高品質なスポークやハブの生産で知られるDTスイスから、チューブレス対応軽量ホイールがリリースされた。その名は「RR1450 TRICON ROAD WHEEL」。一見、特徴のないホイールのようにみえるが、その実力はかなり高いものだった。

DTスイス   RR1450 TRICON ROAD WHEEL フロントDTスイス RR1450 TRICON ROAD WHEEL フロント DTスイス   RR1450 TRICON ROAD WHEEL リアDTスイス RR1450 TRICON ROAD WHEEL リア



「スイスの工業製品」と聞いたら、皆さんは何を思い浮かべるだろうか? おそらく、多くの方がロレックスやオメガの時計に代表されるような精密器機を思い出されるだろう。精密でおそろしく品質が高く、高性能な工業製品を生み出す国として、スイスはあまりにも有名といえる。

DTスイスもそんなスイスの工業製品の一翼を担うブランドである。なんといっても有名なのはバリエーションが豊富で切れにくく、圧倒的な高性能を誇るスポークだ。完組ホイールを製造している多くのブランドが、スポークにDTスイスを採用していることからも、その高性能ぶりがうかがえよう。

インプレではIRC Formula PRO TUBELESSを使用インプレではIRC Formula PRO TUBELESSを使用 サイドウォールを凹状にすることで、強度アップを計っているサイドウォールを凹状にすることで、強度アップを計っている



また、ハブも隠れた名品。DT HUGIハブはかつてMTBの世界で一世を風靡したし、現行の240シリーズは超軽量なのに高剛性なハブとしてバンクファンに知られている。ボントレガーなどのブランドが、完組ホイールの高級ラインナップにDTスイス製のハブを採用している。

そんなDTスイスが作ったRR1450 TRICON ROAD WHEELであるから、その高性能は推して知るべしといえるだろう。ただでさえ切れにくいDTスイススポークなのに、専用のオリジナルハブによってストレートプルとなっており、その頑丈さをうかがい知ることができる。スポーク形状は、ダブルバテッドのエアロだ。

ハブは2ピース構造としてベアリングへの負担を防いでいるハブは2ピース構造としてベアリングへの負担を防いでいる ストレートとクロスパターンを組み合わせた独特のスポークパターンストレートとクロスパターンを組み合わせた独特のスポークパターン



スポークパターンは独特だ。ストレートとクロスパターンを組み合わせた「オープンクロウフット」という独自のスポークパターンを採用する。一つのフランジに3本のスポークが配されるパターンが独特で、これによって剛性バランスとパワー伝達効率を飛躍的にアップすることに成功している。

ハブは2ピース構造を採用。フランジを別体にすることによって、スポークテンションによるゆがみ等の影響がベアリングに及ぶのを防いでおり、常に最高の回転性能が維持される設計である。

チューブレスタイヤに対応したリムは、軽量化と空気抵抗を配慮してロープロファイルのセミエアロ断面を採用する。サイドウォールはやや凹んだ形状(コンケーヴシェイプ)を取ることによって強度を増し、タイヤプレッシャーとスポークのテンションに耐える設計となっている。

リムのジョイント部は「SBWT(Strength Boost Welding Technology)」と名付けられた溶接構造。これは小さなスリーブジョイントを入れて溶接する工法で、圧倒的な強度を誇る。

サイドウォールに各種テクノロジーを示すアイコンがあるサイドウォールに各種テクノロジーを示すアイコンがある オリジナルのクイックリリースオリジナルのクイックリリース


スポークのニップルはリム側にあり、トルクス形状を採用する。テンション調整などでニップルを舐めてしまう心配が少ないのはありがたい。

オリジナルのクイックリリースは、ハウジング部にバネが内蔵されてロック機構になっており、レバーを回転させて固定するタイプだ。

今回のインプレでは「IRC FORMULA PRO TUBELESS 700×23C Top Secret」タイヤを装着。使用バイクは、それぞれのインプレライダーが普段使用しているもので、戸津井はコルナゴ CX-1、仲沢はスコット ADDICT LTDである。

それでは、さっそく気になるインプレッションをお届けしよう!






―インプレッション



「普通のホイールみたいなフィーリングで使える」 戸津井 俊介(OVER-DOバイカーズサポート)


「羊の皮をかぶったオオカミ」的なホイール(戸津井 俊介)「羊の皮をかぶったオオカミ」的なホイール(戸津井 俊介) 見た目のインパクトがあまりないせいか、乗る前はそれほど期待していなかったのだが、なかなかどうして、実際に乗ってみると実力の高いホイールであることに驚かされた。まさに「羊の皮をかぶったオオカミ」的なホイールである。

リムハイトが低く、チューブレスタイヤで外周部が軽いということもあり、踏み出しは結構軽い。そして、低速から40km/h程度までの加速感はバツグン。

反面、高速域での伸びは普通だが、リムハイトの低いホイールであるから、そこは期待すべき部分ではないだろう。上りはとても軽快で外周部の軽さを体感できる部分だ。ヒルクライム用ホイールとして使うのにも向いている。

コーナリングも実に軽快である。横剛性がとても高いので、無理なコーナリングをしても、ホイールがよじれるようなことはない。独特なスポークパターンは伊達ではないようだ。

驚くのは回転性能の高さである。精度の高いハブが、なんのよどみもなくクルクルと回ってくれる印象なのである。さすがスイスの製品といったところだろうか。

回して固定するタイプのクイックリリースは、使い勝手がイマイチな印象だった。色々な意味で通常のクイックリリースの方が使いやすいだろう。

クイックリリースはレバーを回転させて止める独特の方式だクイックリリースはレバーを回転させて止める独特の方式だ 全体にこれといった特徴がなく、ちょっと乗った感じでは通常のタンジェント組のホイールとなんら変わる部分がないように感じるホイールである。しかし、その特徴のなさこそが、このホイールの最大の魅力とも言える。ライディング中にホイールに気を奪われることなく、ガンガン乗ることに集中できる。これは当たり前のようでとても大事なことだと思う。まさに「羊の皮をかぶったオオカミ」的ホイールだ。

オススメしたいのは、上りの多いコースをよく走るサイクリストだ。外周部が軽く踏み出しや上りがとても軽快なので、信号でのストップ&ゴーや長い上り坂も苦にならないだろう。



「カッチリ感が際だつスイスの精密機械」 仲沢 隆(自転車ジャーナリスト)


「カッチリ感が際だつスイスの精密機械のようだ」(仲沢 隆)「カッチリ感が際だつスイスの精密機械のようだ」(仲沢 隆) 個人的にDTスイスはとても好きなブランドである。手組ホイールではいつもDTスイスのスポークのお世話になっている。プレーンからバテッド、エアロ形状に至るまで豊富なラインナップがあり、ヒルクライム用から平坦の高速走行用まで、自分が理想とするホイールを自在に組むことができるのがありがたい。そして、何よりもその強度が素晴らしい。2mm径のスポークなど、まず切れることがないくらいだ。

そんな大好きなDTスイスの製品であるから、とても期待をしてインプレした。そして、予想通りその性能は素晴らしく、期待を裏切られることはなかった。

とにかく、とてもカチッとした乗り味のホイールである。ハブ・スポーク・リムともにとても精度が高く、キッチリと回っている印象だ。さすがスイスの製品という感じである。

特に良いのが踏み出しの軽さと上りの軽快さだ。軽量なリムと軽量なチューブレスタイヤの相乗効果により、何のよどみもなくスピードに乗り、羽根が生えたかのごとく飛ぶように上ってくれるのである。

平坦の高速走行は特に印象は残らなかったものの、実用域の速度ではとてもよく走るホイールである。これはチューブレスタイヤ最大のメリットとも言えるだろう。とくかく、転がり抵抗の小ささを体感できるホイール(&タイヤ)である。

下りのハイスピードコーナーでも、実にキッチリとした挙動を見せる。横剛性が高いので、コーナリングや無理なダンシングなどでもホイールがよじれないのだ。

このホイールをオススメしたいのは、とにかく「チューブレスタイヤの軽快感を味わいたい」という人。ヒルクライムや上りの多いレースなどでももちろん素晴らしい性能を発揮してくれるが、レース指向の人でなくてもこの軽快感は病みつきになってしまうだろう。






DTスイス RR1450 TRICONDTスイス RR1450 TRICON

DTスイス RR1450 TRICON ROAD WHEEL
リムハイト:フロント21mm、リヤ21mm
スポーク:ステンレスオーバル
スポーク数:フロント18本、リヤ24本
フリーボディ:シマノ9・10S用、カンパニョーロ9・10・11S用
重量:フロント650g、リヤ800g(シマノ)、810g(カンパ)
カラー:パールホワイトwithブラック×ホワイトデカール
価格:168,000円(前後セット)





インプレライダーのプロフィール

戸津井俊介(OVER-DOバイカーズサポート)戸津井俊介(OVER-DOバイカーズサポート) 戸津井俊介(OVER-DOバイカーズサポート)

1990年代から2000年代にかけて、日本を代表するマウンテンバイクライダーとして世界を舞台に活躍した経歴を持つ。1999年アジア大陸マウンテンバイク選手権チャンピオン。MTBレースと並行してロードでも活躍しており、2002年の3DAY CYCLE ROAD熊野BR-2 第3ステージ優勝など、数多くの優勝・入賞経験を持つ。現在はOVER-DOバイカーズサポート代表。ショップ経営のかたわら、お客さんとのトレーニングやツーリングなどで飛び回り、忙しい毎日を送っている。09年からは「キャノンデール・ジャパンMTBチーム」のメカニカルディレクターも務める。
最近埼玉県所沢市北秋津に2店舗目となるOVER DO所沢店を開店した(日常勤務も所沢店)。
OVER-DOバイカーズサポート


仲沢 隆(自転車ジャーナリスト)仲沢 隆(自転車ジャーナリスト) 仲沢 隆(自転車ジャーナリスト)

ツール・ド・フランスやジロ・デ・イタリアなどのロードレースの取材、選手が使用するロードバイクの取材、自転車工房の取材などを精力的に続けている自転車ジャーナリスト。ロードバイクのインプレッションも得意としており、乗り味だけでなく、そのバイクの文化的背景にまで言及できる数少ないジャーナリストだ。これまで試乗したロードバイクの数は、ゆうに500台を超える。2007年からは早稲田大学大学院博士後期課程(文化人類学専攻)に在学し、自転車文化に関する研究を数多く発表している。






text:Takashi.NAKAZAWA
photo:Makoto.AYANO