2016年の海外ロードレースシーズンを振り返るプレーバック第2弾。ベルギーを熱くしたクラシックシーズンから、イタリアを駆けるジロ・デ・イタリアに注目が集まる5月までを振り返ります。



4月

独走でフィニッシュするペーター・サガン(スロバキア、ティンコフ)独走でフィニッシュするペーター・サガン(スロバキア、ティンコフ) photo:Tim de Waele2016年の「北のクラシック」の主役は紛れもなくペーター・サガン(スロバキア、ティンコフ)だった。ヘント〜ウェヴェルヘムで勝利した世界チャンピオンは、続くロンド・ファン・フラーンデレンでライバルたちを圧倒した。

先頭グループを牽引するマシュー・ヘイマン(オーストラリア、オリカ・グリーンエッジ)先頭グループを牽引するマシュー・ヘイマン(オーストラリア、オリカ・グリーンエッジ) photo:Tim de Waeleファビアン・カンチェラーラ(スイス、トレック・セガフレード)が後手に回る中、サガンはセプ・ファンマルク(ベルギー、ロットNLユンボ)とともにオウデクワレモントの登りで抜け出すことに成功。最終坂パテルベルグでファンマルクを置き去りにしたサガンが、追走するカンチェラーラらを振り切った。ロンド初制覇、そしてモニュメント初制覇を果たした。

天を指差してフィニッシュするエンリーコ・ガスパロット(イタリア、ワンティ・グループグベルト)天を指差してフィニッシュするエンリーコ・ガスパロット(イタリア、ワンティ・グループグベルト) photo:Tim de Waeleスプリンターのためのクラシックとして知られるシュヘルデプライスではマルセル・キッテル(ドイツ、エティックス・クイックステップ)が史上最多4度目の勝利を達成している。

アラフィリップらを振り切ったアレハンドロ・バルベルデ(スペイン、モビスター)アラフィリップらを振り切ったアレハンドロ・バルベルデ(スペイン、モビスター) photo:Tim de Waeleパリ〜ルーベではサプライズウィナーが誕生する。レース序盤から逃げ、後方から追いついた精鋭たちのアタックに反応し、最後はヴェロドロームでのスプリントでトム・ボーネン(ベルギー、エティックス・クイックステップ)を下したマシュー・ヘイマン(オーストラリア、オリカ・バイクエクスチェンジ)が初勝利。これまでアシストとして献身的な働きを見せてきたヘイマンが自身16回目のパリ〜ルーベで石畳のトロフィーを受け取った。

4名のゴール勝負を制したワウト・ポエルス(オランダ、チームスカイ)4名のゴール勝負を制したワウト・ポエルス(オランダ、チームスカイ) photo:CorVosまた、パリ〜ルーベで発生した怪我によってUCIが2016年から全面的に行ってきたディスクブレーキのトライアル(試験的な使用)が選手の反対によって中断する事態に。議論を重ねたUCIは、ブレーキローターに安全面を考慮した処理を施すことを条件に2017年1月1日からトライアルを再開すると発表している。

徹底的に集団をコントロールするモビスター徹底的に集団をコントロールするモビスター photo:Tour de Romandie4月中旬に入ると世間の関心は「北のクラシック」から「アルデンヌ・クラシック」に切り替わる。晴れ時々大雨の気まぐれな天候に見舞われたオランダのアムステルゴールドレース。残り2kmに位置するカウベルグの登りでアタックしたエンリーコ・ガスパロット(イタリア、ワンティ・グループグベルト)が、3週間前に事故死したチームメイトのアントワーヌ・デモアティエに捧げる勝利を飾った。

スプリントでロッシュを引き離すトマ・ヴォクレール(フランス、ディレクトエネルジー)スプリントでロッシュを引き離すトマ・ヴォクレール(フランス、ディレクトエネルジー) photo:Kei Tsuji続くフレーシュ・ワロンヌでは、最大勾配26%の「ユイの壁」でタイミングよくアタックしたアレハンドロ・バルベルデ(スペイン、モビスター)が他を寄せ付けないスピードでフィニッシュ。3年連続、4度目のフレーシュ・ワロンヌ勝利を達成する。

春のクラシックシーズンを締めくくる「ドワイエンヌ」ことリエージュ〜バストーニュ〜リエージュは4名の精鋭グループによるスプリント勝負に。フィニッシュ直前に追加された石畳坂を攻略し、最終コーナーを抜けて真っ先に仕掛けたワウト・ポエルス(オランダ、チームスカイ)が自身初のモニュメント制覇を果たした。

スペインのブエルタ・アル・パイスバスコではスペイン&コロンビアのクライマーたちがバトルを繰り広げ、最終山岳タイムトライアルで勝利したアルベルト・コンタドール(スペイン、ティンコフ)がセルジオルイス・エナオモントーヤ(コロンビア、チームスカイ)やナイロ・キンタナ(コロンビア、モビスター)を下して総合優勝。

敗れたキンタナはスイスのツール・ド・ロマンディでリベンジを達成する。別府史之(トレック・セガフレード)が逃げた第2ステージで優勝したキンタナは最終日まで総合リードを誰にも譲らなかった。最大のライバルであるクリス・フルーム(イギリス、チームスカイ)は前半にタイムを失って総合争いから脱落したが、クイーンステージで優勝して見せ場を作った。

ジロ・デ・イタリア前哨戦のジロ・デル・トレンティーノでは、山頂フィニッシュを制したミケル・ランダ(スペイン、チームスカイ)が総合優勝。後半ステージ2連勝のタネル・カンゲルト(エストニア、アスタナ)の追撃を振り切った。

2014年のグランデパール(ツール開幕)以降、イギリスの自転車ブームの中心地となっているヨークシャーを舞台にしたツール・ド・ヨークシャーは最終日までタイム差がつかない接戦に。チームスカイ勢の攻撃を抑え込んだトマ・ヴォクレール(フランス、ディレクトエネルジー)が総合優勝に輝いている。なお、ヨークシャーは2019年のロード世界選手権の舞台になることが決まっている。2017年はベルゲン(ノルウェー)、2018年はインスブルック(オーストリア)で開催予定だ。



ファビアン・カンチェラーラ(スイス、トレック・セガフレード)を先頭にアランベールの森を進むファビアン・カンチェラーラ(スイス、トレック・セガフレード)を先頭にアランベールの森を進む photo:Tim de Waele


5月

マリアローザを着て第2ステージを走るトム・ドゥムラン(オランダ、ジャイアント・アルペシン)マリアローザを着て第2ステージを走るトム・ドゥムラン(オランダ、ジャイアント・アルペシン) photo:Kei Tsujiイタリアをピンクに染めるジロ・デ・イタリア。第99回大会はオランダのヘルダーラント州で開幕し、その後イタリア半島を南から北上するコースレイアウトが取られた。

山本元喜(NIPPOヴィーニファンティーニ)が逃げグループを牽引山本元喜(NIPPOヴィーニファンティーニ)が逃げグループを牽引 photo:Kei Tsuji地元オランダのトム・ドゥムラン(オランダ、ジャイアント・アルペシン)による開幕個人タイムトライアル制覇で開幕した戦いは、マルセル・キッテル(ドイツ、エティックス・クイックステップ)のスプリント2連勝を経てイタリアへ移動。その後の平坦ステージではアンドレ・グライペル(ドイツ、ロット・ソウダル)が3勝の活躍を見せる。

フィニッシュ後、顔を覆うステフェン・クルイスウィク(オランダ、ロットNLユンボ)フィニッシュ後、顔を覆うステフェン・クルイスウィク(オランダ、ロットNLユンボ) photo:Kei Tsujiドゥムランからキッテル、そして再びドゥムランへと渡ったマリアローザは、未舗装路を含んだ第8ステージの優勝者ジャンルーカ・ブランビッラ(イタリア、エティックス・クイックステップ)の手に。ブランビッラは翌日の個人TTで総合リードを守ると、その後チームメイトのボブ・ユンヘルス(ルクセンブルク、エティックス・クイックステップ)にマリアローザを託した。

大歓声を受けてフィニッシュを目指すヴィンチェンツォ・ニーバリ(イタリア、アスタナ)大歓声を受けてフィニッシュを目指すヴィンチェンツォ・ニーバリ(イタリア、アスタナ) photo:Kei Tsuji中級山岳ステージで強さを見せたディエゴ・ウリッシ(イタリア、ランプレ・メリダ)が2勝を飾る中、イタリア期待のヴィンチェンツォ・ニーバリ(イタリア、アスタナ)はドロミテを走るクイーンステージで失速。エステバン・チャベス(コロンビア、オリカ・グリーンエッジ)が優勝し、マリアローザはステフェン・クルイスウィク(オランダ、ロットNLユンボ)の手に渡る。クルイスウィクは山岳個人タイムトライアルでライバルたちを突き放して総合リードを広げ、王者として首位に君臨した。

リーダージャージに袖を通したジュリアン・アラフィリップ(フランス、エティックス・クイックステップ)リーダージャージに袖を通したジュリアン・アラフィリップ(フランス、エティックス・クイックステップ) photo:www.amgentourofcalifornia.com/Brian Hodesジロ初出場の山本元喜(NIPPOヴィーニファンティーニ)がロングエスケープを敢行した第18ステージを経て、総合争いは勝負のフレンチアルプスへ。それまで安定した走りを見せていたクルイスウィクだったが、アルプス初日の第19ステージ、チーマコッピ(大会最高地点)アニェッロ峠の下りでオーバーランして雪壁に激突。その日、チャベスが首位に立ち、ステージ優勝のニーバリが総合2位に浮上した。

そして迎えた最終決戦第20ステージで再びニーバリが動く。チャベスを置き去りにしたニーバリが逆転で総合首位に浮上。劇的な逆転でイタリアを盛り上げたニーバリが、マリアローザを着て終着地トリノに凱旋した。ニーバリにとって自身2度目のジロ総合優勝(4度目のグランツール総合優勝)となった。また、山本は1990年の市川雅敏、2002年の野寺秀徳、2010年と2014年の新城幸也、2011年、2012年、2014年、2015年の別府史之に続く日本人5人目のジロ完走者に。24歳6ヶ月でのグランツール完走は2010年ツールの新城よりも若い日本人最年少記録。

同時期にアメリカで開催された同国最大のステージレースツアー・オブ・カリフォルニアはサガンのスプリント勝利で開幕。マーク・カヴェンディッシュ(イギリス、ディメンションデータ)やアレクサンダー・クリストフ(ノルウェー、カチューシャ)がそれぞれ勝利を飾っている。

カリフォルニア総合優勝に輝いたのは、クイーンステージを制したジュリアン・アラフィリップ(フランス、エティックス・クイックステップ)。23歳の新鋭フレンチオールラウンダーがローハン・デニス(オーストラリア、BMCレーシング)らの追撃を振り切った。



真っ白なアニェッロ峠を進むクルイスウィク、チャベス、ニーバリ真っ白なアニェッロ峠を進むクルイスウィク、チャベス、ニーバリ photo:Kei Tsuji



text:Kei Tsuji