アルデンヌ開幕戦アムステルゴールドレースは、今年も写真判定のスプリントに。ミハウ・クフィアトコフスキ(ポーランド、イネオス・グレナディアーズ)がブノワ・コスヌフロワ(フランス、AG2Rシトロエン)を僅差で下し、2015年に続く大会2勝目を挙げた。



晴天のマーストリヒト。大観衆の前でチームプレゼンが催された晴天のマーストリヒト。大観衆の前でチームプレゼンが催された photo:CorVos
「アルデンヌ・クラシック」が第56回アムステルゴールドレース(UCIワールドツアー)で開幕。今年はレーススケジュール変更によって、1週間おきに「ロンド→アムステル→パリ〜ルーベ」と続き、ルーベの3日後水曜日にフレーシュ・ワロンヌが、その週末日曜日にリエージュ〜バストーニュ〜リエージュが開催されるという、これまでにない順番に置き換わっている。

真っ平らな国土のイメージが強いオランダだが、アムステルゴールドレースの開催地はベルギーとドイツに隣接した同国南部に広がる丘陵地帯。昨年はコロナ禍による制限を受けてリンブルフの丘を巡る周回コースが用意されたものの、規制緩和に伴い普段通りのレースコースに戻っている。

コースはワロン地域を縦横無尽に駆け抜ける254.1kmで、「1000のカーブ」と呼ばれるほど複雑なコースが特徴だ。今年は33ヶ所の短い登坂(ベルグ)が用意され、それ以外にも無数の上りとコーナーが選手たちを待ち受ける。最もに標高の高い場所でも350mほどだが、レース全体の総獲得標高は3,500mほどに達する。

最終参戦となるフィリップ・ジルベール(ベルギー、ロット・スーダル)に記念品が渡された最終参戦となるフィリップ・ジルベール(ベルギー、ロット・スーダル)に記念品が渡された photo:CorVosマーストリヒト出身のトム・ドゥムラン(オランダ、ユンボ・ヴィスマ)に声援が飛ぶマーストリヒト出身のトム・ドゥムラン(オランダ、ユンボ・ヴィスマ)に声援が飛ぶ photo:CorVos

逃げるヴィクトール・カンペナールツ(ベルギー、ロット・スーダル)やイーデ・スヘリング(オランダ、ボーラ・ハンスグローエ)逃げるヴィクトール・カンペナールツ(ベルギー、ロット・スーダル)やイーデ・スヘリング(オランダ、ボーラ・ハンスグローエ) photo:CorVos
晴天のマーストリヒトを出発すると、すぐに7名が逃げグループを形成した。ユンボ・ヴィスマはコロナ回復中のワウト・ファンアールト(ベルギー)を欠きつつもネイサン・ファンホーイドンク(ベルギー)を送り込み、イーデ・スヘリング(オランダ、ボーラ・ハンスグローエ)やヴィクトール・カンペナールツ(ベルギー、ロット・スーダル)も合流を果たした。

暫くレースは順調かつ平穏に推移していたものの、フィニッシュまで90km以上を残したタイミングでマチュー・ファンデルプール(オランダ)要するアルペシン・フェニックスがメイン集団のテンポを上げはじめた。元ベルギー王者ドリス・デボントが牽引する集団の後方では落車が頻発。前輪を滑らせ、顔面着地したのち暫く動けなかったサムエーレ・バッティステッラ(イタリア、アスタナ・カザフスタン)は歯を1本失うも、治療ののちチームへと戻っている。

無数に続く登坂区間を越えるたびに集団のペースアップが図られ、26番目の登坂「グルペルベルグ」ではティム・ウェレンス(ベルギー、ロット・スーダル)とクリストフ・ラポルト(フランス、ユンボ・ヴィスマ)が飛び出すシーンも。この試みはすぐイネオス・グレナディアーズに捉えられたものの、ここからの50km区間でレースが緩むことは一切なかった。

かつてフィニッシュラインが引かれていたカウベルグを登るかつてフィニッシュラインが引かれていたカウベルグを登る photo:CorVos
大声援の中フィニッシュ地点を通過していく大声援の中フィニッシュ地点を通過していく photo:CorVos
レース後半、メイン集団から抜け出しを試みるティム・ウェレンス(ベルギー、ロット・スーダル)レース後半、メイン集団から抜け出しを試みるティム・ウェレンス(ベルギー、ロット・スーダル) photo:CorVos
イネオスのペースメイクは強力だった。レースを困難なものにするという明確な意志を持ったベン・ターナー(イギリス)による15km以上の牽引でメイン集団は一気に縮小し、当初からの逃げメンバーを全て引き戻す。最大22%を誇る30番目の登坂「ケウテンベルグ」ではティシュ・べノート(ベルギー、ユンボ・ヴィスマ)のアタックによって、イネオスのトーマス・ピドコック(イギリス)とミハウ・クフィアトコフスキ(ポーランド)やファンデルプール、シュテファン・キュング(スイス、グルパマFDJ)、マイケル・マシューズ(オーストラリア、バイクエクスチェンジ・ジェイコ)、そしてマルク・ヒルシ(スイス、UAEチームエミレーツ)を含む精鋭グループが形作られた。

11名の先頭グループが、10名の追走グループと追走劇を繰り広げながら大歓声に包まれたフィニッシュラインを通過する。すると同時にクフィアトコフスキがアタックし、続く登坂区間ではブノワ・コスヌフロワ(フランス、AG2Rシトロエン)が抜け出して元世界王者に合流を果たした。

セレクションを掛けたティシュ・べノート(ベルギー、ユンボ・ヴィスマ)セレクションを掛けたティシュ・べノート(ベルギー、ユンボ・ヴィスマ) photo:CorVos
20秒リードで逃げるミハウ・クフィアトコフスキ(ポーランド、イネオス・グレナディアーズ)とブノワ・コスヌフロワ(フランス、AG2Rシトロエン)20秒リードで逃げるミハウ・クフィアトコフスキ(ポーランド、イネオス・グレナディアーズ)とブノワ・コスヌフロワ(フランス、AG2Rシトロエン) photo:CorVos
登坂区間で競り合うエドワード・トゥーンス(ベルギー、バーレーン・ヴィクトリアス)とトーマス・ピドコック(イギリス、イネオス・グレナディアーズ)登坂区間で競り合うエドワード・トゥーンス(ベルギー、バーレーン・ヴィクトリアス)とトーマス・ピドコック(イギリス、イネオス・グレナディアーズ) photo:CorVos
順調にハイペースを刻むクフィアトコフスキとコスヌフロワに対し、「脚がなかったし、後ろに入って追いつくというギャンブルに出た」と言うファンデルプールたちが20秒差で追いかける。しかしスプリントに強いファンデルプールやマシューズと一緒に行くことを嫌う共通意志がはびこったため思うような協調体制は取れずじまい。アタックと吸収が行われるたびに意志統一が崩れ、最終的にこの第2グループがクフィアトコフスキとコスヌフロワを捉えることは叶わなかった。

出遅れながらも残り400mで追いつき、そのままスプリントで制した2019年大会の再現を目指してファンデルプールが最後の登坂区間で仕掛けたものの、牽制せずホームストレートを駆け抜ける先頭2人との差は14秒止まり。合流を諦めたファンデルプールたちの目の前で、逃げ切りを掴んだ2人によるマッチスプリントが始まった。

ハンドルを投げ込むミハウ・クフィアトコフスキ(ポーランド、イネオス・グレナディアーズ)とブノワ・コスヌフロワ(フランス、AG2Rシトロエン)ハンドルを投げ込むミハウ・クフィアトコフスキ(ポーランド、イネオス・グレナディアーズ)とブノワ・コスヌフロワ(フランス、AG2Rシトロエン) photo:CorVos
勝利の確信が持てないミハウ・クフィアトコフスキ(ポーランド、イネオス・グレナディアーズ)とブノワ・コスヌフロワ(フランス、AG2Rシトロエン)勝利の確信が持てないミハウ・クフィアトコフスキ(ポーランド、イネオス・グレナディアーズ)とブノワ・コスヌフロワ(フランス、AG2Rシトロエン) photo:CorVos
先行コスヌフロワ、後追いクフィアトコフスキ。確実に逃げ切れることを確認した2人は、少々の牽制を挟んで加速体制に入った。小集団ゴールスプリントに長けるクフィアトコフスキ優勢かと思われたものの、先んじてスプリントしたコヌフロワが粘り続ける。「勝負に自信があったけれど、50mを切って横に並んでもなおコスヌフロワは加速しているように見えた」とクフィアトコフスキが舌を巻くほどの接戦の末、2人は互いに勝利を確信できないままフィニッシュ。写真判定の末(一度はコスヌフロワに勝利が伝えられた)、完璧な「ハンドル投げ」を披露したクフィアトコフスキが、僅かリムとタイヤの差で勝利をもぎ取った。

6時間に及ぶ戦いの末、その差はたった8cmほど。レース後半のペースアップによる篩い分けと、ピドコックとの連携、そして得意のマッチアップでの勝利。イネオス・グレナディアーズが完璧な筋書きでアルデンヌ初戦優勝を射止めることに。

一度は勝利を伝えられたブノワ・コスヌフロワ(フランス、AG2Rシトロエン)だったものの...一度は勝利を伝えられたブノワ・コスヌフロワ(フランス、AG2Rシトロエン)だったものの... photo:CorVos
アムステルゴールドレース2022表彰台アムステルゴールドレース2022表彰台 photo:CorVos
特大ジョッキでアムステルビールを飲むミハウ・クフィアトコフスキ(ポーランド、イネオス・グレナディアーズ)特大ジョッキでアムステルビールを飲むミハウ・クフィアトコフスキ(ポーランド、イネオス・グレナディアーズ) photo:CorVos
「レース直後はとても混乱したよ。(コスヌフロワが喜んでいるのを見て)最初は2着だと思ってとても悲しかった。今日は勝つことしか考えていなかったから。去年はトム(ピドコック)が写真判定で負けていたのもあってがっかりだったけれど、結果を信じて待ち続けることが大事だと学んだよ」とクフィアトコフスキはフィニッシュインタビューで言う。「今年はコロナとインフルエンザにかかり、自分のレースプログラムをこなすことができなかったんだ。その分この勝利は信じられない気分だ」と加えている。

一方、コスヌフロワは「勝ちたかったけれど、それでも素晴らしい表彰台だと思う。今日は調子も良くレース中は自分が最も強い一人だとわかっていたんだ。最終盤は多くの仕事をした。アルデンヌはあと3レース残っている。僕らは良い流れの中にいる」と、再戦でのリベンジを意気込んだ。
アムステルゴールドレース2022結果
text:So.Isobe