前編で触れた通り、コルナゴのレースシーンにおける最前線は、すでにVシリーズとYシリーズに委ねられている。ならば、Cシリーズに今、何が求められているのか。その答えを探るべく、コルナゴを知り尽くした2人の元国内トッププロ選手、井上和郎氏と中島康晴氏に、最新作C72で思う存分走ってもらった。

C72のテスト担当は井上和郎氏と中島康晴氏。NIPPO所属時代のチームメイトであり、その当時コルナゴを駆った。引退後にもコルナゴを購入したという共通点を持つ photo:So Isobe
C72のインプレッションを担当するのは井上和郎氏と中島康晴氏。ともに福井県出身、NIPPO時代のチームメイトという間柄で、国民体育大会ロードレースを幾度となく制し「国体コンビ」と呼ばれた二人でもある。
話は自然と、2010年前後のコルナゴのラインアップへとさかのぼった。宮澤崇史氏が2010年に全日本選手権を制した時に駆っていたのがC59。当時、ラグドフレームのフラッグシップモデルであるC59に乗っていたのは宮澤氏だけで、井上氏・中島氏を含む他のメンバーはモノコックフレームのCX-1だったという。「その時はやはり『C』こそ正義でしたが、CX-1も走るんですよね」と井上氏。あの頃を境に、Cシリーズとそれ以外という、コルナゴの中での二つの路線が生まれたと振り返る。

今もマイバイクとして乗り続けるC64を持参してもらった。芯の通った走りは今でも好き、と言う photo:So Isobe 
イタリアと日本を拠点にしていたTEAM NIPPO。左が井上和郎氏、佐野淳也氏を挟んだ右が中島康晴氏だ 
2022年のツール・ド・おきなわ市民140km。C68を駆って優勝した井上氏 photo:Makoto AYANO
中島氏にとって、C59には特別な思い出がある。ヨーロッパ遠征中に自身のバイクが壊れ、宮澤氏のC59を借りて代走したことがあった。そのまま20人の逃げ集団でフィニッシュまで粘り、結果は3位。勝利こそ逃したが、ヨーロッパで唯一UCIポイントを獲得したレースだったという。「それ以来、Cの虜になってしまった」と中島氏は笑う。
モノコックフレームでもレースバイクが作れる時代になってからも、コルナゴはCシリーズの進化を止めなかった。C59、C60と代を重ね、「C60は多分歴代最も硬いフレームで、岩を踏んでるような究極感があった」と井上氏。中島氏はこの一貫した二正面作戦にこそコルナゴの凄みを見る。「Cというラグのクラシックスタイルも残しながら、新しいモノコックフレームを同時に開発している。凄いブランド力だな、って思いますよね」。

いつの時代もコルナゴは羨望の対象だった。レーシングラインではなくなっても尚、C72にはタイムレスな造形美が宿る photo:So Isobe
その井上氏にとって、初めて乗ったハイエンドバイクがコルナゴのEPSだった。舞台はヴァレーゼの世界選手権。現地にカンビアーゴの工場からEPSが直送され、その場で組んで出走したという。それまでグランフォンドモデルのCLXに乗っていた井上氏にとって、「こんなバイクに乗れるようになるんだ」という感覚は、まさに憧れが叶った瞬間だったそうだ。バルバ時代のアルミカーボンバックのドリームプラスに始まり、CLX、EPS、CX-1、そして引退後にはC64、C68と、井上氏はコルナゴを乗り継いできた。「ずいぶん乗ってますよね」と本人も笑う。
その理由を、井上氏はこう説明する。「やっぱりコルナゴって、僕にとってはスーパーバイク、というイメージ。ハイスペックだし、設計もむちゃくちゃ戦闘的だし、本当のリアルレースバイク。乗れば進むし速い」。長く乗り続けるうちに見えてきたのは、コルナゴが高級バイクを作りたかったわけではなく、常に速いバイクを作り続けた結果としてブランドが強くなったという事実だったという。フェラーリがレースを走るために市販車を売るのと同じ構図が、コルナゴにもある。カーボンのポテンシャルを世に知らしめるためにC35やC40が生まれ、特にマペイ時代のC40の輝きは物凄かった、と井上氏は振り返る。

「コルナゴって、僕にとってはスーパーバイク」と言う photo:So Isobe 
「コルナゴオーナーは全員が自転車に深い愛着を持つ方々ですよね」 photo:So Isobe

テストロケは石川県の山中で行った。思う存分アップダウンコースを走ってもらった photo:So Isobe
中島氏もまた、先輩たちが乗る姿から「強くて速いバイク」というイメージを刷り込まれた一人だ。同時に印象深いのが、当時のコルナゴが誇っていた豊富なカラーバリエーションだった。「同じモデルでもたくさんのカラーバリエーションがあって、みんな同じC40に乗ってても被らない」。誰もがそのフレームを愛し、新しかろうが古かろうが、自分のバイクへの愛着を持つ人が多いブランドだというイメージは、中島氏自身が実際に乗ってみて確信に変わったという。「乗っても楽しいし、自転車を洗車してても楽しい。走りもどこか通じるものがある」。
コルナゴが供給されるプロチームへとステップアップできた時の喜びも、中島氏は鮮明に覚えている。当時のコルナゴのロゴマークにはアルカンシエル(世界チャンピオンジャージの虹色ライン)があしらわれていて、「世界チャンピオンが乗っているようなメーカーに乗れるんだ」という気持ちの高ぶりがあったという。走りについても、井上氏の言う「戦闘的」という評はそのままで、コーナーでも自分が思い描いたラインにきっちり乗せてくれる感覚があった。特に日本の整った路面よりも、ヨーロッパの荒れた路面や、テクニカルな下りでこそ輝く走りだったという記憶が今も残る。現役時代に乗ったコルナゴはCX-1だけだったが、引退後、最初に選んだのは今もマイバイクとして乗り続けるC64だった。

「走りの気持ちよさがC72の身上。何ひとつ乗らされている感がない」と二人は口を揃える photo:So Isobe
そんな二人が、最新作C72に試乗して真っ先に口にしたのが「自転車の楽しさ」という言葉だった。
「ダンシング一つ、ペダリング一つ、コーナリング一つにしてもとにかく気持ち良くて、意のままに操れる」と語るのは井上氏。近年のエアロ化が進んだレースバイクは、結果的に速さを生む一方で、硬く塊感のあるフレームにライダー側が"合わせて"乗ることを要求されがちだと指摘する。「多分どんなプロ選手でも、今のエアロロードはある意味『乗せられちゃう』フレームなんですよね」。C72が取り戻させてくれるのはその逆、つまり自分がバイクを操っているという感覚そのものだという。「乗り味が素直で、角が立っていないので、低出力で登っている時もなんだかすごく進んでくれる。むちゃくちゃ楽しくて、気持ちよくて、気分が上がる」。
この乗り味の良さは、ペダリングに対するフレームのしなりと戻りのタイミング、そして全体のバランスの良さに支えられている、と二人は推察した。ボトムブラケット周りも過度に硬くなく、気持ちよくペダリングが続けられる。もちろん、平均スピードが40km/hを超えるような領域ではレーシングマシンが優れるが、それはそもそもC72に求められている性能ではない、と井上氏は言い切る。

「リアがしなやかで路面をしっかり捉える。過度な硬さがないから走りが気持ちいい」 photo:So Isobe
中島氏も同じ感覚を、より具体的な言葉で補足する。「特に登りの気持ちよさはめっちゃいいんです。リアがしなやかで、路面を綺麗にトレースしてくれる。BB周りを含めて過度な硬さがないぶん、後ろの三角がしっかり路面を捉えて前へと加速させてくれる感覚がありますね」。シッティングでもダンシングでも、心地よく掛かって、そのまま伸びていく。「プロ選手目線で見れば後ろはもうちょっと剛性が欲しい」としつつも、その一方でヘッド周りの安定感の高さが、優しさの中に一本芯の通った走りを生んでいる、と中島氏は評価する。

現役時代は屈指のダウンヒラーとして名を馳せた中島氏。バイクに対する洞察も極めて鋭いものだった photo:So Isobe
なかでも中島氏が強調したのが、下りの気持ちよさだった。これは軽く聞き流していい話ではない。中島氏といえば、現役時代から攻めのダウンヒルで名を馳せた人物。その彼が太鼓判を押す下りのフィーリングには、相応の重みがある。
近年のエアロフレームは、直進安定性の高さと引き換えに、コーナー進入で乗り手側が意図的に倒しこむ動作が求められることも少なくない。対してC72はそうした身構えを必要としない。「ブレーキを当てて荷重移動させてあげればハンドルがスッと入っていく。下りの扱いやすさはすごく際立っている部分」だと井上氏も高く評価する。久しぶりに山を二人で走った中島氏にとっても、「下りが怖くない。だから楽しい」という率直な感想につながった。「もう一度ちゃんと自転車に乗ろうかなって人には本当におすすめ。まあつまり僕のことですよね」と、笑いながら自身に重ねる。

ホビーライダーのために作られ、進化を遂げたC72。他モデルとの違いについても聞いた photo:So Isobe
中島氏は先日、コルナゴジャパンからY1-Rsを借りて乗る機会があり、そこですっかりファンになったという。「何もかも違うけれど、どっちも良いバイクだなあ、コルナゴってやっぱり凄いなと思いましたね(笑)」と、C72とはまったく異なる魅力を持つ一台として評価する。
井上氏によれば、Y1RsとC72では乗車姿勢そのものが違うため、同じライダーでもクランク長の選択が変わる。ショートクランク全盛の今、Y1Rsはその流れを前提とした設計である一方、C72はフレームがしなる分、クランクは長めでも扱いやすい。「逆にショートクランクだとシャカシャカしちゃってリズムが合わないかもしれない」。ハンドル幅についても同様で、流行の幅狭ハンドルではなく、400mm幅で車体を振れることがC72にはちょうどいいという。「そのくらい剛性から何から、全て違います」。

タデイ・ポガチャルの愛機であるY1Rs。山岳ステージでも全てこのエアロロードに乗った photo:A.S.O.

C72の先代にあたるC68。シクロワイアードでは阿部良之氏と三船雅彦氏を起用してインプレッションを行った photo:Makoto AYANO 
ツールで総合3位に入ったイサーク・デルトロは軽量モデルのV5Rsを愛用していた photo:Sotaro Arakawa
中島氏はこの対比をこう表現する。「Y1Rsは早く行こうよ、早く行こうよ!ってフレームが言ってくれるし、高速域で本当によく走る。でも、30km/hあたりで気持ちよさが光るのは絶対的にC72。その速度域での操りやすさっていうのは圧倒的にこっちの方が高い気がします」。
先代のC68については、井上氏が長く所有し、ツール・ド・おきなわを筆頭とするレースで使用した実感を交えて評価する。「振動吸収性の高さ、柔らかさというラグジュアリーな側面は確かにありましたが、そのぶん少しだけモサっとしてて重たかったんです。C72ではその重さが消え、より素直に進むバイクへと磨き上げられていますね。Cシリーズがレースバイクからの路線変更をした後も、ただ新型を出しましたよじゃなくて、ちゃんと進化してきてるのがスゴイ」と井上氏。
中島氏もこれに同意する。トレンドを追いかけがちなレースバイクは色褪せやすいが、C72は一度買えば10年、20年と長く所有欲を満たしてくれる一台だという。「それを鉄じゃなくてカーボンでやってくることが凄い」。中島氏自身、いまだにC64への愛着は変わらないといい、「Cシリーズに乗ってる人って、自分のバイクに思い入れが強い人が多い」と、Cシリーズオーナーに共通する気質を指摘する。「走り性能だけじゃなくて、所有する、走る喜びに訴える性能を妥協しないのがコルナゴ。このC72にもその思いは強く引き継がれていますね」と井上氏は締めくくった。

「仲間と一緒に山岳ロングを走るようなシーンで最高」と中島氏は評価する photo:So Isobe
リムブレーキ時代のコルナゴCシリーズと比較するとどうか、という問いに対しても、二人の見解は一致していた。
「それとはもう全然違って、現代のロードバイクではありますよ」と井上氏。タイヤもワイド化し、いわゆるシャッキリ感では確かに昔のリムブレーキバイクに分があるとしつつ、C72が目指しているのは「安定」だという。その安定の中に、操作感や扱う喜びがきっちりと盛り込まれている。
中島氏は、自身が所有するC64との比較でこれを裏付ける。「僕が所有しているC64よりは圧倒的に乗りやすい。今乗り比べてみると、リムブレーキはやっぱり腰高で、安定感が少ないように思う。その分切れ味は鋭いけど、ホビーとして乗るなら今のバイクはやはりより安全なのかな」。リムブレーキからの乗り換えを検討している層がC72に出会えば、相当な手応えを感じるはずだとも語る。「常用レンジが40km/hを超えるような場面で使うなら別の選択肢がありますが、仲間で山岳込みのロングを走るような場面では最高じゃないでしょうか」。

「レースで結果を出したいんだ、って人を除いた全員におすすめしたい自転車。ネガティブな意味では決してなく」 photo:So Isobe
では、C72は結局、誰のためのバイクなのか。井上氏の答えは明快だ。「俺はレースで結果を出したいんだ、って人を除いた全員におすすめしたい自転車です。本当にお店でいろいろな方に勧めたい」。
この言葉は決してネガティブな意味ではない。「レース走らないならおすすめ、っていう言葉はネガティブに聞こえるんですが、C72に関してはそうじゃない」と中島氏は補足する。
ピュアレーシングバイクに乗ることは、クルマで言えばサーキット専用車で街中を走らせるようなもの、つまり多少の無理を強いられる乗り物だ。自転車の場合はその差が目立ちにくいだけで、構図は同じ。すべてのライダーがレーシングマシンを求めているわけではない。むしろC72は、見た目のタイムレスさ、登りの軽快感、下りの安定感、そしてしなやかな走り味という美点を、レースバイクとしての妥協と引き換えることなく成立させている一台だと中島氏は評価する。「コルナゴに対する憧れを裏切らない走りですね」。

スカラ座で発表されたC72。会場をイメージした限定モデル「La Scala」も発売された (c)アキボウ
C72の発表会場に選ばれたのは、ミラノ・スカラ座だった。歌劇の出来が悪ければ容赦なくブーイングが飛ぶことで知られる、あの舞台だ。井上氏はそこにコルナゴの覚悟を見る。エルネスト・コルナゴ氏が経営の一線を退いた今も、「コルナゴはコルナゴのまんま」だと。
「C72は決して置きにいった選択、じゃないんです」。中島氏の言葉が、この一台の立ち位置を何より物語っている。レースバイクではないけれど、極めてポジティブな一台。「レースだけを見るなら、正直V5RsとY1Rsがあればそれでいいのに、Cシリーズには膨大なコストが注ぎ込まれ、今もカンビアーゴの工房で一つひとつ手作りされ続けているんですよね。そこにこそ、コルナゴというブランドの矜持が宿っているように思います」。
現役時代からコルナゴを知る、二人の元国内トッププロ

C72のインプレッションを担当するのは井上和郎氏と中島康晴氏。ともに福井県出身、NIPPO時代のチームメイトという間柄で、国民体育大会ロードレースを幾度となく制し「国体コンビ」と呼ばれた二人でもある。
話は自然と、2010年前後のコルナゴのラインアップへとさかのぼった。宮澤崇史氏が2010年に全日本選手権を制した時に駆っていたのがC59。当時、ラグドフレームのフラッグシップモデルであるC59に乗っていたのは宮澤氏だけで、井上氏・中島氏を含む他のメンバーはモノコックフレームのCX-1だったという。「その時はやはり『C』こそ正義でしたが、CX-1も走るんですよね」と井上氏。あの頃を境に、Cシリーズとそれ以外という、コルナゴの中での二つの路線が生まれたと振り返る。



中島氏にとって、C59には特別な思い出がある。ヨーロッパ遠征中に自身のバイクが壊れ、宮澤氏のC59を借りて代走したことがあった。そのまま20人の逃げ集団でフィニッシュまで粘り、結果は3位。勝利こそ逃したが、ヨーロッパで唯一UCIポイントを獲得したレースだったという。「それ以来、Cの虜になってしまった」と中島氏は笑う。
モノコックフレームでもレースバイクが作れる時代になってからも、コルナゴはCシリーズの進化を止めなかった。C59、C60と代を重ね、「C60は多分歴代最も硬いフレームで、岩を踏んでるような究極感があった」と井上氏。中島氏はこの一貫した二正面作戦にこそコルナゴの凄みを見る。「Cというラグのクラシックスタイルも残しながら、新しいモノコックフレームを同時に開発している。凄いブランド力だな、って思いますよね」。
コルナゴという憧れ
プロ入り前、井上氏にとってコルナゴは純粋な憧れの対象だった。バルバの先輩ライダーたちがC40やC50に乗る姿を見て、「大人になったらああいうバイク乗れるのかな」と思っていたという。ヨーロッパのトップ選手が実際に使っているのと同じフレームに、いつか自分も乗れるようになりたい。そんな特別な存在だった。
その井上氏にとって、初めて乗ったハイエンドバイクがコルナゴのEPSだった。舞台はヴァレーゼの世界選手権。現地にカンビアーゴの工場からEPSが直送され、その場で組んで出走したという。それまでグランフォンドモデルのCLXに乗っていた井上氏にとって、「こんなバイクに乗れるようになるんだ」という感覚は、まさに憧れが叶った瞬間だったそうだ。バルバ時代のアルミカーボンバックのドリームプラスに始まり、CLX、EPS、CX-1、そして引退後にはC64、C68と、井上氏はコルナゴを乗り継いできた。「ずいぶん乗ってますよね」と本人も笑う。
その理由を、井上氏はこう説明する。「やっぱりコルナゴって、僕にとってはスーパーバイク、というイメージ。ハイスペックだし、設計もむちゃくちゃ戦闘的だし、本当のリアルレースバイク。乗れば進むし速い」。長く乗り続けるうちに見えてきたのは、コルナゴが高級バイクを作りたかったわけではなく、常に速いバイクを作り続けた結果としてブランドが強くなったという事実だったという。フェラーリがレースを走るために市販車を売るのと同じ構図が、コルナゴにもある。カーボンのポテンシャルを世に知らしめるためにC35やC40が生まれ、特にマペイ時代のC40の輝きは物凄かった、と井上氏は振り返る。



中島氏もまた、先輩たちが乗る姿から「強くて速いバイク」というイメージを刷り込まれた一人だ。同時に印象深いのが、当時のコルナゴが誇っていた豊富なカラーバリエーションだった。「同じモデルでもたくさんのカラーバリエーションがあって、みんな同じC40に乗ってても被らない」。誰もがそのフレームを愛し、新しかろうが古かろうが、自分のバイクへの愛着を持つ人が多いブランドだというイメージは、中島氏自身が実際に乗ってみて確信に変わったという。「乗っても楽しいし、自転車を洗車してても楽しい。走りもどこか通じるものがある」。
コルナゴが供給されるプロチームへとステップアップできた時の喜びも、中島氏は鮮明に覚えている。当時のコルナゴのロゴマークにはアルカンシエル(世界チャンピオンジャージの虹色ライン)があしらわれていて、「世界チャンピオンが乗っているようなメーカーに乗れるんだ」という気持ちの高ぶりがあったという。走りについても、井上氏の言う「戦闘的」という評はそのままで、コーナーでも自分が思い描いたラインにきっちり乗せてくれる感覚があった。特に日本の整った路面よりも、ヨーロッパの荒れた路面や、テクニカルな下りでこそ輝く走りだったという記憶が今も残る。現役時代に乗ったコルナゴはCX-1だけだったが、引退後、最初に選んだのは今もマイバイクとして乗り続けるC64だった。
求められているのは、速さではなく「操る喜び」

そんな二人が、最新作C72に試乗して真っ先に口にしたのが「自転車の楽しさ」という言葉だった。
「ダンシング一つ、ペダリング一つ、コーナリング一つにしてもとにかく気持ち良くて、意のままに操れる」と語るのは井上氏。近年のエアロ化が進んだレースバイクは、結果的に速さを生む一方で、硬く塊感のあるフレームにライダー側が"合わせて"乗ることを要求されがちだと指摘する。「多分どんなプロ選手でも、今のエアロロードはある意味『乗せられちゃう』フレームなんですよね」。C72が取り戻させてくれるのはその逆、つまり自分がバイクを操っているという感覚そのものだという。「乗り味が素直で、角が立っていないので、低出力で登っている時もなんだかすごく進んでくれる。むちゃくちゃ楽しくて、気持ちよくて、気分が上がる」。
この乗り味の良さは、ペダリングに対するフレームのしなりと戻りのタイミング、そして全体のバランスの良さに支えられている、と二人は推察した。ボトムブラケット周りも過度に硬くなく、気持ちよくペダリングが続けられる。もちろん、平均スピードが40km/hを超えるような領域ではレーシングマシンが優れるが、それはそもそもC72に求められている性能ではない、と井上氏は言い切る。

中島氏も同じ感覚を、より具体的な言葉で補足する。「特に登りの気持ちよさはめっちゃいいんです。リアがしなやかで、路面を綺麗にトレースしてくれる。BB周りを含めて過度な硬さがないぶん、後ろの三角がしっかり路面を捉えて前へと加速させてくれる感覚がありますね」。シッティングでもダンシングでも、心地よく掛かって、そのまま伸びていく。「プロ選手目線で見れば後ろはもうちょっと剛性が欲しい」としつつも、その一方でヘッド周りの安定感の高さが、優しさの中に一本芯の通った走りを生んでいる、と中島氏は評価する。
稀代のダウンヒラーが太鼓判を押す、下りの扱いやすさ

なかでも中島氏が強調したのが、下りの気持ちよさだった。これは軽く聞き流していい話ではない。中島氏といえば、現役時代から攻めのダウンヒルで名を馳せた人物。その彼が太鼓判を押す下りのフィーリングには、相応の重みがある。
近年のエアロフレームは、直進安定性の高さと引き換えに、コーナー進入で乗り手側が意図的に倒しこむ動作が求められることも少なくない。対してC72はそうした身構えを必要としない。「ブレーキを当てて荷重移動させてあげればハンドルがスッと入っていく。下りの扱いやすさはすごく際立っている部分」だと井上氏も高く評価する。久しぶりに山を二人で走った中島氏にとっても、「下りが怖くない。だから楽しい」という率直な感想につながった。「もう一度ちゃんと自転車に乗ろうかなって人には本当におすすめ。まあつまり僕のことですよね」と、笑いながら自身に重ねる。
Y1Rs、V5Rs、C68との違いから見えるC72の個性
同じコルナゴというブランドの中での立ち位置を語る上で、二人が引き合いに出したのが、エアロレーサーのY1Rsと、先代モデルのC68だった。
中島氏は先日、コルナゴジャパンからY1-Rsを借りて乗る機会があり、そこですっかりファンになったという。「何もかも違うけれど、どっちも良いバイクだなあ、コルナゴってやっぱり凄いなと思いましたね(笑)」と、C72とはまったく異なる魅力を持つ一台として評価する。
井上氏によれば、Y1RsとC72では乗車姿勢そのものが違うため、同じライダーでもクランク長の選択が変わる。ショートクランク全盛の今、Y1Rsはその流れを前提とした設計である一方、C72はフレームがしなる分、クランクは長めでも扱いやすい。「逆にショートクランクだとシャカシャカしちゃってリズムが合わないかもしれない」。ハンドル幅についても同様で、流行の幅狭ハンドルではなく、400mm幅で車体を振れることがC72にはちょうどいいという。「そのくらい剛性から何から、全て違います」。



中島氏はこの対比をこう表現する。「Y1Rsは早く行こうよ、早く行こうよ!ってフレームが言ってくれるし、高速域で本当によく走る。でも、30km/hあたりで気持ちよさが光るのは絶対的にC72。その速度域での操りやすさっていうのは圧倒的にこっちの方が高い気がします」。
先代のC68については、井上氏が長く所有し、ツール・ド・おきなわを筆頭とするレースで使用した実感を交えて評価する。「振動吸収性の高さ、柔らかさというラグジュアリーな側面は確かにありましたが、そのぶん少しだけモサっとしてて重たかったんです。C72ではその重さが消え、より素直に進むバイクへと磨き上げられていますね。Cシリーズがレースバイクからの路線変更をした後も、ただ新型を出しましたよじゃなくて、ちゃんと進化してきてるのがスゴイ」と井上氏。
中島氏もこれに同意する。トレンドを追いかけがちなレースバイクは色褪せやすいが、C72は一度買えば10年、20年と長く所有欲を満たしてくれる一台だという。「それを鉄じゃなくてカーボンでやってくることが凄い」。中島氏自身、いまだにC64への愛着は変わらないといい、「Cシリーズに乗ってる人って、自分のバイクに思い入れが強い人が多い」と、Cシリーズオーナーに共通する気質を指摘する。「走り性能だけじゃなくて、所有する、走る喜びに訴える性能を妥協しないのがコルナゴ。このC72にもその思いは強く引き継がれていますね」と井上氏は締めくくった。
リムブレーキ時代のCシリーズと比べて...

リムブレーキ時代のコルナゴCシリーズと比較するとどうか、という問いに対しても、二人の見解は一致していた。
「それとはもう全然違って、現代のロードバイクではありますよ」と井上氏。タイヤもワイド化し、いわゆるシャッキリ感では確かに昔のリムブレーキバイクに分があるとしつつ、C72が目指しているのは「安定」だという。その安定の中に、操作感や扱う喜びがきっちりと盛り込まれている。
中島氏は、自身が所有するC64との比較でこれを裏付ける。「僕が所有しているC64よりは圧倒的に乗りやすい。今乗り比べてみると、リムブレーキはやっぱり腰高で、安定感が少ないように思う。その分切れ味は鋭いけど、ホビーとして乗るなら今のバイクはやはりより安全なのかな」。リムブレーキからの乗り換えを検討している層がC72に出会えば、相当な手応えを感じるはずだとも語る。「常用レンジが40km/hを超えるような場面で使うなら別の選択肢がありますが、仲間で山岳込みのロングを走るような場面では最高じゃないでしょうか」。
「レースで結果を出したい人」以外の全員へ

では、C72は結局、誰のためのバイクなのか。井上氏の答えは明快だ。「俺はレースで結果を出したいんだ、って人を除いた全員におすすめしたい自転車です。本当にお店でいろいろな方に勧めたい」。
この言葉は決してネガティブな意味ではない。「レース走らないならおすすめ、っていう言葉はネガティブに聞こえるんですが、C72に関してはそうじゃない」と中島氏は補足する。
ピュアレーシングバイクに乗ることは、クルマで言えばサーキット専用車で街中を走らせるようなもの、つまり多少の無理を強いられる乗り物だ。自転車の場合はその差が目立ちにくいだけで、構図は同じ。すべてのライダーがレーシングマシンを求めているわけではない。むしろC72は、見た目のタイムレスさ、登りの軽快感、下りの安定感、そしてしなやかな走り味という美点を、レースバイクとしての妥協と引き換えることなく成立させている一台だと中島氏は評価する。「コルナゴに対する憧れを裏切らない走りですね」。

C72の発表会場に選ばれたのは、ミラノ・スカラ座だった。歌劇の出来が悪ければ容赦なくブーイングが飛ぶことで知られる、あの舞台だ。井上氏はそこにコルナゴの覚悟を見る。エルネスト・コルナゴ氏が経営の一線を退いた今も、「コルナゴはコルナゴのまんま」だと。
「C72は決して置きにいった選択、じゃないんです」。中島氏の言葉が、この一台の立ち位置を何より物語っている。レースバイクではないけれど、極めてポジティブな一台。「レースだけを見るなら、正直V5RsとY1Rsがあればそれでいいのに、Cシリーズには膨大なコストが注ぎ込まれ、今もカンビアーゴの工房で一つひとつ手作りされ続けているんですよね。そこにこそ、コルナゴというブランドの矜持が宿っているように思います」。
提供:アキボウ | 制作:シクロワイアード編集部