6月30日に行われたツール・ド・フランス第5ステージ個人タイムトライアルで、平均51km/hをマークした前年度覇者タデイ・ポガチャル(スロベニア、UAEチームエミレーツ)が圧勝。ステージ5位に入ったマチュー・ファンデルプール(オランダ、アルペシン・フェニックス)が8秒差でマイヨジョーヌを守った。


マイヨブランを着るタデイ・ポガチャル(スロベニア、UAEチームエミレーツ)がフィニッシュに向かうマイヨブランを着るタデイ・ポガチャル(スロベニア、UAEチームエミレーツ)がフィニッシュに向かう photo:Kei Tsuji
6月30日(水)第5ステージ
シャンジェ〜ラヴァル・エスパス・マイエンヌ
距離:27.2km(個人TT)
獲得標高差:320m
天候:曇り時々雨
気温:18度

例年よりも個人タイムトライアルの重要度が高いツール第108回大会。この第5ステージを含めて2つの個人TTが設定されており、その合計距離は58kmに達する。これは過去8年間で最も長い距離であり、大会1週目に30km近い距離の個人TTが登場するのは今年と同じブレストで開幕した2008年大会以来となる。

シャンジェをスタートする27.2kmのコースは基本的に幹線道路を繋いでいくが、緩いアップダウンといくつものロンポワン、街中のコーナーによってリズムを掴みにくい。終盤にかけて小刻みに進路を変えながらラヴァルの街を駆け抜け、完成したばかりの複合施設エスパス・マイエンヌの前でフィニッシュを迎える。すでにブルターニュ地方を脱しているが相変わらず天候は気まぐれで、中盤スタートの選手たちは雨の中の走行を余儀なくされた。

6月30日(水)第5ステージ シャンジェ〜ラヴァル・エスパス・マイエンヌ 27.2km(個人TT)6月30日(水)第5ステージ シャンジェ〜ラヴァル・エスパス・マイエンヌ 27.2km(個人TT) image:A.S.O.6月30日(水)第5ステージ シャンジェ〜ラヴァル・エスパス・マイエンヌ 27.2km(個人TT)6月30日(水)第5ステージ シャンジェ〜ラヴァル・エスパス・マイエンヌ 27.2km(個人TT) image:A.S.O.



TTスペシャリストたちを圧倒したポガチャル

下馬評通り、シュテファン・キュング(スイス、グルパマFDJ)やカスパー・アスグリーン(デンマーク、ドゥクーニンク・クイックステップ)といったTTスペシャリストが好走し、ヨーロッパTTチャンピオンジャージを着るキュングが長時間ホットシートに居座った。しかし、総合トップ10の走りが始まるとキュングの中間計測ポイントを更新する選手が続々と現れるようになる。総合6位のタデイ・ポガチャル(スロベニア、UAEチームエミレーツ)が、第1計測(8.8km地点)でキュングのタイムを11秒も更新した。

19秒差のステージ2位に入った欧州TT王者シュテファン・キュング(スイス、グルパマFDJ)19秒差のステージ2位に入った欧州TT王者シュテファン・キュング(スイス、グルパマFDJ) photo:Luca Bettini
チーム内の最高位であるステージ9位に食い込んだリッチー・ポート(オーストラリア、イネオス・グレナディアーズ)チーム内の最高位であるステージ9位に食い込んだリッチー・ポート(オーストラリア、イネオス・グレナディアーズ) photo:Luca Bettini
ファンアールトを上回る、27秒差のステージ3位に入ったヨナス・ヴィンゲゴー(デンマーク、ユンボ・ヴィスマ)ファンアールトを上回る、27秒差のステージ3位に入ったヨナス・ヴィンゲゴー(デンマーク、ユンボ・ヴィスマ) photo:Luca Bettini
カスパー・アスグリーン(デンマーク、ドゥクーニンク・クイックステップ)は37秒差のステージ6位カスパー・アスグリーン(デンマーク、ドゥクーニンク・クイックステップ)は37秒差のステージ6位 photo:Luca Bettini
怪我の状態が心配されたプリモシュ・ログリッチ(スロベニア、ユンボ・ヴィスマ)は44秒差のステージ7位怪我の状態が心配されたプリモシュ・ログリッチ(スロベニア、ユンボ・ヴィスマ)は44秒差のステージ7位 photo:Luca Bettini
平均スピードが上がる、つまりビッグパワーを必要とするステージ中盤の直線区間でさらにポガチャルはペースアップ。第2計測(17.2km地点)でキュングとのタイム差を17秒まで広げると、もうその勢いは最後まで止まらなかった。残り2.5kmから始まる登りを軽快に走ったポガチャルが32分フラットでフィニッシュ。キュングを19秒差で下し、平均スピードを51km/hに乗せた。

「今日は本当に良い1日になった。全くミスを犯すことなく走り切ることができたんだ。残念ながら何人かのライバルたちは濡れたコースに苦しめられる結果になったけど、自分はドライなコースを走ることができた。路面も気温もパーフェクトだった」。フィニッシュラインで小さくガッツポーズし、インタビュー席にやってきたポガチャルは飄々とした表情でそう語った。「過去の個人TTではスタートから突っ込みすぎるミスを犯しがちだった。でも今日はペースを守って、最後まで完璧なリズムを刻むことができた。」。

第3ステージの落車で足止めを食らった影響で26秒遅れたが、無傷で序盤ステージを切り抜けていたポガチャル。2020年大会の最終個人TTの再現ともいうべき圧倒的な走りでライバルたちを一蹴し、総合でも大きくジャンプアップした。ディフェンディングチャンピオンにとってこれがステージ通算4勝目となる。

すべての計測ポイントでトップタイムを連発したタデイ・ポガチャル(スロベニア、UAEチームエミレーツ)すべての計測ポイントでトップタイムを連発したタデイ・ポガチャル(スロベニア、UAEチームエミレーツ) photo:Luca Bettini
ワウト・ファンアールト(ベルギー、ユンボ・ヴィスマ)は30秒差のステージ4位ワウト・ファンアールト(ベルギー、ユンボ・ヴィスマ)は30秒差のステージ4位 photo:Luca Bettini
ポガチャルから1分44秒を失ったステージ23位のリチャル・カラパス(エクアドル、イネオス・グレナディアーズ)はポガチャルから1分44秒を失ったステージ23位のリチャル・カラパス(エクアドル、イネオス・グレナディアーズ)は photo:Luca Bettini
ジュリアン・アラフィリップ(フランス、ドゥクーニンク・クイックステップ)は1分11秒遅れのステージ14位に終わるジュリアン・アラフィリップ(フランス、ドゥクーニンク・クイックステップ)は1分11秒遅れのステージ14位に終わる photo:Luca Bettini
ポガチャルから31秒遅れたが、マイヨジョーヌを守ったマチュー・ファンデルプール(オランダ、アルペシン・フェニックス)ポガチャルから31秒遅れたが、マイヨジョーヌを守ったマチュー・ファンデルプール(オランダ、アルペシン・フェニックス) photo:Luca Bettini


ステージ5位のファンデルプールがマイヨジョーヌをキープ

会場を騒然とさせる走りを披露したポガチャルだったが、マイヨジョーヌにわずかに届かなかった。個人TTを終えてマイヨジョーヌを受け取ったのは、総合2位ジュリアン・アラフィリップ(フランス、ドゥクーニンク・クイックステップ)から8秒、総合3位リチャル・カラパス(エクアドル、イネオス・グレナディアーズ)から31秒、そして総合6位ポガチャルから39秒のリードで初めてグランツールの個人TTに挑んだマチュー・ファンデルプール(オランダ、アルペシン・フェニックス)だった。

前日のインタビューで「風洞実験もしたことがなければ、TTの練習なんてほとんどしたことがない」と語っていたファンデルプール。マウンテンバイクとシクロクロス、ロードバイクを乗りこなす多才なマチューは、TTバイクに乗っても速かった。ポガチャルから31秒遅れる結果になったものの、盟友ワウト・ファンアールト(ベルギー、ユンボ・ヴィスマ)と1秒差のステージ5位でフィニッシュ。ポガチャルと8秒差でマイヨジョーヌを守っている。

TTバイクに乗り慣れていないと語りながらステージ5位に入ったマチュー・ファンデルプール(オランダ、アルペシン・フェニックス)TTバイクに乗り慣れていないと語りながらステージ5位に入ったマチュー・ファンデルプール(オランダ、アルペシン・フェニックス) photo:Kei Tsuji
最終走者のマチュー・ファンデルプール(オランダ、アルペシン・フェニックス)はステージ5位に入る最終走者のマチュー・ファンデルプール(オランダ、アルペシン・フェニックス)はステージ5位に入る photo:Kei Tsuji
大声援を受けたジュリアン・アラフィリップ(フランス、ドゥクーニンク・クイックステップ)はステージ14位大声援を受けたジュリアン・アラフィリップ(フランス、ドゥクーニンク・クイックステップ)はステージ14位 photo:Kei Tsuji
ダンシングすることなく登りをこなすリチャル・カラパス(エクアドル、イネオス・グレナディアーズ)ダンシングすることなく登りをこなすリチャル・カラパス(エクアドル、イネオス・グレナディアーズ) photo:Kei Tsuji
優勝候補ワウト・ファンアールト(ベルギー、ユンボ・ヴィスマ)は30秒遅れのステージ4位優勝候補ワウト・ファンアールト(ベルギー、ユンボ・ヴィスマ)は30秒遅れのステージ4位 photo:Kei Tsuji
1分49秒遅れたウィルコ・ケルデルマン(オランダ、ボーラ・ハンスグローエ)1分49秒遅れたウィルコ・ケルデルマン(オランダ、ボーラ・ハンスグローエ) photo:Kei Tsuji
苦しい表情を見せることなく登りを駆け上がるタデイ・ポガチャル(スロベニア、UAEチームエミレーツ)苦しい表情を見せることなく登りを駆け上がるタデイ・ポガチャル(スロベニア、UAEチームエミレーツ) photo:Kei Tsuji
ステージ15位に入り、総合6位に浮上したピエール・ラトゥール(フランス、トタルエネルジー)ステージ15位に入り、総合6位に浮上したピエール・ラトゥール(フランス、トタルエネルジー) photo:Kei Tsuji
ポガチャルから1分18秒失ったゲラント・トーマス(イギリス、イネオス・グレナディアーズ)ポガチャルから1分18秒失ったゲラント・トーマス(イギリス、イネオス・グレナディアーズ) photo:Kei Tsuji
ダークホースのヨナス・ヴィンゲゴー(デンマーク、ユンボ・ヴィスマ)がステージ3位に入るダークホースのヨナス・ヴィンゲゴー(デンマーク、ユンボ・ヴィスマ)がステージ3位に入る photo:Kei Tsuji
「自分自身の走りに驚いている。TTバイクのポジションを煮詰めるために昨晩遅くまで付き合ってくれたチームに感謝したい。限界以上まで追い込むことができたので、自分を誇りに思う。今日は残り2km(の登り)が重要だったので、タンクに少しだけ燃料を残しながら走ったんだ」と、第2ステージで手にしたマイヨジョーヌを翌日も着る権利を得たファンデルプールは語る。

最終的な総合争いの観点で見ると、ポガチャルはプリモシュ・ログリッチ(スロベニア、ユンボ・ヴィスマ)から44秒、リゴベルト・ウラン(コロンビア、EFエデュケーション・NIPPO)から1分07秒、アラフィリップから1分11秒、ゲラント・トーマス(イギリス、イネオス・グレナディアーズ)から1分18秒、カラパスから1分44秒のタイムを奪うことに成功。「もちろんマイヨジョーヌを着たいけど、マチュー(ファンデルプール)がマイヨジョーヌに似合っているので問題ない。タイムを失わないのが目標だったので、タイムを稼ぐことができて本当に嬉しい」と、マイヨジョーヌ争いのポールポジションにつけるポガチャルは語っている。

ステージ通算4勝目を飾ったタデイ・ポガチャル(スロベニア、UAEチームエミレーツ)ステージ通算4勝目を飾ったタデイ・ポガチャル(スロベニア、UAEチームエミレーツ) photo:Kei Tsuji
8秒差でマイヨジョーヌを守ったマチュー・ファンデルプール(オランダ、アルペシン・フェニックス)8秒差でマイヨジョーヌを守ったマチュー・ファンデルプール(オランダ、アルペシン・フェニックス) photo:Kei Tsuji
ツール・ド・フランス2021第5ステージ結果
1位 タデイ・ポガチャル(スロベニア、UAEチームエミレーツ) 0:32:00
2位 シュテファン・キュング(スイス、グルパマFDJ) 0:00:19
3位 ヨナス・ヴィンゲゴー(デンマーク、ユンボ・ヴィスマ) 0:00:27
4位 ワウト・ファンアールト(ベルギー、ユンボ・ヴィスマ) 0:00:30
5位 マチュー・ファンデルプール(オランダ、アルペシン・フェニックス) 0:00:31
6位 カスパー・アスグリーン(デンマーク、ドゥクーニンク・クイックステップ) 0:00:37
7位 プリモシュ・ログリッチ(スロベニア、ユンボ・ヴィスマ) 0:00:44
8位 マティア・カッタネオ(イタリア、ドゥクーニンク・クイックステップ) 0:00:55
9位 リッチー・ポート(オーストラリア、イネオス・グレナディアーズ)
10位 アレクセイ・ルツェンコ(カザフスタン、アスタナ・プレミアテック) 0:01:00
13位 リゴベルト・ウラン(コロンビア、EFエデュケーション・NIPPO) 0:01:08
14位 ジュリアン・アラフィリップ(フランス、ドゥクーニンク・クイックステップ) 0:01:11
15位 ピエール・ラトゥール(フランス、トタルエネルジー) 0:01:14
16位 ゲラント・トーマス(イギリス、イネオス・グレナディアーズ) 0:01:18
21位 ステフェン・クライスヴァイク(オランダ、ユンボ・ヴィスマ) 0:01:42
23位 リチャル・カラパス(エクアドル、イネオス・グレナディアーズ) 0:01:44
26位 エンリク・マス(スペイン、モビスター) 0:01:49
27位 ウィルコ・ケルデルマン(オランダ、ボーラ・ハンスグローエ)
29位 ヤコブ・フルサン(デンマーク、アスタナ・プレミアテック) 0:01:52
40位 ミゲルアンヘル・ロペス(コロンビア、モビスター) 0:02:08
44位 ダヴィド・ゴデュ(フランス、グルパマFDJ) 0:02:14
51位 ナイロ・キンタナ(コロンビア、アルケア・サムシック) 0:02:36
マイヨジョーヌ(個人総合成績)
1位 マチュー・ファンデルプール(オランダ、アルペシン・フェニックス) 16:51:41
2位 タデイ・ポガチャル(スロベニア、UAEチームエミレーツ) 0:00:08
3位 ワウト・ファンアールト(ベルギー、ユンボ・ヴィスマ) 0:00:30
4位 ジュリアン・アラフィリップ(フランス、ドゥクーニンク・クイックステップ) 0:00:48
5位 アレクセイ・ルツェンコ(カザフスタン、アスタナ・プレミアテック) 0:01:21
6位 ピエール・ラトゥール(フランス、トタルエネルジー) 0:01:28
7位 リゴベルト・ウラン(コロンビア、EFエデュケーション・NIPPO) 0:01:29
8位 ヨナス・ヴィンゲゴー(デンマーク、ユンボ・ヴィスマ) 0:01:43
9位 リチャル・カラパス(エクアドル、イネオス・グレナディアーズ) 0:01:44
10位 プリモシュ・ログリッチ(スロベニア、ユンボ・ヴィスマ) 0:01:48
マイヨヴェール(ポイント賞)
1位 マーク・カヴェンディッシュ(イギリス、ドゥクーニンク・クイックステップ) 89pts
2位 ジュリアン・アラフィリップ(フランス、ドゥクーニンク・クイックステップ) 84pts
3位 マチュー・ファンデルプール(オランダ、アルペシン・フェニックス) 78pts
マイヨアポワ(山岳賞)
1位 イーデ・スヘリンフ(オランダ、ボーラ・ハンスグローエ) 5pts
2位 マチュー・ファンデルプール(オランダ、アルペシン・フェニックス) 4pts
3位 アントニー・ペレス(フランス、コフィディス) 3pts
マイヨブラン(ヤングライダー賞)
1位 タデイ・ポガチャル(スロベニア、UAEチームエミレーツ) 16:51:49
2位 ヨナス・ヴィンゲゴー(デンマーク、ユンボ・ヴィスマ) 0:01:35
3位 ダヴィド・ゴデュ(フランス、グルパマFDJ) 0:02:27
チーム総合成績
1位 ユンボ・ヴィスマ 50:39:14
2位 EFエデュケーション・NIPPO 0:02:25
3位 バーレーン・ヴィクトリアス 0:03:02
text:Kei Tsuji in Laval, France

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