ヴィットリアがリリースしたマウンテンバイク・ダウンカントリー系タイヤ"SYERRA"。いわゆるトレイル系とクロスカントリーレース系の中間に位置するニューカテゴリーのタイヤをインプレッション。



ヴィットリア SYERRAヴィットリア SYERRA
クロスカントリー(XC)とトレイルの中間に位置するマウンテンバイクのカテゴリーとして近年多くのバイクブランドが手掛け始めたダウンカントリー。XCバイクの登りを苦にしない軽快な走りと、トレイルバイクのダウンヒル性能を掛け合わせ、遊べるシチュエーションや幅を広げた機材やスタイルを指す、新たなカテゴリーとして注目の存在だ。

車体スペックの面からみると、フロントサスペンションのトラベル量が、XCレース系は90~110mmの間に落ち着き、トレイル系が130mm~150mmであることが多いのに対し、ダウンカントリーにカテゴライズされるバイクは120mmを中心に広がっている。

クロスカントリーやトレイルでもないカテゴリーとしてダウンカントリーを設定したヴィットリアクロスカントリーやトレイルでもないカテゴリーとしてダウンカントリーを設定したヴィットリア
XCレースよりもキャパシティの大きな機材を使うことで、安全にダウンヒルをこなしつつ、登りも楽しもうというジャンルに、ヴィットリアも"SYERRA"というタイヤで応えた。ヴィットリアはXC系タイヤやトレイル系でも2.35インチや2.6インチモデルを用意してきたが、それぞれ専用のケーシングやノブ、コンパウンド設計が行われており、各状況に特化したモデルとなっていた。

SYERRAではダウンカントリーケーシング、これまでにないトレッドパターンを採用し、新たなフィールドへの適性を確保した。センターノブは矢印のように方向をつけることで優れた転がり効率を実現。側面に張り出したサイドノブが高いグリップ力を発揮してくれるだろう。

サイズは小さいが背の高いノブが配置されているサイズは小さいが背の高いノブが配置されている
タイヤサイドまで張り出したノブがグリップ力を発揮するタイヤサイドまで張り出したノブがグリップ力を発揮する
コンパウンドはセンター部分に2層のXCセンター・トレッドコンパウンド、サイド部分に2層のトレイルサイド・トレッドコンパウンドという計4種類の素材が用いられている。ビード付近にはリム打ちからタイヤを守るアンチピンチフラット・インサートが配され、パンクのリスクを低減している。重量は850g。価格は8,030円(税込)。

今回はプロトタイプからテストを行っていたサイクルハウスミカミの三上和志さんにインプレッションを伺った。半年以上使い込みタイヤ性能を熟知したライダーの意見とは。



-インプレッション

「トレイルライドを楽しみながらテクニックを磨けるタイヤ」三上和志(サイクルハウスミカミ)

「ダウンヒルでも丁度よい剛性感が、安心感を生み出している」三上和志(サイクルハウスミカミ)「ダウンヒルでも丁度よい剛性感が、安心感を生み出している」三上和志(サイクルハウスミカミ)
SYERRAの開発目的はクロスカントリーのレーシングバイクで楽しく走ろうという点にあり、インナーチューブが32mmや34mm径のフロントフォークをアセンブルしたバイクを想定したタイヤです。レースのように速く走ろうとするだけではなく、登りと下りでタイヤのキャパシティの広さを活かし安全に楽しく走りながら、テクニックを磨けるタイヤだと思います。

クロスカントリー系タイヤは軽さのためにケーシングが薄く柔らかく作られているんですが、SYERRAは"もう少しだけ"硬く作られています。登りではしなやかさによるグリップ力、下りでは適切な剛性によるコントロール性や安定感が発揮されます。36mm径サス前提のコシの強いトレイル系タイヤとも違い、今までありそうで無かったポジションにいますね。

「タイヤのしなりがトラクションを生み出している」三上和志(サイクルハウスミカミ)「タイヤのしなりがトラクションを生み出している」三上和志(サイクルハウスミカミ)
しなやかさはケーシングと2.4インチという幅によるエアボリュームの大きさが生み出しています。路面の凹凸に弾かれないしなやかさを持ちつつ、腰砕け感を出さないスイートスポットを見つけやすいタイヤだと思います。XCタイヤやトレイルタイヤをダウンカントリー用として使おうとすると、スイートスポットが見つけにくいことがありますが、SYERRAはセッティングが出しやすいです。さすがは専用に開発した物だけあります。

ダウンカントリーというと"下り用"というイメージを持つかもしれませんが、他のどのジャンルのタイヤよりも登りの限界値が高いので、激坂登りも「どこまで足をつかずに登れるか!」といったトライも楽しめます。

例えば急坂などの難所で、XC系タイヤでは速さを優先させ、スピードを上げた状態の慣性力で乗り越えたり、ランニングでクリアしたりする区間がありますが、ダウンカントリータイヤは低速域でのトラクション性能が高いため、丁寧なペダリングを心がければ、急坂もクリアできます。

「登りでも普段とは違うラインを試し、テクニックを磨くと速さに繋がる」三上和志(サイクルハウスミカミ)「登りでも普段とは違うラインを試し、テクニックを磨くと速さに繋がる」三上和志(サイクルハウスミカミ)
急坂登りはハンドルから手が離せる位置(サドル先端)に座る急坂登りはハンドルから手が離せる位置(サドル先端)に座る
トラクションコントロールを行いながら登っていく練習をすることで、レースで必要となる、パワーをセーブしながら速さをキープする効率の良い走り方を身につけられるはずです。その練習を重ねて登れる場所が増えていくと、今度は新たなライン取りを考えられるようになります。

快適なラインだけを選ぶこともできますが、木の根や石を越え、自分が思い描いたラインをトレースできる面白さは、下りだけではなく登りにもあります。ひと手間かけてライン取りを楽しみながら、セクションを乗り越えていけるタイヤなので、これで遊んでいればいつのまにか上手く、速くなっているでしょう。

ノブの形状やサイピングで性能を追求したノブの形状やサイピングで性能を追求した
ノブが高く作られているため、変形しやすいというノブが高く作られているため、変形しやすいという
タイヤのしなやかさやノブの形状だけではなく、コンパウンドでもグリップ力を発揮しており、濡れた路面を捉える性能はライバルとなるタイヤに比べても明らかな優位性を感じます。走り慣れた場所で、たまに乗り越えられるセクションがあるんですけど、SYERRAで行ってみたらかなりの確率で成功したんですよ。「慣れたタイヤで苦労していたのに」とも思うんですが、それほどグリップ力には好印象があります。

ハイグリップとはいえタイヤの摩耗スピードが早いということもありません。価格の安さから受ける印象からゴムが減りやすいのかなと思っていたんですけど、半年以上走り回ってもどうも減りません。ノブの角が欠けても無いですし、耐久性は高いですね。

「スピードコントロールすればトレイルバイクのようなラインも通れる」三上和志(サイクルハウスミカミ)「スピードコントロールすればトレイルバイクのようなラインも通れる」三上和志(サイクルハウスミカミ)
背が高いけどサイズは小さなノブなので、回転を妨げないようにパタパタと倒れていくような印象があります。転がり抵抗を低減させるためにノブを連続させるアプローチもありますが、ヴィットリアはそれとは異なりタイヤ全体で転がり抵抗を調整しているようです。ノブの間隔は広めに作られていますが、突き刺しパンクに見舞われたこともないので、安心して使えそうです。

ダウンカントリーは、クロスカントリーのレーサーが広いフィールドを縦横無尽に駆け回ったり、クロスカントリー系の軽量でペダリング効率の良い車体というメリットを活かして長時間のライドを楽しむスタイルだと思っています。

長時間のライドを楽しめるダウンカントリータイヤ ヴィットリア SYERRA長時間のライドを楽しめるダウンカントリータイヤ ヴィットリア SYERRA
XCレースで速くなりたい方はシーズンオフにドロッパーシートポストとこのタイヤを装着してトレイルライドを楽しむことがおすすめです。トレーニングだけではなく、MTBで楽しく遊ぶことでライン選びのバリエーションや、超低速走行でのトラクションコントロールといった「巧さ」が身につきます。

もしトレーニングを重ねても伸び悩んでいるのであれば、登りと下りどちらも普段より少しスピードを下げ、視野を広げてトレイルライドを楽しむことが、レース全体での速さに繋がる打開策かもしれません。SYERRAはそんな乗り方を試すきっかけにぴったりなタイヤですよ。

プロトタイプのテスターを務めた三上和志(サイクルハウスミカミ)プロトタイプのテスターを務めた三上和志(サイクルハウスミカミ)


ヴィットリア SYERRA
サイズ:29×2.4インチ
構造:TLR+APF
ケーシング:ダウンカントリー
ケーシング素材:ナイロン60TPI
コンパウンド:4C Graphene
重量:850g
価格:8,030円(税込)

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