スイスのバイクブランド、BMCがタイムトライアルモデルをフルモデルチェンジ。新たにSpeedmachineというモデル名を与えられたニューモデルは、F1の車体制作で知られるレッドブル・アドバンスド・テクノロジーと共同開発によって生み出された究極の1台だ。



BMC Speedmachine (c)フタバ

ツール・ド・フランスの総合優勝やトライアスロンワールドレコードの樹立、世界選手権TTT連覇など、数々の栄冠を掴み取ってきたBMCのタイムトライアルバイク。2004年にフルオーダーモデルとして登場した初代Timemachine TT01以来、多くのアップデートを積み重ねてきたTimemachineシリーズが、20年という節目についにその名を改める時が来た。

新しくBMCのTTバイクに与えられる名は、"Speedmachine"。既にプロレースでは実戦投入され、その存在を明らかにされていたスペシャルバイクがついに正式発表となった。

F1コンストラクター、レッドブルとの共同開発

AG2Rシトロエンが使用したBMCのプロトTTバイク photo:So Isobe

Speedmachineの開発にあたり、BMCのエンジニアは新たなアプローチを必要としていたという。Timemachineシリーズにおいて多くの革新的な空力技術を導入してきたBMCだが、トップレベルの選手たちから寄せられるハイレベルな要望に対して、自転車業界内のテクノロジーや発想だけでは応えられないという結論に至った。

そこで、BMCの開発チームがタッグを組んだのがレッドブル・アドバンスド・テクノロジー。F1のトップチームとして知られるレッドブル・レーシングのハイパフォーマンス・エンジニアリング部門との共同開発を経て、Speedmachineは生み出された。

レッドブル・アドバンスド・テクノロジーとの共同開発がアピールされている photo:So Isobe

レッドブルとの協業は、これまでのTTバイクの設計を根本的に見直すところからスタートしたという。BMC Impec Lab開発チームが提案する、業界をリードするであろうベースとなる新しいアイデアが、レッドブルの有する豊富な研究開発資源によって検証されるという開発アプローチを構築。

時速250km近くで戦うF1でのテクノロジーや質量シミュレーション、数値流体力学解析、風洞検証といった最先端のエンジニアリングによって、これまでの開発現場に存在した限界を超え、妥協のない徹底的な開発を突き詰めることで、Speedmachineは生み出されたという。

エアロよりも、重量よりも。まず求めたのは人馬一体のライドフィール

あらゆるシーンでエアロポジションをキープできるスタビリティを手に入れた (c)フタバ

そんなSpeedmachineの開発において、BMCが重視したのはライダーとバイク、そして走行環境という3要素のインテグレーション。BMCのTTバイクを使用するトップライダーたちが求めたのは、バイクへの信頼性とコントロール性。多種多様なコース、地形で戦うアスリートにとって、レース中にバイクが助けてくれるかどうかは、非常に重要なファクターだ。

その、言葉では表現しにくい"X"ファクターとでも呼ぶべき要素は、アスリートの限界を拡張し一段高いステージへと導いてくれる。BMCがSpeedmachineに与えたかったのは、F1ライダーたちが「マシンと相性がいいと、曲がりたいときにマシンが先に曲がり始める」と表現するような、人と車の一体感だった。

ワイドなフォークデザインと専用ベースバーが高いエアロ効果を生み出す (c)フタバ
F1からのインスピレーションを得て設計されたSharkFin フロントフォーク スポイラー (c)フタバ



TTバイクに求められる第一の要素はエアロダイナミクスだと考える多くの人にとって、このBMCのアプローチは分かりづらい。しかし、実際のレースシーンを想像してみれば、答えは明白だ。下りやコーナー、ちょっとした段差のたびに、DHバーから手を放してベースバーを持ち直す必要があるバイクは、いくらフレームの空力に優れていたとしても、その真価を発揮することは無い。現実世界で最速のバイクは、あらゆるシーンでエアロポジションをキープしたまま走り続けられ、次のステージ、次のトランジションの為に体力を温存出来るような一台だと、BMCは考えたのだ。

この要素を実現するため、BMCのエンジニアは旧来の開発アプローチ、つまり安定性や快適性を犠牲にした窮屈なエアロポジションによってスピードを生み出すという手法に別れを告げ、新たなステアリングジオメトリを開発。DHバーへの荷重配分を最適化することで、自然にエアロポジションを維持することが出来る快適性と、外乱に左右されない安定性、そしてコーナーをそのまま走り抜けられるコントロール性を実現した。

F1にインスピレーションを得たエアロテクノロジーを搭載 より横風に強いバイクヘ

BMC Speedmachine (c)フタバ

ライダーがエアロポジションを取り続けられるという強固な土台の上に建てられるのが、優れたフレーム性能だ。特にTTバイクに欠かせないエアロダイナミクスについては、レッドブルとの協業が大きな役割を果たしたという。

特徴的なのが30mmへとタイヤクリアランスを拡大した新たなシェイプの幅広な翼型フォーク、そしてフォーククラウン下部に設けられたSharkFin フロントフォーク スポイラーだろう。F1マシンからインスピレーションを得たこのスポイラーは、前輪によって発生する乱気流をダウンチューブから遠ざけることで空気抵抗を減少させる。

フロントフォークに設けられたSharkFin (c)フタバ

各チューブのエアロシェイプも一新され、大幅に空気抵抗を削減することに成功している。スルーアクスルの受け側もフェアリングキャップデザインが与えられ、細かな部分でもエアロ効果を最大化する努力を欠かさない。

前作との比較では、横風に近くなればなるほどより優れたエアロダイナミクスを発揮する設計となっている。速度向上はもちろん、風に煽られることで走行ラインが乱れたり、ポジションを崩したりといったリスクの低減にも繋がるだろう。

前方投影面積を抑えるフロントセクション (c)フタバ

リアエンドの造形も独特だ (c)フタバ
フロントフォークエンドにもフェアリングキャップデザインが与えられる (c)フタバ



一方で、重量や剛性といったレースバイクに不可欠な性能もしっかりと向上している。剛性自体はTimemachineと同等ながら、フレーム重量を500g削減することに成功している。登りのあるコースでのTTやトライアスロンにおいて、この重量差は大きく影響するはずだ。

完璧なフィット感を実現するポジション調整機構
高いポジション調整能力を与えられたベースバー (c)フタバ

最高のエアロダイナミクスとスタビリティを両立する最適なライドポジションを見つけるためには、十分な調整幅が必要となる。更に、全世界に遠征するトライアスリートにとっては空輸時のパッキングで簡単に分解と組み立てが出来ることも必要不可欠な性能の一つ。

Speedmachineのコックピットは非常にシンプルな構造で、4本のボルトで着脱可能に。そして、フラットとローポジションの2つのベースバーオプション、DHバーの突き出し量やスタック、リーチ、幅など、ポジションに関わる膨大な選択肢を考慮した調整機構が搭載されている。DHバーやアームレストの角度および高さの調整も前作より容易になっており、最適なポジションを再現しやすくなった。また、専用シートピラーも調整範囲を拡大している。

コックピットは4本のボルトで着脱可能 (c)フタバ

遠征時にもコンパクトに畳みやすい機構となっている (c)フタバ

専用のDHバーが用意される一方で、プロファイルデザインのDHバーを使用することも可能な互換性を有している。同社のDHバーを愛用する人にとっては、使い慣れたモデルを装着できるのは非常に安心できるのではないだろうか。

拡張されたインテグレートストレージ 1.2リットルの水分を搭載可能 更には一体型リアライトも

The Speedmachine Fueltank 1200には1.2リットル分のドリンクを搭載可能 (c)フタバ

何時間もバイクの上で過ごすことになるロングディスタンスやアイアンマンを走るトライアスリートは、多くの水分や補給食を携行する必要がある。Speedmachineでは、BB上とシートチューブ裏に専用のインテグレートストレージを設置し、空力性能を高めながら大容量の収納スペースを設けている。

BB上の空間を埋めるように配置されるThe Speedmachine Fueltank 1200は、その名の通り最大1.2リットルの水分を詰め込める大容量タンクとなる。タンクからは給水ストローがヘッドチューブを貫通して伸びており、空気抵抗を増やすことなくエアロポジションを取りながら給水することを可能としている。

ストレージから伸びるホースはダウンチューブに沿ってヘッドチューブに内蔵される (c)フタバ

シートチューブ後方に設けられるSpeedmachine Rear Storage 260は、レース当日に必要となるスペアパーツや工具類を収納可能。容易に出し入れできる使い勝手の良さと、エアロダイナミクスを損なわないデザインを両立させている。

さらに、Rear Storage 260と一体化するようなリアライト"BMC Rear Light 20 StVO"を搭載。20ルーメンのLEDは昼夜を問わずライダーの安全性に寄与してくれる。

スペアパーツや工具を収納可能なSpeedmachine Rear Storage 260。リアライトも一体化している。 (c)フタバ

また、トップチューブにもストレージマウントを設置しており、ボルトオン方式のトップチューブバッグを搭載可能。走行中でも取りやすい位置に補給食を収納できるようになっている。

実走行での最速を追求したSpeedmachine Force完成車とフレームセットの2種展開に

レッドブルとの協業により、既存のTTバイクの発想を越えたアプローチによって生み出されたSpeedmachine。国内ではスラム Force eTap AXSとDT スイス ARC 1650仕様の"Speedmachine01 Two"完成車と、フレームセットでの展開となる。サイズはS、M、L。価格はSpeedmachine01 Twoが1,914,000円、フレームセットが1,226,500円(共に税込)。



BMC Speedmachine01 Two
サイズ:S、M、L
コンポーネント:スラム Force eTap AXS
ホイール:DT スイス ARC 1650
価格:1,914,000円(税込)

BMC Speedmachine フレームセット
サイズ:S、M、L
価格:1,226,500円(税込)

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