(ベルギー) +1:02
7位 イェンス・アダムス(ベルギー) +1:06
8位 ローレンス・スウェーク(ベルギー) +1:16
9位 ケヴィン・クーン(スイス) +1:36
10位 ダーン・ソエテ(ベルギー) +1:44
text:So Isobe
photo:Nobuhiko Tanabe

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