USTチューブレスシステムのアップデートを重ねるマヴィックのCOSMIC SLR 32 DISCをインプレッション。新たに採用されたFORE CARBONテクノロジーによるリムテープレスの軽量なカーボンリムを備え、チューブレスの使い勝手を向上させた32mmハイトの軽量ハイエンドカーボンホイールだ。

マヴィックCOSMIC SLR 32DISCマヴィックCOSMIC SLR 32DISC photo:Makoto AYANO
2021年モデルでホイールラインアップを全面刷新させたマヴィック。アルミモデルの「KSYRIUM(キシリウム)」に対し、カーボンリムを用いたモデルをCOSMIC(コスミック)の名称として統一し、分かりやすいラインアップへと整理した。

COSMIC DISCシリーズの基本ラインアップはパフォーマンスレベルに応じたSLRとSLの2種類、65/45/32mmの3つのリムハイトというシンプルなレンジにまとめられる。カーボンリムを表すCOSMICの後にパフォーマンスレベルとハイトが続くモデル名表記だ。SLRは上級レーシングモデルであり、チューブレス対応のロードUST仕様である点は従来モデル同様だ。

UD(ユニディレクショナルカーボン)仕上げとSLRロゴUD(ユニディレクショナルカーボン)仕上げとSLRロゴ シンプルなイエローの帯にマヴィックのロゴがアクセントシンプルなイエローの帯にマヴィックのロゴがアクセント


既に発表されている通りSLRはリムが大きくアップデートされ、今まで以上にチューブレスの運用がしやすい造りになった。新たなFORE CARBONテクノロジーによってタイヤが装着されるリムベッド側のホール(ニップルを通す穴)がなくなり、リムテープが不要に。それによりテープを貼り付ける手間も省かれるとともに、テープの隙間から空気が漏れるといったマイナートラブルもなくなっている。

FORE CARBONテクノロジーによるリムテープレス構造となり、ニップルホールが無いことで強度も向上したFORE CARBONテクノロジーによるリムテープレス構造となり、ニップルホールが無いことで強度も向上した
従来はリムベッドに貼り付ける必要があったリムテープが不要になったことで前後合わせて約60gの軽量化にも繋がっており、同時にリムに空けられるスポークホールが無くなったことで従来モデル以上のリム剛性も実現。リムベッドの形状もタイヤビードを落とす中央の溝が拡幅されるなどアップデートされており、他メーカー製を含めあらゆるチューブレスタイヤが装着しやすいよう進化した。

FORE CARBONテクノロジーによってカーボンリムを繋ぐニップルFORE CARBONテクノロジーによってカーボンリムを繋ぐニップル カーボンに埋め込まれたアルミのスリーブにニップルがねじ込まれるカーボンに埋め込まれたアルミのスリーブにニップルがねじ込まれる


ハブは新型の「インフィニティハブプラットフォーム」を採用。ライド中の異音発生を防ぐため交差するスポーク同士が接触しない設計に変更されているほか、フランジ径などを最適化することで前後左右全てのスポークが同じ長さになるよう設計されており、メンテナンス性も向上している。フリーボディは引き続きインスタントドライブ360とし、40Tの面ラチェットが細かく噛み合うことで優れたパワー伝達性を発揮してくれる。また、SLRには空気抵抗低減を狙ったマヴィック特許の楕円形状エアロスポークを採用していることも特徴だ。

マヴィック特許のエアロスポークと無駄のないラウンド形状のハブフランジマヴィック特許のエアロスポークと無駄のないラウンド形状のハブフランジ フリーは40Tの面ラチェットが細かく噛み合うインスタントドライブ360フリーは40Tの面ラチェットが細かく噛み合うインスタントドライブ360


SLRが揃える65/45/32mmの3種類のハイトのうち、もっとも低いCOSMIC SLR 32DISCは、リムの内幅がSLR65と45が19mmなのに対して21mmと、2mmワイド化した設計となる。ディスクブレーキ化により主流になる兆しを見せる28Cタイヤを標準として、25〜32Cまでのタイヤとマッチする。

マヴィック純正のUSTチューブレスバルブマヴィック純正のUSTチューブレスバルブ 付属品のニップル回しとタイヤレバー兼ハブスパナ付属品のニップル回しとタイヤレバー兼ハブスパナ


前後ペア重量は1410gという軽量さで、ヒルクライムはもちろんオールラウンドなライドに対応するハイスペックホイールだ。今回のインプレでは5月に入荷した、リム表面にUD(ユニディレクショナルカーボン)を採用した新モデルのCOSMIC SLR 32DISCをインプレッションした。

インプレッション

マヴィックCOSMIC SLR 32 DISCマヴィックCOSMIC SLR 32 DISC photo:Makoto AYANO
インプレは2018年モデルのCOSMIC Pro Carbon SL UST Disc(45mmハイト)を愛用してきたCW編集部の綾野が担当。今年に入ってからは刷新されたアルミモデルのKSYRIUM SLも導入したが、近年のライドで普段もっとも使用頻度が高いのがCOSMICだった。新SLR 32は山岳ライド好きな筆者としても待望で、とりわけ新デザインになったこのモデルの到着を待ちわびていた。

光線の当たり加減によってSLRのロゴが浮き上がる光線の当たり加減によってSLRのロゴが浮き上がる
まず外観。控えめだけれどしっとりした高級感あるデザインはバイクを引き立たせてくれる。UD仕上げはすっきりとしているが、光線具合によってSLRロゴや「紗」の入ったようなUDカーボンの柄が浮き上がるのがいい。マヴィックイエローの帯は細いがよく目立つ。

マヴィックYKSION 2 タイヤをセットしたCOSMIC SLR 32 DISCマヴィックYKSION 2 タイヤをセットしたCOSMIC SLR 32 DISC
安全を確保するフックを備えるリムを採用するのもマヴィックらしい安全を確保するフックを備えるリムを採用するのもマヴィックらしい 気になる前後ペア重量1410gは市場の最軽量ではないが、どうしても重くなりがちなワイドリムを採用し、かつフックレス構造とせずに(安全を確保する)ビードフック有りであることを考えれば非常に優秀な重量だと思う。

手にとってみて、マヴィックのどのホイールにも共通するスポークやハブ、ニップルで軽量化せずに堅牢さを重視する設計が伺えるのも信頼できる点。スポークやハブの肉を削れば重量は軽くできるが、その代償は耐久性や剛性感の欠如、振れやすさとなって表れるもの。カタログスペックだけではわかりにくいが、マヴィックはそうした軽さの追求をしない点が玄人好みの仕様だ。自分のCOSMICは3年使っても振れさえ出なかった。

シーラントはビードを嵌める前にタイヤ内に流し込む方法がオススメだシーラントはビードを嵌める前にタイヤ内に流し込む方法がオススメだ もはや繰り返し書いているが、マヴィック純正USTチューブレスタイヤの取付はほぼ手だけで可能で簡単だった。ワイドリムと28Cタイヤの組み合わせはさらにビードを上げやすい。圧搾空気を一気に送り込むブースターの使用も必要なく、セッティングはあっけないほど。

取り付けに難儀しない余裕があるので、シーラントはバルブコアを外して注入する方法でなく、ビードをリムに収める前にタイヤ内に流し込む方法がおすすめだ。この方法ならバルブがシーラントで詰まりにくいからだ。

内幅21mmワイドリムにより28Cタイヤが28.9mmに太くなる内幅21mmワイドリムにより28Cタイヤが28.9mmに太くなる 内幅17mm基準設計の25Cタイヤをセットすると26.9mmになった内幅17mm基準設計の25Cタイヤをセットすると26.9mmになった


他モデルより2mmワイドな内幅21mmリムの影響は、実際にタイヤの太さとなって表れる。ノギス計測で28mmタイヤが29mmほどに太くなる。フロント側は問題ないことが多いが、リアはチェーンステイ周辺のクリアランスに問題が出るケースがあるので注意が必要だ。最新のロードバイクは28〜30mm対応を謳っているモデルが増えているが、28mmタイヤ対応フレームは一般的に左右に4mm以上のクリアランスが確保される設計。タイヤが1mm太って29mmとなれば、残る余裕は左右3.5mmになる。これが2mmを切ればホイールがブレた際に内側に擦ることも。

スタンズの44mmアルミバルブは4gで、純正バルブから5gの軽量化にスタンズの44mmアルミバルブは4gで、純正バルブから5gの軽量化に もうひとつ気になったのは純正バルブの長さと重さ。付属品はやや長く、実測で9g。ホイールバランスを取る上でもバルブは軽いほうがいいため、44mmアルミバルブ(4g)に差し替えることで片側5gの軽量化と必要十分なバルブ突き出し長を得れた。

マヴィック純正バルブはリムベッドへの座りがよく永年の使用に耐える堅牢なバルブだが、ホイールの軽さにこだわるならカスタムしたいところ。ただし頻繁にバルブコアを外す作業を伴うチューブレスの場合、アルミバルブの寿命は短いことを覚えておく必要はある。さらに、社外パーツの場合は空気漏れなどのトラブルの可能性も純正品より高いことは留意したい。

前回KSYRIUMのインプレ記事でも推したMY MAVICアプリの推奨空気圧は「体重60kg・バーサタイル・ドライ」でフロント4気圧、リア4.2気圧と驚くべき低圧が示された。だがまずはこの推奨値で乗ってみるのがいい。リムもタイヤもチューブレスもすべて刷新されると、もはや経験値がある人は誰も居ないのだから、まずこのアプリを信じて試してみること。アプリは製品保証登録の際にも必要だから、スマホにダウンロードして日常的に活用したい。

COSMIC SLR 32DISCを履いて国道最高地点の渋峠(2,172 m)を登るCOSMIC SLR 32DISCを履いて国道最高地点の渋峠(2,172 m)を登る photo:Yasuo Inaba
ここからは前モデルや45mmハイトCOSMICとの比較も織り交ぜながらインプレを綴ろう。実際の使用は5月からの約1ヶ月間。週末の100km以上の山岳ライドで何度も使い、5月末には所属クラブのイベントで埼玉・飯能から新潟・上越まで行く280km・獲得標高4,338mのライドでも使った。国道最高地点の渋峠(2,172 m)にも登り、積算走行距離は736km。

まず32mmハイトの軽量リムによる登りの軽やかさが際立つ。ヒルクライムはもちろん得意で、山岳ライドには間違いなく有利だ。

45mmハイトのCOSMICから乗り換えて感じるのは、軽さと加速(かかり)の良さ。さらに前モデルからアップデートによってリム、ハブともに軽くなっているので、登りが明らかに軽い。それは期待した通りの性能だ。

いっぽうでスピードに乗る緩斜面のアップダウンや平坦路のレースは45のほうが得意だろう。45は高剛性で鋭い加速と巡航性も備える。ロードレースメインでなければ32の軽さ、快適性、踏み出しの軽さ、反応性の良さがメリットになる場面は多いが、45の高いバランスも捨てがたい。

ワイドリムとワイドタイヤによる路面への喰い付きが美点だワイドリムとワイドタイヤによる路面への喰い付きが美点だ
むしろそれら以上にメリットを感じたのはワイドリムとワイドタイヤが醸し出す快適な乗り心地と安定感だ。路面の振動をいなすクッション性が強く際立つが、それはソフトさや「ボヨンボヨン」といった柔らかさではなく、軽く速く転がり、かつ快適な乗り心地だ。ダウンヒルのコーナリンググリップや安心感も向上する。マヴィックYKSION2タイヤの場合、28mmは25mmに比べて30g重いが、30gの重量増のデメリットはほぼ感じないほどに他の性能が軒並み向上するのだ。チューブレスの美点がさらに引き出される感じだ。

ホイール重量の軽さに期待してSLR32を選んだはずが、すっかり内幅21mmワイドリムと28mmワイドタイヤの組み合わせによる太さからくるメリットの大きさに感嘆するばかり。以前のCOSMIC(リム内幅19mm)にも28mmタイヤを履かせて使ってはいたが、リムが2mm広がるだけでタイヤの性能が著しく向上することに驚く。快適性からくる速さが際立つが、タイヤサイドのたわみやヨレを感じないのはワイドリムならでは。それは誰にとってもメリットが有る性能だ。このあたりはマウンテンバイクでもワイドリム化の傾向があるので、似た理由だと感じた。

グラフィックは控えめながら紗のようなUDカーボンの柄で魅せるグラフィックは控えめながら紗のようなUDカーボンの柄で魅せる
私の愛車ピナレロDOGMA F10は25mmタイヤ対応設計のため、28mmだとリアのクリアランスがきわどく、かつリアに25Cを履かせたほうが30g軽くて登りが軽くなるからとヤセ我慢しているのだが、この走行性能の底上げぶりを味わうと前後28mmタイヤ対応バイクに乗り換えたい!というのが本音だ。

45mmリムに比べてスポークが長いことによる快適性の高さも特徴だ。ホイール全体の剛性感がマイルドで、乗り心地は良い。もっとも45mmのCOSMICの高剛性感たるや一枚岩のごとしで、ハイスピードで走れるガチなレーサーなら45mmが全体的に有利だろうが、エンジョイ派にはSLR32のほうが適度な剛性感だろうと感じる。

登りで苦しむときに助けてくれるホイールの軽さはもちろん大きなメリットだ登りで苦しむときに助けてくれるホイールの軽さはもちろん大きなメリットだ photo:Yasuo.Inaba45mmからハイトダウンすると巡航性がやや落ち、やはり同じようなスピード維持力があるとは言えないが、登りでペダルを踏みしめるような走りには適している。登りで踏むのが辛くなったときにも踏み負けずに加速し続けてくれる。乗り心地の違いは好みが分かれるだろうが、クセがないのでコーナリングでは扱いやすく、横風にもふらつくことがない。

32と45の2セット(あるいは65mmと3セット)揃えて状況に応じてチョイスできれば言うこと無しだが、32だけを選ぶ前提なら、おススメしたいユーザーは登りをメインに走る人はもちろん、ハイレベルなレーサー未満の「ちょっとパワーに劣る人」だ。

酷使の1ヶ月でパンクも経験。路上の穴に落ちてのリム打ちによるサイド切れだった。KSYRIUM記事と似た状況で2回めのパンク。空気圧が4気圧台という超低圧は、乗っているぶんには強く張りのあるしっかりしたフィーリングなのだが、段差などに打ち付けて強い衝撃を受けた際には圧の低さゆえにリム打ちしやすい傾向があるように思った。

個人的にも長く使ってきたチューブレス。ほとんどパンクしない(正確にはパンクしてもすぐ自然修復している)ことで、パンク修理キットを持たずに走りたくなるほどだが、やはり最後の手段としてのチューブは持っていたい。マヴィック製品はパンク対応の際にバルブを抜いてチューブを入れるのが今季モデルから本当に簡単になった。ビードを外しやすく、タイヤ交換が難なくできるようになったことはスペックに書かれていない進歩だ。

価格が大きく下がったことにも振れておきたい。思えば前モデルはペアで32万円以上した。それが25万円になったのは嬉しい。今年のマヴィックはハブを中位モデルから上位モデルまで共通品とするなど、多すぎるラインナップの製品ごとの専用設計からくるコスト増を排除するようスペックをうまく整理したようだ。マニアックな「ソソる」要素は減じたが、そのぶんすべてのモデルが大幅なプライスダウンを果たし、リーズナブルとなったことは大いに評価したい。そしてSLRはプロレーサーが満足できるハイエンドモデルであり、それがペア25万円というのは本当にバリュープライスだと思う。

そのうえ2021モデルからマヴィックのカーボンホイールにはすべて永久保証がつくことになったのも大きな魅力だ。保証の適応対象はマヴィックケアに登録した物のため、購入後に登録をしておこう。
マヴィック COSMIC SLR 32 DISC
リム
プロファイル ディスクブレーキ専用形状
ETRTO サイズ 622x21TC ロード
リム高 32mm
内幅 21 mm
推奨タイヤサイズ 25~32 mm
ハブ(Infinity Hub)
フロント クイックリリースと12mmx100mmスルーアクスル間で組み替えが可能
リア クイックリリース、12mmx142mm、12x135mm間で組み替えが可能
フリーホイール シマノ/スラム 11速 または XD-R
ディスク仕様 センターロックのみ
スポーク
スポーク組 フロント&リア側 2クロス組、コンタクトレス
形状 ストレートプル、楕円形エアロ、ダブルバテッド(特許取得)
素材 スチール
ニップル FOREテクノロジーによるアルミニウム一体型
スポーク数 フロント&リア側 24本
重量  ペア: 1410g、フロント: 640g、リア:770g
税込価格 275,000円
text&photo : Makoto AYANO

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