雨の丘陵ステージで争われたツール・ド・フランス20日目、スプリンターのカーデン・グローブス(オーストラリア、アルペシン・ドゥクーニンク)が残り16kmでのアタックを決め、劇的な独走勝利。自身初のツール区間優勝を飾り、3大ツール全てでの勝利を手に入れた。

総合表彰台を守ったリポヴィッツ photo:CorVos 
総合逆転が叶わなかったヴィンゲゴー photo:A.S.O.

前日勝者のテイメン・アレンスマン(オランダ、イネオス・グレナディアーズ)と4賞ジャージが集団先頭に並ぶ photo:A.S.O.
7月26日(土)第20ステージ
ナンテュア〜ポンタルリエ(丘陵)
距離:184.2km
獲得標高差:2,900m
天候:晴れのち雨
気温:20度

第20ステージ ナンテュア〜ポンタルリエ image:A.S.O.
パリ凱旋の前日であるツール・ド・フランス第20ステージは、個人TTでも山頂フィニッシュでもない、逃げ向きの丘陵ステージが用意された。コースはスイス国境に近いナンテュアから丘陵地帯を繋ぎ、ポンタルリエに向かう184.2km。カテゴリー山岳は4つだが、コース全体に渡ってアップダウンが連続するため平坦区間はほとんどない。
中でも注目はコース中盤に設定された2級山岳テジー(距離3.6km/平均8.9%)。その険しい勾配はスプリンターには厳しいであろうパンチャーやクライマー向きだが、レースは誰もが予想し得なかった選手による、劇的な展開で決着した。
カザフスタン王者であるエフゲニー・フェドロフ(XDSアスタナ)が腸管感染症により未出走となり、160名まで減った一行がスタートを切る。直後にカスパー・アスグリーン(デンマーク、EFエデュケーション・イージーポスト)が飛び出し、ジロ・デ・イタリアでも上げた逃げ切り勝利に向けて意欲を見せる。しかし後続では今大会勝利のないチームを中心に激しく動き、最初の3級山岳でアスグリーンを吸収した。

スタートと同時に飛び出したカスパー・アスグリーン(デンマーク、EFエデュケーション・イージーポスト) photo:A.S.O.

13名による逃げグループ photo:A.S.O.
やがて降り始めた雨が路面を濡らす中、一時ティム・ウェレンス(ベルギー、UAEチームエミレーツXRG)とマッテオ・ジョーゲンソン(アメリカ、ヴィスマ・リースアバイク)、エウェン・コステュー(フランス、アルケア・B&Bホテルズ)の3名が先頭集団を形成する。しかしこの強力なグループも引き戻され、新たに形成された13名の逃げグループが72.3km地点に設定された中間スプリントを通過。その中にはクライマーのジョーゲンソンからスプリンターのカーデン・グローブス(オーストラリア、アルペシン・ドゥクーニンク)まで、多様な脚質の強力な選手たちが顔を揃えた。
一方、逃げに選手を送り込めなかったコフィディスがメイン集団を牽引する。後方から合流を目指す動きもあったが、UAEチームエミレーツXRGやヴィスマ・リースアバイクが集団のペースをコントロールしたことで追走は収束。これにより、逃げ集団は一気に2分のリードを築き上げた。
しかし、すぐにジェイコ・アルウラー所属のスイス王者、マウロ・シュミットがプロトンの牽引を始める。その目的は、逃げグループにいるジョルダン・ジェガット(フランス、トタルエネルジー)から、チームのエースであるベン・オコーナー(オーストラリア)の総合10位の座を守るため。序盤に落車したシュミットは長時間に渡り集団のペースを作り、途中オコーナー自らも加わったものの、プロトンは逃げから約7分遅れでフィニッシュ。結果的に逃げ切ったジェガットが総合トップ10入りを果たしている。

単独先頭に立ったハリー・スウェニー(オーストラリア、EFエデュケーション・イージーポスト) photo:A.S.O.
プロトンに追走の要因となってしまうジェガットは、他の逃げメンバーにとって厄介な存在であったが、残り66.2kmから始まる2級山岳でそのジェガットがアタック。そこにハリー・スウェニー(オーストラリア、EFエデュケーション・イージーポスト)が合流。しかし連携がうまくいかず、スウェニーが残り54km地点でジェガットを引き離す。そして2021年に区間3位に入り、ツールでの初勝利を目指したスウェニーは追走する12名に対し最大50秒のリードを築いた。
再び降り出した雨の中、順調に脚を回すスウェニーに対し、追走集団のペースアップによってウェレンスとジョーゲンソンが脱落。グローブスや地元出身のロマン・グレゴワール(フランス、グルパマFDJ)が5名グループを形成する。この動きでスウェニーとのタイム差は急速に縮まり、最終4級山岳の麓(残り26km)で9名となった追走集団でスウェニーを吸収。グレゴワールが頂上を先頭で通過し、その下りコーナーでイバン・ロメオ(スペイン、モビスター)が落車した。

落車した今大会最年少かつスペイン王者のイバン・ロメオ(モビスター) photo:A.S.O.

残り16.8kmで飛び出し、独走態勢に入ったカーデン・グローブス(オーストラリア、アルペシン・ドゥクーニンク) photo:A.S.O.
グレゴワールも濡れた路面で落車し、先頭はグローブス、フランク・ファンデンブルーク(オランダ、ピクニック・ポストNL)、ジェイク・スチュワート(イギリス、イスラエル・プレミアテック)の3名に絞られる。この好機を活かそうとグローブスは積極的に牽引するが、他2名は協力を拒否。しびれを切らしたグローブスは、残り16.8km地点でアタックを敢行した。
後続の2名が牽制しあう間に、グローブスは一気にリードを拡大する。高出力を維持したまま、雨も上がって路面が乾き始めたフラムルージュ(残り1km)を通過する。今年のジロ・デ・イタリアで区間1勝を飾り、ヤスペル・フィリプセン(ベルギー)のリードアウトマンとして出場した今大会。しかしフィリプセン、そしてマチュー・ファンデルプール(オランダ)がリタイアする中、アシスト役として出場したスプリンターが、劇的な独走勝利を掴み取った。

キャリア初の独走勝利を決めたカーデン・グローブス(オーストラリア、アルペシン・ドゥクーニンク) photo:CorVos

涙を拭うカーデン・グローブス(オーストラリア、アルペシン・ドゥクーニンク) photo:A.S.O.
フィニッシュの直前から顔を歪ませ、涙を流し、勝利を噛み締めたグローブス。「本当に多くの感情が湧いてくる勝利。チームはヤスペルとマチューを中心に複数のプランを用意していたが、最終的に僕にチャンスが巡ってきた。今大会はうまく行かなかったことも多かったが、今日は脚の調子がよかった。そして苦しみながらフィニッシュを目指していたら、その先にツールのステージ優勝が待っていた。冷たい雨の中では調子が良くなるんだ。でもまさかキャリア初の独走勝利がツールでなんて信じられない」と、グローブスは語った。
2022年のブエルタ・ア・エスパーニャでの区間優勝から、翌年にはジロで勝利。そして念願のツールで勝利を飾り、3大ツールでのステージ優勝を達成した。2位にはファンデンブルークが入り、3位はパスカル・エインコールン(オランダ、スーダル・クイックステップ)だった。
そしてマイヨジョーヌをまとったタデイ・ポガチャル(スロベニア、UAEチームエミレーツXRG)が、トップから7分4秒遅れでフィニッシュ。総合2位でライバルのヨナス・ヴィンゲゴー(デンマーク、ヴィスマ・リースアバイク)からの祝福を受けたポガチャルが、自身4度目となる総合優勝を事実上確定させた。

総合優勝を事実上、確定させたタデイ・ポガチャル(スロベニア、UAEチームエミレーツXRG)を祝福するヨナス・ヴィンゲゴー(デンマーク、ヴィスマ・リースアバイク) photo:CorVos

ツール初勝利を喜ぶカーデン・グローブス(オーストラリア、アルペシン・ドゥクーニンク) photo:CorVos

敢闘賞を獲得したハリー・スウェニー(オーストラリア、EFエデュケーション・イージーポスト) photo:A.S.O. 
マイヨジョーヌを着て翌日のパリを迎えるタデイ・ポガチャル(スロベニア、UAEチームエミレーツXRG) photo:A.S.O.



7月26日(土)第20ステージ
ナンテュア〜ポンタルリエ(丘陵)
距離:184.2km
獲得標高差:2,900m
天候:晴れのち雨
気温:20度

パリ凱旋の前日であるツール・ド・フランス第20ステージは、個人TTでも山頂フィニッシュでもない、逃げ向きの丘陵ステージが用意された。コースはスイス国境に近いナンテュアから丘陵地帯を繋ぎ、ポンタルリエに向かう184.2km。カテゴリー山岳は4つだが、コース全体に渡ってアップダウンが連続するため平坦区間はほとんどない。
中でも注目はコース中盤に設定された2級山岳テジー(距離3.6km/平均8.9%)。その険しい勾配はスプリンターには厳しいであろうパンチャーやクライマー向きだが、レースは誰もが予想し得なかった選手による、劇的な展開で決着した。
カザフスタン王者であるエフゲニー・フェドロフ(XDSアスタナ)が腸管感染症により未出走となり、160名まで減った一行がスタートを切る。直後にカスパー・アスグリーン(デンマーク、EFエデュケーション・イージーポスト)が飛び出し、ジロ・デ・イタリアでも上げた逃げ切り勝利に向けて意欲を見せる。しかし後続では今大会勝利のないチームを中心に激しく動き、最初の3級山岳でアスグリーンを吸収した。


やがて降り始めた雨が路面を濡らす中、一時ティム・ウェレンス(ベルギー、UAEチームエミレーツXRG)とマッテオ・ジョーゲンソン(アメリカ、ヴィスマ・リースアバイク)、エウェン・コステュー(フランス、アルケア・B&Bホテルズ)の3名が先頭集団を形成する。しかしこの強力なグループも引き戻され、新たに形成された13名の逃げグループが72.3km地点に設定された中間スプリントを通過。その中にはクライマーのジョーゲンソンからスプリンターのカーデン・グローブス(オーストラリア、アルペシン・ドゥクーニンク)まで、多様な脚質の強力な選手たちが顔を揃えた。
一方、逃げに選手を送り込めなかったコフィディスがメイン集団を牽引する。後方から合流を目指す動きもあったが、UAEチームエミレーツXRGやヴィスマ・リースアバイクが集団のペースをコントロールしたことで追走は収束。これにより、逃げ集団は一気に2分のリードを築き上げた。
しかし、すぐにジェイコ・アルウラー所属のスイス王者、マウロ・シュミットがプロトンの牽引を始める。その目的は、逃げグループにいるジョルダン・ジェガット(フランス、トタルエネルジー)から、チームのエースであるベン・オコーナー(オーストラリア)の総合10位の座を守るため。序盤に落車したシュミットは長時間に渡り集団のペースを作り、途中オコーナー自らも加わったものの、プロトンは逃げから約7分遅れでフィニッシュ。結果的に逃げ切ったジェガットが総合トップ10入りを果たしている。

プロトンに追走の要因となってしまうジェガットは、他の逃げメンバーにとって厄介な存在であったが、残り66.2kmから始まる2級山岳でそのジェガットがアタック。そこにハリー・スウェニー(オーストラリア、EFエデュケーション・イージーポスト)が合流。しかし連携がうまくいかず、スウェニーが残り54km地点でジェガットを引き離す。そして2021年に区間3位に入り、ツールでの初勝利を目指したスウェニーは追走する12名に対し最大50秒のリードを築いた。
再び降り出した雨の中、順調に脚を回すスウェニーに対し、追走集団のペースアップによってウェレンスとジョーゲンソンが脱落。グローブスや地元出身のロマン・グレゴワール(フランス、グルパマFDJ)が5名グループを形成する。この動きでスウェニーとのタイム差は急速に縮まり、最終4級山岳の麓(残り26km)で9名となった追走集団でスウェニーを吸収。グレゴワールが頂上を先頭で通過し、その下りコーナーでイバン・ロメオ(スペイン、モビスター)が落車した。


グレゴワールも濡れた路面で落車し、先頭はグローブス、フランク・ファンデンブルーク(オランダ、ピクニック・ポストNL)、ジェイク・スチュワート(イギリス、イスラエル・プレミアテック)の3名に絞られる。この好機を活かそうとグローブスは積極的に牽引するが、他2名は協力を拒否。しびれを切らしたグローブスは、残り16.8km地点でアタックを敢行した。
後続の2名が牽制しあう間に、グローブスは一気にリードを拡大する。高出力を維持したまま、雨も上がって路面が乾き始めたフラムルージュ(残り1km)を通過する。今年のジロ・デ・イタリアで区間1勝を飾り、ヤスペル・フィリプセン(ベルギー)のリードアウトマンとして出場した今大会。しかしフィリプセン、そしてマチュー・ファンデルプール(オランダ)がリタイアする中、アシスト役として出場したスプリンターが、劇的な独走勝利を掴み取った。


フィニッシュの直前から顔を歪ませ、涙を流し、勝利を噛み締めたグローブス。「本当に多くの感情が湧いてくる勝利。チームはヤスペルとマチューを中心に複数のプランを用意していたが、最終的に僕にチャンスが巡ってきた。今大会はうまく行かなかったことも多かったが、今日は脚の調子がよかった。そして苦しみながらフィニッシュを目指していたら、その先にツールのステージ優勝が待っていた。冷たい雨の中では調子が良くなるんだ。でもまさかキャリア初の独走勝利がツールでなんて信じられない」と、グローブスは語った。
2022年のブエルタ・ア・エスパーニャでの区間優勝から、翌年にはジロで勝利。そして念願のツールで勝利を飾り、3大ツールでのステージ優勝を達成した。2位にはファンデンブルークが入り、3位はパスカル・エインコールン(オランダ、スーダル・クイックステップ)だった。
そしてマイヨジョーヌをまとったタデイ・ポガチャル(スロベニア、UAEチームエミレーツXRG)が、トップから7分4秒遅れでフィニッシュ。総合2位でライバルのヨナス・ヴィンゲゴー(デンマーク、ヴィスマ・リースアバイク)からの祝福を受けたポガチャルが、自身4度目となる総合優勝を事実上確定させた。




ツール・ド・フランス2025第20ステージ
1位 | カーデン・グローブス(オーストラリア、アルペシン・ドゥクーニンク) | 4:06:09 |
2位 | フランク・ファンデンブルーク(オランダ、ピクニック・ポストNL) | +0:54 |
3位 | パスカル・エインコールン(オランダ、スーダル・クイックステップ) | +0:59 |
4位 | シモーネ・ヴェラスコ(イタリア、XDSアスタナ) | +1:04 |
5位 | ロマン・グレゴワール(フランス、グルパマFDJ) | |
6位 | ジェイク・スチュワート(イギリス、イスラエル・プレミアテック) | |
7位 | ジョルダン・ジェガット(フランス、トタルエネルジー) | |
8位 | ティム・ウェレンス(ベルギー、UAEチームエミレーツXRG) | |
9位 | マッテオ・ジョーゲンソン(アメリカ、ヴィスマ・リースアバイク) | |
10位 | ハリー・スウェニー(オーストラリア、EFエデュケーション・イージーポスト) |
マイヨジョーヌ(個人総合成績)
1位 | タデイ・ポガチャル(スロベニア、UAEチームエミレーツXRG) | 73:54:59 |
2位 | ヨナス・ヴィンゲゴー(デンマーク、ヴィスマ・リースアバイク) | +4:24 |
3位 | フロリアン・リポヴィッツ(ドイツ、レッドブル・ボーラ・ハンスグローエ) | +11:09 |
4位 | オスカー・オンリー(イギリス、ピクニック・ポストNL) | +12:12 |
5位 | フェリックス・ガル(オーストリア、デカトロンAG2Rラモンディアール) | +17:12 |
6位 | トビアス・ヨハンネセン(ノルウェー、ウノエックス・モビリティ) | +20:14 |
7位 | ケヴィン・ヴォークラン(フランス、アルケア・B&Bホテルズ) | +22:35 |
8位 | プリモシュ・ログリッチ(スロベニア、レッドブル・ボーラ・ハンスグローエ) | +25:30 |
9位 | ベン・ヒーリー(アイルランド、EFエデュケーション・イージーポスト) | +28:02 |
10位 | ジョルダン・ジェガット(フランス、トタルエネルジー) | +32:42 |
マイヨヴェール(ポイント賞)
1位 | ジョナタン・ミラン(イタリア、リドル・トレック) | 352pts |
2位 | タデイ・ポガチャル(スロベニア、UAEチームエミレーツXRG) | 272pts |
3位 | ビニヤム・ギルマイ(エリトリア、アンテルマルシェ・ワンティ) | 213pts |
マイヨアポワ(山岳賞)
1位 | タデイ・ポガチャル(スロベニア、UAEチームエミレーツXRG) | 117pts |
2位 | ヨナス・ヴィンゲゴー(デンマーク、ヴィスマ・リースアバイク) | 104pts |
3位 | レニー・マルティネス(フランス、バーレーン・ヴィクトリアス) | 97pts |
マイヨブラン(ヤングライダー賞)
1位 | フロリアン・リポヴィッツ(ドイツ、レッドブル・ボーラ・ハンスグローエ) | 74:06:08 |
2位 | オスカー・オンリー(イギリス、ピクニック・ポストNL) | +1:03 |
3位 | ケヴィン・ヴォークラン(フランス、アルケア・B&Bホテルズ) | +11:26 |
チーム総合成績
1位 | ヴィスマ・リースアバイク | 222:39:02 |
2位 | UAEチームエミレーツXRG | +24:26 |
3位 | レッドブル・ボーラ・ハンスグローエ | +1:24:56 |
text:Sotaro.Arakawa
photo:CorVos, A.S.O.
photo:CorVos, A.S.O.
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