2010年9月8日、アンドラの頂上ゴールが設定されたブエルタ・ア・エスパーニャ第11ステージが行なわれ、落ち着いてラスト4kmからの攻防を制したイゴール・アントン(スペイン、エウスカルテル)が今大会2度目のステージ優勝。同時にマイヨロホに返り咲いた。

スタート前にコースプロフィールをチェックするフィリッポ・ポッツァート(イタリア、カチューシャ)とフィリップ・ジルベール(ベルギー、オメガファーマ・ロット)スタート前にコースプロフィールをチェックするフィリッポ・ポッツァート(イタリア、カチューシャ)とフィリップ・ジルベール(ベルギー、オメガファーマ・ロット) photo:Cor Vosブエルタはついにピレネーに達す。第11ステージは地中海沿いの街ビラノバ・イ・ラ・ヘルトルをスタートし、208kmかけて隣国アンドラを目指す。最後は標高1900mのゴール地点に至る登坂距離10km・標高差655mの上りが待っている。今大会最初の本格的な頂上ゴールだ。

この日もアタック合戦は1時間以上に渡って繰り広げられた。積極的に動いたフィリップ・ジルベール(ベルギー、オメガファーマ・ロット)がスプリントポイントを先頭通過して暫定ポイント賞トップに。

アンドラに向かって山岳地帯を進んで行くアンドラに向かって山岳地帯を進んで行く photo:Cor Vosやがて最初の3級山岳レフジオ峠でミカエル・シュレル(フランス、フランセーズデジュー)とヨハン・チョップ(スイス、Bboxブイグテレコム)が飛び出すとようやく集団は沈静化。総合ですでに大きく遅れている2人は、最大14分50秒のリードを築き上げた。

レース前半こそマイヨロホ擁するカチューシャが集団コントロールを担っていたが、後半にかけてラボバンクが徹底的に集団牽引。総合争いで出遅れているデニス・メンショフ(ロシア)有利な展開に持ち込もうと、ラボバンクはチーム一丸となって集団を牽き続けた。

最後の上りに向かってメイン集団を引き続けるラボバンク最後の上りに向かってメイン集団を引き続けるラボバンク photo:Unipublic先頭2名のリードを削り取りながら、ハイスピードで緩斜面を駆け抜けるプロトン。本格的な上りはラスト10km地点からだが、そこに至るまでに緩い上りをこなさなければならない。

追撃の手を弱めないメイン集団から真っ先に動いたのはデミトリ・フォフォノフ(カザフスタン、アスタナ)。フォフォノフは1分前方を走るシュレルとチョップに合流し、チョップだけを連れてエスケープ。しかし本格的な上りが始まってしばらくしてメイン集団に吸収されてしまう。

ずっとメイン集団を引き続けたラボバンクは姿を消し、代わってカチューシャとシャコベオ・ガリシアが集団牽引。ゴールまで4.5kmを残して、エセキエル・モスケラ(スペイン、シャコベオ・ガリシア)が攻撃を仕掛けた。

アンドラ公国に向かって徐々に高度を上げて行くアンドラ公国に向かって徐々に高度を上げて行く photo:Unipublic最大14分50秒のリードを得たヨハン・チョップ(スイス、Bboxブイグテレコム)とミカエル・シュレル(フランス、フランセーズデジュー)最大14分50秒のリードを得たヨハン・チョップ(スイス、Bboxブイグテレコム)とミカエル・シュレル(フランス、フランセーズデジュー) photo:Unipublicニーバリらを振り切って独走を開始したエセキエル・モスケラ(スペイン、シャコベオ・ガリシア)ニーバリらを振り切って独走を開始したエセキエル・モスケラ(スペイン、シャコベオ・ガリシア) photo:Unipublic


カンチェラーラに守られて上りを進むフランク・シュレク(ルクセンブルク、サクソバンク)カンチェラーラに守られて上りを進むフランク・シュレク(ルクセンブルク、サクソバンク) photo:Unipublicモスケラのハイペースに食らいついたのは、マイヨロホのホアキン・ロドリゲス(スペイン、カチューシャ)と総合3位ヴィンチェンツォ・ニーバリ(イタリア、リクイガス)。メンショフは力無く集団から遅れていった。

ゴールまで3kmを残して無理がたたったロドリゲスが脱落し、続いてニーバリもモスケラに先行を許してしまう。後方からはイゴール・アントン(スペイン、エウスカルテル)とフランク・シュレク(ルクセンブルク、サクソバンク)が追う展開で、アントンがニーバリらを抜いて先頭モスケラを追撃。ラスト1.5kmでついにアントンがモスケラを捉えた。

ゴール4.5km手前でアタックしたエセキエル・モスケラ(スペイン、シャコベオ・ガリシア)にロドリゲスとニーバリが合流ゴール4.5km手前でアタックしたエセキエル・モスケラ(スペイン、シャコベオ・ガリシア)にロドリゲスとニーバリが合流 photo:Unipublicそれまで追い込んでいたモスケラに余裕は無く、アタックを仕掛けたアントンが独走開始。モスケラを振り切ったアントンが独走でゴールに飛び込んだ。激坂が設定された第4ステージに続く今大会2度目の勝利だ。

アントンの勝因は、無理してモスケラのリズムに合わせずにマイペースで上ったことだろう。ニーバリとロドリゲスは無理にペースを上げた影響で玉砕した。アントンは「今日はベストな体調とは言えなかった。でも力を上手くコントロールして走ったおかげで最後に差が出た」と勝因を語る。

ロドリゲスが1分近く遅れたため、アントンが一日でマイヨロホを奪い返した。ニーバリが45秒遅れの総合2位、この日驚きのステージ3位に食い込んだシャビエル・トンド(スペイン、サーヴェロ・テストチーム)が1分04秒遅れの総合3位に浮上している。

ガッツポーズでゴールするイゴール・アントン(スペイン、エウスカルテル)ガッツポーズでゴールするイゴール・アントン(スペイン、エウスカルテル) photo:Unipublic後半に挽回したシャビエル・トンド(スペイン、サーヴェロ・テストチーム)がステージ3位で総合3位浮上後半に挽回したシャビエル・トンド(スペイン、サーヴェロ・テストチーム)がステージ3位で総合3位浮上 photo:Unipublicトップから23秒遅れでゴールし、総合9位に浮上したフランク・シュレク(ルクセンブルク、サクソバンク)トップから23秒遅れでゴールし、総合9位に浮上したフランク・シュレク(ルクセンブルク、サクソバンク) photo:Unipublic

敗れたエセキエル・モスケラ(スペイン、シャコベオ・ガリシア)は総合5位に浮上敗れたエセキエル・モスケラ(スペイン、シャコベオ・ガリシア)は総合5位に浮上 photo:Cor Vosこれまで総合争いについて控えめな発言を繰り返していたアントンだが、この日の勝利で総合優勝を狙うことを宣言した。「アンドラに至る上りは大抵風が強くて厄介なんだ。ラボバンクのペースはかなり速かった。モスケラが飛び出してからは追いつくのに必死だったよ。ステージ優勝は本当に素晴らしい結果。しかもリーダージャージとボーナスタイムが一緒についてきた。これからはブエルタ総合優勝を目指す。失うものは無い。マドリードでこのジャージを失っていても大きな問題ではない。これまでのレースに充分満足しているんだ。昨日ジャージを失ったときも大きく落胆することは無かった」。

トップから59秒遅れてしまったホアキン・ロドリゲス(スペイン、カチューシャ)トップから59秒遅れてしまったホアキン・ロドリゲス(スペイン、カチューシャ) photo:Cor Vos「今年はツールをスキップしてブエルタに集中するというギャンブルに出たんだ。昨年はツールで力を使い切り、ブエルタでは疲れ果てていた。ツールに出場したメンショフやロドリゲスと違って、モスケラや僕はフレッシュだ。それがアドバンテージになっている。でもまだブエルタが終わったわけじゃない。これから何でも起こり得る。チームがリーダージャージを守る用意は出来ている」。

トップから5分06秒遅れでひっそりとゴールしたデニス・メンショフ(ロシア、ラボバンク)トップから5分06秒遅れでひっそりとゴールしたデニス・メンショフ(ロシア、ラボバンク) photo:Cor Vosこの日はゴール地点にアルベルト・コンタドール(スペイン、アスタナ)が登場。「イゴール(アントン)は大会を制する脚の持ち主だ。自信に満ちているし、ジャージを守るためのチームを有している。ブエルタ・ア・カスティーリャ・イ・レオンの頂上ゴールで彼が僕を突き放したときのことをよく覚えている。マドリードで最終的にリーダージャージを受け取る能力が彼にはある」。ステージ優勝者アントンについて、2008年の総合優勝者はそのようにコメントした。

マイヨロホを取り戻したイゴール・アントン(スペイン、エウスカルテル)マイヨロホを取り戻したイゴール・アントン(スペイン、エウスカルテル) photo:Unipublic積極的に動いたモスケラはステージ2位。ブエルタの山岳との相性の良さを今年も見せつけ、総合5位に浮上した。「イゴールにとって大きな勝利だ。彼には最後の爆発力で負けた。でも自分の走りも悪くなかった。総合争いにおいて意味のある結果だと思う。勝てなかったけど自分の走りには満足だ」。今後の山岳ステージでもモスケラの動きに注目したい。

シュレクはアタックに出遅れながらも、ペースを崩さずに上って23秒遅れ。総合では9位につけている。「上りのリズムが自分には速すぎた。限界に達してしまったんだ。モスケラに付いていかずに、自分のペースで走るべきだった。難しい上りだったけど、もっと苦しんだ選手が他にもいっぱいいる。ラボバンクが速いペースで集団を牽いた代償としてメンショフが脱落した。まだ山岳の闘いは始まったばかり。この先のことはまだ分からない」。

一方、残念な結果に終わったのがメンショフだ。この日だけで5分以上遅れたメンショフは完全に総合争いから脱落してしまった。メンショフはレース後のインタビューでこう語っている。「チーム一丸となって集団を牽くのはチーム戦略だった。彼らは素晴らしい働きをした。集団に付いていけなかったのは膝が原因ではない。ツールとブエルタの両方で良い走りをする難しさを感じている」。

大会最初の頂上ゴールを終え、ブエルタは重要な山岳3連戦の舞台となるアストゥリアス州に向かって西進を開始する。第12ステージと第13ステージはスプリンター向きの平坦コースだ。

選手コメントはレース公式リリースより。

ブエルタ・ア・エスパーニャ2010第11ステージ結果
1位 イゴール・アントン(スペイン、エウスカルテル)    5h25'44"
2位 エセキエル・モスケラ(スペイン、シャコベオ・ガリシア)  +03"
3位 シャビエル・トンド(スペイン、サーヴェロ・テストチーム) +10"
4位 リゴベルト・ウラン(コロンビア、ケースデパーニュ)    +16"
5位 ヴィンチェンツォ・ニーバリ(イタリア、リクイガス)    +23"
6位 フランク・シュレク(ルクセンブルク、サクソバンク)
7位 ダヴィ・モンクティエ(フランス、コフィディス)
8位 イニーゴ・クエスタ(スペイン、サーヴェロ・テストチーム) +32"
9位 カルロス・サストレ(スペイン、サーヴェロ・テストチーム)
10位 ルーベン・プラサ(スペイン、ケースデパーニュ)
12位 ピーター・ベリトス(スロバキア、チームHTC・コロンビア) +51"
13位 ニコラス・ロッシュ(アイルランド、アージェードゥーゼル)
17位 ホアキン・ロドリゲス(スペイン、カチューシャ)     +59"
55位 デニス・メンショフ(ロシア、ラボバンク)        +5'06"

個人総合成績(マイヨロホ)
1位 イゴール・アントン(スペイン、エウスカルテル)   47h37'15"
2位 ヴィンチェンツォ・ニーバリ(イタリア、リクイガス)    +45"
3位 シャビエル・トンド(スペイン、サーヴェロ・テストチーム)+1'04"
4位 ホアキン・ロドリゲス(スペイン、カチューシャ)     +1'17"
5位 エセキエル・モスケラ(スペイン、シャコベオ・ガリシア) +1'29"
6位 ルーベン・プラサ(スペイン、ケースデパーニュ)     +2'07"
7位 リゴベルト・ウラン(コロンビア、ケースデパーニュ)   +2'14"
8位 ニコラス・ロッシュ(アイルランド、アージェードゥーゼル)+2'30"
9位 フランク・シュレク(ルクセンブルク、サクソバンク)
10位 ピーター・ベリトス(スロバキア、チームHTC・コロンビア)+2'37"

ポイント賞(プントス)
1位 イゴール・アントン(スペイン、エウスカルテル)         75pts
2位 フィリップ・ジルベール(ベルギー、オメガファーマ・ロット)   61pts
3位 マーク・カヴェンディッシュ(イギリス、チームHTC・コロンビア) 60pts

山岳賞(モンターニャ)
1位 ダヴィ・モンクティエ(フランス、コフィディス)        41pts
2位 セラフィン・マルティネス(スペイン、シャコベオ・ガリシア)  36pts
3位 ゴンサロ・ラブニャル(スペイン、シャコベオ・ガリシア)    25pts

複合賞(コンビナーダ)
1位 イゴール・アントン(スペイン、エウスカルテル)        6pts
2位 シャビエル・トンド(スペイン、サーヴェロ・テストチーム)   21pts
3位 エセキエル・モスケラ(スペイン、シャコベオ・ガリシア)    22pts

チーム総合成績
1位 ケースデパーニュ      142h19'52"
2位 カチューシャ          +6'46"
3位 エウスカルテル         +8'49"

text:Kei Tsuji
photo:Cor Vos, Unipublic

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