3月27、28日に栃木県で開催された2連戦で幕を開けたJCL(ジャパンサイクルリーグ)。開幕前の情報量の少なさもあって懐疑的な目線を持つ人も一定数いたが、無事に開幕に漕ぎ着けた。今回は、開幕2連戦の取材を通して感じたことを、JCLが掲げる「日本初の自転車ロードレースのプロリーグ」と「地域創生」という2つのキーワードをもとに考えていきたい。

宇都宮市在住のフリージャーナリスト・フォトグラファー、小森信道が伝える。

国内では類を見ないクオリティで、観る者を惹きつけた映像配信

スモークの噴射など、会場の盛り上げ演出に努力の跡が見えるスモークの噴射など、会場の盛り上げ演出に努力の跡が見える photo:Nobumichi Komori
スポーツのリーグ戦が「プロ」として成立するには、トップレベルの選手たちが見せる最高のパフォーマンスにファンが熱狂し、そこに商機を見出した企業が多額のお金を投入するという図式が必要不可欠。その点で、三菱地所というタイトルスポンサーを味方につけたJCLは、スタートダッシュを決めるには十分な資金を得て開幕を迎えることができた。しかし、今はコロナ禍で有観客のスポーツイベントを開催するのはハードルが高い状況であり、開幕戦も無観客での開催という苦渋の選択がなされた。

スタート時にバルーンを飛ばすなど、これまでとは一線を画すスタート時にバルーンを飛ばすなど、これまでとは一線を画す photo:Nobumichi Komori
そこで力が注がれたのが映像配信。今回の開幕2連戦はこれまでの国内ロードレース界では類を見ない撮影および中継体制が用意され、会場に訪れることができなかった多くのファンに臨場感あふれる映像が配信された。レース中やレース後のコメントを見ても、配信映像のクオリティの高さに驚き、満足する人が多かった印象があり、映像配信は成功したと言えるのではないかと感じている。

選手と並走しながら撮影された映像は観る者を惹きつけた選手と並走しながら撮影された映像は観る者を惹きつけた photo:Nobumichi Komori
ただ重要なのは、このクオリティを全戦通して維持できるのかということ。今回のレースは電波状況が良い場所が会場だったこともあって安定した映像配信が実現できたが、電波状況が脆弱な山間部のレースで同品質の中継しようとすればコストは間違いなく膨れ上がる。強力なタイトルスポンサーがいるとはいえ、予算は有限だ。質の高い中継を維持するためには、早い段階で収益化への道筋を作ることが求められる。

電波状況の良い場所でレースを開催し続けるのも今後の課題か電波状況の良い場所でレースを開催し続けるのも今後の課題か photo:Nobumichi Komoriスポンサーなどを迎えるVIPエリアをしっかりと整えているのは好印象だスポンサーなどを迎えるVIPエリアをしっかりと整えているのは好印象だ photo:Nobumichi Komori


レースの質向上は必要不可欠だが、ニューヒーロー誕生に期待

少人数を逆手に取って若い選手たちには自分をしっかりアピールして欲しい少人数を逆手に取って若い選手たちには自分をしっかりアピールして欲しい photo:Nobumichi Komori
JCLは各チーム6名出走を基本にレースが運営されている。現時点で加盟は9チームなので、1レースの出走人数は54名ということになる(開幕2連戦は欠場が1名あり53名出走)が、これはロードレースでは少ない部類。また、加盟チームの戦力差や選手それぞれの実力差もまだまだ大きく、レースの質という面で、今は「日本初の自転車ロードレースのプロリーグ」と大手を振って言える状況ではないだろう。しかし、サッカーJリーグも最初から今のレベルのサッカーが繰り広げられていた訳ではないし、こればかりはある程度の時間をかけて向上させていくしかないと感じている。

現状は54名の出走だが、今後加盟チームが増えれば集団も膨らむだろう現状は54名の出走だが、今後加盟チームが増えれば集団も膨らむだろう photo:Nobumichi Komori
一方で現在の状況は、言い方は悪いが、これまでであればレースに出場しているだけになってしまっていたチーム勢が、レースに絡むチャンスが一気に増えたことを意味してもいる。開幕2連戦のリザルトを見ても、お馴染みの顔ぶれの中に新顔が数名上位に名を連ねている。そういった意味では、次代を担うニューヒーローが誕生する可能性は大いにあるのではないだろうか。今後、加盟チーム数が増え、集団の人数が増えていくつれて、「日本初の自転車ロードレースのプロリーグ」に相応しいレースクオリティになっていくことを期待したい。

リーダージャージが豊富なのは魅力だが、それぞれの説明を公式HPなどに記載する必要を感じるリーダージャージが豊富なのは魅力だが、それぞれの説明を公式HPなどに記載する必要を感じる photo:Nobumichi Komori
加えて、JCLに是非ともお願いしたいのが、公式HPにそれぞれのリーダージャージやポイント表、レースランクなどの情報を掲載すること。開幕戦に取材に行くまで、JCLが年間を通して何を争っているのか調べる術もなかった。さらに、エントリーユーザー向けに自転車ロードレースとはこういうものと説明するページがあった方が優しいのではないかと感じた。

有観客、ホビーレースを加えた完成形を早期実現し、本当の意味での「地域創生」へ

「地域創生」というキーワードに関しては、駆け足かつ無観客で開幕を迎えた状況を考えると、現時点では評価をする段階にあるとは言えない。実際、開幕2連戦はメインレースを開催することだけに集中すれば良いだけだったのでタイムスケジュールにも相当な余裕があったし、無観客ということで会場イベントなどもなかった。今後、コロナ禍の状況を見ながら有観客になり、さらに市民向けロードレースシリーズの「ホビーロードレース」が併催されるようになって初めて、JCLとしての会場パッケージングの完成形を模索していくことになるのではないかと感じている。

VIP席は各チームに均等に割り当てられているとのこと。地元チームの宇都宮ブリッツェンと那須ブラーゼンは第2戦でファンクラブ会員を招待したVIP席は各チームに均等に割り当てられているとのこと。地元チームの宇都宮ブリッツェンと那須ブラーゼンは第2戦でファンクラブ会員を招待した photo:Nobumichi Komori
また、その完成形を持って、どのように「地域創生」につなげていくのかという部分に関しても、今のところJCLから方針発表や明確なアナウンスは無い状況だ。これに関しては、JCLも早急に方針や具体策を固め、発表する必要がある。

これまで地域情報誌の編集者や地域型チームの広報を務めてきた筆者の立場で言うと、やはりしっかりと地域の経済が回り、目に見えてお金が落ちて「潤う」という実感を地域住民が持てない限り、本当の意味での「地域創生」にはならない。ただ単に地域でレースを開催するというだけでなく、地域により深く関わる活動も同時に行っていくぐらいの決意と覚悟を見せ続ける必要があるだろう。

photo&text:小森信道(フリージャーナリスト・フォトグラファー/HAT TRICK COMPANY

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