集団スプリントを制するだけでは難しい、「最速」を賭けたマイヨヴェール争い。昨年、区間3勝でアフリカ系黒人として初獲得となったビニヤム・ギルマイ(エリトリア)を中心に、フィリプセンやメルリール、初出場のミランなど有力選手たちを紹介します。



昨年マイヨヴェールを射止めたビニヤム・ギルマイ(エリトリア、アンテルマルシェ・ワンティ) photo:CorVos

グリーンジャージを意味するマイヨヴェールは、ポイント賞ランキングトップの選手に与えられる特別賞ジャージ。ツール開催50周年を記念して1953年より始まった緑の伝統は(1968年は除く)、今年もチェコの自動車メーカーである大会公式カーサプライヤー、シュコダがスポンサーを務める。

全21ステージは「平坦」「中級山岳」「上級山岳」「個人TT」の4つに分類され、それぞれ異なるポイント配分が設定。平坦ステージにより高い配点がされている。そのため平坦ステージでの勝利&ポイント獲得を目指し、スプリンターたちは熱きスピードバトルを繰り広げることとなる。

区間3勝を飾ったビニヤム・ギルマイ(エリトリア、アンテルマルシェ・ワンティ) photo:A.S.O.

平坦ステージでの順位に加えてマイヨヴェール獲得に重要なのは、ステージ中盤に配置される中間スプリントポイント。たとえ平坦ステージで優勝ができなくても、未勝利でマイヨヴェールを獲得した2015年のペテル・サガン(スロバキア)のように確実に上位でフィニッシュし、スプリントポイントを着実に加算することが受賞に近づく。

今大会では、集団スプリントが予想されるステージのフィニッシュ3km以内で落車や機材トラブルが発生した場合、先頭でフィニッシュした選手と同タイム扱いとなるいわゆる「3kmルール」が、7つのステージ(第1,3,4,9,15,17,21ステージ)で5kmに延長される。これはスプリントに関与しない総合上位の選手などが、救済措置が適応される地点で脚を緩め、集団スプリントに参加する選手が減り、落車などのリスク軽減が期待される。

また、昨年あった中間スプリントでのボーナスタイムが廃止されたことにより、中間スプリントでもマイヨヴェールを争う選手たちが争いやすくなった。



ポイント配分(いずれも上位15名に付与)

平坦ステージ(難易度★1〜2つ)
・優勝者50pts、以下30、20、18、16、14、12、10、8、7、6、5、4、3、2pts
中級山岳ステージ(難易度★3つ)
・優勝者30pts、以下25、22、19、17、15、13、11、9、7、6、5、4、3、2pts
上級山岳ステージ&個人TT(難易度★4〜5つ)
・優勝者20pts、以下17、15、13、11、10、9、8、7、6、5、4、3、2、1pt
中間スプリントポイント
・先頭通過者20pts、以下17、15、13、11、10、9、8、7、6、5、4、3、2、1pt



グローブスが加わる絶対王者フィリプセンに死角なし

今年もアルペシン・ドゥクーニンクはファンデルプールとフィリプセンを揃える photo:CorVos

昨年アフリカ系黒人としてツール史上初の区間優勝を飾り、マイヨヴェールを獲得したビニヤム・ギルマイ(エリトリア、アンテルマルシェ・ワンティ)。ピュアスプリンターというより、サガンのように多少の登りでも難なくこなすスピードマンだが、今季は2位に5度入りながら未勝利。大舞台での復活が期待される。

ギルマイ以上の注目を集めるのが、2023年のマイヨヴェール獲得者で、昨年ステージ3勝を挙げたヤスペル・フィリプセン(ベルギー、アルペシン・ドゥクーニンク)だ。その理由はもちろん、今年もマチュー・ファンデルプール(オランダ)によるリードアウトを受けるから。またチームはさらにもう一人のエーススプリンターであるカーデン・グローブス(オーストラリア)をメンバーに入れ、より一層盤石な布陣で緑色ジャージを狙いに行く。

打倒フィリプセンを掲げる強力なライバルたち

欧州王者として二度目のツールに臨むティム・メルリール(ベルギー、スーダル・クイックステップ) photo:A.S.O.

今大会は総合エースを擁するチームが、スプリンターをメンバーに入りさせていることが目立つ。その筆頭がレムコ・エヴェネプールとエースを分け合うティム・メルリール(共にベルギー、スーダル・クイックステップ)だ。昨年のジロ・デ・イタリアで区間3勝し、現ヨーロッパ王者のメルリールは今季、フィリプセンとの直接対決でも勝ち越している。

今年初開催されたコペンハーゲン・スプリントの初代王者に輝いたヨルディ・メーウス(ベルギー、レッドブル・ボーラ・ハンスグローエ)は、2023年大会のパリ決戦以来の勝利を目指す。そのリードアウトを務めるのはダニー・ファンポッペルだが、オランダ選手権ではディラン・フルーネウェーヘン(ジェイコ・アルウラー)やオラフ・コーイ(ヴィスマ・リースアバイク)らを破り国内王者に輝くなど、エースすら担えるコンディションだ。

初出場のミラン、未知数のファンアールト

初出場のジョナタン・ミラン(イタリア、リドル・トレック) photo:CorVos

2022年にマイヨヴェールを獲得したワウト・ファンアールト(ベルギー、ヴィスマ・リースアバイク)が、マイヨヴェールを狙いにいくのかは未知数。そしてリドル・トレックのエースを務めるのは、これが初出場となるジョナタン・ミラン(イタリア)。2年連続でジロのポイント賞に輝いた24歳は、迫力抜群のスプリントでまずはステージ初勝利を目指す。

若手では22歳のトビアスルンド・アンドレースン(デンマーク、ピクニック・ポストNL)や23歳のアルノー・ドゥリー(ベルギー、ロット)に注目。母国フランス出身者ではアルノー・デマール(アルケア・B&Bホテルズ)や、昨年のポイント賞ランキング2位のブライアン・コカール(コフィディス)の走りにも期待したい。

本日リールで行われる第1ステージは、集団スプリントが濃厚な平坦ステージ。初日にスプリンターがマイヨジョーヌを着る5年ぶりのチャンスとなり、また1週目は多くのスプリントチャンスが巡ってくる。
歴代マイヨヴェール受賞者
2024年 ビニヤム・ギルマイ(エリトリア)
2023年 ヤスペル・フィリプセン(ベルギー)
2022年 ワウト・ファンアールト(ベルギー)
2021年 マーク・カヴェンディッシュ(イギリス)
2020年 サム・ベネット(アイルランド)
2019年 ペテル・サガン(スロバキア)
2018年 ペテル・サガン(スロバキア)
2017年 マイケル・マシューズ(オーストラリア)
2016年 ペテル・サガン(スロバキア)
2015年 ペテル・サガン(スロバキア)
2014年 ペテル・サガン(スロバキア)
2013年 ペテル・サガン(スロバキア)
2012年 ペテル・サガン(スロバキア)
2011年 マーク・カヴェンディッシュ(イギリス)
2010年 アレッサンドロ・ペタッキ(イタリア)
text:Sotaro.Arakawa
photo:So.Isobe

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