日本でも数少ないXCライダー向けのコースが伊豆・修善寺に整備されている。東京オリンピックのXCレースに参加する選手のために用意された練習コースが、五輪レガシーの一つとして国内のライダーに開かれていく予定とのことだ。



年々難化するといわれているXCO。東京五輪コースはそんな世界水準のコースだ年々難化するといわれているXCO。東京五輪コースはそんな世界水準のコースだ photo:Gakuto Fujiwara
東京オリンピックの熱狂からはや半年。トム・ピドコックやニノ・シューター、ヨランダ・ネフなど、テレビの向こう側の存在だった世界のトップ選手が来日し、そのハイレベルな走りを多くの観客の目に焼き付けていった。

ワールドカップを頂点とした世界のXCレースコースが年々厳しくなっていると言われ、機材もその環境に合わせた進化を遂げている。一方で、国内のXCコースはそこまで大幅には変わっておらず、世界水準というものを実際に感じる機会は少なかった。そんな中、修善寺の日本CSCに設置された五輪XCコースは、トップ選手をして難関コースと言わしめる難易度であり、日本のXCライダーやファンに世界のレベルを実感させるのにふさわしいもの。

急角度のドロップ「枯山水」をこなす先頭グループ急角度のドロップ「枯山水」をこなす先頭グループ photo:So.Isobe
とはいえ、あまりにも難易度が高いため一般ライダーにとっては危険なレベルでもある。事前の情報伝達のミスとはいえ、マチュー・ファンデルプールがクラッシュした「サクラドロップ」や、大きな岩が並べられた「枯山水」など、怪我のリスクも高く一般開放には難しいのも事実。

対象者を絞ったトレーニングイベントや、その難易度を体験してもらうためのコースウォークイベントなども企画されているとのことだが、やはりもう少し恒常的に利用できるフィールドがあれば、というのは国内のXCライダーにとっては一致した意見でもあるだろう。

一昔前ならばDHレースかと思わんばかりのドロップオフも登場する。一昔前ならばDHレースかと思わんばかりのドロップオフも登場する。 (c)Kazukabe vision filmz
「伊豆MTBトレーニングコース」五輪選手の調整のため造成されたXCコース

そんな声に応えるように、今一般公開に向けて整備が進んでいるのが「伊豆MTBトレーニングコース」だ。日本CSCの敷地に隣接する土地に整備が進むこのフィールドは、もともとオリンピックに出場する選手たちの事前練習や調整のために造成されたもの。

五輪選手の調整のため造成された「伊豆MTBトレーニングコース」五輪選手の調整のため造成された「伊豆MTBトレーニングコース」
コースを設計したのは日本のトレイルビルディングの第1人者ともいえる浦島悠太氏。さらにはコースディグや看板設置など、コースが出来上がるまで、現在コース管理を担当する伊豆北マウンテンバイク協会(以下、IMO)と共に活動していたという。

本コースほどの危険なセクションは無い一方で、登りも下りもバリエーションに富んだコースが用意され、ワールドクラスのライダーがしっかりフィジカルとスキルのコンディションを整えることが出来るコースとなっている。

コース入口には看板がしっかり立てられているコース入口には看板がしっかり立てられている
下りはフローで滑らかな路面。怖さが少なく初心者でも楽しめる。下りはフローで滑らかな路面。怖さが少なく初心者でも楽しめる。
スタート/フィニッシュ地点は各コース共通のトレイルヘッドとなっており、どのコースもまず下ってから登ってくる、というレイアウトになっている。平坦基調の2つの初級者コース、程よいアップダウンに富んだ6つのセクションからなる中級コース、激坂登りの上級コース、計9つのコースが用意されている。

中級コースといえども、ドロップオフやロックセクションといったリスキーな区間は無く、下りはかなりフローなトレイル。序盤にスラロームが登場したのち、森の中をトラバースしていく高速ダウンヒルセクションとなっている。

スイッチバックしながら林の中を登っていくスイッチバックしながら林の中を登っていく
しかし、登り区間に入ると一転路面は木の根だらけに。杉林の急斜面を蛇行しながら登っていくため基本的にはオフキャンバーで、次々に登場する木の根を処理しつつ、最適なラインの見極めとトラクションコントロールを要求されるコースとなっている。

今回の取材ではXCレース経験の豊富なライズライドの鈴木祐一さんとサイクルハウスミカミの三上和志さんがコースを走行。それでは、2人の所感をお伝えしよう。

「MTBライドの総合力を養えるフィールド」鈴木祐一(ライズライド)

「MTBライドの総合力を養えるフィールド」鈴木祐一(ライズライド)「MTBライドの総合力を養えるフィールド」鈴木祐一(ライズライド)
オリンピック選手のコンディショニングのために作られていること、浦島氏が設計されていることもあって、良く出来ているなぁ、というのが正直な感想ですね。下りのリズムも良いですし、コースごとの難易度設定も絶妙で、だんだんステップアップしていきやすそうです。

ゲレンデのようなジャンプセクションがあったり、コーナーでバームが切ってあったりということは無くて、いわゆる里山トレイル的な雰囲気なので、XCレーサーだけでなく初心者が山道を走る体験としても活用できそうです。

オフキャンバーの林間区間。木の根っこが多くテクニカルだオフキャンバーの林間区間。木の根っこが多くテクニカルだ
根っこの多い登りセクションも程よい難易度設定だと思いますね。スキル面でも挑戦し甲斐がありますし、周回ですから集中して練習できるのは嬉しいですね。

いわゆるスキルパークって、丸太越えがあって、一本橋があって……というのが多いじゃないですか。もちろん、そこで身につく動きはトレイルライドでも使われるものなんですが、やっぱり実際の走行シーンと結びつきづらい、イメージしづらいと思うんです。

この伊豆MTBトレーニングコースであれば、それがもっとリアルなシーンとして練習できるのは非常に良いですね。MTBライディングの基本となる要素が詰まっていて、トレイルを楽しむための総合力を養えるフィールドだと思います。

「登りを楽しみ上達できる貴重なコース」三上和志(サイクルハウスミカミ)

「登りを楽しみ上達できる貴重なコース」三上和志(サイクルハウスミカミ)「登りを楽しみ上達できる貴重なコース」三上和志(サイクルハウスミカミ)
MTBの常設コースというと、下り系のコースが多い中でこういった登りも楽しめるコースは貴重だと感じます。下りが好きな人からすると、登りなんて出来れば無いほうが良いじゃん!という方も多いと思いますが、スキルを養うのにテクニカルな登りというのはもってこいですから。

下りは重力が味方してくれるので「ラッキー」の連続で上手く下れることもあります。一方で、登りはむしろ重力は敵に回ってしまいますよね(笑)。なので登れなかった登りをクリアできるというのは、確実にスキルアップできたということなんです。

ですから、この伊豆MTBトレーニングコースのようにある程度チャレンジングな難易度で何度も反復練習できる規模感のコースはとても貴重ですし、有意義だと思います。国内のXCライダーは是非訪れてほしいですね。個人的にはもっと難易度の高い登りセクションがあると最高です(笑)

「自転車の性能も把握しやすくテストにもピッタリ」三上和志(サイクルハウスミカミ)「自転車の性能も把握しやすくテストにもピッタリ」三上和志(サイクルハウスミカミ)
また、進化を続けるXCバイクの性能を発揮できるフィールドとしても最適な環境ですね。正直、このコースをトレイルバイクで走ってしまうと面白くないと思うんです。下りではオーバースペックだし、登りは重いし(笑)。でも、XCやDCバイクであれば下りも全開で走れるし、登りも楽しめます。

今回は、サンタクルズの新型BLUR(XCフルサスバイク)のテストライドでもあったのですが、他のバイクと乗り比べると本当に違いが分かりやすい。一周の中に様々な要素があって、程よい難易度でバイクの性能差が出やすい。テストコースとしても理想的な条件ですね。

五輪レガシーとしての活用へ 一般開放へ向けて前進中

さて、このように伊豆MTBトレーニングコースは大きな魅力に満ちているだけに、自分も走ってみたい!と思われる読者も多いだろう。残念ながら現在は、基本的に誰でも走れるオープンなトレイルという訳ではない。

だが、本大会の開催から時を経て、一般利用への道筋をつけるべく、昨年末から定期的にIMO主催の走行会が開かれはじめた。

IMO代表の高橋弦一さんIMO代表の高橋弦一さん
これからの予定について教えてくれたのは、IMO代表であり三島市のスポーツバイクショップ"gennoji"の店主でもある高橋弦一さん。「3月にもう一度30人規模の走行会を開催予定です。参加方法はIMOのFBページからメッセージを送っていただければ。さらに4月からは体制も変わり、もっと積極的に発信できるようになると思います!」とのことだ。

これからどんどんと開かれていくであろう伊豆MTBトレーニングコース。日本CSCの五輪本コースの活用と合わせて、オリンピックレガシーが日本のXC界、ひいてはMTBシーンをさらに盛り上げていくことに期待したい。

text&photo:Naoki Yasuoka
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