フレンチホイールブランドの雄、マヴィックがリリースした主力モデルの新型"COSMIC SLR45"。新設計のリムにより軽量性を向上させるとともに、チューブレスタイヤの運用を行いやすくしたレーシングホイールを、アルディナサイクラリーの成毛千尋店長がインプレッション。



マヴィック COSMIC SLR 45 DISCマヴィック COSMIC SLR 45 DISC photo:So Isobe
Ksyriumなどの銘品を生み出し、ロードバイクホイールの歴史に名前を刻んできたマヴィック。アルミからカーボンへ、リムブレーキからディスクブレーキへと時代が移り変わる中、彼らが2021年モデルとして繰り出した一手は、主力モデルCOSMIC PRO CARBONシリーズのモデルチェンジだった。

リム、スポーク、ハブが一新された新型のモデル名はCOSMIC SLR。このホイールはトップグレードに位置しており、SLR(Super Light Racingの略)という表記がそれを表す。ミドルグレードはSLというネーミングが与えられている。従来の"PRO CARBON SL"が新型の"SLR"にあたり、"PRO CARBON"が"SL"に当たるというわかりやすい分け方となっている。USTという言葉が省略されているが、チューブレス対応モデルだ。

COSMIC SLRのリムの形状自体は前作を踏襲し、NACAのエアロプロファイルを採用した断面形状、ハイト45mm、内幅19mm、外幅26mmという寸法が採用されている。そのリムにFORE CARBONテクノロジーを加え、最新のホイールとして生まれ変わった。

旧型(左)と新型COSMIC SLR45(右)のカットサンプル比較。リムウォールが薄く作られていることがわかるだろう旧型(左)と新型COSMIC SLR45(右)のカットサンプル比較。リムウォールが薄く作られていることがわかるだろう
FORE CARBONテクノロジーによりニップルを受けるナットが埋め込まれているFORE CARBONテクノロジーによりニップルを受けるナットが埋め込まれている
新型COSMICに採用されたテクノロジーの中で最も大きなものは、これまでアルミリムで使用していた"FORE"テクノロジーをカーボンリムに応用した"FORE CARBON"という技術だ。アルミリムの場合はリムに直接ニップルのネジを切るというものであったが、FORE CARBONではニップルホール部分を強化した上で、リムにネジ受けを接着する方式を採用した。スポーク側のニップルなどはこれまでのFOREと同じ仕組みだ。

このテクノロジーによって受ける恩恵は、ニップルホールが不要となりリム全体の剛性低下を防げること。加えて、リム剛性を維持しつつリムウォールのカーボン層を薄く作ることができるため、リムの軽量化にも繋がっている。実際にカットサンプルを見ても、旧モデルとの違いがすぐにわかるほど。

FORE CARBONによるニップルホールレスのリムベッドは、チューブレステープを不要にした。作業性向上はもちろん、軽量化、気密性確保にも貢献しており、USTからチューブレスを身近なものにしようとするマヴィックの姿勢がここにも表れている。リムテープレスの仕様により前後輪合わせて60gの軽量化に繋がるという。

COSMIC SLR45のブランドロゴは一箇所に小さく配置されるのみCOSMIC SLR45のブランドロゴは一箇所に小さく配置されるのみ
また、リムベッド形状も見直しが行われており、タイヤ装着時にビードを落とすための溝を拡幅。加えて、パンクなどアクシデント時にビードが落ちにくいように設けられていたハンプ(段差)を無くし、これまで以上に作業が行いやすいホイールとして進化している。

新型COSMIC SLR45に用いられるハブは"INFINITY HUB PLATFORM"という新たな形状が採用されている。2クロス組のスポーク同士が接触しないようなデザイン、左右でスポーク長が同一となるフランジ設計などが用いられており、剛性、耐久性、メンテナンス性が向上している。組み込まれるスポークは特許を取得している独自の楕円断面のステンレスエアロスポークだ。

フリーシステムはマヴィックが誇るINSTANT DRIVE360を採用。40T面ダブルラチェット式ギアが細かく噛み合うことで、優れた反応性とパワー伝達性を発揮してくれるシステムだ。ベアリングは玉当たり調整の必要がないQRM Auto仕様が採用されている。

ディスクブレーキローター規格はセンターロックだディスクブレーキローター規格はセンターロックだ フリーハブシステムは40Tの面ラチェットが備えられているINSTANT DRIVE360フリーハブシステムは40Tの面ラチェットが備えられているINSTANT DRIVE360

前輪もストレートプルスポークを2クロスで組む前輪もストレートプルスポークを2クロスで組む 新型のINFINITY HUB PLATFORMが採用されている新型のINFINITY HUB PLATFORMが採用されている


そんなCOSMIC SLR45をアルディナサイクラリーの成毛千尋さんがインプレッション。国内に入荷したタイミングから使い始め、Raphaが展開するFestive500を一回のライドで走りきろうというチャレンジにも使用するなど、使い込んでるレース派店長は、新型COSMICをどう評価するのか。それではインプレに移ろう。



―インプレッション

新しくなったCOSMICを履いて思うのは、チューブレスタイヤ/ホイールシステムの良さ、タイヤを低圧で乗ることでの乗り心地の良さが際立っているということですね。そこに車輪自体のマイルドな乗り心地が相まって長距離でも足を残すことができるようになっているホイールに仕上がっている印象を受けました。

「レースや長距離ライドで最後まで足を残せるホイール」成毛千尋(アルディナサイクラリー)「レースや長距離ライドで最後まで足を残せるホイール」成毛千尋(アルディナサイクラリー) photo:So Isobe
ダッシュ一発の反応性という面で考えるとCOSMIC SLR45よりも優れたモデルはありますが、このホイールの持ち味はそこではなく、長距離を走っても体に負担がかかりにくい快適性にあるのだと思います。INSTANT DRIVE360の反応性は優れているので、スポークとリムでマイルドな乗り心地を出しているのでしょう。

体へのストレスが少ないということは、長距離ライドでも速度を落とさずに走れるので、結果として速く走れるはずです。例えばツール・ド・おきなわでも終盤まで足を残すことができると思いますし、そこで体力が残っていればアタックに対応ができるはずです。

僕が2020年末に行った500kmを一気に走りきろうというチャレンジ(Festive500)では、より軽量で反応性に優れるホイールも選択肢にいれつつも、最後まで足を残して走り切ることを考えてCOSMIC SLR45を選びましたが、これは大正解でしたね。500㎞を通して良いフィーリングで完走することができました。

「チューブレスのシステムが進化していて、誰でも扱いやすくなった」成毛千尋(アルディナサイクラリー)「チューブレスのシステムが進化していて、誰でも扱いやすくなった」成毛千尋(アルディナサイクラリー)
走行感が良いのはもちろんなんですけど、やはり誰でも扱えるチューブレスタイヤシステムになっていることが僕の推しポイントですね。大半のメーカーやこれまでのCOSMICの場合はリムテープが必要で、テープの巻き方にテクニックが必要だったり、巻き方次第で空気が漏れたり、漏れなかったりして扱いにくいというのはあったと思います。

リムテープレスの場合は、テープの巻き方に左右されることがないですし、問題が発生した場合でもどこが原因なのか見つけやすいです。リムベッド自体の形状は元々ETRTOに準拠していましたが、さらにブラッシュアップされているので、装着しやすいタイヤの選択肢が広がっていますし、嵌めやすさも随分と良くなっています。ロードチューブレスに火を付けたUSTが、ここにきて第2世代と言っていいくらいの進化を遂げているような実感があります。チューブレスタイヤにまつわるトラブルが少なくなるホイールだと思いますね。

実際に組み付けテストとしてマヴィックはもちろんピレリやヴィットリア、シュワルベを装着してみましたが、どれもすんなりとタイヤを嵌められるし、ビードも簡単に上がってくれる。その後のエア抜けも気になりませんでしたね。自分のCOSMIC SLR45にはピレリのタイヤを装着しているのですが、1週間で1気圧も落ちないです。ちなみにシーラントは前後共に30cc入れています。

INFINITY HUB PLATFORMにより2クロス組のスポークが接触しないようになっているINFINITY HUB PLATFORMにより2クロス組のスポークが接触しないようになっている
リムテープレスを実現したFOREテクノロジーをカーボンに落とし込み、ホイール重量を前作よりも軽量にできたところに、マヴィックの開発努力が見えますよね。コンペティターと比較するとスペック面で軽量というわけではありませんが、引けを取らない走りの軽さは、リムを軽量に仕上げているのが効いているのでしょう。

細かい部分を見ていくと、2クロス組のスポーク同士が接触しないように設計されていて、よく考えたなと思います。スポーク同士が接触していると、スポークテンションが低下した時に軋み音など異音が発生することがあります。それはストレスや不安に繋がるので、異音が発生しにくいというのはメリットの1つです。スポーク長も前後左右で統一されているので、トラブル時に対応しやすくなっています。玉当たり調整にカニ目レンチを使わないQRM Autoテクノロジーなども採用されていて、洗練されているホイールだなと思いますね。

ミドルグレードのSL40との選び分けを考えるなら、FORE CARBONテクノロジーによるリムテープレスか否かを中心に検討したいです。SL40はミドルグレードながらSLRと同じハブを使用し、ストレートプルスポークという面が光ります。ミドルグレードカーボンホイールでベンドスポークを採用するモデルが増えてきているだけに、価格帯で見てみるとSL40は十分に価値があるホイールですね。

Festive500で500kmを一気に走りきった時にCOSMIC SLR45をチョイスした成毛千尋(アルディナサイクラリー)Festive500で500kmを一気に走りきった時にCOSMIC SLR45をチョイスした成毛千尋(アルディナサイクラリー)
COSMIC SLRグレードにはハイトの高いSLR65や、ローハイトのSLR32などもラインアップされていますが、SLR45の45mmハイトというのは絶妙な寸法です。SLR45はSLR32と重量が大きく変わらないのでヒルクライムもカバーできると思いますし、ロードレースでも戦力になるはずです。万人受けするリムハイトなのかなと思います。

すべてのシチュエーションで90点以上を取ってしまう優等生なCOSMIC SLR45とマッチするのは、1つの用途に限定されないハイエンドモデルが欲しい方でしょう。トライアスリートからヒルクライマーまで様々なサイクリストにおすすめです。

マヴィック COSMIC SLR 45 DISC
タイヤタイプ:USTチューブレス&チューブタイプ
リム:カーボン、ハイト45mm、内幅19mm、外幅26mm
スポーク:エアロ、ダブルバデッド(特許取得)、前後24本、フロント/リア-2クロス
ハブ:アルミニウム、インスタントドライブ360
重量:1,470g
価格:250,000円(税抜)

マヴィック COSMIC SL 45 DISC
タイヤタイプ:USTチューブレス&チューブタイプ
リム:カーボン、ハイト45mm、内幅19mm
スポーク:スチール、前後24本、フロント/リア-2クロス
ハブ:アルミニウム、インスタントドライブ360
重量:1,575g
価格:160,000円(税抜)



インプレッションライダーのプロフィール
成毛千尋(アルディナサイクラリー)成毛千尋(アルディナサイクラリー) 成毛千尋(アルディナサイクラリー)

東京・小平市にあるアルディナサイクラリーの店主。Jプロツアーを走った経験を持つ強豪ライダーで、2009年ツール・ド・おきなわ市民200km4位、2018年グランフォンド世界選手権にも出場。ロードレース以外にもツーリングやトライアスロン経験を持ち、自転車の多様な楽しみ方を提案している。初心者からコアなサイクリストまで幅広く歓迎しており、ユーザーに寄り添ったショップづくりを心がける。奥さんと二人でお店を切り盛りしており女性のお客さんもウェルカムだ。

アルディナサイクラリー


text:Gakuto Fujiwara
photo:So Isobe
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