勝負を分けたのは、新たに追加されたゴール前の石畳登坂。最終コーナーを抜けて真っ先に仕掛けたワウト・ポエルスがミハエル・アルバジーニの追撃を振り切って初のモニュメント制覇を達成した。



リエージュ〜バストーニュ〜リエージュ名物のコート・ド・サンロッシュを駆け上がる集団リエージュ〜バストーニュ〜リエージュ名物のコート・ド・サンロッシュを駆け上がる集団 photo:CorVos


目まぐるしく天候が変化した今年のリエージュ。時には吹雪にも見舞われた目まぐるしく天候が変化した今年のリエージュ。時には吹雪にも見舞われた photo:CorVos雪の中を逃げ続けるパオロ・ティラロンゴ(イタリア、アスタナ)ら雪の中を逃げ続けるパオロ・ティラロンゴ(イタリア、アスタナ)ら photo:CorVosチームメイトに守られて走るアレハンドロ・バルベルデ(スペイン、モビスター)チームメイトに守られて走るアレハンドロ・バルベルデ(スペイン、モビスター) photo:CorVos集団内で走るワウト・ポエルス(オランダ、チームスカイ)集団内で走るワウト・ポエルス(オランダ、チームスカイ) photo:CorVos集団から抜け出したトマ・ヴォクレール(フランス、ディレクトエネルジー)集団から抜け出したトマ・ヴォクレール(フランス、ディレクトエネルジー) photo:CorVosアルデンヌクラシックの最終戦、リエージュ〜バストーニュ〜リエージュ。「La Doyenne(ラ・ドワイエンヌ=最古参)」とも呼ばれる歴史と格式高い栄光のクラシックレースであり、パリ〜ルーベなどと共に世界5大クラシックの一つ「モニュメント」にも数えられる。格式の点ではアルデンヌ3連戦の中で際立って大きく、勝利の価値は他の追随を許さない。

大会が行われた4月24日の現地は季節外れの雪予報。スタート地点も気温が上がらず、選手たちはウォーマー類はもちろんレインジャケットや耳まで覆うキャップなど万全の防寒対策でスタートラインに並ぶ。レース中に「悪天候時実施要綱(エクストリーム・ウェザー・プロトコル)」が発動する可能性を残しつつ、別府史之(トレック・セガフレード)を含む176名がリエージュの街から253kmの長丁場に向けて走り出した。

ブリース・フェイユー(フランス、フォルトゥネオ・ヴァイタルコンセプト)のアタックをきっかけに逃げに乗ったのは、 パヴェル・ブラット(ロシア、ティンコフ)、パオロ・ティラロンゴ(イタリア、アスタナ)、ニコラ・エデ(フランス、コフィディス)、トーマス・デヘント(ベルギー、ロット・ソウダル)、チェザーレ・ベネディッティ(イタリア、ボーラ・アルゴン18)、スターク・ラエンゲン(ノルウェー、IAMサイクリング)、アレッサンドロ・デマルキ(イタリア、BMCレーシング)、そしてジェレミー・ロワ(フランス、FDJ)。

クライマーや逃げのスペシャリストを多数含んだ逃げに対し、モビスターとエティックス・クイックステップが率いるメイン集団は7分のタイム差を徐々に詰めていく展開に。なお、降雪よって序盤に若干のコース変更が行われたものの、多勢に影響は無かった。

雨、晴れ、吹雪、0℃に近づこうかという冷温と目まぐるしく変わる天候。近隣に位置するスパ・フランコルシャンサーキット名物の「スパ・ウェザー」が、このリエージュを走る選手たちにも大きく影響を与えた。

レースがにわかに動き出したのは、ゴールまで60kmを残した地点から。集団からチームメイトのアシストを受けたトマ・ヴォクレール(フランス、ディレクトエネルジー)がアタックし、単独で3分前を走る逃げグループに向けて追走を開始。次いでトッシュ・ファンデルサンド(ベルギー、ロット・ソウダル)ら4名が抜け出したものの、ヴォクレールに追いつくことなく集団に飲み込まれている。

集団の足音が近づいたことを受け逃げグループ内でもデマルキがペースアップを行い、この動きによってエデとデヘント以外は脱落。メイン集団との差が1分半を割り込んだ状態で平均勾配8.9%の名物登坂「コート・ド・ラ・ルドゥット」へと突入した。

最大勾配17%を数えるこの坂ではモビスターが徹底的なコントロールを行ったため、毎年恒例のアタックは生まれない。単独で粘っていたヴォクレールも吸収され、ゴールまでおよそ20kmを残してエデとデヘントも飲み込まれる。ロット・ソウダルやエティックス・クイックステップが主導しつつ、本格的な勝負に向けて段階的にペースが上がっていった。



コート・ド・ラ・リューナニオでミハエル・アルバジーニ(スイス、オリカ・グリーンエッジ)がアタックコート・ド・ラ・リューナニオでミハエル・アルバジーニ(スイス、オリカ・グリーンエッジ)がアタック photo:Bettini


コート・ド・ラ・リューナニオでミハエル・アルバジーニ(スイス、オリカ・グリーンエッジ)に食らいつくルイ・コスタ(ポルトガル、ランプレ・メリダ)らコート・ド・ラ・リューナニオでミハエル・アルバジーニ(スイス、オリカ・グリーンエッジ)に食らいつくルイ・コスタ(ポルトガル、ランプレ・メリダ)ら photo:CorVosコート・ド・ラ・リューナニオを登るワウト・ポエルス(オランダ、チームスカイ)コート・ド・ラ・リューナニオを登るワウト・ポエルス(オランダ、チームスカイ) photo:CorVos牽制しながらゴール前の登坂を駆け上がる先頭4名牽制しながらゴール前の登坂を駆け上がる先頭4名 photo:CorVosワウト・ポエルス(オランダ、チームスカイ)のスプリントが伸びるワウト・ポエルス(オランダ、チームスカイ)のスプリントが伸びる photo:CorVos4名のゴール勝負を制したワウト・ポエルス(オランダ、チームスカイ)4名のゴール勝負を制したワウト・ポエルス(オランダ、チームスカイ) photo:CorVosラ・ロッシュ・オ・フォーコン(平均9.3%)では特に動きは発生しなかったものの、次の緩斜面でカルロスアルベルト・ベタンクール(コロンビア、モビスター)がアタック。次いでアスタナもアンドレイ・グリブコ(ウクライナ)とミカル・クヴィアトコウスキー(ポーランド、チームスカイ)も飛び出し、人数を揃えるエティックス陣営を崩しにかかった。

ゴールまで7km地点のコート・ド・サンニコラ(平均8.6%)で逃げは捉えられたものの、アタックの目論見通りエティックスは人数を減らし、ヴィンツェンツォ・ニーバリ(イタリア、アスタナ)も脱落を喫する。頂上付近でディエゴ・ローザ(イタリア、アスタナ)とイルヌール・ザッカリン(ロシア、カチューシャ)が抜け出し、僅かなタイム差を持って頂上をクリアした。

しかし今大会新たに追加されたコート・ド・ラ・リューナニオ(平均10.5%)への突入前に2名は吸収され、30名ほどにまで絞られた集団はスピードが上がりきった状態のまま石畳の登坂に差し掛かった。

すぐさまジュリアン・アラフィリップ(フランス、エティックス・クイックステップ)が先頭に上がったものの、ミハエル・アルバジーニ(スイス、オリカ・グリーンエッジ)が中腹からアタック。ルイ・コスタ(ポルトガル、ランプレ・メリダ)とサミュエル・サンチェス(スペイン、BMCレーシング)、ワウト・ポエルス(オランダ、チームスカイ)が頂上通過直後に追いついたものの、アラフィリップやダニエル・マーティン(アイルランド、エティックス・クイックステップ)、優勝候補筆頭のアレハンドロ・バルベルデ(スペイン、モビスター)らは集団に封じ込められてしまう。

ラスト1kmのフラムルージュを通過してなおアルバジーニが積極的に牽き続ける4名に対し、集団は追走を企てることができない。しびれを切らしたザッカリンやワレン・バルギル(フランス、ジャイアント・アルペシン)がそれぞれ追撃を仕掛けたが、時すでに遅し。4名はラスト200mの最終コーナーをクリアし、スプリント勝負が始まった。

アルバジーニの番手から真っ先に仕掛けたのは「コーナーをクリアして真っ先に仕掛けようと思っていた」と言うポエルス。低速からのスプリントにサンチェスが脱落し、コスタもポエルスとアルバジーニには届かない。絶好の位置につけたアルバジーニがフィニッシュラインを狙ったが、ダンシングを続けるポエルスが伸びた。

「今日は脚があることを分かっていたけれど、アルバジーニの加速も強力だ。260kmを走った後のスプリントでは誰しもイコールだったし、雨、寒さ、そして雪という過酷な条件で誰しもが疲れ切っていた」と言うポエルスはフィニッシュラインで大きくガッツポーズ。登坂とタイムトライアルを得意とする28歳がキャリア最大の栄冠をもぎ取った。



リエージュ〜バストーニュ〜リエージュ表彰台。ワウト・ポエルス(オランダ、チームスカイ)が中央に立つリエージュ〜バストーニュ〜リエージュ表彰台。ワウト・ポエルス(オランダ、チームスカイ)が中央に立つ photo:CorVos


「信じられないことが起こった。本当に嬉しいし、自分がリエージュを制したことがまだ理解できていない。自分にとってもチームにとっても最高の勝利になった」と振り返るポエルス。今シーズンはヴォルタ・ヴァレンシアナでのステージ2勝&総合優勝、ヴォルタ・カタルーニャでのステージ優勝を挙げるなど調子を上げている中での勝利だった。

またアシストとして走った別府史之(トレック・セガフレード)は14分6秒遅れの集団内でフィニッシュに到達して完走。「世界一歴史が古い自転車レース、リエージュ〜バストニュース〜リエージュ。吹雪、雹、雨、寒さで最高に過酷な250kmだったけど最高に楽しめた!」と自身のTwitterにコメントしている。



リエージュ〜バストーニュ〜リエージュ2016結果
1位 ワウト・ポエルス(オランダ、チームスカイ)
2位 ミハエル・アルバジーニ(スイス、オリカ・グリーンエッジ)
3位 ルイ・コスタ(ポルトガル、ランプレ・メリダ)
4位 サミュエル・サンチェス(スペイン、BMCレーシング)
5位 イルヌール・ザッカリン(ロシア、カチューシャ)
6位 ワレン・バルギル(フランス、ジャイアント・アルペシン)
7位 ロマン・クロイツィゲル(チェコ、ティンコフ)
8位 ホアキン・ロドリゲス(スペイン、カチューシャ)
9位 バウク・モレマ(オランダ、トレック・セガフレード)
10位 ディエゴ・ローザ(イタリア、アスタナ)
134位 別府史之(トレック・セガフレード)
6h24’29”


+04”
+09”
+11”
+12"



+14'06"


text:So.Isobe