ツール第9ステージは逃げに乗ったルイスレオン・サンチェス(スペイン、ラボバンク)が区間勝利。逃げグループをリードしたトマ・ヴォクレール(フランス、ユーロップカー)がマイヨジョーヌを獲得する一方でこの日も多くの選手が落車に苦しんだ。

メイン集団はオメガファーマ・ロットとガーミン・サーヴェロがコントロールメイン集団はオメガファーマ・ロットとガーミン・サーヴェロがコントロール photo:Makoto Ayano昨ステージに続き中央山塊を走る第9ステージ。イソワール〜サン・フルール間の208kmにはカテゴリー山岳が8つ詰め込まれた中級山岳ステージだ。難易度は高くなく、総合争い上は重要でないステージになる、はずだったのだが。

レースは序盤からアタックが頻発。ここまでスタート直後のアタックが決まってきたツールだが、この日は43.5km地点、最初の3級山岳でのトマ・ヴォクレール(フランス、ユーロップカー)のアタックをきっかけにようやく逃げが決まる。

この逃げた5人この逃げた5人 photo:Makoto Ayano逃げのメンバーは、トマ・ヴォクレール(フランス、ユーロップカー)、ジョニー・フーガーランド(オランダ、ヴァカンソレイユ・DCM)、ファンアントニオ・フレチャ(スペイン、チームスカイ)、ルイスレオン・サンチェス(スペイン、ラボバンク)、ニキ・テルプストラ(オランダ、クイックステップ)、サンディ・カザール(フランス、FDJ)の6名。脚の揃った強力な選手が揃った。

集団はこの逃げを容認し、タイム差は4分まで開く。この日の最大標高地点、2級のパ・ド・ペイロルを前にして、アルベルト・コンタドール(スペイン、サクソバンク)が単独で落車する場面も見られたが、すぐに集団に復帰を果たしている。

落車によって骨盤を骨折したアレクサンドル・ヴィノクロフ(カザフスタン、アスタナ)が担ぎ上げられる落車によって骨盤を骨折したアレクサンドル・ヴィノクロフ(カザフスタン、アスタナ)が担ぎ上げられる photo:Cor Vosパ・ド・ペイロルで先頭からテルプストラが遅れ、山頂ではヴォクレールと昨日まで山岳賞ジャージを着ていたジョニー・フーガーランド(オランダ、ヴァカンソレイユ・DCM)との間のポイント争いが勃発。ここはヴォクレールが制して下りに入る。

3分34秒遅れで山頂を越えた集団にまたしても落車が発生。濡れた下りのコーナーで、アレクサンドル・ヴィノクロフ(カザフスタン、アスタナ)が崖下の林に突っ込んだ。チームメイトとチームスタッフに肩を借りて道路まで上がってきたヴィノクロフは骨盤を骨折。最後のツールを無念な形で去ることになってしまった。

ユルゲン・ファンデンブロック(ベルギー、オメガファーマ・ロット)も落車により走り出せないユルゲン・ファンデンブロック(ベルギー、オメガファーマ・ロット)も落車により走り出せない photo:Makoto Ayanoこの落車ではユルゲン・ファンデンブロック(ベルギー、オメガファーマ・ロット)も傷つき、バイクに一度は跨がるも再スタートできず。昨年総合5位の期待の若手もここでツールを去ることになってしまった。

思わぬ形で有力選手を失ったメイン集団は状況把握のためにペースダウン。2分強まで迫っていたタイム差は、ここで7分まで開くこととなる。この一報を聞いて、戦略を変えたのは1分29秒遅れで総合19位につけているヴォクレール。山岳賞狙いから、逃げ切りでのマイヨ・ジョーヌ狙いにスイッチする。

車に激突された落車の跡が痛々しいファンアントニオ・フレチャ(スペイン、チームスカイ)車に激突された落車の跡が痛々しいファンアントニオ・フレチャ(スペイン、チームスカイ) photo:Cor Vosここからヴォクレールが逃げグループの大半の時間を引きはじめる。登りでも強力にペースを作り、山頂ではフーガーランドに譲る走りで距離を消化していく。カザール、サンチェス、フレチャにとってはゴールまで連れて行ってもらえるため好都合。利害の一致した5名はヴォクレールを中心に快調にペースを刻む。

オメガファーマ・ロットやガーミン・サーヴェロがコントロールする集団はペースが上がらない。残り54km地点の2級山岳でそのタイム差は4分51秒。この山頂もフーガーランドが先頭で通過し、この日を終えての山岳賞獲得を決定づける。

メディカルモトから治療を受けるジョニー・フーガーランド(オランダ、ヴァカンソレイユ・DCM)メディカルモトから治療を受けるジョニー・フーガーランド(オランダ、ヴァカンソレイユ・DCM) photo:Cor Vosしかし悲劇が逃げグループを襲う。狭い道をゆく5人の脇を強引に抜けようとしたメディアカーが、道路脇の木を避けようとして急に右に寄ると、隣を走っていたフレチャに激突。不意に衝突されたフレチャは前を走るヴォクレールの後輪にハスり、後ろを走っていたフーガーランドを吹っ飛ばして落車した。

道路に叩き付けられたフレチャと、道路脇の有刺鉄線に突っ込んだフーガーランドはいずれも再スタートを切ったが、痛んだ身体では先を行くヴォクレールらに追いつけるはずもなかった。先頭を走る選手が車に衝突するというショッキングな事態を振り払うかのようにヴォクレールは加速する。

残り200mで先頭に立ったルイスレオン・サンチェス(スペイン、ラボバンク)残り200mで先頭に立ったルイスレオン・サンチェス(スペイン、ラボバンク) photo:Makoto Ayano残り25kmを切ってもペースが上がらない集団と逃げる3人との差は4分43秒。逃げ切りが確定的になってなお、ヴォクレールがほぼ先頭固定でゴールまで急ぐ。メイン集団はガーミン・サーヴェロ、BMCレーシングがペースを作るも利害が一致しないため追い込めない。

残り15kmでマイヨ・ヴェールを着るフィリップ・ジルベール(ベルギー、オメガファーマ・ロット)がパンクする場面もあったが、4級山岳で懸命に踏み込んで下りで集団に復帰。ここまででライバルとなるスプリンターはみな遅れているため、ポイントを加算するチャンスは逃せない。

ヴォクレールを振り切りステージ勝利を飾ったルイスレオン・サンチェス(スペイン、ラボバンク)ヴォクレールを振り切りステージ勝利を飾ったルイスレオン・サンチェス(スペイン、ラボバンク) photo:Cor Vosほぼ全ての時間を引き続けたヴォクレールの強力な引きにより、レース終盤でもタイム差は拡大。マイヨ・ジョーヌに向けての意志を走りに換えてみせる。集団を引き離したまま、ゴールまで残り1.5kmの登りに差しかかる。

ステージ優勝を狙って牽制が始まる中、残り200mで最初に動いたのはヴォクレール。しかし狙っていたサンチェスがそれに反応してペースを上げると、ヴォクレールもカザールもつくことができず。そのままサンチェスが先頭でゴールに飛び込んだ。サンチェスのツールのステージ勝利はこれで通算3勝目。

集団の先頭でフィリップ・ジルベール(ベルギー、オメガファーマ・ロット)がアタック集団の先頭でフィリップ・ジルベール(ベルギー、オメガファーマ・ロット)がアタック photo:Makoto Ayano3分59秒遅れでやってきた集団の先頭はジルベールがしっかり押さえ、中間スプリントポイントと合わせてマイヨ・ヴェールのリードをさらに強固なものにした。ここには総合上位を狙う選手は軒並み顔を揃えたが、マイヨ・ジョーヌを着るトル・フースホフト(ノルウェー、ガーミン・サーヴェロ)は残れなかった。

これでステージ2位のヴォクレールのマイヨ・ジョーヌが確定。2004年にマイヨ・ジョーヌを着て10日間守ったことでフランスの人気者となったヴォクレールにとって、7年ぶりのマイヨ・ジョーヌ獲得。その間にフランス随一のパンチャーにまで成長した。

マイヨ・ジョーヌを獲得したトマ・ヴォクレール(フランス、ユーロップカー)は歓喜の表情マイヨ・ジョーヌを獲得したトマ・ヴォクレール(フランス、ユーロップカー)は歓喜の表情 photo:Makoto Ayano車にはねられたフレチャは16分38秒遅れの136位でゴール。血まみれになりながらもフーガーランドも16分44秒遅れの139位でゴールした。厳しいステージになったフーガーランドは、山岳賞ジャージを授与される表彰台上で感極まって涙にくれた。

優勝したルイスレオン・サンチェス(スペイン、ラボバンク)
「フレチャとフーガーランドに起きたことをとても残念に思う。あの瞬間は辛いものだった。あの事故が起きてから、彼らが戻って来れるかを見るために一度速度を落とし、それから僕らと一緒にゴールまで行けるか考えた。だけど僕らはすぐにそれが不可能なことを知ったんだ。今日は千載一遇のステージだった。ヴォクレールとカザールと、そのまま走り続けることを決めたんだ。最終局面でカザールに対して昨年のリベンジを果たそうという気は確かにあった。でもあのサン・ジャン・ド・モーリエンヌはコースも知らなかったし、別のものだよ。今日は、コースをしっかりチェックしていたし、登りのあとにコーナーがあることも心得ていた。そして何より自分に自信があったんだ。自分に強さを感じていた。

僕たちはプロトンで起きたことを何も知らなかった(102km地点での落車)。タイム差が広がって8分近くになった時にも、ガーミン・サーヴェロが他のチームにコントロール権を譲ったんだな、としか思わなかった。実際、サン・フルールに到着するところでようやくその落車を知ったんだ。」

マイヨ・ジョーヌにキスするトマ・ヴォクレール(フランス、ユーロップカー)マイヨ・ジョーヌにキスするトマ・ヴォクレール(フランス、ユーロップカー) photo:Makoto Ayanoマイヨ・ジョーヌを獲得したトマ・ヴォクレール(フランス、ユーロップカー)
「ずっとこのツールには明確な目的はないって言ってきた、だけどそれは限界を決めてもいないってことだ。ステージ勝利は叶わなかったけど、誰も僕がそれを欲していたとは思ってないだろう?あの瞬間、選択を強いられた。ゴールまで60kmを残して、監督と話しあって、マイヨ・ジョーヌを着ようと決めたんだ。充分な差を持ってゴールまで行けるかの確証はなかったけれども。それからは単独で逃げているときのように先頭を引き続けた。その時点でステージ勝利は諦めたんだ。確実なこと、それは明日はこのマイヨを誰も奪えないということだ。だって休息日だからね!明後日からはマイヨを守るために走る。でも状況は2004年とはまったく違っている。9分もタイム差があるわけじゃないんだ。だから10日を終えたツールで自分がトップにいることに驚いているよ。」

病院へと急ぐジョニー・フーガーランド(オランダ、ヴァカンソレイユ・DCM)病院へと急ぐジョニー・フーガーランド(オランダ、ヴァカンソレイユ・DCM) photo:Makoto Ayanoフレチャともに落車したジョニー・フーガーランド(オランダ、ヴァカンソレイユ・DCM)
「いま生きていることを喜ぼう。恐ろしい出来事だった。誰も非難したくはない。だってこの手の出来事は誰もわざとするわけではないのだから。車を運転していた人間はすでに痛々しいほどに罪の意識を感じているし、間違いなく謝罪に来るだろう。ファン・アントニオは謝りに僕のところへ来た。こんなことはあってはいけないことだ。でも常にリスクは存在する。7センチに渡る深い切り傷を3つも作ってしまった。これから病院へ行くが、たぶん少なくとも30針は縫うだろうね。マイヨ・ア・ポワを手に入れたけれど、休息日は僕にとってとても辛いものになりそうだ。」

※選手コメントはレース公式サイトより。


ツール・ド・フランス2011第9ステージ結果
1位 ルイスレオン・サンチェス(スペイン、ラボバンク)     5h 27' 09"
2位 トマ・ヴォクレール(フランス、ユーロップカー)         +6"
3位 サンディ・カザール(フランス、FDJ)              +13"
4位 フィリップ・ジルベール(ベルギー、オメガファーマ・ロット)  +3'59"
5位 ピーター・ベリトス(スロバキア、HTC・ハイロード)
6位 カデル・エヴァンス(オーストラリア、BMCレーシング)
7位 アンディ・シュレク(ルクセンブルク、レオパード・トレック)
8位 トニ・マルティン(ドイツ、HTC・ハイロード)
9位 フランク・シュレク(ルクセンブルク、レオパード・トレック)
10位 ダミアーノ・クネゴ(イタリア、ランプレ・ISD)

個人総合成績 マイヨ・ジョーヌ
1位 トマ・ヴォクレール(フランス、ユーロップカー)          38h35'11"
2位 ルイスレオン・サンチェス(スペイン、ラボバンク)           +1'49"
3位 カデル・エヴァンス(オーストラリア、BMCレーシング)          +2'26"
4位 フランク・シュレク(ルクセンブルク、レオパード・トレック)      +2'29"
5位 アンディ・シュレク(ルクセンブルク、レオパード・トレック)      +2'37"
6位 トニ・マルティン(ドイツ、HTC・ハイロード)              +2'38"
7位 ピーター・ヴェリトス(スロヴェニア、HTC・ハイロード)
8位 アンドレアス・クレーデン(ドイツ、レディオシャック)         +2'43"
9位 フィリップ・ジルベール(ベルギー、オメガファーマ・ロット)      +2'55"
10位 ヤコブ・フグルサング(デンマーク、レオパード・トレック)       +3'08"

11位 イヴァン・バッソ(イタリア、リクイガス・キャノンデール)      +3'36"
12位 ダミアーノ・クネゴ(イタリア、ランプレ・ISD)           +3'37" 
15位 ロバート・ヘーシンク(オランダ、ラボバンク)            +4'01"
16位 アルベルト・コンタドール(スペイン、サクソバンク・サンガード)   +4'07"
20位 サムエル・サンチェス(スペイン、エウスカルテル)          +5'01"
42位 リーヴァイ・ライプハイマー(アメリカ、レディオシャック)      +7'16"


アレクサンドル・ヴィノクロフ(カザフスタン、アスタナ)          DNF
ユルゲン・ファンデンブロック(ベルギー、オメガファーマ・ロット)     DNF 

ポイント賞 マイヨ・ヴェール
1位 フィリップ・ジルベール(ベルギー、オメガファーマ・ロット)    217pts
2位 ホセホアキン・ロハス(スペイン、モビスター)           172pts
3位 マーク・カヴェンディッシュ(イギリス、HTC・ハイロード)      153pts

山岳賞 マイヨ・ブラン・ア・ポワ・ルージュ
1位 ジョニー・フーガーランド(オランダ、ヴァカンソレイユ・DCM)     22pts
2位 トマ・ヴォクレール(フランス、ユーロップカー)            16pts
3位 ティージェイ・ヴァンガーデレン(アメリカ、HTC・ハイロード)      5pts

新人賞 マイヨ・ブラン
1位 ロバート・ヘーシンク(オランダ、ラボバンク)         38h39'12"
2位 レイン・ターラマエ(エストニア、コフィディス)          +51"  
3位 アルノー・ジャネソン(フランス、FDJ)              +1'20"

チーム総合成績
1位 ユーロップカー                         115h03'31"
2位 レオパード・トレック                         +32"
3位 レディオシャック                           +1'02"

敢闘賞
ジョニー・フーガーランド(オランダ、ヴァカンソレイユ・DCM)

text:Yufta Omata
photo:Makoto Ayano, Cor Vos