ツールやジロで区間優勝を挙げ、2017年ブエルタでは総合3位に入ったイルヌル・ザカリン(ロシア)が引退を発表。所属したガスプロムが活動停止に追い込まれる不遇な形での引退だが、今後も自転車界に携わっていくという。



2016年ツール・ド・フランスのプレゼンテーションでインタビュワーからマイクを奪うイルヌル・ザカリン2016年ツール・ド・フランスのプレゼンテーションでインタビュワーからマイクを奪うイルヌル・ザカリン photo:Makoto.AYANO
「正式に自転車選手からの引退を発表する。僕は20年以上に渡り様々なレースで成功と失敗、栄光と挫折を経験した。そしていま、次なる目標に向け動き出す時がきた。これは僕自身にとって全く新しいステージかつ、スタートなんだ」とイルヌル・ザカリン(ロシア)は自身のインスタグラムでそう伝えた。

1989年9月15日にロシア連邦タタールスタン共和国で生まれたザカリンは32歳。パンチ力のあるクライマーとして2012年にカチューシャでプロデビューを果たすと、ツール・ド・ロマンディでの総合優勝をはじめ、ジロ・デ・イタリアやツール・ド・フランスで区間優勝するなど活躍した。

しかし一方で、ザカリンのプロ生活は不運との戦いだったとも言える。2015年にその才能を開花させ、2016年にツール第17ステージで勝利を挙げたザカリン。勢いそのまま2週間後のリオ五輪に出場する予定だったものの、ロシアによる国家ぐるみのドーピング問題により直前で出場がキャンセルとなった。

クリストファー・フルーム(イギリス、現イスラエル・プレミアテック)が総合優勝した翌年2017年のブエルタ・ア・エスパーニャでは、ヴィンチェンツォ・ニバリ(イタリア、現アスタナカザフスタン)に次ぐ総合3位で表彰台に上がったザカリン。しかし2019年にカチューシャ・アルペシンが解散すると、加入したCCCチームも僅か1年でタイトルスポンサーが撤退・解散。ダウンヒルでの落車も多く怪我にも悩まされた。

2016年ツールで独走フィニッシュするイルヌル・ザカリン(ロシア、当時カチューシャ) 2016年ツールで独走フィニッシュするイルヌル・ザカリン(ロシア、当時カチューシャ) photo:Makoto.AYANO
2019年ジロ第13ステージで優勝を飾ったイルヌル・ザカリン(ロシア、当時カチューシャ) 2019年ジロ第13ステージで優勝を飾ったイルヌル・ザカリン(ロシア、当時カチューシャ) photo:LaPresseフルームらを抑え総合優勝に輝いた2015年ツール・ド・ロマンディフルームらを抑え総合優勝に輝いた2015年ツール・ド・ロマンディ photo:http:www.tourderomandie.ch

ザカリンはその後、活躍の場を求め古巣ガスプロム・ルスヴェロに加入。だが今年2月にロシアがウクライナへの軍事侵攻を行ったため、UCI(国際自転車競技連合)はロシア企業をメインスポンサーとするチームに対して活動停止処分を下した。その後もチームはスポンサーの募集など活動継続を模索したものの、6月11日現在も目立った動きはなく、事実上活動停止状態にあった。

不運が重なり、満足な形での引退が叶わなかったザカリンだが、引退と同時に「Inex Club」というアマチュアやプロに質の高いトレーニングを提供するプラットフォーム発足を発表した。これはカチューシャとガスプロムでチームメイトだったヴィチェスラフ・クズネツォフと共にスタートさせたサービスで、ザカリンは「僕という物語の次なる章はスポーツと深く関係する。このチームの目標は選手に機会を与えること。これが僕のしたかったことかつ、僕が情熱を注ぐものだ」と、次なる目標に向けて意気込みを語っている。

その記録以上にファンの記憶に残ったザカリン。現役最後のレースとなったのは今年2月4日のボルタ・ア・ラ・コムニタ・バレンシアナ第3ステージで、最終リザルトはキャリアを通して苦手とした下りでの落車、棄権だった。

text:Sotaro.Arakawa