フルモデルチェンジが行われたトレックのグラベルバイク、Checkpoint。レース用として用意された最上位のSLRグレードをインプレッションする。数々のレースバイクを手掛けてきたトレックによるグラベルレーサーの実力やいかに。



トレック Checkpoint SLR7トレック Checkpoint SLR7 photo:Makoto AYANO/cyclowired.jp
アメリカのウィスコンシン州ウォータールーに拠点を構えるトレック。高い技術力を有し、独自のOCLVカーボンテクノロジーやIso Speedなどユニークな技術を開発し、様々なバイクを生み出す北米を代表するブランドの一つだ。

技術の多くはレースバイクに投入しており、ロードではEmondaやMadone、Domaneを筆頭に様々な戦績を挙げてきた。MTBでも目覚ましい活躍をみせており、2021年シーズンはファクトリーチームのヨランダ・ネフが五輪女子、イヴィ・リチャーズが世界選手権女子を制した。シクロクロスでも強豪のバロワーズ・トレック・ライオンズをサポートするなど各カテゴリーにおいて、ライダーのパフォーマンスを発揮させられるバイクを開発している。

シートステーはトップチューブと接続し、シートチューブとは分離しているシートステーはトップチューブと接続し、シートチューブとは分離している フロントフォークにはマウントが装備されない割り切った仕様だフロントフォークにはマウントが装備されない割り切った仕様だ ヘッドパーツからケーブル類は内装される設計だヘッドパーツからケーブル類は内装される設計だ


そんなトレックがレーサーとしてのグラベルバイクCheckpoint SLRをローンチした。2022年にモデルチェンジが行われたCheckpointシリーズとしてはレースというジャンルに縛られておらず、ジオメトリーなどが共通したアドベンチャー向けのSL、実用性に特化したアルミモデルのALも揃うシリーズとして用意されている。

充実したラインアップのCheckpointシリーズの中で、SLRグレードがレースバイクたる理由は、OCLV700というハイグレードのカーボンを素材として軽量に仕上げられている点。現役や元プロ選手が参加し始め、超長距離のグラベルレースでも激しい高速レースが繰り広げられるようになっており、ロードレーサーのようなスペックを与えたことも自然な流れだろう。

さらにSLグレードなどには用意されているフロントフォークやシートステーのキャリアやフェンダー用アイレットがSLRでは削ぎ落とされたこともポイント。とはいえアンバウンド・グラベルのような超長距離レースの場合では荷物を持ち運ぶことは必須となるため、ストレージ装備が皆無というわけではない。

トレックが誇るIso Speedテクノロジーが搭載されているトレックが誇るIso Speedテクノロジーが搭載されている Emondaのようなケーブル内装式だEmondaのようなケーブル内装式だ

ドロップド仕様のチェーンステーが採用されているドロップド仕様のチェーンステーが採用されている 最大45mmまでのタイヤクリアランスとされている最大45mmまでのタイヤクリアランスとされている


トップチューブにはボトルケージ台座規格のバッグマウント、ダウンチューブにはDomaneのような内蔵ストレージ、そしてボントレガーからリリースされているオリジナルフレームバッグをボルトオンできるマウントが装備されている。キャリア台座を削ぎ落とし、レースにフォーカスした仕様だが、ミニマルなストレージマウントは日々のサイクリングでも活躍してくれそうだ。

トレックが誇るテクノロジーの一つであるIso SpeedとシートマストのコンビネーションもCheckpointの優れた快適性に大きく貢献する。Iso Speedとはシートチューブをトップチューブ、シートステーから分離することで、シートチューブのフレキシビリティを向上させる技術のこと。

ボントレガーのGR1 Team IssueグラベルタイヤがアセンブルされているボントレガーのGR1 Team Issueグラベルタイヤがアセンブルされている トップチューブにはボルトオン式のバッグを搭載することが可能トップチューブにはボルトオン式のバッグを搭載することが可能


パヴェのレースで勝利するために生み出され、勝利を掴んできたIsoSpeedの性能は折り紙付き。単純にコンフォート性を高めているだけではなく、ペダリング効率を犠牲にしないため、超長距離を走るグラベルレースでは大きなアドバンテージとなるだろう。

新型Checkpointの大きな特徴はプログレッシブ・ジオメトリーという設計が採用されていることにもある。前作と比較しフロントセンターを20mm、チェーンステー長を10mmも延長。ホイールベースも各寸法の変更を受けロング化を果たしている。

ジオメトリーが進化したCheckpointはマウンテンバイクのようにショートステムでポジションを出すことを前提となっているという。各部が延長されたことからもグラベルのダウンヒルでの安定感を求めていることがわかるはずだ。

ダウンチューブストレージが用意されているダウンチューブストレージが用意されている ダウンチューブ裏にはフレームプロテクターが備えられているダウンチューブ裏にはフレームプロテクターが備えられている カーボンの直付けマウントが備えられているカーボンの直付けマウントが備えられている


ヘッドチューブの造形やケーブルのフル内装化などがピュアレーサーのEmondaを彷彿とさせる新型Checkpoint。タイヤクリアランスは最大45mmまでで、650Bホイールの場合は2.1インチ幅まで対応する。

今回試乗したテストバイクはシマノGRX 完成車仕様のCheckpoint SLR7で、ホイールはAeolus PRO 3Vが搭載されている。グラベルレーサーとして開発されたCheckpoint SLRをアルディナサイクラリーの成毛千尋と、ワイズロードお茶の水の小西真澄がインプレッションする。



―インプレッション

「軽快な走りが光り、高速巡航が得意なグラベルバイク」
小西真澄(ワイズロードお茶の水)


「何よりも軽さが印象的なグラベルバイク」小西真澄(ワイズロードお茶の水)「何よりも軽さが印象的なグラベルバイク」小西真澄(ワイズロードお茶の水)
最高峰のSLRグレードだけあって、何よりも軽い。軽量な自転車であることと、剛性のバランスが取れていて、トラクションがよくかかって気持ちよく進んでいきます。自分自身が東京近郊でグラベルを楽しんでるんですけど、そのシチュエーションでは最高のバイクだと思います。

グラベルバイクの中には高いスピード域での巡航性能に物足りなさがあって、ロングライドで脚を使ってしまうこともありますが、Checkpoint SLRは高速巡航も得意ですし、ロングライドでも良いのかなと思っています。

巡航性能はタイヤや空気圧のセッティングに影響されるので、グラベルに入る前に空気を少し抜いて、舗装路に戻る時にミニポンプで空気を足してあげるという使い方であれば、ロングライドの途中にグラベルを組み込めるでしょう。色々な場所を走りたいという要望には応えられるはずです。

「高速巡航も得意で、ロングライドにもマッチする」小西真澄(ワイズロードお茶の水)「高速巡航も得意で、ロングライドにもマッチする」小西真澄(ワイズロードお茶の水)
今回のテストではトップチューブが長く、ステムを短めに設定する設計のグラベルバイクに初めて乗ったんですけど、安定感があって乗りやすいと感じました。グラベルに初挑戦する方でもすんなりと馴染めると思います。

ジオメトリーの影響もあってか、ハンドリングは少し独特で、緩く長いコーナー中に操舵した時の反応がマイルドな印象があります。ロードのようなクイックさではないというイメージでしょうか。太いタイヤのグリップに任せて曲がっていくような感覚がありましたね。

走行性能に影響しそうな場所といえば、下方にオフセットしたドライブ側のチェーンステーですが、気になる事はありませんでした。その辺りは流石、技術力の高いトレックの自転車だけあります。isospeedも機能していますし、この自転車の良くない部分は感じにくいです。

「使い方次第で色々な遊び方で楽しめる」小西真澄(ワイズロードお茶の水)「使い方次第で色々な遊び方で楽しめる」小西真澄(ワイズロードお茶の水)
レース用として割り切った作りのバイクですが、トップチューブのベントーボックス台座やボントレガーバッグをスマートに装着できる作り、54サイズならばダウンチューブにボトルを2本装着できる設定などストレージを忘れた訳ではありません。エイドが少なめなイベントでこのアドバンテージを発揮してくれるでしょう。

価格は決して安くありませんが、それに見合った性能を有していると思います。ハンドルやステム選びの自由度もありますし、カスタムも楽しめます。気持ちよく走るバイクで、様々な場所を走ってみたいというサイクリストにはオススメのバイクでした。


「エンデュランスロードに匹敵する走行性能を有するレーサー」
成毛千尋(アルディナサイクラリー)


「エンデュランスロードに匹敵する走行性能を備えている」成毛千尋(アルディナサイクラリー)「エンデュランスロードに匹敵する走行性能を備えている」成毛千尋(アルディナサイクラリー)
走りの軽さが際立つバイクですね。もはやエンデュランスロードと呼ばれるジャンルに分類しても良いのではないか、グラベルバイクとそれの境目が無くなってしまうのではないかと思うほど、Checkpointは軽快に走ってくれました。

レーススペックだけありカーボンなどが最高峰の設計がされていると感じますし、走りは本当にレーサーです。ただグラベルレースに出場する方だけではなく、ホビーサイクリストもその走行性能の恩恵を受けられると思います。

純粋にフレームの走行性能だけにフォーカスして考えても、加速時にバイクがもたつく事なく、コーナリング後の踏み直しでも全く苦になりませんでした。ただ、ロードバイクのようなシャープな反応性ではなく、一瞬のタメとウィップがあり、その後にスピードが乗っていく走行感でした。

「40C以上のタイヤが装着でき、グラベルを思い切って楽しめるバイク」成毛千尋(アルディナサイクラリー)「40C以上のタイヤが装着でき、グラベルを思い切って楽しめるバイク」成毛千尋(アルディナサイクラリー)
今回のテストバイクに装着された40Cのタイヤを加味しても、タイヤが軽快感をスポイルする事なく、スピードが乗っていく印象がありました。グラベルに思い切って突っ込んでいける40C以上を履けるタイヤクリアランスを備えている設計で、軽快な走行感を実現しているのは嬉しいですね。

少しも走りの軽快感を無視していないので、Checkpoint SLRはエンデュランスロードにグラベルでの走破性を付加したバイクと言っても良いのではないでしょうか。舗装路が多い日本のグラベルシーンにぴしゃりと当てはまると思います。

ロードバイクに似た走りですが、ハンドリングは直進性強めの性格でした。ケーブルをフル内装するルーティングの影響かもしれませんが、コーナリング中にハンドルが真っ直ぐに戻ろうとするような感覚がありました。ロードのようなシャープなコーナリングを求めるバイクではないので、気にしすぎることもなさそうですけど。

「舗装路が多いシチュエーションにマッチするバイク」成毛千尋(アルディナサイクラリー)「舗装路が多いシチュエーションにマッチするバイク」成毛千尋(アルディナサイクラリー)
ポジション出しも短いステムを使うというコンセプトでしたが、乗ってみても違和感はありませんでしたし、ロードバイクから自然に乗り換えられるような感覚があります。グラベルバイクの中にはマウンテンバイクのようなものもあるので、ロードバイクに乗っている方が選ぶ1台として適しています。

シマノGRX DI2が採用され、カーボンホイールがアセンブルされており、90万円を超える値段ですが、性能を考えてみると理解できる値付けです。今ロードバイクに乗っていて、グラベルに興味があるけど、ロードのスピード感を忘れられないという方にオススメできます。

トレック Checkpoint SLR7トレック Checkpoint SLR7 photo:Makoto AYANO/cyclowired.jp
トレック Checkpoint SLR 7
フレーム:700 Series OCLV Carbon, IsoSpeed, downtube storage door, internal routing, Ride Tuned seat mast, chain keeper, T47 BB, fender mounts, integrated frame bag mounts, flat mount disc, 142x12mm thru axle
フォーク:Checkpoint carbon, tapered carbon steerer, fender mounts, flat mount disc, 12x100mm thru axle
ドライブトレイン:シマノ GRX RX815
ホイール:Bontrager Aeolus Pro 3V, OCLV Carbon, Tubeless Ready
タイヤ:Bontrager GR1 Team Issue, Tubeless Ready
価格:958,100円(税込)



インプレッションライダーのプロフィール

小西真澄(ワイズロードお茶の水)小西真澄(ワイズロードお茶の水) 小西真澄(ワイズロードお茶の水)

ワイズロードお茶の水でメカニックと接客、二足のわらじを履くマルチスタッフ。接客のモットーは「カッコイイ自転車に乗ってもらう」こと。お客さんにぴったりの一台が無ければ他の店舗を案内するほど、そのこだわりは強い。ロードでのロングライドを中心に、最近はグラベルにもハマり中。現在の愛車はスコットADDICT エステバン・チャベス限定モデルやキャノンデールTOP STONE。


ワイズロードお茶の水HP



成毛千尋(アルディナサイクラリー)成毛千尋(アルディナサイクラリー) 成毛千尋(アルディナサイクラリー)

東京・小平市にあるアルディナサイクラリーの店主。Jプロツアーを走った経験を持つ強豪ライダーで、2009年ツール・ド・おきなわ市民200km4位、2018年グランフォンド世界選手権にも出場。ロードレース以外にもツーリングやトライアスロン経験を持ち、自転車の多様な楽しみ方を提案している。初心者からコアなサイクリストまで幅広く歓迎しており、ユーザーに寄り添ったショップづくりを心がける。奥さんと二人でお店を切り盛りしており女性のお客さんもウェルカムだ。

アルディナサイクラリー


text:Gakuto Fujiwara
photo:Makoto AYANO

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