CONTENTS

一番速くフィニッシュに辿り着くために。新型Tarmac SL9がツールデビュー

Tarmac SL9を駆るレムコ・エヴェネプール(ベルギー、レッドブル・ボーラ・ハンスグローエ)。タイムトライアルと合わせてステージ2勝をマークした photo:CorVos

「エアロか、軽さか」。ここ数年のロードバイク開発は、おおよそこの二者択一に縛られてきたと言っても過言ではない。しかしスペシャライズドはエアロロードのVENGEをラインナップから消し、2020年にデビューしたTarmac第7世代「SL7」で軽量オールラウンダーに一本化した過去を持つ。そこから2世代を経て、今年のツール・ド・フランスでデビューした新型Tarmac SL9の開発において「フィニッシュまでの時間こそが、唯一意味を持つ指標である」という開発哲学を掲げて総刷新を図った。

「一番エアロなバイクも、一番軽いバイクも誰にでも作れる。大事なのは、一番速くフィニッシュに辿り着くことだけ」と、プレス発表会で語られたSL9。SL8比で45km/h巡航時に4W、100kmのグランツールステージ換算で28秒の短縮。数字だけを見れば地味な進化に映るかもしれない。

だが、その地味ともとれる速さは、正式デビュー戦となったツール・ド・フランスにおいて、あまりに鮮烈に証明された。山岳と平坦、まったく異なる脚質を持つ2人の選手が、同じ1台のバイクでそれぞれ勝利を掴んだのだから。

ツール・ド・フランスで区間4勝、現場で見たSL9

超級山岳プラトー・ド・ソレゾンにフィニッシュする第15ステージを制したレムコ・エヴェネプール(ベルギー、レッドブル・ボーラ・ハンスグローエ) photo:CorVos

今年のツール・ド・フランスでTarmac SL9を運用したのは、レッドブル・ボーラ・ハンスグローエと、スーダル・クイックステップ。どちらもスペシャライズドと深いパートナーシップを結び、開発においてもフィードバックを重ねてきたチームだ。その2チームが山岳とスプリントという対照的なステージであわせて区間4勝をマーク。SL9にとっては華々しいデビュー戦となった。

「この勝利は、僕が一歩前進したことを示している」。ツール第15ステージを制したレムコ・エヴェネプール(ベルギー、レッドブル・ボーラ・ハンスグローエ)が、レース後に語った言葉だ。得意とするタイムトライアルではなく、ロードステージで掴んだ初めての区間優勝。しかも舞台は超級山岳プラトー・ド・ソレゾンで、マイヨジョーヌを着るUAEチームエミレーツXRGのタデイ・ポガチャルとイサーク・デルトロを退けた、自らの進化を証明する勝利だった。

集団スプリントで3勝をマークしたティム・メルリール(ベルギー、スーダル・クイックステップ) photo:CorVos

スーダル・クイックステップのTarmac SL9。レトロオマージュのペイントが目立つ photo:Sotaro Arakawa
メルリールはRapidAir TLRタイヤを選択。スピードを重視したセッティングだ photo:CAuldPhoto/Specialized



さらに、同じ新型Tarmac SL9を駆るティム・メルリール(ベルギー、スーダル・クイックステップ)もまた、今大会、数少ない集団スプリントのチャンスを駆使してステージ3勝をマークした。エヴェネプールも含めてレッドブルとスーダルの選手たちは「Cotton TLR」タイヤを常用しているのに対し、メルリールはスピードを重視してRapidAir TLRを選んでいることも興味深い。

山岳で勝利したエヴェネプールと、高速スプリントを制したメルリール。脚質もセッティングも異なる2人の勝利は、ポジションやギア比、ホイール、タイヤを選手ごとに最適化しながら、山岳と平坦の双方を1台で戦えるSL9のオールラウンド性能を、結果をもって証明するものだった。

レッドブル・ボーラ・ハンスグローエのメカニックに聞く

レムコ・エヴェネプールの専属メカを務めるダリオ・クルーク氏。バイクのセットアップや運用について聞いた photo:Sotaro Arakawa

男女のツールで、山岳と平坦の双方で勝利を重ねるSL9は、現場でどのように運用されているのだろうか。エヴェネプールのいとこであり、そのバイクを担当するメカニック、ダリオ・クルーク氏に、ツール初登場となったSL9の運用などについて話を聞いた。

クルーク氏がフルシーズンで働くメカニックとなって今季で4年目。それ以前はフリーランスとしてチームに携わっていた経歴を持つ。

「よりエアロになって、各部もワイドになった。組み立て方に多少の違いはあるが、基本的な構造はSL8と同じ」とクルーク氏はTarmacの変化を語る。「SL8も扱いやすいバイクだったが、SL9も同じくらい扱いやすい」といい、作業面での戸惑いはほとんどないという。

エヴェネプールのメインバイク。オリンピック王者を示すスペシャルペイントだ photo:Sotaro Arakawa

ステージに応じてフロントシングルを運用。ゴールドの特別チェーン&スプロケットを使う photo:Sotaro Arakawa
レッドブルはスラムを使う。ハンガーがUDHとなり、より親和性が高まったという photo:Sotaro Arakawa


メカニック目線での変化として挙がったのがユニバーサル・ディレイラー・ハンガー(UDH)の採用だ。「現時点ではXPLR系(スラムのグラベルコンポーネント)の機材は使っていないが、今年の冬から来年のクラシックに向けて、より大きなカセットを使うテストを始めるはず」とクルーク氏。「来年はステージレースでもフロントシングルを使うことがあるかもしれない」とも言い、UDHがもたらす選択肢の広がりを歓迎する。「これまでとは異なるカセットを使うきっかけにもなる。そうした進化に対応するスペシャライズドと一緒に仕事ができることを光栄に思う」。

今大会でエヴェネプールのために用意されたロードバイクは全部で4台。うち3台は五輪金メダリストであることを示すゴールドデザインで、残る1台は第15ステージの勝利を掴んだ黒の軽量ペイントモデル。もう一人のエース、フロリアン・リポヴィッツ(ドイツ)にも同じく軽量仕様が供給されていた。

山岳ステージで特別カラーのSL9を駆るエヴェネプール photo:CorVos

エヴェネプールをはじめ、2チームの選手たちが今大会で使用したロヴァールホイールは、フロント63mm/リア58mmのリムハイトを持つRAPIDE CLX SPRINTと、フロント51mm/リア48mmのリムハイトを持つRAPIDE CLX Ⅲという2種類。前後セット1,131gという軽さを誇るAlpinist CLX IIIはUCIの最低重量を下回ること、そして2モデルと比べて空力面で劣ることから使われていない。

クランク長は165mm。ポガチャルら160mmクランクを使う選手も増えているものの、この長さを選ぶ理由をクルーク氏はこう説明する。「従来どおりのケイデンスで脚を回すためでもあるけれど、それ以外にも空力やポジションを含め、あらゆるデータを取っている。そうした数値から165mmが最適だという結論に至っている」。

山岳用の軽量バイクはフロントダブル仕様で組まれていた。広いスピード域に対応するための選択と思われる photo:CorVos

サドルはS-Works Power EVO with Mirror。ベースはゴールドカラーに彩られた特別品 photo:Sotaro Arakawa
ペダルはスラム傘下のタイムではなくシマノのDURA-ACE photo:Sotaro Arakawa


タイヤの空気圧は基準値としてフロント4.4bar、リア4.6bar。「ドライコンディションではその数値で、雨のレースではもう少し下げる」といい、平坦か山岳かによる調整は行わないという。「基本的には天候によって調整する。コースに未舗装路区間があれば、ドライでも0.2〜0.3barほど下げることはある」。タイヤの交換頻度は「路面や目視で確認したタイヤの状態によるが、ツールでは4〜5日ごと」。状態が良ければさらに使用を続けることもあるそうだ。

機材の選定プロセスについては「まずチームのエンジニアが、使用する機材の予定表を作る。それはグランツールに限らず、小さなレースでも同じ」と説明。その上で「レムコは大枠ではチームの予定どおりの機材を使うが、レースによってフロントシングルやダブルを希望するなど、本人の意見も反映される」といい、ステージの試走後にも機材について話し合いを重ねているという。

女子ツールで開幕2連勝 その勢いは止まらない

女子ツール初日に勝利したロレーナ・ウィーベス(オランダ、SDワークス・プロタイム)。ステージ2位と3位もSL9を駆る選手だった photo:CorVos

男子ツールでSL9が証明した山と平坦の両立性能は、現在開催中のツール・ド・フランス・ファムでも早くも裏付けられつつある。8月1日にスイス・ローザンヌで開幕した今大会、序盤2連戦を制したのはロレーナ・ウィーベス(オランダ、SDワークス・プロタイム)。初日は4級山岳の登りフィニッシュ、2日目はジュネーブへの平坦決戦、性格の異なる2つのステージをともにスプリントで制してマイヨジョーヌを手にした。彼女が駆るのも、男子と同じくデビューしたばかりの新型Tarmac SL9だ。

特筆すべきは、開幕ステージのトップスリーをSL9が独占したこと。1位ウィーベスに続き、2位にキンバリー・ルコート(モーリシャス、AGインシュランス・スーダル)、3位にデミ・フォレリング(オランダ、FDJユナイテッド・スエズ)と、いずれもスペシャライズドと契約する別々のチームの選手が並んだ。異なる3人が初戦から同じバイクで上位を分け合ったこともまた、SL9のポテンシャルの高さと信頼性を物語る一場面と言えるだろう。

女子ツール第2ステージもまたウィーベスの独壇場。マイヨジョーヌを纏い、圧倒的なスプリントで2連勝をマークした photo:CorVos

総合優勝候補筆頭のデミ・フォレリング(オランダ、FDJユナイテッド・スエズ)。欧州女王のチャンピオンジャージと揃えたSL9を駆る photo:CorVos
スーダル・クイックステップの女子チームであるAGインシュランス・スーダルもSL9に乗る。キンバリー・ルコートが総合成績を狙っている photo:CorVos


チームジャージと同じ、ポップな色合いのSL9に乗るSDワークス・プロタイム photo:CorVos

SL9はすでに男女問わずWorldTourの主戦場でシェアを広げつつある。山岳ステージでの総合争いから平坦スプリントまで——SL9の"オールラウンド"という看板は、男子ツールに続き、女子の現場でも早々に結果で裏付けられ始めている。

Tarmac SL9販売ラインナップ

Tarmac SL9の販売パッケージは、8月5日現在、選手たちが駆るバイクと全く同じS-Worksグレードのみ。完成車パッケージはスラムRED AXS完成車(3色)とシマノDURA-ACE完成車(1色)の2バリエーション展開で、フレームセットは4つのチームレプリカを含めて合計14カラー展開となる。

完成車は、スラム/シマノ組どちらもプロチームのメインホイールであるロヴァール Rapide CLX IIIをセットして1,980,000円(税込)。通常カラーのフレームセットが880,000円(税込)で、レッドブル・ボーラ・ハンスグローエとスーダル・クイックステップ、FDJユナイテッド・スエズ、そしてSDワークス・プロタイムと男女2チームずつラインナップされるチームレプリカが935,000円(税込)だ。

スラム Red完成車

コンポーネントSRAM RED AXS E1
ボトムブラケットCeramic Speed BB Aplha
タイヤCotton TLR 30C
ホイールRoval Rapide CLX III
ハンドルRoval Rapide Cockpit
サドルS-Works Power with Mirror
参考重量6.6kg(56サイズ)
カラーSatin Silver Dust
Gloss White Silver Metallic
Gloss Ruby Metallic
税込価格1,980,000円

シマノ Dura-Ace完成車

コンポーネントShimano Dura-Ace R9250
ボトムブラケットCeramic Speed BB Aplha
タイヤCotton TLR 30C
ホイールRoval Rapide CLX III
ハンドルRoval Rapide Cockpit
サドルS-Works Power with Mirror
参考重量6.6kg(56サイズ)
カラーSatin Carbon
税込価格1,980,000円

チームレプリカ・フレームセット

スペシャライズド S-Works Tarmac SL9 フレームセットチームレプリカ (c)スペシャライズド・ジャパン

SDワークス・プロタイム(Gloss Vivid Red)
FDJユナイテッド・スエズ(Satin Red Tint)
スーダル・クイックステップ(Gloss Blue Onyx)
レッドブル・ボーラ・ハンスグローエ(Gloss Metallic White Silver)
935,000円(税込)

フレームセット

Gloss Dolomite MetallicGloss Dove Grey
Gloss Vivid RedRTP Raw Carbon
Gloss CarbonGloss White Silver Metallic
Gloss Powder LimeGloss Powder Lime
Gloss Vivid Red / Tarmac BlackSatin Carbon
880,000円(税込)
提供:スペシャライズド・ジャパン | 制作:シクロワイアード編集部