昨今のムーブメントに合わせてデビューしたグラベルバイク用コンポーネント シマノGRXをファーストインプレッション。最高峰のDI2モデルと機械式を乗り比べてテストを行った。



最高峰グレードであるGRXのDI2バージョン。今回はフロントシングル版をテストした(試乗車のチェーンはKMC)最高峰グレードであるGRXのDI2バージョン。今回はフロントシングル版をテストした(試乗車のチェーンはKMC) photo:So.Isobe
試乗車のカセットは最大キャパシティの11-42T。ギア比1.0以下を達成している試乗車のカセットは最大キャパシティの11-42T。ギア比1.0以下を達成している photo:So.Isobeリアディレイラーはシャドーデザインを新規採用。試乗車はロングケージタイプのRX817をセットリアディレイラーはシャドーデザインを新規採用。試乗車はロングケージタイプのRX817をセット photo:So.Isobe


GRINDURO(グラインデューロ)の開催や、シクロクロスブームから派生した未舗装路への探求など、日本でも確実に存在感を増しているグラベルロードカルチャー。北米を中心とするこのムーブメントに向け、満を持してシマノが送り込むコンポーネントが「GRX」だ。

クラッチによるモード切り替えを備え、シクロクロスやアドベンチャーライドに対応したリアディレイラー「ULTEGRA RX(RD-RX805-GS/RD-RX800-GS)」から約1年。世界初のグラベル用コンポーネントとしてデビューしたGRXの特徴は、ロードとMTBコンポーネントのノウハウを掛け合わせ、オフロード走行での操作性や変速性能を突き詰めたこと。

最大11-42Tのカセットに対応するスタビライザー付きリアディレイラー、オフロード走行に最適化された新デザインのシフトレバー、そしてロード系コンポ初のフロントシングル対応など、あらゆる路面コンディションにおいてもスムーズかつ安定して走れるようゼロから設計が施されている。

ロード用と比べ、見た目上大きく違うのがDI2のSTIレバーだ。少ない力で操作できるようピボット位置も変更しているロード用と比べ、見た目上大きく違うのがDI2のSTIレバーだ。少ない力で操作できるようピボット位置も変更している photo:So.Isobe
DI2のSTIレバーには独特なラインテクスチャー加工が施される。グリップを高める工夫だというDI2のSTIレバーには独特なラインテクスチャー加工が施される。グリップを高める工夫だという photo:So.Isobeシマノのロード系コンポーネントでは初となるフロントシングル。試乗車の歯数は40Tシマノのロード系コンポーネントでは初となるフロントシングル。試乗車の歯数は40T photo:So.Isobe

試乗バイクはメリダのSILEXシリーズ。2020モデルで650b版のSILEX+(写真)がデビューした試乗バイクはメリダのSILEXシリーズ。2020モデルで650b版のSILEX+(写真)がデビューした photo:So.Isobe
グラベルロードのドロップハンドルと(基本的には)700cホイールという組み合わせはシクロクロスバイクと同じだが、両者の大きな違いの一つがギア比だ。GRXでは時に10km以上もある険しい登りに対応すべく最小1.0以下のワイドギアを用意する。40Tまたは42Tが用意されるフロントシングルの場合(シクロクロスのフロントシングルは一般的に36〜40T)、ロングケージタイプのRX817とRX812を使うことで11-40Tまたは11-42TのMTB用カセットが使用可能だ。フロントダブルでも48/31Tや46/30Tなど、従来のロードコンポーネントよりも大小チェーンリングの歯数差を広げることでワイドギアレシオを獲得している。

リアディレイラー自体も、クラッチレバーでケージの動きをロックできるスタビライザーはもちろん、外側への張り出しが少ないシャドーデザインを新採用しているため、荒れた路面のスムーズなシフト操作やチェーンテンションの維持が可能。700x42cや650bx2.2インチなど超ワイドタイヤを装備できるフレームに搭載した際にも正しくチェーンラインを確保するべく、フロントディレイラーとクランクの基本設計もアップデートされた。なおGRXの詳細については登場時のレビュー記事を参照頂きたい。

こちらはエントリーグレードのRX400。TIAGRA相当だこちらはエントリーグレードのRX400。TIAGRA相当だ photo:So.Isobe
RX400の専用クランクは無く、1つ上級のRX600が標準装備される。試乗車はフロントダブル版(40-30T)だRX400の専用クランクは無く、1つ上級のRX600が標準装備される。試乗車はフロントダブル版(40-30T)だ photo:So.Isobe機械式変速のSTIレバーは油圧ロードコンポーネントと同形状。フードのテクスチャ加工が異なる機械式変速のSTIレバーは油圧ロードコンポーネントと同形状。フードのテクスチャ加工が異なる photo:So.Isobe

カセットは11-36T。最小ギア比は0.833だカセットは11-36T。最小ギア比は0.833だ photo:So.Isobeブレーキキャリパーはロードモデル同等品。フラットマウント、デュアルピストン仕様だブレーキキャリパーはロードモデル同等品。フラットマウント、デュアルピストン仕様だ photo:So.Isobe


今回インプレッションに用いたのは、メリダのグラベルバイク「SILEX」の2020完成車に搭載された2グレード。650bホイールのSILEX+ 8000-Eに搭載されるDI2のハイエンドモデル「RX815」のフロントシングル(前40+後11-42T)版と、SILEX 400に搭載されるエントリーグレード(TIAGRA相当)のフロントダブル(前46/30+後11-36T)を乗り比べた。



― インプレッション

RX800のDi2とRX400を乗り比べた。テスターは遠藤健太(サイクルワークス Fin’s)さんRX800のDi2とRX400を乗り比べた。テスターは遠藤健太(サイクルワークス Fin’s)さん photo:So.Isobe
DI2バージョンは、まず、とにかくブラケットの形状が好みでした。あの形状でデュラエースやアルテグラに使って欲しいくらい。特にブラケットの突き出しの部分が好きなんですが、例えばブラケットを握っている場合ちょっとした段差で手が滑ってしまうのを防いでくれます。ウェットコンディションでもすっぽ抜けることがありませんし、そもそも細くて握りやすいし、すごく良い。ブラケットに手を添えている時のブレーキレバーの位置も考えられているな、と思います。

比較的手が小さい私は、通常のロード用ブレーキはレバーが下に向かってまっすぐ降りているので若干遠い印象を持っていました。でもGRXのレバーは末広がり形状なので指が届きやすい。特にグラベルの場合は上ハンドルを持つ割合が高いと思うので、より有益かな、と。下ハンドルを握った時もブレーキレバーが近いので、小柄な男性や女性にも広く受け入れられる設計だなと感じました。

変速についてはすごく良かった。後述する機械式だとワイヤー変速の巻き取る動作を感じましたが、DI2の場合はそれがない。これほどワイドなカセットが付いているにも関わらず頑張ってる感が無いし、スムーズですね。シマノにはMTB用のDI2があるので当たり前と言えばその通りですが、これならシンプルなフロントシングルのメリットがより活きてくると思います。

「Di2はとにかくSTIレバーとブラケットの形状が良い。扱いやすいですね」「Di2はとにかくSTIレバーとブラケットの形状が良い。扱いやすいですね」 photo:So.Isobe
「ウェットコンディションでも手が抜けることがないし、すごく握りやすい」「ウェットコンディションでも手が抜けることがないし、すごく握りやすい」 photo:So.Isobe「機械式の場合でもレバーのコーティングによりホールド感はしっかりしている」「機械式の場合でもレバーのコーティングによりホールド感はしっかりしている」 photo:So.Isobe


機械式のRX400は一見ロードディスクコンポとあまり変化がないように思うんですが、最も違いを感じるのはリアディレイラー。張力が強いのでチェーンのバタつきが全然少ないですね。ロードとMTBの中間を付いているような感触はわかりますね。クラッチをオフにした状態でもチェーン暴れの少なさは感じます。試しに舗装路でクラッチオンにした状態で走ってみましたが、張力が少し増し、チェーンノイズは少なく走行できます。

グラベルライドといっても絶対的に舗装路は入ってきますし、あるいは綺麗なフラットグラベルならオフ、荒れた場所ならオンと走るフィールドによってオン/オフを切り替えてあげれば良いのかな。例えば登りでは速度変化が大きく、速度も低いため、機械式変速の軽い操作感を楽しみたいならクラッチはオフにしてあげたほうが良いかもしれませんね。

路面コンディションの悪い舗装路を中心にインプレッションを行った路面コンディションの悪い舗装路を中心にインプレッションを行った photo:So.Isobe
「Di2は変速が非常にスムーズ。機械式は若干引っかかる感じがあるため、状況によってクラッチ操作を行うべき」「Di2は変速が非常にスムーズ。機械式は若干引っかかる感じがあるため、状況によってクラッチ操作を行うべき」 photo:So.Isobe「クラッチをオフにした状態でもチェーン暴れの少なさは感じます」「クラッチをオフにした状態でもチェーン暴れの少なさは感じます」 photo:So.Isobe


その他、例えばブレーキ系のフィーリングなどはロードコンポと大きな差は無いですね。今回は前後のローター径160mmでしたが、あまりアグレッシブな走り方をしないようであれば140mmに変えたりするのも良いでしょう。パッドの規格は共通ですので、既存のレジンとメタルが選べるのは良いですね。

今回は短時間で2グレードを試しましたが、その完成度はさすがシマノと言うべきか、かなりのものだと感じました。現在のGRXのグレードはロードで言えばアルテグラ、105、そしてティアグラという3種類ですが、デュラエースに相当するGRXの登場にも期待してしまうほどです。

グラベルバイクというジャンルが日本でも確立していくに従って、キャンプツーリングであるとか、あるいはグラインデューロのような、グラベルレースイベントの充実は、この先より加速していくと思うんですよね。各社のグラベルロードの完成車でGRX搭載モデルも増えると思いますし、今後さらに期待したい製品群だと感じました。



インプレッションライダーのプロフィール

遠藤健太(サイクルワークス Fin’s)遠藤健太(サイクルワークス Fin’s) 遠藤健太(サイクルワークス Fin’s)

新潟県長岡市に店舗を構えるサイクルワークス Fin’sの店長。学生時代にBMXをきっかけにスポーツバイクの虜となり、2012年には全日本選手権ロードに出場した経験も持つ走れる店長。現在も積極的にレース出場を重ねるだけにロードレーサーのイメージが強いが、MTBをはじめオフロードライドもこなす。SDA王滝への出場や里山遊びを楽しみ、長岡MTBフェスティバルの主催も務めている。

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