最大勾配15%の3級山岳ミュール・ド・ブルターニュにフィニッシュしたツール・ド・フランス第7ステージ。集団スプリントをタデイ・ポガチャル(スロベニア、UAEチームエミレーツXRG)が制し、前日に失ったマイヨジョーヌを取り戻した。


7月11日(金)第7ステージ
サン・マロ〜ミュール・ド・ブルターニュ(丘陵)
距離:197km
獲得標高差:2,450m
天候:晴れ
気温:27度

この日の舞台は、フランスでも特に自転車競技の人気が高いフランス北西部のブルターニュ。パンチャーのために仕立てられた197kmコースには、終盤に3つのカテゴリー山岳(4、3、3級)が凝縮。ラストに2度登坂し、フィニッシュ地点も設定された3級山岳ミュール・ド・ブルターニュ(距離2km/平均6.9%)は最大勾配15%と強烈だ。
終盤の約70kmのレイアウトは、ブルターニュで開幕した2021年第2ステージと同じ。その時はマチュー・ファンデルプール(オランダ、アルペシン・ドゥクーニンク)が独走を決め、涙と共にマイヨジョーヌに袖を通した。
そのファンデルプールは前日わずか1秒差で取り戻したマイヨジョーヌ姿で登場し、雲一つない晴天の中、集団先頭でスタートを切る。そしてアクチュアルスタートの旗が振られると、ワウト・ファンアールト(ベルギー、ヴィスマ・リースアバイク)が勢いよくアタック。それにスイス王者マウロ・シュミット(ジェイコ・アルウラー)が反応し、2名が早速レース先頭に立った。


しかし逃げ向きでもあるステージのため、他のチームが2名を引き戻すと、ここから延々とアタックと吸収が繰り返される。そのためレース開始1時間の平均スピードは54km/hに達し、今大会を象徴するように序盤から混沌の展開となる。一時はヴィクトル・カンペナールツ(ベルギー、ヴィスマ・リースアバイク)やニールソン・パウレス(アメリカ、EFエデュケーション・イージーポスト)ら6名が逃げ集団を形成するものの、これも決まらなかった。
そして今度はゲラント・トーマス(イギリス、イネオス・グレナディアーズ)や地元ブルターニュ出身のエウェン・コステュー(フランス、アルケア・B&Bホテルズ)らがエスケープ。メイン集団が脚を緩めたため、スタートから55km地点でようやく5名の逃げグループが形成された。
第7ステージで逃げた5名
アレックス・ボーダン(フランス、EFエデュケーション・イージーポスト)
ゲラント・トーマス(イギリス、イネオス・グレナディアーズ)
マルコ・ハラー(オーストリア、チューダー・プロサイクリング)
エウェン・コステュー(フランス、アルケア・B&Bホテルズ)
イバン・ガルシア(スペイン、モビスター)

2018年の総合優勝者で、今年限りで引退するトーマスは逃げ集団を統制し、34歳でこれが10度目のツール出場となるベテランのハラーもリード拡大に力を貸す。一方のプロトンは、リーダーチームであるアルペシン・ドゥクーニンクにニルス・ポリッツ(ドイツ、UAEチームエミレーツXRG)が加わり牽引。第5ステージでマイヨブラン(ヤングライダー賞)以外の3賞ジャージでランキングトップに立ち、前日に全てを手放したタデイ・ポガチャル(スロベニア、UAEチームエミレーツXRG)は、いつものアルカンシエル姿で軽快に脚を回した。
逃げ集団から勝者が生まれた前日とは違い、この日のプロトンは1分半前後しかリードを許さないタイトなコントロールを披露。残り57.8km地点に設定された中間スプリントでは、スピードのあるガルシアが先頭通過。そして最大10ポイントを争うプロトンは、アンテルマルシェ・ワンティがトレインを組むも、マイヨヴェール(ポイント賞)を着るジョナタン・ミラン(イタリア、リドル・トレック)が先着した。


ハラーが遅れ、4名になった逃げグループからはコステューが4級山岳を先頭通過。ヴィスマ・リースアバイクに牽引が代わったプロトンがタイム差が縮めていくなか、逃げが1度目の3級山岳ミュール・ド・ブルターニュ(距離2km/平均6.9%)に入ると今度はトーマス、ガルシアが脱落していく。そして頂上手前でボーダンも遅れ、先頭は22歳でこれがツールデビューのコステューただ1人となった。
コステューは先頭で頂上を通過したものの、直後にUAEの先導するプロトンに吸収される。ミランなどスプリンターは遅れ、集団は40名程度にシェイプされる。残り6km地点の障害の何もない平坦路では先頭集団の後方で落車が発生し、前日勝者のベン・ヒーリー(アイルランド、EFエデュケーション・イージーポスト)やポガチャルの重要なアシストであるジョアン・アルメイダ(ポルトガル、UAEチームエミレーツXRG)ら12名が地面に身体を打ちつけた。
この落車によりジャック・ヘイグ(オーストラリア、バーレーン・ヴィクトリアス)がリタイアを余儀なくされている。

落車によってさらに人数が減った集団は、最後の3級山岳ミュール・ド・ブルターニュに、UAEのハイペース牽引で突入。各チームのアシストによって集団先頭が目まぐるしく変わるなか、ここまで粘ったファンデルプールがドロップ。そしてティム・ウェレンス(ベルギー、UAEチームエミレーツXRG)の牽引から、残り1.7kmでポガチャルが前に出た。
しかしアタックするのではなく、人数を減らすようにハイペースを維持。ポガチャルの背後にヴィンゲゴーがつき、同じく反応したレムコ・エヴェネプール(ベルギー、スーダル・クイックステップ)は静かに先頭に立つ。そして懸命に追いかけたケヴィン・ヴォークラン(フランス、アルケア・B&Bホテルズ)がブリッジをかけ、合流すると先頭集団のペースは落ち着いた。
9名に絞られた先頭集団はフラムルージュ(残り1km)を通過すると、ジョナタン・ナルバエス(エクアドル、UAEチームエミレーツXRG)が牽引を始める。そのままスプリント勝負へと持ち込まれ、フィニッシュ手前200mでポガチャルがスプリントを開始。その圧倒的なスピードにはヴィンゲゴーしかついていけず、ライバルを突き放した世界王者がそのままフィニッシュに飛び込んだ。

第4ステージに続く、今大会2勝目を手に入れたポガチャル。「この勝利がとても嬉しい。僕らはほぼ完璧な走りを見せた。不運にも落車してしまったジョアン(アルメイダ)の無事を祈る。もし彼が無事でない(リタイアした)のであれば、この勝利は彼に捧ぐ。今日のフィニッシュは僕とマチュー(ファンデルプール)が良く知ったレイアウト。この象徴的な登りでの勝利が欲しかった。残念ながら彼は昨日の疲れもあり、リマッチとはならなかったけれどね」と、プロ通算101勝目を飾った世界王者は語った。
2位は同タイムでヴィンゲゴーが入り、3位は2秒遅れでオスカー・オンリー(イギリス、ピクニック・ポストNL)がランクイン。またエヴェネプールは区間7位(2秒遅れ)で、落車したアルメイダは擦過傷を負ったものの、無事フィニッシュしている。
この結果、ポガチャルは総合首位に返り咲き、ボーナスタイム10秒を加算したため、総合2位エヴェネプールとの差を42秒から54秒まで拡大している。



ツール・ド・フランス2025第7ステージ
1位 | タデイ・ポガチャル(スロベニア、UAEチームエミレーツXRG) | 4:05:39 |
2位 | ヨナス・ヴィンゲゴー(デンマーク、ヴィスマ・リースアバイク) | |
3位 | オスカー・オンリー(イギリス、ピクニック・ポストNL) | +0:02 |
4位 | フェリックス・ガル(オーストリア、デカトロンAG2Rラモンディアール) | |
5位 | マッテオ・ジョーゲンソン(アメリカ、ヴィスマ・リースアバイク) | |
6位 | レムコ・エヴェネプール(ベルギー、スーダル・クイックステップ) | |
7位 | ケヴィン・ヴォークラン(フランス、アルケア・B&Bホテルズ) | |
8位 | ジョナタン・ナルバエス(エクアドル、UAEチームエミレーツXRG) | +0:07 |
9位 | アクセル・ローランス(フランス、イネオス・グレナディアーズ) | +0:15 |
10位 | トビアス・ヨハンネセン(ノルウェー、ウノエックス・モビリティ) | +0:21 |
マイヨジョーヌ(個人総合成績)
1位 | タデイ・ポガチャル(スロベニア、UAEチームエミレーツXRG) | 25:58:04 |
2位 | レムコ・エヴェネプール(ベルギー、スーダル・クイックステップ) | +0:54 |
3位 | ケヴィン・ヴォークラン(フランス、アルケア・B&Bホテルズ) | +1:11 |
4位 | ヨナス・ヴィンゲゴー(デンマーク、ヴィスマ・リースアバイク) | +1:17 |
5位 | マチュー・ファンデルプール(オランダ、アルペシン・ドゥクーニンク) | +1:29 |
6位 | マッテオ・ジョーゲンソン(アメリカ、ヴィスマ・リースアバイク) | +1:34 |
7位 | オスカー・オンリー(イギリス、ピクニック・ポストNL) | +2:49 |
8位 | フロリアン・リポヴィッツ(ドイツ、レッドブル・ボーラ・ハンスグローエ) | +3:04 |
9位 | プリモシュ・ログリッチ(スロベニア、レッドブル・ボーラ・ハンスグローエ) | +3:06 |
10位 | マティアス・スケルモース(デンマーク、リドル・トレック) | +3:43 |
マイヨヴェール(ポイント賞)
1位 | タデイ・ポガチャル(スロベニア、UAEチームエミレーツXRG) | 156pts |
2位 | ジョナタン・ミラン(イタリア、リドル・トレック) | 122pts |
3位 | ビニヤム・ギルマイ(エリトリア、アンテルマルシェ・ワンティ) | 111pts |
マイヨアポワ(山岳賞)
1位 | ティム・ウェレンス(ベルギー、UAEチームエミレーツXRG) | 8pts |
2位 | タデイ・ポガチャル(スロベニア、UAEチームエミレーツXRG) | 7pts |
3位 | ベン・ヒーリー(アイルランド、EFエデュケーション・イージーポスト) | 4pts |
マイヨブラン(ヤングライダー賞)
1位 | レムコ・エヴェネプール(ベルギー、スーダル・クイックステップ) | 25:58:58 |
2位 | ケヴィン・ヴォークラン(フランス、アルケア・B&Bホテルズ) | +0:17 |
3位 | オスカー・オンリー(イギリス、ピクニック・ポストNL) | +1:55 |
チーム総合成績
1位 | ヴィスマ・リースアバイク | 77:58:21 |
3位 | UAEチームエミレーツXRG | +5:33 |
2位 | グルパマFDJ | +13:24 |
text:Sotaro.Arakawa
photo:CorVos, A.S.O.
photo:CorVos, A.S.O.
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