2014/07/07(月) - 18:00
ツール序盤のカギを握るステージと言われている第2ステージの朝。肌寒い空気と緊張感が漂っている。ブリティッシュ版ミニ・アルデンヌクラシックと形容されるコースはプロフィールをみるだけで厳しい。
スタート地点近くのチームバス駐車場では厳しくなるであろう一日に備えるいろいろな準備を観ることができた。スカイのメカニックは何度も何度も変速の調整をしている。ピット内に入らせてもらうと大きなカセットスプロケットが目につく。フルームはなんと最大32Tを使用するようだ...。しかも変速機はアルテグラに交換されている。フルームにアルテグラ、と妙なところに感心する私。
最近のグランツールは急勾配ステージが当たり前のように組み込まれるようになった。当然ローギアに軽いものを使うが、32TといえばMTBのスプロケットだ。変速機もそれに対応するものでないと変速キャパ対応不可能。数年前はフロント側をコンパクトドライブに換装してスプロケット側はなるべく歯数差の少ないものを使用したものだが、最近はリア側を大きくするのが主流だ。
スカイのチームスタッフとして働いているダリオダビデ・チオーニは、「今日はアルデンヌクラシックとほぼ同じメカの準備をすることになっている。流れはそれらのレースで経験済みなので問題ないけれど、予測がつかない部分もあるので何事にもマージン(保険)は必要だね」。
ティンコフ・サクソの中野さんによれば、「メカニックも交換作業が少なくて済む方法をとったほうが結局はトラブルも少なくていい」とのことで、チームティンコフ・サクソのライダーは常時ロングケージのRディレイラーで平坦ステージも走っている。変速レスポンスも「気にするほどの差はないようです」とのことだ。
しかしスカイは電動メカなので通電ケーブル類をすべて挿しなおしての変速チェックをしていた。別の大変さはあるようだ。
ティンコフ・サクソのチームカーでは補給スタッフに混じってサプライヤーの男性が黒いメッシュベストを用意していた。ウェア供給ブランドのスポーツフルが用意したそれは、ボトルの入るポケットがたくさんついている。アシスト選手がチームカーからボトルをもらってチームメイトに配るときに、チームカーのスタッフがあらかじめそのベストにボトルを挿しておけば、それを受け取って着るだけで済むという便利なもの。ジャージのあちこちにいちいち一本づつボトルを詰め込まなくても済むというわけだ。ニッチなマーケットに切り込む(?)、画期的なアイデアグッズ(笑)。冗談のようなベストだが、ボトル受け渡し作業の大幅な時間短縮になりそうだ。完成度も高い。市販の可能性は?(笑)
ユーロップカーのバスには今日も福島晋一さん(と小田嶋梨絵さん)がユキヤを訪問、激励。今朝は長い一日を前に余裕があったようで、ゆっくり話ができていた。(それにしても晋一ニイチャンはファッションがかなりポップで若いんですが...。)
今日はピエール・ロランのアシストがユキヤの重要な任務だ。なるべく最後までロランとともに居て、何かあった時のヘルプをするのが役目だ。「最後の最後(ゴール)まで一緒に居られたらいいんですけどね〜」、と少し真面目な目つきでユキヤは笑った。
アスタナのチームバスにはアレクサンドル・ヴィノクロフ大佐が登場。引退した今はチームのGM的な存在(現役時代からも、だが)で、春にはヴィンチェンツォ・ニーバリに対し「たいした結果を出していない」と手紙(!)で叱咤したという逸話がある。
ニーバリのバイクにはサメのスペシャルペイントが施されていた。サガンのキャノンデールといい、カスタムがプチ流行だろうか。イタリアにはこういったプロサイクリング関係に精通したグラフィック職人が多いのでなかなか楽しい演出だ。
今回のツールでは史上初めて選手がオンボードカメラを取り付けることが許可されている。数チームの選手がシマノ・スポーツカメラや、ガーミン・シャープはVIRBを取り付けて走った。シマノのスタッフも日本から来ており、イギリス国内でのサポートチームの活動を支えている。車載カメラは、今回のヨークシャーステージでは詰めかけた沿道の観客との超接近戦を捉えているはずだ。後日の公開を待ちたい。
カヴェンディッシュの謝罪ミニ会見がバスの前で開かれる
朝の時点ですでにチームから発表のあったカヴェンディッシュのリタイア。カヴは出走はしないが、チームバスに乗ってスタート地点に来て、バスの前で謝罪のミニ会見を行うという情報。群がる報道陣を前に、OPQSのスウェット+キャップ姿のカヴがメディアを前に話をするために出てきた。
強靭な肉体を持ち、今まで落車して負傷しても次の日には走ることができたカヴ。怪我からの回復力も並外れたものをもっているはずが、今回は勝手が違ったようだ。脱臼した鎖骨と肩、腕の具合は朝にはさらに悪化し、動かせる状態ではなかった。「腕が動かせない。がっかりで、悔しさでいっぱいだ。思ったより状態は悪かった」とカヴ。精密検査を受け、たぶん手術を受けることになるという。
「ツール・ド・フランス初日にリタイアなんて、誰にとってもそうだがこんなに残念なことはない。OPQSにはマルティン、テルプストラ、トレンティン、バケランツなど強い選手がいるのでこれからの3週間はエキサイティングなものにしてくれるはず。成功を祈っている」。
ゲランスの元にはステージ後すぐに謝りに行き、夜も電話で怪我の経過を聞いて謝ったという。「彼にはこの後のツールでいい結果を出して欲しい」。昨日かぶっていた、少しカスタムカラーの入ったヘルメットにも触れた。「英雄たちのヘルメット」と名づけたそれは、アフガニスタンの内戦で手足を失った友人(ファン)たちへの支援の気持ちを表すペイントだったようだ。そしてファンにもメッセージを送った。「すべてのファンがこのツールを楽しめるように。素晴らしいレースになるだろう。昨日感じた素晴らしい応援を、もっと感じたかった。このあとボクもレースを観戦することにするよ」。
一緒に落車したゲランスは、「カヴはすぐに謝りに来てくれた。イギリスのツールでマークがリタイアするのはイギリスじゅうのファンが残念がっているだろうことは想像がつく。僕にとっても残念だ。僕達の間に問題は全くないよ。とにかく彼の回復を祈るよ」と話す。
ゲランスは常に前向きで、決して人を非難しないナイスガイ。自身の怪我の具合は、外見は目立つ外傷はないものの、打ち身の影響があるだろうと話す。「決してベストコンディションではないけれど、調子の良さはあるから諦めはしないよ」。
ゴールに詰めかけたサガン応援団
シェフィールドのゴール地点にはスロバキア国旗とグリーンのシャツ、そしてGo SAGAN! のフェイスペイントをした一団が陣取っていた。お祭り騒ぎでサガンの名前を連呼するサガンの応援団、昨年とはメンツが違うようだが、こうしてサガンに勝利の可能性があるステージでは必ずと言っていいほどゴールライン脇のポディウム正面にやってくる。(もちろん確保が難しい特等席だ)
本格的な山岳で遅れることは否めないが、タフなコースを得意とするサガン。短い上りなら総合優勝候補たちに混じっても楽勝でこなし、小集団のスプリントに持ち込めば勝利はモノにできるはずだった。しかしこの日はフグルサングとニーバリのワン・ツー・パンチが効いた。
サガンが逃げたニーバリに追いつこうと必死でスピードを上げているとき、このサガン応援団も必死のエールを送った。しかし願いむなしくステージはニーバリのものに。がっかりする応援団。
しかしホワイトのジャージ、マイヨ・ブランとともにグリーンのマイヨ・ヴェールをサガンが着ると、応援団も俄然元気を吹き返した。マイヨ・ヴェールのハットトリック達成がサガンにとってもファンにとっても悲願なのだ。サガンからは、ポディウム上から緑の花束が投げ込まれた。
ニーバリからは7分5秒遅れの75位。グループでなくたったひとりでゴールしてきた新城幸也。顔をかしげて不満気な表情を浮かべていたのはエースのロランが最後に先頭からは遅れてタイムを失ったことを知っていたからだ。ハードな一日に疲労困憊な様子だ。
ユキヤは「盛り上がりはすごいけど、残念なことに観客のマナーが悪すぎて危険だった。一日じゅう観客の動きに気を使っていなければいけない状態が続き、精神的にも本当に疲れた。ピエールのアタックは素晴らしかった。でも、自分がもっと最後までピエールの近くにいて、助けていられれば最後はタイム差が開かずゴール出来ていたかもしれない…」と話している。
マイヨジョーヌのマルセル・キッテル(ジャイアント・シマノ)はニーバリに20分遅れでゴールに辿り着いた。ホームストレートではグルペット最前列で走りながらチームメイトのトム・フィーレルスとアルバート・ティマーにハグ。
「獲得標高3000メートルを超える一日はハードだったけれど、一秒一秒、すべての時間を楽しんだよ。それにしてもファンたちの応援はすごかった。もう言葉も無いね。あまりの大歓声でもう耳が聴こえなくなるほどだったよ」。マイヨジョーヌ着用初日にして失ったが、明日ロンドンに向かう第3ステージは今回のイギリスステージでもっとも平坦。キッテルはロンドンでのステージ優勝の最有力候補だ。
photo&text:Makoto.AYANO
スタート地点近くのチームバス駐車場では厳しくなるであろう一日に備えるいろいろな準備を観ることができた。スカイのメカニックは何度も何度も変速の調整をしている。ピット内に入らせてもらうと大きなカセットスプロケットが目につく。フルームはなんと最大32Tを使用するようだ...。しかも変速機はアルテグラに交換されている。フルームにアルテグラ、と妙なところに感心する私。
最近のグランツールは急勾配ステージが当たり前のように組み込まれるようになった。当然ローギアに軽いものを使うが、32TといえばMTBのスプロケットだ。変速機もそれに対応するものでないと変速キャパ対応不可能。数年前はフロント側をコンパクトドライブに換装してスプロケット側はなるべく歯数差の少ないものを使用したものだが、最近はリア側を大きくするのが主流だ。
スカイのチームスタッフとして働いているダリオダビデ・チオーニは、「今日はアルデンヌクラシックとほぼ同じメカの準備をすることになっている。流れはそれらのレースで経験済みなので問題ないけれど、予測がつかない部分もあるので何事にもマージン(保険)は必要だね」。
ティンコフ・サクソの中野さんによれば、「メカニックも交換作業が少なくて済む方法をとったほうが結局はトラブルも少なくていい」とのことで、チームティンコフ・サクソのライダーは常時ロングケージのRディレイラーで平坦ステージも走っている。変速レスポンスも「気にするほどの差はないようです」とのことだ。
しかしスカイは電動メカなので通電ケーブル類をすべて挿しなおしての変速チェックをしていた。別の大変さはあるようだ。
ティンコフ・サクソのチームカーでは補給スタッフに混じってサプライヤーの男性が黒いメッシュベストを用意していた。ウェア供給ブランドのスポーツフルが用意したそれは、ボトルの入るポケットがたくさんついている。アシスト選手がチームカーからボトルをもらってチームメイトに配るときに、チームカーのスタッフがあらかじめそのベストにボトルを挿しておけば、それを受け取って着るだけで済むという便利なもの。ジャージのあちこちにいちいち一本づつボトルを詰め込まなくても済むというわけだ。ニッチなマーケットに切り込む(?)、画期的なアイデアグッズ(笑)。冗談のようなベストだが、ボトル受け渡し作業の大幅な時間短縮になりそうだ。完成度も高い。市販の可能性は?(笑)
ユーロップカーのバスには今日も福島晋一さん(と小田嶋梨絵さん)がユキヤを訪問、激励。今朝は長い一日を前に余裕があったようで、ゆっくり話ができていた。(それにしても晋一ニイチャンはファッションがかなりポップで若いんですが...。)
今日はピエール・ロランのアシストがユキヤの重要な任務だ。なるべく最後までロランとともに居て、何かあった時のヘルプをするのが役目だ。「最後の最後(ゴール)まで一緒に居られたらいいんですけどね〜」、と少し真面目な目つきでユキヤは笑った。
アスタナのチームバスにはアレクサンドル・ヴィノクロフ大佐が登場。引退した今はチームのGM的な存在(現役時代からも、だが)で、春にはヴィンチェンツォ・ニーバリに対し「たいした結果を出していない」と手紙(!)で叱咤したという逸話がある。
ニーバリのバイクにはサメのスペシャルペイントが施されていた。サガンのキャノンデールといい、カスタムがプチ流行だろうか。イタリアにはこういったプロサイクリング関係に精通したグラフィック職人が多いのでなかなか楽しい演出だ。
今回のツールでは史上初めて選手がオンボードカメラを取り付けることが許可されている。数チームの選手がシマノ・スポーツカメラや、ガーミン・シャープはVIRBを取り付けて走った。シマノのスタッフも日本から来ており、イギリス国内でのサポートチームの活動を支えている。車載カメラは、今回のヨークシャーステージでは詰めかけた沿道の観客との超接近戦を捉えているはずだ。後日の公開を待ちたい。
カヴェンディッシュの謝罪ミニ会見がバスの前で開かれる
朝の時点ですでにチームから発表のあったカヴェンディッシュのリタイア。カヴは出走はしないが、チームバスに乗ってスタート地点に来て、バスの前で謝罪のミニ会見を行うという情報。群がる報道陣を前に、OPQSのスウェット+キャップ姿のカヴがメディアを前に話をするために出てきた。
強靭な肉体を持ち、今まで落車して負傷しても次の日には走ることができたカヴ。怪我からの回復力も並外れたものをもっているはずが、今回は勝手が違ったようだ。脱臼した鎖骨と肩、腕の具合は朝にはさらに悪化し、動かせる状態ではなかった。「腕が動かせない。がっかりで、悔しさでいっぱいだ。思ったより状態は悪かった」とカヴ。精密検査を受け、たぶん手術を受けることになるという。
「ツール・ド・フランス初日にリタイアなんて、誰にとってもそうだがこんなに残念なことはない。OPQSにはマルティン、テルプストラ、トレンティン、バケランツなど強い選手がいるのでこれからの3週間はエキサイティングなものにしてくれるはず。成功を祈っている」。
ゲランスの元にはステージ後すぐに謝りに行き、夜も電話で怪我の経過を聞いて謝ったという。「彼にはこの後のツールでいい結果を出して欲しい」。昨日かぶっていた、少しカスタムカラーの入ったヘルメットにも触れた。「英雄たちのヘルメット」と名づけたそれは、アフガニスタンの内戦で手足を失った友人(ファン)たちへの支援の気持ちを表すペイントだったようだ。そしてファンにもメッセージを送った。「すべてのファンがこのツールを楽しめるように。素晴らしいレースになるだろう。昨日感じた素晴らしい応援を、もっと感じたかった。このあとボクもレースを観戦することにするよ」。
一緒に落車したゲランスは、「カヴはすぐに謝りに来てくれた。イギリスのツールでマークがリタイアするのはイギリスじゅうのファンが残念がっているだろうことは想像がつく。僕にとっても残念だ。僕達の間に問題は全くないよ。とにかく彼の回復を祈るよ」と話す。
ゲランスは常に前向きで、決して人を非難しないナイスガイ。自身の怪我の具合は、外見は目立つ外傷はないものの、打ち身の影響があるだろうと話す。「決してベストコンディションではないけれど、調子の良さはあるから諦めはしないよ」。
ゴールに詰めかけたサガン応援団
シェフィールドのゴール地点にはスロバキア国旗とグリーンのシャツ、そしてGo SAGAN! のフェイスペイントをした一団が陣取っていた。お祭り騒ぎでサガンの名前を連呼するサガンの応援団、昨年とはメンツが違うようだが、こうしてサガンに勝利の可能性があるステージでは必ずと言っていいほどゴールライン脇のポディウム正面にやってくる。(もちろん確保が難しい特等席だ)
本格的な山岳で遅れることは否めないが、タフなコースを得意とするサガン。短い上りなら総合優勝候補たちに混じっても楽勝でこなし、小集団のスプリントに持ち込めば勝利はモノにできるはずだった。しかしこの日はフグルサングとニーバリのワン・ツー・パンチが効いた。
サガンが逃げたニーバリに追いつこうと必死でスピードを上げているとき、このサガン応援団も必死のエールを送った。しかし願いむなしくステージはニーバリのものに。がっかりする応援団。
しかしホワイトのジャージ、マイヨ・ブランとともにグリーンのマイヨ・ヴェールをサガンが着ると、応援団も俄然元気を吹き返した。マイヨ・ヴェールのハットトリック達成がサガンにとってもファンにとっても悲願なのだ。サガンからは、ポディウム上から緑の花束が投げ込まれた。
ニーバリからは7分5秒遅れの75位。グループでなくたったひとりでゴールしてきた新城幸也。顔をかしげて不満気な表情を浮かべていたのはエースのロランが最後に先頭からは遅れてタイムを失ったことを知っていたからだ。ハードな一日に疲労困憊な様子だ。
ユキヤは「盛り上がりはすごいけど、残念なことに観客のマナーが悪すぎて危険だった。一日じゅう観客の動きに気を使っていなければいけない状態が続き、精神的にも本当に疲れた。ピエールのアタックは素晴らしかった。でも、自分がもっと最後までピエールの近くにいて、助けていられれば最後はタイム差が開かずゴール出来ていたかもしれない…」と話している。
マイヨジョーヌのマルセル・キッテル(ジャイアント・シマノ)はニーバリに20分遅れでゴールに辿り着いた。ホームストレートではグルペット最前列で走りながらチームメイトのトム・フィーレルスとアルバート・ティマーにハグ。
「獲得標高3000メートルを超える一日はハードだったけれど、一秒一秒、すべての時間を楽しんだよ。それにしてもファンたちの応援はすごかった。もう言葉も無いね。あまりの大歓声でもう耳が聴こえなくなるほどだったよ」。マイヨジョーヌ着用初日にして失ったが、明日ロンドンに向かう第3ステージは今回のイギリスステージでもっとも平坦。キッテルはロンドンでのステージ優勝の最有力候補だ。
photo&text:Makoto.AYANO
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