7月6日にベルギー・ブリュッセルで開幕する第106回ツール・ド・フランス。1919年に誕生して100年を迎えるマイヨジョーヌを手にするのは誰か?山岳の比重が高いことからコロンビアやフランス勢に有利という前評判のマイヨジョーヌ候補をチェックしておこう。



1919年に誕生したマイヨジョーヌ ボーナスポイント争いに注目

凱旋門を通過するマイヨジョーヌのゲラント・トーマス(イギリス、チームスカイ)凱旋門を通過するマイヨジョーヌのゲラント・トーマス(イギリス、チームスカイ) photo:Luca Bettini
イエロージャージを意味するマイヨジョーヌは総合リーダーの証。個人総合成績首位の選手だけが着用を許される栄光のジャージであり、総合優勝者は最終日パリの表彰台でマイヨジョーヌを受け取る。仮に総合上位2名が同タイムの場合、タイムトライアルの成績を1/100秒のタイムまでさかのぼって比較する。それでも同タイムの場合は全ステージの順位の合計が少ない選手が上位に。また、それでも同順位の場合は最終ステージの順位で決定する。

マイヨジョーヌが初めてツールに登場したのは1919年の第13回大会。つまり2019年の第106回大会はマイヨジョーヌ誕生100周年を記念したものになる。1987年からジャージスポンサーはリヨンに拠点を置くLCL銀行。

2019年も引き続きボーナスタイムが導入されている。ステージ1位の選手は10秒、ステージ2位の選手は6秒、ステージ3位の選手は4秒のタイムが総合時間からボーナスとしてマイナスされる(チームTTと個人TTを除く)。つまりステージ上位に入った選手が有利に総合争いを進めることができるため、積極的なレース展開につながる。

超級山岳ガリビエ峠に設定された黄色い「B」がボーナスポイント超級山岳ガリビエ峠に設定された黄色い「B」がボーナスポイント photo:A.S.O.2018年に導入された「ボーナスポイント」は継続するが、設置される場所やボーナスタイムの秒数に変更が加えられた。従来の「スプリントポイント」とは別に設定され、ポイント賞に関係するポイントは与えられないのは前年度と同じ。しかし2019年の「ボーナスポイント」は全て山岳ステージの終盤(フィニッシュの一つ手前の山岳)に設定されており、上位3名に与えられるボーナスタイムも8秒、5秒、2秒に倍増した(昨年は3秒、2秒、1秒)。

このルール変更により、マイヨジョーヌ候補の中には、ステージ優勝争いが白熱する最終山岳ではなく、一つ手前の山岳から攻撃を仕掛ける選手も出てくるだろう。山岳アシスト体制の有無もマイヨジョーヌ争いに大きく響きそうだ。

2018年大会は総合1位ゲラント・トーマス(イギリス、チームスカイ)、総合2位トム・デュムラン(オランダ、サンウェブ)、総合3位クリストファー・フルーム(イギリス、チームスカイ)2018年大会は総合1位ゲラント・トーマス(イギリス、チームスカイ)、総合2位トム・デュムラン(オランダ、サンウェブ)、総合3位クリストファー・フルーム(イギリス、チームスカイ) photo:Kei Tsuji


山岳の比重が高いコースはクライマー向き?

ダブルエースを組むゲラント・トーマス(イギリス、チームイネオス)とエガン・ベルナル(コロンビア、チームイネオス)ダブルエースを組むゲラント・トーマス(イギリス、チームイネオス)とエガン・ベルナル(コロンビア、チームイネオス) photo:Kei Tsuji
個人タイムトライアルの距離が27.2kmと短く、逆に第6ステージで早くも本格的な山頂フィニッシュが登場し、後半にかけて標高2,000mオーバーの峠が7つ登場する2019年のツール。例年よりも『個人TTよりも山岳の比重が高い』というのが前評判であり、ピュアクライマーにとって絶好のチャンスが巡ってきたと言える。

ディフェンディングチャンピオンのゲラント・トーマス(イギリス、チームイネオス)はそんな山がちなツールで大会連覇を果たすことができるだろうか?トーマスは5月のツール・ド・ロマンディで総合3位に入ったものの、今シーズン0勝。前哨戦ツール・ド・スイスでは第4ステージ落車リタイアに終わっている。落車の影響は少ないが、重要な前哨戦でレース強度の乗り込みができなかったことはツール本戦に響くかもしれない。

前哨戦クリテリウム・デュ・ドーフィネで落車負傷したクリストファー・フルーム(イギリス)が戦線を離脱したため、2018年のような『エースはどっちだ問題』は発生しないと見られたが、チームイネオスにはもう一人の強力なオールラウンダーがいる。2018年ツール・ド・ロマンディ総合2位、ツアー・オブ・カリフォルニア総合優勝、初出場のツールでトーマスとフルームをサポートしながら総合15位に入った22歳のエガン・ベルナル(コロンビア)だ。

鳴り物入りのプロ入りから快進撃を続けるベルナルは2019年パリ〜ニースで総合優勝すると、前哨戦ツール・ド・スイスで圧倒的な登坂力を発揮して総合優勝。個人タイムトライアルも難なくこなす若きコロンビアンライダーは、トーマスとダブルエースを組む。状況に応じてエースを決める作戦だが、2019年のコースレイアウトはズバリ標高2,640mのコロンビアの首都ボゴタ出身のベルナル向きだと言える。

ヤコブ・フルサング(デンマーク、アスタナ)ヤコブ・フルサング(デンマーク、アスタナ) photo:CorVos
チームイネオスの双璧に挑む急先鋒は、今シーズン最も勢いのあるヤコブ・フルサング(デンマーク、アスタナ)だろう。デンマーク生まれの34歳はブエルタ・ア・アンダルシア総合優勝、ストラーデビアンケ2位、ティレーノ〜アドリアティコ総合3位、アムステルゴールドレース3位、ラ・フレーシュ・ワロンヌ2位、リエージュ〜バストーニュ〜リエージュ優勝、そして前哨戦クリテリウム・デュ・ドーフィネで総合優勝と、ビッグレースで好成績を連発してきた。何よりもドーフィネの成績は嘘をつかない。

フルサングは2017年にもドーフィネで総合優勝を飾っているが、落車負傷によってツールをリタイアしている。ツールでの最高成績は2013年の総合7位。ペリョ・ビルバオ(スペイン)やアレクセイ・ルツェンコ(カザフスタン)ら、好調なアスタナを代表するアシスト陣を従えて、フルサングが好調をキープしたままツール開幕を迎える。

ティボー・ピノ(フランス、グルパマFDJ)ティボー・ピノ(フランス、グルパマFDJ) photo:Kei Tsuji
個人タイムトライアルの短さを喜んでいるのは地元フランス勢も同じ。2018年にツールを欠場してジロ・デ・イタリアとブエルタ・ア・エスパーニャに出場したティボー・ピノ(フランス、グルパマFDJ)がツールに帰ってくる。2014年に総合3位に入るとともにマイヨブランを獲得したピノは現在29歳。2016年と2017年はリタイアに終わっているが、2018年のイル・ロンバルディアを制してモニュメントのタイトルを獲得した今、強いピノが戻ってきている印象。ドーフィネは山岳ステージで活発な走りを見せて総合5位で終えている。

2016年ツール総合2位、そして2017年ツールを総合3位で終えたロマン・バルデ(フランス、アージェードゥーゼール)は近年『最もマイヨジョーヌに近いフランス人』と言われ続けている。過去5年間常に総合トップ10に入る安定感ある走りが持ち味で、今シーズンはパリ〜ニース総合5位、ドーフィネ総合10位。目立つ成績を残していないものの、全ては厳しい山岳が連続するツール最終週を見据えてのコンディショニングとも言われる。なお、ピノもバルデもまだマイヨジョーヌに袖を通したことは一度もない。1985年のベルナール・イノー以来、34年間フランス人選手がツールの総合表彰台の真ん中に立っていないだけに、このチャンスを逃すまいと彼らのモチベーションは高いはずだ。

ロマン・バルデ(フランス、アージェードゥーゼール)ロマン・バルデ(フランス、アージェードゥーゼール) photo:Tim de Waele
ドーフィネ総合9位のナイロ・キンタナ(コロンビア、モビスター)はベルナルと同様に高地出身者としての特性を活かすことができるだろうか。モビスターからはグランツール出場25回目の世界王者アレハンドロ・バルベルデ(スペイン)とジロ総合4位ミケル・ランダ(スペイン)も出場し、2年連続キンタナ、バルベルデ、ランダの三銃士が揃う。直前のスペイン選手権を制した39歳のバルベルデは「キャリアで最も絞れている状態」であり、不遇のグランツールを経験してきたランダとともにエースを担う準備はできている。

ベルナル、キンタナと続けば、リゴベルト・ウラン(コロンビア、EFエデュケーションファースト)も忘れてはならない。春先の落車でレース出場日数は少ないが、「その分フレッシュで、コンディションは良い」という。2017年ツール総合2位のウランを支えるのは、ドーフィネ総合2位のティージェイ・ヴァンガーデレン(アメリカ)と、意外にもツール初出場のマイケル・ウッズ(カナダ)。ロンド・ファン・フラーンデレンを制したアルベルト・ベッティオル(イタリア)もメンバー入りしている。

ナイロ・キンタナ(コロンビア、モビスター)ナイロ・キンタナ(コロンビア、モビスター) photo:A.S.O.リゴベルト・ウラン(コロンビア、EFエデュケーションファースト)リゴベルト・ウラン(コロンビア、EFエデュケーションファースト) photo:CorVos

ドーフィネを総合2位につけた状態でリタイアしたアダム・イェーツ(イギリス、ミッチェルトン・スコット)は、ジロを総合8位で終えた双子の兄弟サイモンとともにスタートに並ぶ。2018年ブエルタを制したサイモンではなく、エースは2016年ツール総合4位&マイヨブラン獲得のアダム。山岳ステージではジャック・ヘイグ(オーストラリア)がイェーツ兄弟をサポートする。

2018年ツールの総合成績を見ると、総合1位トーマスに続く3名(デュムラン、フルーム、ログリッチェ)が2019年は欠場。次に名前が挙がるのが2018年ツール総合5位のステフェン・クライスヴァイク(オランダ、ユンボ・ヴィズマ)だ。ログリッチェが欠場したため、ユンボ・ヴィズマはクライスヴァイクを中心にしたメンバー編成。ジョージ・ベネット(ニュージーランド)やローレンス・デプルス(ベルギー)がクライスヴァイクの走りを支える。

アダム・イェーツ(イギリス、ミッチェルトン・スコット)アダム・イェーツ(イギリス、ミッチェルトン・スコット) photo:Kei Tsujiステフェン・クライスヴァイク(オランダ、ユンボ・ヴィズマ)ステフェン・クライスヴァイク(オランダ、ユンボ・ヴィズマ) photo:CorVos

心機一転チームを移籍したリッチー・ポート(オーストラリア、トレック・セガフレード)は『第9ステージ』の呪縛から抜け出すことができるだろうか。2013年と2015年にパリ〜ニース、2017年にツール・ド・ロマンディ、2018年にツール・ド・スイスで総合優勝を果たしている34歳は、2017年と2018年ツールの第9ステージで落車リタイアしている。ドーフィネでは輝きを見せることができずに総合11位に終わったが、ツールでは2016年に記録した総合5位からのステップアップを目指す。

ジロを総合2位で終えたヴィンチェンツォ・ニバリ(イタリア、バーレーン・メリダ)は2014年のツール総合優勝者。グランツール全制覇を達成しているニバリは、ツール・ド・スイスを総合2位で終えたローハン・デニス(オーストラリア)とエースの座を分け合うことになるだろう。ニバリと並ぶイタリアングランツールレーサーである2015年ブエルタ覇者ファビオ・アル(イタリア、UAEチームエミレーツ)は、不調の原因となっていた腸骨動脈の手術を受けて順調に回復。復活の兆しを見せており、ツールではダニエル・マーティン(アイルランド)とタッグを組む。

リッチー・ポート(オーストラリア、トレック・セガフレード)リッチー・ポート(オーストラリア、トレック・セガフレード) photo:Kei Tsujiヴィンチェンツォ・ニバリ(イタリア、バーレーン・メリダ)ヴィンチェンツォ・ニバリ(イタリア、バーレーン・メリダ) photo:CorVos

2018年ブエルタを総合2位で終え、次世代スパニッシュライダーとしての存在感をアピールした24歳のエンリク・マス(スペイン、ドゥクーニンク・クイックステップ)はベルギーチームの中でグランツールの総合成績を狙える稀有な存在。他にも、2017年ブエルタ総合3位や2019年ジロ総合10位をはじめ、グランツールで安定して総合トップ10の成績を残すイルヌール・ザカリン(ロシア、カチューシャ・アルペシン)やドーフィネを総合3位で終えたエマヌエル・ブッフマン(ドイツ、ボーラ・ハンスグローエ)らが総合争いに絡んでくるだろう。



歴代のツール総合優勝者
2018年 ゲラント・トーマス(イギリス)
2017年 クリストファー・フルーム(イギリス)
2016年 クリストファー・フルーム(イギリス)
2015年 クリストファー・フルーム(イギリス)
2014年 ヴィンチェンツォ・ニーバリ(イタリア)
2013年 クリストファー・フルーム(イギリス)
2012年 ブラドレー・ウィギンズ(イギリス)
2011年 カデル・エヴァンス(オーストラリア)
2010年 アンディ・シュレク(ルクセンブルク)※コンタドール失格による繰り上げ
2009年 アルベルト・コンタドール(スペイン)
2008年 カルロス・サストレ(スペイン)
2007年 アルベルト・コンタドール(スペイン)
2006年 オスカル・ペレイロ(スペイン)※ランディス失格による繰り上げ
2005年 ランス・アームストロング(アメリカ)
2004年 ランス・アームストロング(アメリカ)
2003年 ランス・アームストロング(アメリカ)
2002年 ランス・アームストロング(アメリカ)
2001年 ランス・アームストロング(アメリカ)
2000年 ランス・アームストロング(アメリカ)
1999年 ランス・アームストロング(アメリカ)
1998年 マルコ・パンターニ(イタリア)
1997年 ヤン・ウルリッヒ(ドイツ)
1996年 ビャルヌ・リース(デンマーク)
1995年 ミゲル・インドゥライン(スペイン)
1994年 ミゲル・インドゥライン(スペイン)
1993年 ミゲル・インドゥライン(スペイン)
1992年 ミゲル・インドゥライン(スペイン)
1991年 ミゲル・インドゥライン(スペイン)
1990年 グレッグ・レモン(アメリカ)

text:Kei Tsuji in Brussels, Belgium

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