8月29日に地中海に面したニースで開幕する第107回ツール・ド・フランス。開幕を前に、各ステージの注目ポイントを紹介していきます。まずはニースからアルプス山脈と中央山塊を経てピレネー山脈を目指す大会1週目をプレビュー(2週目はこちら)。



8月29日(土)第1ステージ → コースマップ
ニース〜ニース 156km


8月29日(土)第1ステージ ニース〜ニース 156km8月29日(土)第1ステージ ニース〜ニース 156km photo:A.S.O.29年ぶりにニースで開幕するツール・ド・フランス。モナコ公国まで20km、イタリア国境まで30kmというコートダジュールの中心都市がグランデパールを迎えるのは1981年以来2度目。当時プロローグを制したベルナール・イノーがマイヨジョーヌを獲得した地で、第107回大会は(本来の予定から2ヶ月遅れで)動き出す。スタート地点はチームプレゼンテーションの会場にもなったマセナ広場。そこから176名の選手たちは大小2つの周回コースを含む156kmに挑む。

まずは8.2kmの長いニュートラル走行を経て48kmの小周回を2周し、次に68kmの大周回を1周。いずれの周回にも3級山岳リミエ峠が設定されており(1回目の通過が正式スタート地点)、ここでは最初のマイヨアポワ着用のチャンスをかけた動きが起こる。

コートダジュールならではの山間部のワインディングロードを通るものの、コース全体の難易度は低めであり、スプリンターチームが逃げグループを早めに吸収してしまうはず。そして最後はマイヨジョーヌに袖を通したいスプリンターたちが、自慢のリードアウトマンたちに連れられて、ニース自慢の海岸線『イギリス人の遊歩道(プロムナード・デ・ザングレ)』でパワー勝負を繰り広げる。

カテゴリー山岳とスプリントポイント
48.5km地点 3級山岳リミエ峠(距離5.8km・平均5.1%)
88km地点 スプリントポイント
97km地点 3級山岳リミエ峠(距離5.8km・平均5.1%)



8月30日(日)第2ステージ → コースマップ
ニース〜ニース 186km


8月30日(日)第2ステージ ニース〜ニース 186km8月30日(日)第2ステージ ニース〜ニース 186km photo:A.S.O.大会初日に栄光を手にしたスプリンターは、早くもそのマイヨジョーヌを手放すことになりそうだ。前日同様にマセナ広場をスタートする選手たちが挑むのは1級山岳ラ・コルミアーヌ峠と1級山岳トゥリーニ峠という、パリ〜ニースではお馴染みの標高1,500m級の峠道。大会2日目という早い段階で1,500m級の峠が登場するのは史上初めて。

マイヨアポワ争いの舞台にもなるこの連続山岳でマイヨジョーヌを含むスプリンターたちは脱落するだろう。そこからさらに2級山岳エズ峠と高速ダウンヒルを経て一旦『イギリス人の遊歩道(プロムナード・デ・ザングレ)』のフィニッシュラインを通過し、再びコースは山に向かう。

最後は2級山岳エズ峠を登るが、頂上まで登り切らずに中腹のキャトルシュマン峠で脇道に逸れてダウンヒル。フィニッシュの9km手前に位置するこの距離5km・平均6.4%のキャトルシュマン峠は2019年に新採用された「ボーナスポイント(地図と高低図の黄色いB)」が設定されており、上位通過者3名に8秒、5秒、2秒のボーナスタイムが付与される(フィニッシュのボーナスタイムは10秒、6秒、4秒)。ここで飛び出した複数名による逃げ切り、もしくは縮小した精鋭集団によるスプリントでステージ優勝争いは決するだろう。ボーナスポイントとフィニッシュのボーナスタイムでマイヨジョーヌの持ち主が決まりそうだ。

カテゴリー山岳とスプリントポイント
16km地点 スプリントポイント
63.5地点 1級山岳ラ・コルミアーヌ峠(距離16.3km・平均6.3%)
99.5地点 1級山岳トゥリーニ峠(距離14.9km・平均7.4%)
153地点 2級山岳エズ峠(距離7.8km・平均6.1%)
177km地点 ボーナスポイント



8月31日(月)第3ステージ → コースマップ
ニース〜シストロン 198km


8月31日(月)第3ステージ ニース〜シストロン 198km8月31日(月)第3ステージ ニース〜シストロン 198km photo:A.S.O.開幕地ニースに別れを告げて、1815年にエルバ島を脱出したナポレオン一世が行軍した『ナポレオン街道』を北へ。2020年は3週間という期間中にアルプス山脈、中央山塊、ピレネー山脈、ヴォージュ山脈、ジュラ山脈というフランスの5つの山脈/山塊を走るため、この日の移動は長め。第12ステージの218kmに次ぐ距離を走るこの第3ステージには、合計4つの3級山岳&4級山岳が詰め込まれている。

プロヴァンスらしい乾燥した山肌を走るステージ前半はアップダウンの連続で、後半にかけてコースの難易度は下がる。まだ大会3日目ということもあり、仮に第2ステージで本命選手が総合首位に立ったとしても、貴重なチーム力を削いでまでマイヨジョーヌを守ろうとしないはず。つまりシストロンのフィニッシュでエーススプリンターを勝たすべく、ステージ前半からスプリンターチームが逃げグループとのタイム差を調整するだろう。

登場するカテゴリー山岳はいずれも平均勾配が5%ほどで、残り40km地点から先はほぼ真っ平。幹線道路を駆け抜けて、緩いコーナーとフラムルージュ(残り1kmアーチ)を通過するとフィニッシュラインまでは幅6mの直線が続いている。翌日に大会最初の山頂フィニッシュが控えていることもあり、マイヨジョーヌ候補たちはとにかく平穏に過ごしておきたいステージだ。

カテゴリー山岳とスプリントポイント
55km地点 3級山岳ピロン峠(距離8.4km・平均5.1%)
63.5km地点 3級山岳ラ・フェイ峠(距離5.3km・平均4.8%)
117.5km地点 3級山岳レーク峠(距離6.9km・平均5.4%)
152.5km地点 4級山岳ロルム峠(距離2.7km・平均5%)
160.5km地点 スプリントポイント



9月1日(火)第4ステージ → コースマップ
シストロン〜オルシエール・メルレット 160.5km


9月1日(火)第4ステージ シストロン〜オルシエール・メルレット 160.5km9月1日(火)第4ステージ シストロン〜オルシエール・メルレット 160.5km photo:A.S.O.過去40年間の大会を遡っても、アルプス山脈の本格的な山頂フィニッシュが大会4日目という早い段階で登場したことはない(1979年大会の第3ステージには1級山岳個人TTが登場している)。2020年大会にはモンヴァントゥーやラルプデュエズ、トゥールマレーといった著名な峠は登場しないが、3週間を通して合計29ものカテゴリー山岳が登場。これは2019年の27(当初は30だったがコース短縮により削減)、2018年の26、2017年の23という数字を上回るもので、「クライマー向き」と呼ばれるのも肯ける。

シストロンが誇るボーム岩の横を通過後に正式スタートが切られると、まず選手たちはオート=アルプ県の4つの3級山岳&4級山岳をクリア。そこから1989年以来の登場となる1級山岳オルシエール・メルレットを駆け上がる。標高1,825mのスキーリゾート地に至る登りは距離7.1km・平均6.7%と、決してインパクトのある難易度ではないが、最終週にピーキングを合わせる選手は苦しむことになるだろう。

選手層で幅を利かせるビッグチームは調子の上がりきっていないライバルたちを蹴落とすためにハイペースを刻むはず。まだパリまで2,800kmほど残っているが、この異例ともいえる早い段階の山頂フィニッシュはマイヨジョーヌ争いにアクセントを加える。もちろん、山岳ポイントを荒稼ぎするとともに大逃げマイヨジョーヌ獲得を狙うアタッカーがステージ前半から猛然と飛び出すだろう。

カテゴリー山岳とスプリントポイント
51.5km地点 スプリントポイント
67.5km地点 3級山岳フェストル峠(距離7.6km・平均5.3%)
97.5km地点 4級山岳コール峠(距離2.2km・平均6.3%)
125.5km地点 3級山岳ロラニエ峠(距離3km・平均6.4%)
141.5km地点 3級山岳サンレジェ=レ=メレーズ(距離2.8km・平均6.8%)
160.5km地点 1級山岳オルシエール・メルレット(距離7.1km・平均6.7%)



9月2日(水)第5ステージ → コースマップ
ギャップ〜プリヴァ 183km


9月2日(水)第5ステージ ギャップ〜プリヴァ 183km9月2日(水)第5ステージ ギャップ〜プリヴァ 183km photo:A.S.O.大会最初の山頂フィニッシュを終えた選手たちは、ギャップの街から渓谷に沿ってアルプス山脈脱出を図る。緩やかに標高を下げながら、そして2つの4級山岳をこなしながらローヌ渓谷を横断し、アルデッシュ県の県庁所在地プリヴァを目指す。

この日最も注意しなければならないのが、この辺り一帯に吹き付ける地方風『ミストラル』。ステージ中盤以降、特にローヌ川を渡る残り40km地点付近には強烈な横風が吹き付ける可能性も。その場合は、ここぞとばかりに横風分断作戦を敢行するチームが出てくることは想像にたやすい。エシュロンの罠にハマって、それまで1秒1秒大事に走りながらも分単位のタイムを失うマイヨジョーヌ候補が出てくるかもしれない。各チームはコース上に先行部隊を送り込んで風の強さや向きを逐一選手に伝えることになるだろう。

残り10kmを切ってから勾配2%ほどの緩斜面が続き、フラムルージュ付近で勾配はほぼ0%に。スプリンター向きではあるものの、残り16km地点の4級山岳サンヴァンサン=ド=バレではステージ優勝狙いのアタックを仕掛けてくる選手も出てくるはず。単純な『トランジションステージ(移動ステージ)』にはならなさそうだ。

カテゴリー山岳とスプリントポイント
47.5km地点 スプリントポイント
130km地点 4級山岳セールコロン峠(距離4.1km・平均3.7%)
167km地点 4級山岳サンヴァンサン=ド=バレ(距離2.7km・平均4.2%)



9月3日(木)第6ステージ → コースマップ
ル・テイユ〜モン・エグアル 191km


9月3日(木)第6ステージ ル・テイユ〜モン・エグアル 191km9月3日(木)第6ステージ ル・テイユ〜モン・エグアル 191km photo:A.S.O.引き続き『ミストラル』の影響を受けやすい強風エリアを走り、一行は中央山塊(マッシフサントラル)へと入っていく。140km地点までほぼ平坦に見えるが、アルデッシュ県ならではの細かいアップダウンやワインディングを含むため気が抜けない。そして残り45km地点の3級山岳カップ・ド・コストを皮切りに、標高1,560mのフィニッシュまで断続的に登りが続く。

2つの3級山岳を越えた先に待つのが、ボーナスポイントも設定された1級山岳ラ・リュゼット峠。後半にかけて11%の勾配を刻む峠道で集団は確実に人数を減らす。そして残り13.5km地点で1級山岳ラ・リュゼット峠を越えると、短い下り区間を経て残り8.3km地点からフィニッシュ地点モン・エグアルまで平均勾配4%の斜面をさらに登っていく。

ツール初登場で、遠くにアルプス山脈やピレネー山脈、地中海を眺めることのできるモン・エグアル。しかし1年の大半が悪天候に見舞われる山として知られ、雨や風、そして初秋の低温が選手たちに襲いかかる。カテゴリーの付いていない山頂フィニッシュと侮るなかれ、天候が崩れれば数字以上に過酷な戦いになることも考えられる。

カテゴリー山岳とスプリントポイント
125.5km地点 スプリントポイント
146km地点 3級山岳カップ・ド・コスト(距離2.1km・平均7.3%)
163km地点 3級山岳ムレーズ峠(距離6.1km・平均4.8%)
177.5km地点 ボーナスポイント/1級山岳ラ・リュゼット峠(距離11.7km・平均7.3%)



9月4日(金)第7ステージ → コースマップ
ミヨー〜ラヴァール 168km


9月4日(金)第7ステージ ミヨー〜ラヴァール 168km9月4日(金)第7ステージ ミヨー〜ラヴァール 168km photo:A.S.O.中央山塊での戦いを終えた選手たちは足早にピレネー山脈へと向かう。主塔の高さが世界一高い(343m)ミヨー橋の下を潜って、3つの3級山岳&4級山岳を含むアップダウンをこなしながら(真夏であればヒマワリが咲き誇る)平野を目指す。残り43.5km地点のカストルの街を抜けるとフィニッシュ地点ラヴァールまでほぼ真っ平らだ。

再びスプリンターにチャンスが回ってくる平坦ステージだが、この日は第5ステージと同様に強風に注意。タルヌ県にコンスタントに吹き付ける地方風が再び集団を粉砕するかもしれない。中央山塊とピレネー山脈に挟まれた移動ステージだが、予想外のタイム差がつくことも考えられる。

フィニッシュ手前に鋭角コーナーや仕掛けを設定しがちな他の2つのグランツールとは異なり、ツールのフィニッシュレイアウトは安全重視。フラムルージュ手前でロンポワン(ラウンドアバウト)を抜け、残り500mの緩い最終コーナーを抜けると道幅6mの直線路がフィニッシュラインまで続いている。大会開幕からまもなく1週間が経過するこの頃にはマイヨヴェール候補も絞られているだろう。

カテゴリー山岳とスプリントポイント
9km地点 3級山岳リュザンソン峠(距離3.1km・平均6.1%)
58km地点 スプリントポイント
73.5km地点 3級山岳ペロナン峠(距離14.5km・平均3.9%)
97.5km地点 4級山岳ポレ峠(距離1.1km・平均7%)



9月5日(土)第8ステージ → コースマップ
カゼール・シュル・ガロンヌ〜ルダンヴィエル 141km


9月5日(土)第8ステージ カゼール・シュル・ガロンヌ〜ルダンヴィエル 141km9月5日(土)第8ステージ カゼール・シュル・ガロンヌ〜ルダンヴィエル 141km photo:A.S.O.アルプス山脈と中央山塊を慌ただしく駆け抜けてきた選手たちはピレネー山脈に向かってペダルを回す。個人タイムトライアルを除くと今大会最も短い141kmのステージには3つの大きな峠が設定されており、レース時間およそ3時間半、獲得標高差3,300mの高強度バトルが繰り広げられることになりそうだ。

トゥールーズに近いカゼール・シュル・ガロンヌをスタート後、平坦路を走ってからまずは1級山岳マンテ峠と超級山岳バレ峠(いずれも平均勾配は8%前後)を越える。レース公式資料によると超級山岳バレ峠の登坂距離は11.7kmだが、麓の街モレオン=バルッスから頂上まで実際の登坂距離は19.2km(平均勾配6.0%)に及び、延々と50分近く登り続けることになる。

急勾配の下りをこなした後、最後に待つのが1級山岳ペイルスルド峠だ。ピレネー山脈を代表する峠であり、ツールでの登場回数も多いペイルスルド峠。2016年にフルームが強烈なダウンヒルを披露した峠として知られているが、今年は進行方向が反対。つまりフルームがトップチューブに座ってペダリングした下りを、選手たちは登ることになる。山頂フィニッシュではないものの、頂上に設定されたボーナスポイントに向かって積極的な走りが見られるはず。仮に単独で山頂を先頭通過し、そのまま11.5kmの下り区間をこなして単独フィニッシュすれば、後続とのタイム差に加えて合計18秒のボーナスタイムが手元にやってくる。

カテゴリー山岳とスプリントポイント
59.5km地点 1級山岳マンテ峠(距離6.9km・平均8.1%)
98.5km地点 スプリントポイント
104.5km地点 超級山岳バレ峠(距離11.7km・平均7.7%)
129.5km地点 ボーナスポイント/1級山岳ペイルスルド峠(距離9.7km・平均7.8%)



9月6日(日)第9ステージ → コースマップ
ポー〜ラランス 153km


9月6日(日)第9ステージ ポー〜ラランス 153km9月6日(日)第9ステージ ポー〜ラランス 153km photo:A.S.O.ピレネー山脈の5つの峠を攻略する153kmのステージが、開幕地ニースからノンストップで続いた長い長い大会第1週を締めくくる。パリに次いで2番目にツールへの登場回数が多い(72回目)ポーの街からラランスの間に登場する峠は4つ。ちょうどステージ中盤に登場する1級山岳ラ・ウルセル峠と3級山岳スデ峠でスプリンターを含むグルペットはメイン集団から切り離される。

スプリントポイントと3級山岳イシェール峠を経て、この日の目玉である1級山岳マリーブランク峠へ。10年ぶりの登場となるこの峠はとにかく勾配がきつい。登坂距離7.7kmの平均勾配は9%弱だが、頂上手前3.5kmの平均勾配は12%。逃げグループが先行していない場合は、頂上に設定されたボーナスポイントに向かって激坂アタック合戦が繰り広げられるだろう。

前日に引き続き山頂フィニッシュではなく1級山岳を越えてから下ってフィニッシュだが、この第9ステージのフィニッシュ手前には4.5kmの平坦区間があるため、人数を揃えた追走グループに挽回のチャンスが残されている。2つのピレネーステージはいずれも山頂フィニッシュではないが、そのことが逆にスペクタクルな展開を生むと予想される。

この第9ステージが終わると翌日は待ちに待った休息日。一行はフランス西部のヌーヴェル=アキテーヌ地域圏まで一気に400km北上する。

カテゴリー山岳とスプリントポイント
9.5km地点 4級山岳アルティーグルヴ峠(距離2.3km・平均4.5%)
69km地点 1級山岳ラ・ウルセル峠(距離11.1km・平均8.8%)
78km地点 3級山岳スデ峠(距離3.8km・平均8.5%)
99km地点 スプリントポイント
115.5km地点 3級山岳イシェール峠(距離4.2km・平均7%)
135km地点 ボーナスポイント/1級山岳マリーブランク峠(距離7.7km・平均8.6%)



9月7日(火)休息日




text:Kei Tsuji in Nice, France