一漕ぎするだけで、これは凄いぞと思わされた。先代の持ち味だったアルミらしい剛性感はそのままに、ダンシングの軽快感が飛躍的に向上していたのだ。スペシャライズドの2022年注目作、Allez Sprintのファーストインプレッションを、本社スタッフの言葉を挟みながらお届けする。



スペシャライズド ALLEZ SPRINT COMP(ホイールはロヴァール Rapide CLXに換装)スペシャライズド ALLEZ SPRINT COMP(ホイールはロヴァール Rapide CLXに換装) photo:Makoto AYANO
スペシャライズドが、6年ぶりにアルミパフォーマンスモデルのAllez Sprint(アレー・スプリント)をフルモデルチェンジした。Tarmac SL7と見紛うばかりのフォルムとなったことはもちろん、同社が誇るSmartweld(スマートウェルド)のアップデートなど、PR資料に並ぶ謳い文句を目にした時、私(CW編集部・磯部)は大きく心を動かされた。

なぜなら、私自身が先代Allez Sprintを過去に所有していたからだ。それはディスクブレーキモデル登場前のリムブレーキ版で、一世を風靡したレッドフック・クリテリウムカラーの限定モデル。カラーにあやかってスラムのForce 1でフロントシングルスピード仕様に仕立て、溶接取り付けのディレイラーハンガーを切り落としたり、ロヴァールのCLX50ホイールを組み合わせたり、ジップの極太ステムをつけてみたり、可能な限りのカスタムを施すほどに入れ込んだのだから。

だからこそ、スペシャライズド・ジャパンがオンラインプレゼンテーションを経て、テストバイクを送付してくれるという話にすぐさま立候補したのだ。

ダウンチューブからBBまでアルミチューブの引き抜きで作られる。溶接箇所を減らすことに成功したダウンチューブからBBまでアルミチューブの引き抜きで作られる。溶接箇所を減らすことに成功した アルミ合金板を切り出し、機械成形を施したというヘッドチューブ。開発上最も手間のかかった部分だというアルミ合金板を切り出し、機械成形を施したというヘッドチューブ。開発上最も手間のかかった部分だという

トップチューブとダウンチューブとの接合箇所を先代モデルよりも後方に移動させているトップチューブとダウンチューブとの接合箇所を先代モデルよりも後方に移動させている
スペシャライズドにとって、「Allez」は1981年の創業以来ずっとラインアップにある大切なモデル名だ。創業者であるマイク・シンヤードは1983~84年に日本を訪れ、ミヤタの元で得たビルディング技術を落とし込むなど、初期のAllezは日本との結びつきも深い。

アメリカ本社と繋いだプレゼンテーション中の言葉によれば、2015年にデビューした初代Allez Sprintは「ユースカルチャーバイクとしての地位を築いた」バイクだ。独自の製造技術かつ特許取得済みのSmartweldを飛躍させ、パフォーマンスはもちろん、ピストクリテリウムに代表されるライディングカルチャーやスタイル、アートすらも融合させた。これが世界中で若手ライダーの心をがっしりと掴んだ。

開発を主導し、自身もUCIプロコンチネンタルチームの一員として走る(2018年にはツアー・オブ・ジャパンも完走)キャメロン・パイパー氏が強く推し出したのは、新型Allez Sprintは「世界最速のアルミスーパーバイク」だということ。エアロ性能を押し上げ、ケーブルやブレーキホースをフル内装化させ、2020年代のバイクとしてふさわしいスペックまで昇華させている。

コンパクトなリアバック。溶接箇所が分かるのも興味深いコンパクトなリアバック。溶接箇所が分かるのも興味深い
有機的なフォルムを描くトップチューブ有機的なフォルムを描くトップチューブ チェーンステーは縦に薄くなった。これによるためか、ダンシングの軽快感が向上チェーンステーは縦に薄くなった。これによるためか、ダンシングの軽快感が向上


少し前に知り合いのアメリカ人ジャーナリストに聞いた話だが、アメリカ、特にカリフォルニアではエアロロードバイクを求める需要が高いのだという。なぜなら、彼の地ではエントリーアマチュアからプロレベルまでクリテリウムカルチャーが盛んだから。それが結果的にレッドフック・クリテリウムや、ウィリアムズ兄弟率いるリージョン・オブ・ロサンゼルス(L39ION OF LOS ANGELES)といった人気プロチームの創出に繋がった。

ここで好まれるのがスプリントが「掛かる」エアロバイクで、特にアマチュアカテゴリーでは落車にも強いバイクが求められる。それを前提にネットオークションで中古のアルミバイクを探し求めて走らせるアマチュアレーサーも一部には存在するというのだ。

シートポストはS-Works Tarmac SL7と共通。乗り心地の向上が図られているシートポストはS-Works Tarmac SL7と共通。乗り心地の向上が図られている シートチューブは特にTarmac SL7と見紛うばかりシートチューブは特にTarmac SL7と見紛うばかり ストレート形状のフロントフォークはTarmac SL7と共通ストレート形状のフロントフォークはTarmac SL7と共通


そしてスペシャライズド本社が位置する場所こそ、そんな風土のど真ん中にあるカリフォルニア州モーガンヒルだ。キャメロン氏はもちろん、開発チームの内部には地元のアマチュアチームで走るプロ級選手も多く、当然ショーアップされたプロクリテリウムも走る。Allez Sprintはそういったフィードバックを敏感にキャッチし、その場面で最も活躍するように作られたハイパフォーマンスバイクなのだ。

とにかくダンシングの軽快感が凄い。アルミバイクとは思えないとにかくダンシングの軽快感が凄い。アルミバイクとは思えない photo:Makoto AYANO
さて、インプレッションである。今回借り受けたのは機械式変速/油圧ディスクブレーキのシマノ105で組まれた「ALLEZ SPRINT COMP」完成車。デフォルトのDTスイス(R470)ではなく、ロヴァールのRapide CLXホイールを別に借り、セットアップした上でテストライドに繰り出した。

過去に所有していたAllez Sprintの乗り味を一言で表現するならば、「ザ・スプリンターマシン」。とかく縦にも横にも高剛性で、ハイパワーの踏み込みに対してガツンと加速してくれる。その一方で硬さゆえ、流して走っていても正確なペダリングを要求してくるので、私レベルの脚の場合、100kmを超えるライドだと結構疲れが溜まるということも感じていた(それがのちのちカーボンバイクへと乗り換える最大の理由に)。

でも、この新型Allez Sprintは、ペダルをはめて走り出した瞬間に分かるほど、加速が軽やかだ。もちろんスプリントに対してガツンと加速するAllez Sprintらしさは色濃く存在するものの、嫌な意味での「塊感」が、かなり薄くなった。特にダンシングの軽やかさは特筆すべきレベルで良くなった。

驚いてボトムブラケット周辺に目を落とすと、前作よりもチェーンステーが縦に細くなっていることに気づいた。ペダルに足をかけて横方向にグイッと押し込むと、目に見えて柔軟性が上がっている。恐らくリアバックが良く動くようになったことでダンシングの軽快感が増し、それでいて縦剛性は高いままなのでヨレずにしっかりとスプリントが掛かる。「カーボンキラー」とは高性能アルミロードに対してよく使われる言葉であるものの、新型Allez Sprintは同価格帯はもちろん、もう一つ、あるいは二つ価格帯が上のカーボンロードすら撃ち落とせるレベルに仕上げられている。

軽く、流れるカーボンホイールとの相性がとても良いように感じた。Rapideシリーズや、新型デュラエースのホイールはベストマッチだろう軽く、流れるカーボンホイールとの相性がとても良いように感じた。Rapideシリーズや、新型デュラエースのホイールはベストマッチだろう photo:Makoto AYANO
Venge ViASベースの前作から脱却し、Tarmac SL7そっくりなフォルムに生まれ変わった新型Allez Sprintだが、なにもTarmac SL7のアルミ版を作ろうとしたわけではなく、今考えられるハイパフォーマンスモデルをアルミ合金で作ったらこの形に行き着いたという。キャメロン氏曰く、例え短時間高強度のクリテリウムであっても快適性は必要であり、そのために今スペシャライズド唯一無二のハイパフォーマンスロードであるTarmac SL7のシートポストとフロントフォークが落とし込まれているのだ。

確かにコーナリング中もフロントホイールは狙ったラインを通るし、ターン中でも更に切り込めるほどハンドリングはビタビタに決まる。ただしやはりアルミらしい乗り味は確実にあって、上で書いた軽快感も、もちろんS-WORKS Tarmac SL7のようなハイエンドカーボンバイクと比べれば、長い登りや、高出力時の脚への跳ね返りと乗り心地といった側面で少し苦しいシーンはある。

そこで助けになってくれたのが試乗車にセットしたRapide CLXホイールだった。出だしが軽やかで、流れるように速度が乗っていくこのホイールは、悪い意味でのアルミフレームらしさを消し、メリットを増幅させてくれる。20万円のフレームに前後セット35万円のホイールを入れるのは少しどうかとも思うけれど、例えば同CL50 Discや、話題の新型デュラエースホイールといった、20万円台フラットかつ高性能なホイールであれば価格的にも性能的にも釣り合うだろう。

アルミらしい塊感は感じるものの、バネ感が増したことで短い登坂なら十分に勢いで押し切れるアルミらしい塊感は感じるものの、バネ感が増したことで短い登坂なら十分に勢いで押し切れる photo:Makoto AYANO
キャメロン氏によれば、謳い文句の「世界一速いアルミロード」という表現は、特にレースシーンでの走りを指すのだという。空力面はもちろんのこと、フレーム剛性もTarmac SL7開発時の設定を超えているという。開発に携わったリージョン・オブ・ロサンゼルスのウィリアムズ兄弟もすぐにAllez Sprintでレースに出たいと話していたとのことだが、乗車後はそれも納得できてしまった。

私自身、感じたのはこの部分だ。もちろんロングライドにだって連れ出せるけれど、Allez Sprintが一番輝くのはレースコース上だろう。国内レースの大部分である1時間以内のレースならば、多少の登りがあろうが大きな味方になってくれるはず。

先代よりも良い意味でアルミらしさ感じ、悪い意味のアルミらしさを感じない。新型Allez Sprintはとても優秀なレーサーバイクだった先代よりも良い意味でアルミらしさ感じ、悪い意味のアルミらしさを感じない。新型Allez Sprintはとても優秀なレーサーバイクだった photo:Makoto AYANO
アルミバイクとして走りは超一級。価格も最近のカーボンレースバイクに比べれば手も出しやすく、万が一落車を考えてもアルミゆえの安心感は絶大。モデルチェンジによってAllez Sprintは、ホビーレーサーが殊更注目すべきバイクへと生まれ変わった。



スペシャライズド Allez Sprintスペック
フレーム:Specialized E5 Premium Aluminum Disc frame with D'Aluisio Smartweld Sprint Technology, hydroformed aluminum tubing, tapered head tube, fully internally routed cables, threaded BB
フォーク:FACT Carbon, 12x100mm thru-axle, flat-mount disc
シートポスト:2021 S-Works Tarmac Carbon seat post, FACT Carbon, Di2 Compatible, 20mm offset
フレームサイズ:49、52、54、56、58、61

販売モデル
ALLEZ SPRINT LTD

コンポーネント:SRAM FORCE ETAP AXS 1X
ハンドル:S-Works Aerofly II
ステム:Specialized Pro SL
ホイール:Roval Rapide CL
タイヤ:S-Works Turbo
価格:792,000円 (税込)
製品詳細ページ: https://www.specialized.com/jp/ja/p/189819

ALLEZ SPRINT COMP
コンポーネント:シマノ 105
ホイール:DT Swiss R470
タイヤ:Turbo Pro
価格:352,000円 (税込)
製品詳細ページ: https://www.specialized.com/jp/ja/p/189818

ALLEZ SPRINT フレームセット
カラー:CHAMELEON OIL TINT/BLACK、WATER EFFECT/BLACK、RAW ALUMINUM - BLACK FADE/BLACK CHROME、Sand-White Mountains/Satin Red-Gold Pearl
価格:209,000円 (税込)
製品詳細ページ:https://www.specialized.com/jp/ja/p/189820

test:So Isobe
photo:Makoto AYANO

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