松本を出発し、塩尻、伊那谷、木曽路、天竜峡と長野南部の名所をぐるりと巡ってきた長野一周サイクリング。ラストとなる2日間は信州の最南部ともいえる秘境・平岡から峠をつなぎつつ松本へ向かって北上していくルートを走っていく。(※前編はこちらから



Day3 平岡~地蔵峠~分杭峠~伊那

駅舎と宿が一体になった平岡駅から出発駅舎と宿が一体になった平岡駅から出発 (c)JACP/T.Hatamachi
3日目は長野一周サイクリングの中でも最南端となる天竜村平岡から一転北上していく。昨日走ってきたルートから見ると一本東側の道を北へと走り、2つの峠をつないで行くというコースが予定されていた。

しかし、実は2つの問題が。一つは天気。なんと昼前から100%の雨予報。ひと月前ならともかく、気温も下がっているこの時期だと雨に濡れての峠の下りはかなり厳しいことが想定される。

遠山川沿いを上流へと走っていきます遠山川沿いを上流へと走っていきます (c)JACP/T.Hatamachi
そして、もう一つは地蔵峠の通行止め。今年の長梅雨の影響で土砂崩れによって通行止めとなっているのだそう。とはいえ、朝の段階ではところどころに青空が見えるほど。雲も多いが、いまにも降りそうという感じではないのでとりあえず走り出すことに。

川沿いを行くと、あちらこちらに吊り橋が掛けられている。中にはどう見ても一軒の家のために掛けられているような橋も。毎日吊り橋通いというのも怖そうだけど、慣れればどうってことはないのだろうか……。

道の駅遠山郷に到着 しっかりとバイクラックも整備されていました道の駅遠山郷に到着 しっかりとバイクラックも整備されていました (c)JACP/T.Hatamachi
遠山郷の霜月祭りに登場する天狗像と同じポーズにて遠山郷の霜月祭りに登場する天狗像と同じポーズにて (c)JACP/T.Hatamachi
ヒルクライム、というほどではないにせよ緩やかに登っている道は3日目の脚には結構ハードめ。割と皆さん疲労がたまってきているようで、ペースはかなり落ち着き気味。良いことです。前回に続き参加している小肥さんがアタックし、筧さんと一緒に前を逃げているのは見ないことにしましょう、メイン集団は逃げを容認、というやつです(笑)。

一旦斜度が落ち着いたところに道の駅「遠山郷」が登場。ここで逃げていた二人を吸収(?)。こちらには日帰り温泉「かぐらの湯」なんてのもあるのですが、まだ9時前とあってクローズ中。かぐらの湯の前には、大きな釜の前に立った勇壮な天狗の銅像が。伝統的な湯立神楽を今に残す「霜月祭り」では、煮えたぎるお湯を素手で掛けることで命を清め、無病息災を祈るのだとか。天狗役の人の手が心配である……。

地蔵峠へ向かう登りをこなしていきます地蔵峠へ向かう登りをこなしていきます (c)JACP/T.Hatamachi
平成「おちんの神」なんて名所も登場 「落ちん岩」だそうですよ平成「おちんの神」なんて名所も登場 「落ちん岩」だそうですよ (c)JACP/T.Hatamachi落車避けの加護もあるのだとか?今日と明日、無事に走り切れるようにと手を合わせる落車避けの加護もあるのだとか?今日と明日、無事に走り切れるようにと手を合わせる (c)JACP/T.Hatamachi


そんなちょっとした疑問を抱きつつ、地蔵峠手前まで再び淡々と登っていく。途中には平成「おちんの神」なんて名所も。明治時代に起きた豪雨の影響で大岩が落ちてきたものの、人里に到達する直前に止まったことから「落ちん岩」と呼ばれ祀られているのだという。

不埒な想像をした人は反省していただきたい(笑)。ちなみに、落ちん、とのことで合格祈願に訪れる人も多く、またサイクリストとしては落車避けの加護があるとか。今回のライドも無事に過ごせるよう、拝んでおくのだった。

通行止めの地蔵峠を迂回するため、一旦車で移動します通行止めの地蔵峠を迂回するため、一旦車で移動します (c)JACP/T.Hatamachi
道の駅「南信州とよおかマルシェ」に到着。だいぶ雨が強くなってきました。道の駅「南信州とよおかマルシェ」に到着。だいぶ雨が強くなってきました。 握りこぶし2つ分はあろうかという巨大な梨握りこぶし2つ分はあろうかという巨大な梨


さて、そのまましばらく登っていくとあっという間に、地蔵峠との分岐点に到着。ここから先は通行止めということでとりあえず車に自転車を積み、遠山谷から矢筈トンネルを越えて伊那谷へ迂回。しかし、下界に降りると雨がポツリポツリと、ついに降ってきてしまった。

道の駅「南信州とよおかマルシェ」に避難し、松茸ジェラート(ちなみに松茸の味お吸い物の味がするそうです)や上田牧場のソフトクリームを食べていると、かなり本降りに。当初のルートでは迂回した後、分杭峠を登る予定だったのだけれど、ちょっともう走るのはどうなの……?という雰囲気に(笑)。ここでツアースタッフがMTGし、気温もあるのでここで今日は中止ということに決定。皆さんホッと安堵の表情。

大鹿村の道の駅「歌舞伎の里大鹿」で鹿肉ステーキをいただきました大鹿村の道の駅「歌舞伎の里大鹿」で鹿肉ステーキをいただきました (c)JACP/T.Hatamachi
この辺りではジンギスカンが名物なのだとか。羊だけでなく、違う肉をタレに漬けたものも人気だというこの辺りではジンギスカンが名物なのだとか。羊だけでなく、違う肉をタレに漬けたものも人気だという レンタサイクルも充実している。道の駅を起点に周辺をぷらり回っても楽しそうだレンタサイクルも充実している。道の駅を起点に周辺をぷらり回っても楽しそうだ


とりあえず、お昼ご飯を予定していた大鹿村の道の駅「歌舞伎の里大鹿」へと向かうことに。鹿肉ステーキをいただく。鹿肉っていうと、なんか筋張ってるようなイメージだったけどふっくらジューシーでおいしい。大鹿産の「山塩」を掛けるとさらにうまい!海もないのにどうやって塩が?と思ったら、なんと、塩を含んだ水が噴き出しているのだという。1日あたり2t分の塩が湧出するのだとか。ミネラルたっぷりで、お土産にもピッタリだ。

本降りの中、再び車に乗り込み、ウィスキーで知られる「マルス」の蒸留所へ。蒸留釜の周りはすでにウィスキーの香りが立ち込め、飲まなくてもなんだか酔っぱらいそうなほど。もちろんウィスキーやビールがその場で楽しめるバーもあり、今日はもう走らないということで皆さんクイッといい気分に。ちなみにウィスキーの樽で熟成したバレルエイジドコーヒーなんてものもあるので、下戸の方でも大丈夫。

マルスのウィスキー蒸留所。建物の中は濃厚な香りが充満していましたマルスのウィスキー蒸留所。建物の中は濃厚な香りが充満していました
南信州ビールをいただくアケさん。飲めるのも雨のおかげです笑南信州ビールをいただくアケさん。飲めるのも雨のおかげです笑 暖炉を囲んで美味しいお酒をいただく。なんだか贅沢なひと時です暖炉を囲んで美味しいお酒をいただく。なんだか贅沢なひと時です


そして、そのまま3日目の宿となる「パークホテル伊那」へ。昨夜の宿であった平岡と比べると大都会である。なんてったってコンビニも歩いて行ける!そもそも平岡にはコンビニが無かった(笑)。

今日は最後の夕食ということで、伊那の居酒屋で宴会に。3日間一緒に走ったこともありメンバー全員が完全に竹馬の友といった雰囲気。前回から引き続き参加している人は累計1週間以上一緒にいることもあり、盛り上がり方が半端ない。

最終日となる明日は距離も短め。登りもそこまでハードではないので、ウィニングランのようなもの。つまり、ちょっと飲みすぎたって多分問題はない……ハズだ(笑)。名残を惜しみつつ、最後の夜が更けていくのだった。




Day4 伊那~有賀峠~諏訪~塩尻~松本

最終日、スタートするのは秋葉街道の美和湖沿いにある「道の駅南アルプスむら」最終日、スタートするのは秋葉街道の美和湖沿いにある「道の駅南アルプスむら」 (c)JACP/T.Hatamachi
高遠城の城下町を通過していきます高遠城の城下町を通過していきます (c)JACP/T.Hatamachi
さて、迎えた最終日。後半だけの人は400㎞、8000mアップ、全通の人は800㎞、16000mアップというビッグライドの最後を飾る区間だ。今回、一般参加の方も2名が8日間で長野一周を走り切ることになる。取材での参加となる私も、ついにこの日がやってきたかと思うとなんだか胸が熱くなってくる。

最終日のスタート地点となるのは、秋葉街道の美和湖沿いにある「道の駅南アルプスむら」。高遠城の城下町を通り抜けて、向かうは箕輪ダムへ。通称「もみじ湖」と呼ばれている箕輪ダムまでは、約5㎞ほどの緩やかな峠道だ。

もみじ湖へ向かって伊那を北へと走っていきますもみじ湖へ向かって伊那を北へと走っていきます (c)JACP/T.Hatamachi
ダム手前に出てきた紅葉スポット。思わずみんなで写真を撮るくらいきれいだったのですがダム手前に出てきた紅葉スポット。思わずみんなで写真を撮るくらいきれいだったのですが (c)JACP/T.Hatamachi
もみじ湖、というほどなのだからさぞかし美しく色づいた景色が待っているのだろう、とワクワクしながら登り切った私たちの前に現れたのは、期待通りの紅葉スポット。鮮やかに色づいたもみじの下で写真撮影し、「綺麗でしたねー」なんて喋りながら先へ向かうと、なんだか車が増えてきたような。

そう、一旦ストップした紅葉スポットは実は前座。本命はダムを通過したその先にあったのだ。あたり一面が紅と黄に染まり、期待をはるかに超える絶景に皆さん写真撮影の手が止まらない。これだけきれいな景色を前にしたら撮らないほうが失礼、というくらい。

もみじ湖こと箕輪ダムの堤体に見入るもみじ湖こと箕輪ダムの堤体に見入る (c)JACP/T.Hatamachi背後に黄色く色づいた山々が迫ってきました背後に黄色く色づいた山々が迫ってきました (c)JACP/T.Hatamachi


もみじ湖の奥側にはもっとたくさんの紅葉が!そこまで激しい登りではないので、紅葉シーズンにはオススメですもみじ湖の奥側にはもっとたくさんの紅葉が!そこまで激しい登りではないので、紅葉シーズンにはオススメです (c)JACP/T.Hatamachi
ひとしきりシャッターを切り満足した私たちは、もみじ湖を折り返していく観光客の皆さんをしり目に。その奥へと進んでいく。有賀峠へと繋がっていくこの先の区間は、まさに知る人ぞ知るといった具合のルート。

舗装も荒れ気味で、グラベルまではいかないけどアドベンチャー感のある道だ。山間に広がる田んぼ、そしてこじんまりとした厩舎がところどころに点在し、どこか日本離れした空気が漂っている。鈴木代表も「ここで人を見たことがないんだよねー!」なんて言うほどの秘境だ。

もう少し奥には美しいグラデーションを見せてくれる木ももう少し奥には美しいグラデーションを見せてくれる木も
県道442号線、諏訪箕輪線を走っていきます。交通量ほぼゼロの秘境と呼ぶにふさわしいルート県道442号線、諏訪箕輪線を走っていきます。交通量ほぼゼロの秘境と呼ぶにふさわしいルート (c)JACP/T.Hatamachi
有賀峠へ向けてアップダウンをこなしていきます有賀峠へ向けてアップダウンをこなしていきます (c)JACP/T.Hatamachiもう少しで有賀峠。ここを越えれば諏訪湖はすぐそこもう少しで有賀峠。ここを越えれば諏訪湖はすぐそこ (c)JACP/T.Hatamachi


有賀峠には看板が。実際は下ってきたところですが、それはそれ、写真は残しておきましょう有賀峠には看板が。実際は下ってきたところですが、それはそれ、写真は残しておきましょう (c)JACP/T.Hatamachi
そんな雰囲気一杯の集落を抜けると、有賀峠へ向けて本格的な登り坂が始まる。紅葉終盤の林の中、夏よりも断然多いだろう木漏れ日に照らされながらヒルクライム。ちなみに一旦ピークを過ぎても2度ほど登り返しがあるので、その点は注意してペース配分するが吉。下りもあまり路面状況は良くないので慎重に。

諏訪と伊那谷をつなぐ有賀峠を右折し、諏訪方面へ。ダウンヒルの途中、諏訪湖に飛び込むような絶景ポイントに思わず見とれてしまう。下り切ったところで隊列を整え、諏訪湖をセオリー通りに反時計周りに走っていく。湖畔には自転車道とランニング用の道路が整備中で、タータン敷きのランニングコースが毎年400mずつ伸びていっているのだとか。

諏訪湖へ向かって下っていきます諏訪湖へ向かって下っていきます (c)JACP/T.Hatamachi
諏訪湖に流れ込む小川を渡って行く諏訪湖に流れ込む小川を渡って行く (c)JACP/T.Hatamachi湖畔に展示されていたD51。今はやりの無限列車とは少し型が違うのだとか湖畔に展示されていたD51。今はやりの無限列車とは少し型が違うのだとか (c)JACP/T.Hatamachi


車道と分離された自転車道が多くの部分で整備されているので非常に走りやすい諏訪湖車道と分離された自転車道が多くの部分で整備されているので非常に走りやすい諏訪湖 (c)JACP/T.Hatamachi
諏訪湖の北側は先月の北信編で走ったヴィーナスラインが通っている山々。このまま北へと進んで、前回のコースをトレースすれば正真正銘、長野一周ライドとして成り立つのかーと感慨に浸りつつ、塩尻方面へ。

交通量の多い甲州街道の塩尻峠を避け、一本南の勝弦峠を越えていく。最初は住宅街の激坂から始まり、鳥居平やまびこ公園内を通り抜けてさらに登る4㎞、250mのパンチのある峠だ。昔、筧さんが鈴木代表を初めて千切った思い出深い峠なのだという。往時のバトルを再現する師弟コンビ(鈴木代表はE-BIKEですが)に何とかついていこうとするが、半分くらいの地点であえなく脱落。

諏訪湖に別れを告げ、勝弦峠へ向かう。諏訪湖に別れを告げ、勝弦峠へ向かう。 (c)JACP/T.Hatamachi
何度か登り返しつつ塩尻へ近づいていきます何度か登り返しつつ塩尻へ近づいていきます (c)JACP/T.Hatamachi甲州街道と合流すればもう少し!甲州街道と合流すればもう少し!


そのまま峠を登り切ったら、みどり湖方面へ右折し、1日目に登場した道の駅「小坂田公園」へ。童謡が流れていた1日目に対し、今日流れていたのはクリスマスキャロル。え、もうそんな時期なの……?

ここから松本までは1日目のルートを逆に辿ることになる。左側走行なので、帰路は松本平側を走れるので、景色をもっと楽しめる。途中、長野といえば外せないお蕎麦をいただき、最後の補給。カリカリのかき揚げと良い香りの蕎麦切りを満喫する。絶品の蕎麦というのは、長野一周を〆るランチに相応しい。

地元のおかあさんたちが切り盛りする蕎麦屋さん「山麓亭」地元のおかあさんたちが切り盛りする蕎麦屋さん「山麓亭」 (c)JACP/T.Hatamachi
カリカリのかき揚げ、そしていかにも手作りな不揃いの蕎麦切りが最高でしたカリカリのかき揚げ、そしていかにも手作りな不揃いの蕎麦切りが最高でした (c)JACP/T.Hatamachi
スルリと蕎麦を食べきってしまい、もうあとは松本に帰るだけなのか……と感慨にふけっていると、「揚げパンソフト食べたくない?」と鈴木代表。みんなも同じ気持ちだったのか、「行きましょう!」ということで、「ファーマーズガーデンうちだ」にあるソフトクリームショップ「ViVa.boo」さんへ。

長野を知り尽くす鈴木代表ご推薦のスイーツということで、ワクワクしながら到着した私たちの前にあったのは、定休日を示す看板でした。ま、まあこういうこともあります(笑)ここの揚げパンソフトは、昨日通れなかった地蔵峠と一緒に、次回長野に訪れるときの楽しみにしておきましょう!

初日に通ったしののめの道を北上していきます初日に通ったしののめの道を北上していきます (c)JACP/T.Hatamachi
松本駅へ帰着!4日間お疲れ様でした松本駅へ帰着!4日間お疲れ様でした (c)JACP/T.Hatamachi
と、ちょっとした宿題を作りながら、松本駅前に15時前ごろフィニッシュ。事故や落車も一切ない最高の4日間に、最後の感想戦も盛り上がる。いつの間にかみんなSNSを交換し、仲間も増えたようだ。

もちろんソロや仲間と走るのも大歓迎のナガイチだが、今後はこういったツアーも整備していきたいとのこと。実際今回のモニターツアーを通して、長野一周を達成してみて感じたことは、走行中のサポート体制はもちろんのこと、宿泊や食事スポットの手配など、地元を知り尽くした方にプランニングをお願い出来るのは段違いに安心できるということだ。

前回に続き、長野一周を達成したお二人。筧さんも含め、しっかり絆が芽生えていますね!前回に続き、長野一周を達成したお二人。筧さんも含め、しっかり絆が芽生えていますね!
長野一周、走り切ったぞ!長野一周、走り切ったぞ! (c)JACP/T.Hatamachi
もちろん、そういったプランを立てる部分も含めて旅の楽しみ、という旅慣れた方にとっては必要ないかもしれないが、そうでない方にはぜひツアーへの参加をオススメしたいところ。長野一周サイクリング、それぞれの楽しみ方で無限大に広がるポテンシャルを持ったテーマとして広まっていきそうだ。



text:Naoki Yasuoka