東京オリンピックを翌年に控え、自転車競技の開催準備が各方面で進められている中、5月26日に閉幕したツアー・オブ・ジャパンにUCI(国際自転車競技連合)のスティーブ・ピーターソン氏が視察に訪れた。オリンピック・ロードレース開催に向けて、日本のロードレース開催についての課題など話を聞いた。


UCIの東京五輪ロード・テクニカルディレクター スティーブ・ピーターソン氏UCIの東京五輪ロード・テクニカルディレクター スティーブ・ピーターソン氏 photo:Satoru Kato今回来日したスティーブ・ピーターソン氏は、今年7月に開催されるオリンピック・テストイベントと、来年の東京オリンピック・ロードレースのテクニカルディレクター。今回は東京オリンピック組織委員会との準備打合わせのために来日し、ツアー・オブ・ジャパンの堺ステージと京都ステージを視察した。

― 日本のレースをご覧になっての感想はいかがですか?また、課題などはあるでしょうか?

昨年10月のジャパンカップと、今回のツアー・オブ・ジャパン(以下TOJ)を見ましたが、どちらのレースもとても良い運営がされていると思います。特にジャパンカップは、レース自体がエキサイティングでしたし、観客がたくさんいることに驚きました。宇都宮のサーキットコースの周りはとても良い雰囲気でした。運営面がうまくいくと、観客にも喜ばれるという良い例だったと思います。

今回、TOJを初めて見ましたが、運営が良く、観客に受け入れられていると感じています。何より開催地の自治体の皆さんが友好的にレース運営に参加されているのが伝わってきました。

古賀志林道は頂上まで観客が連なるジャパンカップ古賀志林道は頂上まで観客が連なるジャパンカップ photo:Kei Tsujiツアー・オブ・ジャパンでは各地で観客が出迎えてくれたツアー・オブ・ジャパンでは各地で観客が出迎えてくれた photo:Satoru Kato


UCIの観点から課題を申し上げると、日本のレースはサーキットレース(周回コースレース)が多く開催されていますが、オリンピックはラインレースなので運営が全く違います。その点に課題が残っていると感じています。UCIとJCF(日本自転車競技連盟)、組織委員会と共に、まずは今年7月のテストイベント、さらに来年の本大会に向けて、関係者と一丸となってレースをエキサイティングなものにしたいと考えています。

これから、競技関係車両のドライバーとエスコート・モト(コース上でレースの通過予告などをするバイク)のトレーニングを本大会まで続けていきます。これによって運営関係者のスキルが向上し、経験値を重ねることで日本でのロードレース開催がさらに向上することと、それらがオリンピック後も日本のロードレース開催のレガシーとして残ることを願っています。

リオデジャネイロ・オリンピックは運営のベース構築から時間をかけたというリオデジャネイロ・オリンピックは運営のベース構築から時間をかけたという (c)CorVos
― 近年のオリンピックはサーキットコースがメインとなっていたと思うのですが、今回の東京ではラインレースです。まだ自転車競技がマイナーな日本では、開催・運営が難しいと思いますが?

リオデジャネイロとロンドンでは、サーキットはコースの一部で、東京でも富士山周辺にサーキットを設定しています。私共としてはどちらもラインレースと考えています。

現在の準備状況などを拝見すると、リオデジャネイロは日本以上に自転車の文化度が低かったので、準備をするのは非常に大変でした。リオの組織委員会と共にマインド設定をするところから始め、彼らと共に何年もかけてあのような面白いコースを設定出来ました。それは警察や現地の主要メンバーにロードレースというものを理解してもらって進めた結果の集大成だと思っています。それに比べれば、日本はベースとなる部分も準備もだいぶ進んでいるし、意識が高いと感じています。

ラインレース主体で開催されるツール・ド・北海道(写真は2017年大会)ラインレース主体で開催されるツール・ド・北海道(写真は2017年大会) photo:Hideaki TAKAGI― とは言え、ヨーロッパなどに比べればまだまだだと思うのですが、UCIからの提言などありますか?

日本でロードレースが育っていくには、TOJのようなステージレースを多く開催していくことが重要だと考えています。さらには、街から街へのラインレースの開催が増えることが必要です。サーキットレースが多いと運営関係者の育成が進みませんし、私としては警察やエスコートする人達の育成を進めながらラインレースのステージレースが出来るようになると良いと思っています。

― 東京オリンピックのロードコースはとてもハードな設定となりましたが、どのようなレースを期待されますか?

男子ロードレースのマップと高低図。234km、獲得4865mという過酷な長丁場となる男子ロードレースのマップと高低図。234km、獲得4865mという過酷な長丁場となる (c)Tokyo 2020コース設計にあたり、観客やテレビ中継を見る人が面白いと感じる、エンターテイメント性の高いことが非常に重要だと考えました。ロードレースの可能性を広げるには自転車ファンでない人の心を掴むことが重要です。そのためには序盤から厳しい設定にして、男女共にスタート直後からアクションが起こりそうなコースとしています。

また、オリンピックで一番重要なのは、チャンピオンになる人がオリンピックに相応しいチャンピオンであることが重要です。そのため、男子で4865m、女子で2692mの獲得標高差がある難しいコースとしました。終盤には少数の精鋭が先頭でフィニッシュにたどり着くでしょう。

フィニッシュ地点の富士スピードウェイは、日本の皆さんにとって有名な場所で馴染みもあると思います。自転車をそれほど知らなくても、あの富士スピードウェイにフィニッシュするんだと期待を持ってもらえると思いますし、ラスト4kmが自動車のサーキットの中で行われるのは珍しいことです。ラストの攻防をサーキットで見られることは非常にエキサイティングではないでしょうか。チケットの申し込みが始まっていると聞きましたが、人気のチケットとなってくれることを願っています。

text:Satoru Kato
Special Thanks:東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会

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