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2017年、ミッチェルトン・スコットへの供給を通じてサイクルレースの最前線へとカムバックしたイタリアのタイヤブランド、ピレリ。それから7年を経て、ロード、グラベル、そしてMTBという各カテゴリーにおいてトップレベルのプロダクトをラインアップし、レースシーンにおいて欠かすことのできない存在となったピレリ、その150年の歴史を振り返ろう。

ピレリ、世界屈指の歴史を誇るタイヤメーカー

昨年150周年を迎え、今年151年目を踏み出したイタリアの老舗タイヤメーカーがピレリだ。1872年の1月28日、ジョバンニ・バティスタ・ピレリによってミラノで産声を上げたのがその始まり。当初、ピレリが手掛けたのは産業機械用のベルトやバルブ、絶縁体といったゴム製品だった。

中でもその規模を拡大する契機となったのが電気伝送ケーブルの生産で、海底ケーブルや鉄道電化のための政府契約など大きな成功を収め、ピレリは一躍ヨーロッパのリーディングカンパニーへと成長を果たした。

トレック・セガフレードなど各カテゴリーのトップチームを支えるピレリ。産業用ゴム製品から出発した同社が最初に手掛けたのは自転車用タイヤだったという (c)sprintcycling

ピレリが初めてタイヤという分野に進出したのは1890年。記念すべき最初のプロダクトとなったのは、自動車でもモトでもなく、自転車向けのタイヤだった。1909年に初開催されたジロ・デ・イタリアにおいて、完走者49名のうち30名がピレリのタイヤを用いるという圧倒的なシェアを握るほど、当時から高性能タイヤメーカーとして認知されていた。

自動車、モトといった分野にも進出したピレリは、F1をはじめとしたトップレベルのモーターレースにおいてもその存在感を増していく。多くのチームのサプライヤーに名を連ね、数々の勝利と多くの知見を得たピレリは、世界に冠たるタイヤメーカーとしての道を歩んできた。

2005年にはピレリの歴史において大きな役割を果たしたケーブル部門を売却、中核となるタイヤ事業に集中し、2017年には自動車、オートバイ、自転車用タイヤの中でも、特に技術的内容の高い「ハイバリュー」セグメントに焦点を当てたコンシューマー向けタイヤ企業として純化。フェラーリやポルシェ、マセラティといった多くのプレミアムブランドに純正採用されるなど、そのパフォーマンスは世界が認めるものとなっている。

F1、WRC、スーパーバイク。モータースポーツに欠かせない存在となったピレリ

F1においては10年以上ワンメイクサプライヤーとしてレースを支えるピレリ (c)ピレリ

現在、ピレリという名を聞いて多くの人が連想するのはやはりF1だろう。2010年以来、ピレリは世界最高峰のモータースポーツのタイヤを一手に手掛けるサプライヤーとして活躍。現在供給されるP ZEROタイヤは、スポンサードを開始して以来10年以上に渡って蓄積した知見を活かし、チームとドライバ―から信頼されている。さらにコンパウンドごとに異なる特性を持つタイヤを数種類用意し、レース戦略に大きく影響を与え、スペクタクルなショーを演出。レースをよりエキサイティングなものとするというテーマに相応しい性能のタイヤを開発し、世界中のモータースポーツファンをも惹きつけた。

サーキットレースの最高峰であるF1と並ぶ存在が公道ラリーレースのWRC。ピレリは2021年からWRCにおいてもコントロールタイヤの単独サプライヤーとなっている。サーキットとはまた異なり、舗装路だけでなく未舗装路も大きな比重を占めるラリーにおいてもピレリタイヤは信頼を寄せられている存在だ。

ピレリは公道ラリーレースの最高峰であるWRCにおいても単独サプライヤーとなる (c)ピレリ

四輪のみならず、二輪の世界においてもピレリはレーシングタイヤとして君臨している。ピレリは2004年以来、MotoGPと並ぶ最高峰のカテゴリであるスーパーバイク選手権のワンメイクタイヤを供給。20年近い長きに渡り、トップレベルのモトレースの足元を支え続けてきた。

二輪の世界のオフロードカテゴリーにおいてもピレリの存在感は非常に大きく、モトクロス世界選手権においてもSCORPIONタイヤと共に戦うティム・ガイザー(HRC)が年間王者の座を占めるなど、優れた成績を残している。

レーシングスピリットに満ちたピレリが掲げるのが"POWER IS NOTHING WITHOUT CONTROL"、コントロールされないパワーは意味がない、というスローガン。強大なエンジンを搭載したフォーミュラマシンやラリーカー、そしてSSバイクが生み出すパワーを地面に伝えるものこそタイヤである。レーシングマシンにとって、非常に重要な存在であるタイヤというものの本質を一言で言い表したフレーズだと言えよう。

そのスピリットはサイクルスポーツの世界へ 躍進するピレリタイヤ

ツール・ド・フランス2022第15ステージ 逃げグループ内のスプリントを制したマッズ・ピーダスン(デンマーク、トレック・セガフレード) photo:Kei Tsuji

一方、サイクルスポーツの世界においてもピレリの存在は際立っている。オッタビオ・ボッテッキア、アルフレード・ビンダ、ジーノ・バルタリ、ファウスト・コッピ……名だたるレジェンドたちと共にピレリのタイヤは走ってきた。コッピの5度目のジロ・デ・イタリア制覇を支えたのもまた、ピレリのタイヤだ。

偉大な記録を残しつつも、1992年にいったん自転車用タイヤから撤退していたピレリ。しかしその25年後、再びピレリは自転車タイヤの世界へと戻ってきた。2018年のツール・ド・フランス前にはミッチェルトン・スコットとパートナーシップを締結。復帰2年目にして、早速レースシーンの最前線に舞い戻ってきたのは、ピレリのレースへの情熱を感じるエピソードでもある。

ツール・ド・フランス2023 プロトンを牽引するジュリオ・チッコーネ(イタリア、トレック・セガフレード) (c)sprintcycling

UCIグラベル世界選手権で4位に入ったグレッグ・ファンアーヴェルマート(ベルギー、AG2Rシトロエン) (c)sprintcycling

その後は、トレック・セガフレードやAG2Rシトロエンとも緊密なパートナーシップを締結。昨シーズンでは、タデイ・ポガチャル擁するUAEチームエミレーツもピレリのタイヤを使用し、数多くの勝利を挙げてきた。ロードレーサー用のタイヤにはピレリのフラッグシップモデルであることを示す"P ZERO"のモデル名が与えられる。F1でも使用されるタイヤと同じモデル名を冠することからも、ピレリが自転車タイヤにも真剣に取り組んでいることは窺い知れよう。

自転車タイヤへカムバックしたピレリは、ロードバイク用タイヤだけでなく、グラベル、そしてMTBといったオフロードカテゴリーにも進出。グラベル向けとしてCinturatoシリーズ、MTB向けとしてScorpionシリーズと、それぞれ既に自動車やオフロードバイクで用いられているモデル名が与えられている。特に近年注目が高まるグラベルカテゴリーでは、昨年初開催された世界選手権においてグレッグ・ファンアーヴェルマート(ベルギー、AG2Rシトロエン)がCinturatoと共に4位入賞。

2022シーズンからはキャニオン CLLCTV ピレリチームへ供給 下り系MTBタイヤも強化する (c)Maddog Boris

一方、MTBカテゴリーではキャニオン CLLCTV ピレリへと供給。新モデルとして送り出されたSCORPION ENDUROシリーズがルカ・ショーやダンテ・シルバといったエリートレーサーの走りを支え、EWSやDHワールドカップでその存在感を示してきた。

クロスカントリーレースではウィリエール・ピレリのタイトルスポンサーを務め、シモーネ・アヴォンテッドによる2022年の世界選手権U23カテゴリー制覇に貢献。更に2023シーズンからは東京五輪を制したヨランダ・ネフ(スイス)も所属するトレックファクトリーレーシングとパートナーシップを締結した。XCからエンデューロ、ダウンヒルまで全カテゴリーをカバーする強豪チームがSCORPIONと共にワールドカップを戦っていく。R&Dにおいても緊密なパートナーシップを結ぶとのことで、更に様々なプロダクトの開発が加速しそうだ。

23シーズンは五輪王者であるヨランダ・ネフ(スイス)も所属するトレックファクトリーレーシングをサポートする (c)RossBell

このようにラインアップを着実に増強するピレリの自転車用タイヤ。2022年には生産工場をミラノの本社近くのボッラーテ工場へと移管。コロナ禍による需要減退で一時操業を停止していた同工場だが逆にこれを好機とし生産設備の改革を完了させ、より先進的かつサステナブルなプロダクトとしてピレリの自転車用タイヤは送り出されることとなる。

150年に渡って蓄積してきたテクノロジー、110年に及ぶレースシーンへのコミット。一世紀以上の間、ピレリが紡ぎ続けてきた遺伝子が生み出す自転車用タイヤ。次のページからは、オンロードとオフロードそれぞれのカテゴリーのピレリタイヤの魅力を掘り下げていく。
提供:カワシマサイクルサプライ 制作:シクロワイアード編集部