CONTENTS

歩みを止めないピレリ P ZERO RACE TLRのモデルチェンジを発表。

ピレリの最高峰ロードレーシングタイヤとして、名を馳せるP ZERO RACEのチューブレスレディモデルがフルモデルチェンジ。インナーレイヤーに"SpeedCORE"と名付けられた新技術を用いることで、さらなるしなやかさと転がりの軽さ、そして耐パンク性能を向上させ、全方位に進化した注目作をなるしまフレンドの小畑メカによるインプレッションで紐解いていこう。

2023シーズンにおいても、既に数多くの勝利をその手に掴んできたピレリ P ZERO RACE。近年はTPUチューブ"SmarTube"の登場によるクリンチャータイヤの復権も見られてきたが、TLRモデルの開発の手も止められていなかった。

ピレリ P ZERO RACE TLR SpeedCORE (c)カワシマサイクルサプライ

3月末に突如として発表されたのが、P ZERO RACE TLRのモデルチェンジ。といっても、タイヤの外見などが変わることは無く、なんとなれば印字されているモデル名も以前のままと一見地味な発表ではあったのだが、その内実はタイヤの土台をガラリと変える大きなアップデートが行われている。

アラミド粒子配合の極薄ラバーレイヤー"SpeedCORE" パンクに強く、転がりも軽く、そしてしなやかに。

今回のモデルチェンジにあたり変更されたのは、タイヤの骨格とも言えるケーシング構成。従来モデルでは120TPIのケーシングとトレッドとの間に"TECHWALL"と名付けられたレイヤーを挿入することで空気保持性と耐パンク性を向上させていた。

今回のアップデートでは、そのTECHWALLレイヤーを廃止。その代わりとなるのが、新たにケーシングの最内部に配置される"SpeedCORE"と名付けられた薄いゴム製のレイヤーだ。このSpeedCOREはビードまで覆う設計で、構造面でもより広範囲をカバー。つまり、より高い空気保持性やサポート力が期待できる技術となっている。

最も内側にSpeedCOREが配置される。耐パンクと空気保持の役割をになうアラミド強化ラバーのレイヤーだ (c)カワシマサイクルサプライ

更に、素材としても突き詰められているのがSpeedCOREの特徴だ。単なるゴムの薄膜というわけではなく、防弾繊維としても知られるアラミドの粒子を配合された特殊素材となっているのだ。

アラミド粒子がもたらすのは、突き刺す力に対する優れた耐性。もちろん強度が上がることでただのゴムに比べて非常に薄く作ることが可能となっており、結果として超軽量かつしなやかなレイヤーとなっている。

ピレリ P ZERO RACE TLR SpeedCORE (c)カワシマサイクルサプライ

このSpeedCOREを手に入れ、P ZERO RACE TLRはレーシングタイヤとして更に円熟。耐パンク性を向上させつつ、以前のTECHWALL採用モデルに対し転がり抵抗を24%も軽減することに成功している。重量面でも遜色なく、26Cモデルでは前作より5g重いものの、タイヤ幅が太くなるにつれその差は縮まり、28Cでは295gで同重量、30C以降では新型のほうが軽くなる。

サイズ展開も豊富で、26C(275g)、28C(295g)、30C(315g)、32C(335g)、35C(355g)という5種類をラインアップ。レーシングバイクのタイヤクリアランスが拡大していく時代にマッチした、柔軟なラインアップの追加もまた、ピレリのレーシングスピリットを感じられる部分だろう。

そんな P ZERO RACE TLR SpeedCOREを、前作のインプレッションも行ったなるしまフレンドの小畑メカニックがテスト。新たな武器を得たTLRタイヤはどのように進化したのか。その実力に迫る。

注目の最新作P ZERO RACE TLR SpeedCOREを小畑郁(なるしまフレンド)がインプレッション

前回に続き、小畑郁メカがP ZERO RACE TLR SpeedCOREをインプレッション photo:So Isobe

これまでピレリのハイエンドモデルであった、P ZERO RACE TTやP ZERO RACEとは一味違うタイヤですね。特にしなやかさと剛性感のバランス、そして転がり抵抗の低さなど、今までよりもレーシングタイヤとして一つレベルが上がったように感じました。

前回のテスト(※本特集Vol.2)で試したP ZERO RACE TLRは、グリップと軽さをバランスよくまとめたスタンダードモデルという印象が強かったのですが、SpeedCOREはそれよりも軽く転がるし、乗り心地もいい。乗り心地がいいと一言で言っても、単純に柔らかいだけじゃなくて、程よいコシがある。ラバーレイヤーのSpeedCOREが入ることで剛性感が明らかに変わりましたね。従来とはいい意味で異なる乗り味です。

ピレリ曰く24%転がり抵抗が軽くなったとのことですが、それが間違っていないことは走り出せばすぐに分かります。前作と比べても良い走りをしますね。

「ドライとウェットのどちらでも走りの性格が変わらない安心感のあるタイヤ」 小畑郁(なるしまフレンド) photo:So Isobe

ウェットコンディションでも挙動は安定していて、ドライとウェットのどちらでも走りの性格が変わらない安心感のあるタイヤです。今回試したのは28cで、空気圧は5.0Barが自分にとってベストでした。前作では4気圧でも問題なかったけれど、しなやかになっている分少し空気圧設定は高めになると思います。空気圧が高くしてもしなやかなので、結果的に転がり抵抗も抑えられる。いいことづくめだなあ、と思いますよ。

タイヤってケーシングを薄くすれば乗り味は良くなるけれど、その一方で対パンク性能と引き換えになりますよね。このタイヤは薄いタイヤならではのフィーリングの良さを実現しつつ、パンクにも強いと感じましたね。先日開通したばかりの「裏ヤビツ」を登ってきたんですが、まだあまり車が通っていないので細かい砂利がたくさん落ちていたんです。そのコースでもパンクしなかったし、表面のコンパウンドは石を拾いそうな柔らかさなのに、傷つきもありませんでした。切り裂きや突き刺しにも強いタイヤと言えそうです。実際、別日に違うタイヤで走ったらパンクしましたよ(笑)

「薄いケーシングのタイヤならではのフィーリングの良さと耐パンク性の高さという相反する要素を両立していることは驚き」小畑郁(なるしまフレンド) photo:So Isobe
前回のテストでもお伝えしたことですが、ピレリはホイールへの組み付けなど作業性がすごくいいんです。カンパニョーロやフルクラムとは相性がいいし、実際に今回フルクラムのSPEED 25に装着する際も無理な力は要らず、ビード上げもフロアポンプでごく簡単。ほんの僅かに外径が大きいマヴィックのリムでも問題がありません。

純正シーラントを入れましたが、その空気保持力も良い。こうした部分はピレリタイヤの素晴らしいところです。厳密に言えば何度も何度もつけ外しをした場合ビードが緩む可能性も否めませんが、メカニックはもちろん、一般ユーザーが作業する時でも「これは無理」という場面はほぼ無いといえるはずです。

取扱いに一定のデリケートさが求められるチューブレス/チューブレスレディのタイヤで大切なのは、パンクしないこと。そして、例え出先でパンクしても自分で修理して帰ってこれること。正直、色んなトラブルに遭遇するショップメカニック目線だと、まだ市場には完璧なものが少ないと感じています。その中でピレリのタイヤは、非常にバランスが良く優秀だと感じています。

テストライドでは荒れた路面の裏ヤビツも走ったというが、タイヤ表面に目立つ傷跡などはない。綺麗な状態だ photo:So Isobe

今回のテストで感じたのは、ピレリのタイヤはどんどん進化を遂げているということ。これはやはり自社生産できることの強みでしょうね。ここ最近、自転車業界に限らず資金力のある会社は自社生産にシフトする流れが来ていますから、ピレリもその強みを活かしていると言えるはず。開発スピードもとにかく速いですよね。前作も良いタイヤで、何か問題があったわけじゃないのに、もうモデルチェンジになってしまった。これは良い製品づくりに真摯に取り組んでいる証だと思うんです。

日本への輸入は、ピレリ本社がDHLなどの貨物スペースを確保してほぼすべてを空輸するということで、他ブランドのように納期が何カ月待ちということもありません。他社のヨーロッパタイヤの納期はまだ回復しきっていませんから。

もちろん13,000円という価格は安くはありませんよね。ただ、昨今の情勢で自転車製品全てが値上げになっていますし、タイヤだけ見てどうこうという状況でもない。輸送コストから何から全てが上がっていますから、もうそれは仕方ないものとして諦めつつ、他ブランドと比べた時の価格とコストパフォーマンスを見るべきでしょう。付け加えるならば、輸入代理店のカワシマサイクルサプライも頑張っていて、少しでもコストが抑えられる状況であれば迅速に値下げしてくれているのも好感が持てる点でしょう。

「走行性能も扱いやすさも非の打ちどころがない」小畑郁(なるしまフレンド) photo:So Isobe

ピレリ本社としてはマイナーチェンジだそうですが、ありとあらゆる部分が変わっているし、普通だったらモデル名も変えているレベルです。こうした動きを見ていると、モータースポーツ界で一流ブランドと呼ばれる理由が分かるような気がしますね。

テストライダープロフィール

P ZERO RACEシリーズを日本屈指の走れるメカニック、なるしまフレンドの小畑郁がインプレッション photo:Makoto AYANO

小畑郁(おばたかおる)
圧倒的な知識量と優れた技術力から国内No.1メカニックとの呼び声高い、なるしまフレンドの技術チーフ。勤務の傍ら精力的に競技活動を行っており、ツール・ド・おきなわ市民210kmでは2010年に2位、2013年と2014年に8位に入った他、国内最高峰のJプロツアーではプロを相手に多数の入賞経験を持つ。2020年以来、Hincapie LEOMO Bellmare Racing Teamの一員として国内レースを走る。

なるしまフレンド神宮店(レコメンドショップページ)
なるしまフレンド HP

提供:カワシマサイクルサプライ 制作:シクロワイアード編集部