UAEチームエミレーツのキャンプ取材記第2弾は、スプリントエースを務めるアレクサンダー・クリストフ(ノルウェー)とフェルナンド・ガビリア(コロンビア)へのインタビューを紹介する。昨年の総括、そして今シーズンに向けた展望と目標を聞いた。



アレクサンダー・クリストフ(ノルウェー)「混戦必至のジロでステージ優勝が欲しい」

アレクサンダー・クリストフ(ノルウェー、UAEチームエミレーツ)アレクサンダー・クリストフ(ノルウェー、UAEチームエミレーツ) photo:So.Isobe
― まず、今季を振り返ってどのようなシーズンでしたか?

今年はヘント〜ウェヴェルヘムで勝ち、シーズン最後の世界選手権でも7位に入れたりと全体的に安定したパフォーマンスを出すことができたけれど、ツールでは最高でもステージ2位、ロンドでも3位止まりとピークパフォーマンス的にはあまり良くなかった。いくつかミスも犯してしまったので、来年はコンディショニングと、作戦立てをよりしっかりと行なっていく必要がある。

来年の欧州選手権、世界選手権、それにオリンピックはどれもクライマー向けの非常に厳しいコースなので、クラシックレースをメインターゲットに据える。ミラノ〜サンレモやパリ〜ルーベなど"スプリントクラシック"を中心に勝ちを狙い、その後はジロ・デ・イタリアに出る予定だ。

春先のヘント〜ウェヴェルヘムで優勝春先のヘント〜ウェヴェルヘムで優勝 (c)CorVos過酷な気象の中行われた世界選手権では7位に入った過酷な気象の中行われた世界選手権では7位に入った (c)CorVos


今UAEには3人のエーススプリンターがいる。僕と、フェルナンドと、ジャスパー。それぞれが異なるグランツールに出場予定で、僕がジロ、フェルナンドはツール、そしてジャスパーはブエルタ。今年のジロは例年ほど登りがクレイジーではなく、スプリントステージが増えた一方ツールの山岳が厳しくなった。だから例年よりスプリンターの多くがジロを狙ってくるのでスプリントの競技レベルは非常に高くなるはずだ。トップスプリンター同士がガチンコでぶつかり合うステージで勝つのは並大抵のことではないので、自分は少し丘がちな、登りが不得意なスプリンターが消耗するようなコースを狙うつもりだ。

― そのためには現状、自身のどんな要素を高めていく必要がありますか?

「スプリント中のトップスピードを最盛期の頃に近づけなくてはいけない」「スプリント中のトップスピードを最盛期の頃に近づけなくてはいけない」 photo:So.Isobe
第一にはアップダウンコースで耐え抜くために体重を減らすこと。それからスプリント中のトップスピードを最盛期の頃に近づけること。僕は来年33歳なのでスプリントのピークパワーは正直3,4年前を境に落ちていて、今はフェルナンドやジャスパーの方がスピードがある。それを補うためにここ数年はジムトレーニングの量を増やし、年齢による衰えをカバーしているけれど、どうにもならない部分があるのは確か。彼らと練習していて"ピーク時だったらこいつらに勝てるのに!"と思ったことは一度や二度ではないよ(笑)。

― 確かにスプリンターとしては若くありませんが、それでも勝ち続けている息の長い選手という印象があります。そのモチベーションや強さはどこから生まれているのでしょう?

「一番のモチベーションは勝利そのものから生まれる」「一番のモチベーションは勝利そのものから生まれる」 photo:So.Isobeやっぱり一番のモチベーションは勝利そのものから生まれる。どんな勝利も最高だし、特に3勝したツール、ミラノ〜サンレモ、ロンド・ファン・フラーンデレンなどビッグレースで勝利した時は格別だった。あれを一度味わってしまったらなかなか諦めるのは難しいよ。それから経験値の差と、そこから生まれる状況判断の差も少なからず大きな要素だ。

もちろん昔は出るレース全てに対してものすごい集中力で臨んでいたけれど、今は多少ビッグレースにしか興味が湧かなくなってきているかな...(笑)。それだけに狙ったレースに集中して、勝ち星を挙げていきたいと思っている。

― 来年はおそらく世界で最も経験豊富なトップクラスのリードアウトマン、(マキシミリアーノ)リケーゼが加わります。その点に関してはどうでしょう。

チームにとって非常に良いことだと思う。ただしマキシミリアーノとタッグを組むのは主にフェルナンドだ。彼らは同じ南米出身だし、クイックステップ時代には絶対的な関係を築いていた。でも、もしフェルナンドが怪我でもしたら僕が彼と組むことになるけど、どうなるかな(笑)。

でも正直なところ、僕にもスプリント前のアシスト選手がもう少しいてくれた方が良いのは事実だ。来年のジロではおそらくスプリント力のある(フアン)モラノと、トラックレースで瞬発力を磨いた(ルイ)オリヴェイラと組むことになるはずだ。最終局面までこの二人を温存できればレースの展開はかなり変わってくると思っているよ。日本のファンもTVの前でUAEトレインに注目していて欲しい。



フェルナンド・ガビリア(コロンビア):「リケーゼと共にツールのステージ優勝を」

フェルナンド・ガビリア(コロンビア、UAEチームエミレーツ)フェルナンド・ガビリア(コロンビア、UAEチームエミレーツ) photo:So.Isobe
― 昨年は膝の負傷でジロを途中棄権したことが話題になりました。今のコンディションはどうでしょうか?

新しいチームジャージに身を包んだフェルナンド・ガビリア(コロンビア、UAEチームエミレーツ)新しいチームジャージに身を包んだフェルナンド・ガビリア(コロンビア、UAEチームエミレーツ) (c)UAE Team Emiratesまだコンディションは非常に悪い、と言わざるを得ないけれど、全チームメイトとスタッフが集まるこのキャンプを楽しめている。UAEでは2年目になるけれど、実際は初年度といろいろなことが変わっているからフレッシュで、モチベーションも高い。心からリラックスしているし、オフトレーニングを楽しんで過ごせれば自ずとシーズンでも調子が出せる。いい流れをこのままキープしていきたいね。

1月末のサンフアンから予定通りシーズンインしたものの、怪我以降は思うような成績を残せなかった。でもチームが上手くスケジュールを組んでくれたし、ブエルタでもプレッシャーを感じないように走らせてくれたのでありがたかったね。一番思い出深かったのは最終戦のツアー・オブ・グアンシーで勝てた時。本調子ではなかったけど良いスプリントができたし、合計2勝できた。自分を信じてくれたチームには感謝してもし足りないよ。

― 昨年のジロでは記録上一勝を挙げたことになっていますが…。

記録上では勝ったことになっているけど、あれはヴィヴィアーニの斜行失格による繰り上げ勝利。彼とは親友と言えるほどの間柄だし、人間的にも本当に好かれる人物だ。だから表彰式でも喜べなかったし、喜ばなかった。今でもあのステージは彼の勝利だと思っているよ。

― 今年のレーススケジュールと目標を教えてください。クイックステップ時代にコンビを組んだリケーゼの加入はどのような意味を持ちますか?

来年はまず春のクラシックシーズンを狙う。特にこれまで3回出場して5位止まりのミラノ〜サンレモは大きな目標だ。あのレースは何としても勝ちたいけれど、勝ちと負けがほんの僅かな判断ミスで決まってしまう。恐らくアレックスも出場するだろうからチームとして連携しながら走りたい。そのあとは一度短いオフを取ってからシーズン最大の目標であるツールに臨む。オリンピックはトラックで出ることも考えたけれど、ワールドカップに出場していないコロンビアはナショナルポイントを持っていないので出場枠を確保できなかった。ロードはそもそも僕向きではないので考えていないよ。残念ではあるけれど、スケジュールを組み立てやすくなるというメリットもある。

マキシミリアーノ・リケーゼ(アルゼンチン)と一緒にトレーニングを行うフェルナンド・ガビリア(コロンビア)マキシミリアーノ・リケーゼ(アルゼンチン)と一緒にトレーニングを行うフェルナンド・ガビリア(コロンビア)
その意味ではリケーゼが加入してくれたことが非常に大きい。2019年は「あともう一人リードアウト役がいてくれたら」と思うことが何度かあったけれど、彼はそんな時に大きな存在を担ってくれる選手だ。クイックステップ時代にコンビを組んでいたので彼のやり方、彼も僕のやり方を熟知しているし、とにかく彼と走ることがモチベーションの源だ。シーズンインが楽しみだよ。



次項では総合エースを務めるタデイ・ポガチャル(スロベニア)、ファビオ・アル(イタリア)、そして新加入ダヴィデ・フォルモロ(イタリア)へのインタビューを紹介します。各ページへのリンクはこちら(Vol.1Vol.3Vol.4

text:So.Isobe

最新ニュース(全ジャンル)