ライバルたちに1分以上の差をつける圧勝。富士スピードウェイを発着する44.2kmコースを快走したプリモシュ・ログリッチ(スロベニア)が東京五輪男子個人タイムトライアルで金メダルを獲得し、トム・デュムラン(オランダ)とローハン・デニス(オーストラリア)がそれぞれ銀メダルと銅メダルを獲得した。



東京2020オリンピック 男子個人タイムトライアル東京2020オリンピック 男子個人タイムトライアル image:Tokyo 2020東京五輪男子個人タイムトライアルの舞台となったのは、午前中に行われた女子と共通の富士スピードウェイを起点にした22.1km周回コース。男子はここを2周する(全長44.2km)。

一般道を走る周回コース中盤には全長5.4km/平均3.9%の登りが設定されており、その頂上手前には平均10.6%の急勾配区間も。そこから登りとほぼ勾配が変わらない下りをこなして富士スピードウェイに戻るコースはアップダウンの連続であり、獲得標高差は近年の世界選手権や五輪の中では最大クラスの846mに達する。

周回コースを2周するため、合計39名の選手たちが3つのウェーブ(ヒート/グループ)に分かれて1分30秒ごとにスタートを切った。第2ウェーブを終えた時点で暫定トップスリーに立ったのはリゴベルト・ウラン(コロンビア)、レムコ・エヴェネプール(ベルギー)、そしてアルベルト・ベッティオル(イタリア)。南西からの風がコースに吹き付けたが、完全ドライな路面状況や30度ほどの気温、風の強さは概ねイコールコンディションが保たれた。

東京2020オリンピック 男子個人タイムトライアル東京2020オリンピック 男子個人タイムトライアル image:Tokyo 2020
第3ウェーブの13名の走りが始まると、それまでの中間計測の暫定トップタイムが次々に更新されていくことになる。1周目前半の登り頂上に設置された第1計測(9.7km地点)で最速タイムを叩き出したのは最終走者のフィリッポ・ガンナ(イタリア)。世界選手権に続くビッグタイトル獲得に向けて好スタートを切ったガンナだったが、すぐさまログリッチが暫定トップを奪った。

ウランよりも1分01秒早いタイムでフィニッシュラインの第3計測(22.1km地点)を通過して2周目に入ったログリッチ。ちょうどこのレースの半分を終えた時点でトム・デュムラン(オランダ)とガンナが9秒遅れ、ローハン・デニス(オーストラリア)が10秒遅れ、ワウト・ファンアールト(ベルギー)が11秒遅れ、シュテファン・キュング(スイス)が16秒遅れで続く。これらの選手たちにまだまだ金メダルの可能性が残されていたが、ここからログリッチの安定感が光った。

中間計測を通過するたびにログリッチのリードは広がっていった。最終第5計測(37.1km地点)で2位デュムランに42秒差をつけたログリッチが、さらにリードを広げる走りで富士スピードウェイに帰ってきた。

ライバル選手たちが2周目に軒並み40秒〜1分程度のタイムを落とす中、1周目27分29秒&2周目27分35秒という一定ペースを刻んだログリッチが平均スピード48.157km/h、55分04秒の圧倒的なタイムでフィニッシュラインを切る。1周目を終えた時点で10秒程度だったリードを最終的に1分以上に広げて見せた(厳密に言うと2周目は1周目より300mほど長いため、タイムを落としているわけではない)。

全くペースを落とすことなく44.2kmを走り切ったプリモシュ・ログリッチ(スロベニア)全くペースを落とすことなく44.2kmを走り切ったプリモシュ・ログリッチ(スロベニア) photo:Luca Bettini
ログリッチから1分01秒遅れの2位に入ったトム・デュムラン(オランダ)ログリッチから1分01秒遅れの2位に入ったトム・デュムラン(オランダ) photo:Luca Bettini
壮絶なメダル争いの末に銅メダルを獲得したローハン・デニス(オーストラリア)壮絶なメダル争いの末に銅メダルを獲得したローハン・デニス(オーストラリア) photo:Luca Bettini
2周目の前半ですでにログリッチの金メダル獲得が濃厚となった一方で、最後の最後までメダル争いは白熱した。ファンアールトとガンナが下馬評通りの走りでログリッチに食らいついたものの、2周目にかけてデュムラン、デニス、キュングが挽回する。フィニッシュまで7kmを残した第5計測(37.1km地点)の通過時点で、脚を攣っていたファンアールトを除くデュムラン、ガンナ、キュング、デニスの4名が7秒差にひしめく混戦状態。先にフィニッシュした暫定2位デュムランが見つめるモニターの中でガンナ、キュング、デニスが数秒差の戦いを繰り広げる。

このメダル争いはデュムランとデニスに軍配が上がった。ログリッチから1分01秒差の2位を守り切ったのがデュムランで、1分03秒差の3位にデニス。そこからわずか1秒差でキュング、2秒差でガンナが入った。4名が4秒以内という接戦の末に、デュムランが銀メダル、デニスが銅メダルを獲得した。

後半に挽回したもののメダルに0.4秒届かず4位に入ったシュテファン・キュング(スイス)後半に挽回したもののメダルに0.4秒届かず4位に入ったシュテファン・キュング(スイス) photo:Luca Bettini
好スタートを切ったが、後半に失速したフィリッポ・ガンナ(イタリア)が5位好スタートを切ったが、後半に失速したフィリッポ・ガンナ(イタリア)が5位 photo:Luca Bettini
2周目に失速したワウト・ファンアールト(ベルギー)は6位2周目に失速したワウト・ファンアールト(ベルギー)は6位 photo:Luca Bettini
前半からペースが上がらず、2分42秒遅れの12位に終わったゲラント・トーマス(イギリス)前半からペースが上がらず、2分42秒遅れの12位に終わったゲラント・トーマス(イギリス) photo:Luca Bettini
マイヨジョーヌ候補に挙げられながらもツール・ド・フランス第3ステージで落車し、第5ステージ個人TTで7位に入りながらもその後の山岳ステージで失速。第9ステージをスタートすることなくレースを去ったログリッチが、3週間の休養期間を経て復活を遂げた。

レース後のテレビインタビューでログリッチは「望んだ通りの結果をつかめないこともある。苦しい時期を経験して、これまでの努力がこの金メダルで報われた」と、不本意なリタイアという形で幕を閉じたツールからの復活を喜ぶ。「今日も失うものは何もないという気持ちでスタートから全開で走って、ずっと戦い続け、フィニッシュまで走り切った。他の勝利と比較することに意味はないけど、簡単な勝利なんて無いし、すべての勝利が特別。中でもこの金メダルはスーパースーパースペシャルだ」。

ログリッチは2016年のリオ五輪個人タイムトライアルで10位。ジロ・デ・イタリアの個人タイムトライアル3勝、ブエルタ・ア・エスパーニャの個人タイムトライアル2勝を含めてこれまで13回「時間との戦い」を制しているが、世界選手権や五輪などの世界タイトル獲得は初めて。スロベニアにとってはカヌー・スラローム男子カナディアンシングルで優勝したベンヤミン・サブセクに続く今大会2つ目の金メダル。自転車競技ではロードレース銅メダルのタデイ・ポガチャルに続く2つ目のメダル獲得だ。

2大会連続の銀メダルを獲得し、涙を流したのは普段ユンボ・ヴィスマでログリッチのチームメイトとして走るデュムラン。2021年1月に突如「自転車競技へのモチベーションと人生の意味を考える時間を設けるため」にレース活動から身を退き、6月のツール・ド・スイスで復帰していた30歳の2017年タイムトライアル世界チャンピオンが再び強さを見せつけた。

そして2018年と2019年タイムトライアル世界チャンピオンのデニスが3位。デニスは2012年ロンドン五輪トラック団体追い抜きの銀メダルに続く2つ目の五輪メダル獲得となる。

レース後に健闘をたたえるトム・デュムラン(オランダ)とプリモシュ・ログリッチ(スロベニア)レース後に健闘をたたえるトム・デュムラン(オランダ)とプリモシュ・ログリッチ(スロベニア) photo:CorVos
富士スピードウェイの表彰台にテレマークの着地が決まる富士スピードウェイの表彰台にテレマークの着地が決まる photo:Luca Bettini
銀トム・デュムラン(オランダ)、金プリモシュ・ログリッチ(スロベニア)、銅ローハン・デニス(オーストラリア)銀トム・デュムラン(オランダ)、金プリモシュ・ログリッチ(スロベニア)、銅ローハン・デニス(オーストラリア) photo:CorVos
東京2020オリンピック 男子個人タイムトライアル結果
text:Kei Tsuji
photo:CorVos, Bettiniphoto

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