盗難を抑止するアラームとスマホへの通知、GPSによるバイクの現在位置を知らせてくれるオルターロック。スポーツ自転車にもITを組み込む先進的なサービスを開発した照山聖岳さんにお話を伺った。

※後編はこちら


オルターロックの開発者である照山聖岳さんオルターロックの開発者である照山聖岳さん
ー自転車と離れたITという分野で活躍される照山さんが、オルターロックを開発することとなったのは何故でしょうか。

私自身、自転車が好きなんです。30歳過ぎてからでしたがロードバイクを始めたら、どんどんとのめり込んでいき、今はアマチュアのサーキットエンデューロなどを楽しんでいます。自転車がこれから一生楽しめる趣味だと思っていて、システムエンジニアとしての自分の仕事を使って自転車業界に提案できるものがないか考え始めた事が最初です。

何ができるかを考えていた時に、自分が自転車に乗っていて一番不安を感じたことは盗難対策でした。何年も自転車に乗っていると、周囲の友達にロードバイクを勧めることがあるんですけど、多くの人たちは街乗りにも使えるかどうかを気にするんですよね。でも、私たちはコンビニ入るのも心配だよ、と伝えざるを得ない。それを聞いてロードバイクを始めるのを辞めてしまうという人も実際にいたので、中々ハードルが高いと感じていました。そんなライトな層が気軽に始められるように盗難防止に着目しました。

ー確かに高い自転車なのに盗まれる可能性があるなら、始めることに気が引けてしまいますね。どれくらい前からプロジェクトは始まったんですか。

盗難防止のコンセプト自体は3年ぐらい前から考えていました。このデバイスは単体でGPSの電波を受信し、位置情報を送信できなければいけません。構想を始めた当時の技術では、携帯電話に差し込まれているSIMカードを使って通信させるしかありませんでした。

手のひらサイズのオルターロック手のひらサイズのオルターロック
しかしSIMカードは使用するための月額料金が何千円もかかってしまいます。サイクリストとしての自分が盗難防止のためだけに毎月何千円も払うと考えたら、盗難保険に満額で加入するという選択肢も考えてしまいます。そう考えるとSIMカードを使ったサービスを成立させるのは難しかったのです。

ーここにきてサービスをリリースするのに至ることができたのはどうしてでしょうか。

この数年でIoT(internet of things)向けの通信規格が世に出てきており、1年半前ほどの展示会でオルターロックに採用しているSigfoxという通信規格と出会いました。当時、日本ではIoT向け通信規格を公衆サービスとして展開していたところが、京セラコミュニケーションシステムがキャリアとなるSigfoxだけだったんです。

金額面でもSigfoxは回線契約数を増やす事ができれば年額数百円まで通信料を落とす事ができるというのです。SIMカードでの運用よりもコストがかからず、事業として組み込む事ができるのではないかと思い開発をスタートさせました。ちょうど1年ほど前の話ですね。

2018年現在、Sigfoxカバーエリア2018年現在、Sigfoxカバーエリア (c)AlterLockーSigfoxという通信規格は馴染みがない存在です。どのような特徴があるのでしょうか。

例えば、農業で言えば畑にセンサーを設置し土の温度や湿度といったデータ、ガスメーターの検針データなど限られた用途で使う場合に向いています。具体的にはデータ容量は非常に小さく、アップロードのみ行える、通信速度も遅いという面もある一方で、少ない基地局で長距離通信を行うことができるため、安いコストで通信と回線を確保できる面もあります。そういったところが限られた用途に向いているということです。

Sigfoxは長距離通信が得意なので、見通しが良ければ50kmも電波が届いてくれるんです。例えば、富士山のどこかに基地局を設置すれば、静岡県の広範囲をカバーできるんじゃないかと考えられています。

先日、東京都の和田峠までサイクリングしてきましたが、高尾山口周辺はSigfoxの電波をキャッチすることはできませんでした。しかし、和田峠の頂上では電波をキャッチすることができたので、Sigfoxの電波自体は長距離飛ぶことを確認することができました。

Sigfoxの通信範囲は京セラコミュニケーションズさんの基地局設置によりますが、2018年の9月にカバーする予定だった地域が3月には対応していたので、サービス範囲の拡張は前倒しで進行していると思います。

ー自転車のイベントは郊外で開催されることが多いです。そういう地域はカバーされるまで待ったほうが良いのでしょうか

レンタル基地局というものがあるので、弊社としてはアンテナを購入し、様々なイベントに出展しようと考えています。そうすることで、Sigfoxの電波が届かない場所でも出展したイベントの会場付近ではオルターロックが使えるようになる。例えば、現段階(11月中旬)ではツインリンクもてぎ(栃木)にSigfoxのサービスが届くかどうかは際どい所ですが、我々がブースを出すことで数千人にサービスを提供できます。

オルターロックの開発者である照山聖岳さんオルターロックの開発者である照山聖岳さん
Sigfoxエリア外で盗難にあった場合、当然ですが通信することができません。しかし、加速度センサーが動きを検知するとアラームは鳴るので抑止力になるはずです。それでも持ち去られてしまった場合、エリア内に戻ってきた際に、再び動きを検知すると位置情報がアップロードされるため、どこに自転車があるか把握できるようになっています。

もし、エリア外であってもBluetoothの接続を手動モードにしておけば、Bluetoothが届く範囲であれば、振動検知の通知はスマートフォンに届くようになっています。遠くに離れさえしなければ、エリア外であってもオルターロックの”抑止力””気づき”という機能を使うことはできます。

ー広域のネットワークを繋ぐことがSigfoxの役割なんですね。Bluetoothはどういった働きをしているのでしょうか。

デバイスを設定する部分とオートガードの仕組みを実現しているのがBluetoothですね。デバイスとスマホとのBluetooth連携が切れた状態で、デバイスの加速度センサーが反応するとSigfoxで位置情報がアップロードされると同時にスマホへ通知が送られるようになっています。

専用アプリではシクロワイアードをはじめとする各社のニュースを読むことができる専用アプリではシクロワイアードをはじめとする各社のニュースを読むことができる
オルターロックではBluetoothの連携距離を設定できるようになっています。例えば、10〜15m離れるというのはコンビニの前に自転車を止めて、店内に入る時に切れるくらいの感覚。車のルーフに自転車を積んでいても、車内にいるときは繋がっていて、高速のSAで休憩する時に離れると連携が切れるようなイメージです。

Bluetoothの操作は盗難防止の特性上、デバイス側のボタンなどで切れてしまうことが無いように設計しています。デバイスのボタンはペアリングするときのみ使うもので、操作は全てスマホから行うようになっています。

ーお話に出たスマホとデバイスの連携距離などの設定ですね。

専用アプリではデバイスの電池残量も確認することができます。アプリ内に何台かのバイクと複数のデバイスを登録することで、それぞれの電池の具合を見ることができます。自転車が盗まれてしまった時でも位置情報と共に電池残量も送ってくれるので、遠くに持ち去られてしまった時もどれくらいトラッキングできるか目安にすることができるはずです。

また、盗難を検知すると、スマホに盗難日時と場所、盗難届けは出しましたか?の問い、SNSで拡散する時のテンプレート文章が出てきます。それらをコピーしてお使いのSNSで投稿してもらうという形になります。細かい位置情報が取れている場合は、SNSでも位置情報を公開期限限定でマップとして公開することができます。

フランジを設けることで電波の問題などをクリアしているフランジを設けることで電波の問題などをクリアしている
自分の自転車を登録する時に、メーカー名とモデル名、特長を示すコメント、車体の写真、車体番号、防犯登録番号など、警察に届け出る時に必要な情報を記載します。いざ届け出る時に便利なのかなと思います。防犯登録番号など小さな書類だったりして、家から引っ張り出すのも大変ですからね。

ー車体の写真は撮影しない人も多そうですよね。

Instagramをやっている人であれば自転車の写真は沢山持っているかも知れませんが、そうでない人は意外と写真を撮らないと思いますので、このサービスを始める時に撮影していただけると後々に役立つかも知れないです。

ただデバイスとアプリが盗難防止に特化しているため、アプリを起動するタイミングってあまりないと思うんですよね。オルターロックを使用していることの安心感を感じてもらいたいので、アプリ中で自転車に関するニュース一覧を見ることができたり、サイクリングコースを検索できるサイトにジャンプできるようにしています。

自分から能動的にニュースを見に行く行動は、SNSをやっていないと意外と最新のニュースに触れることは少ないと思います。特に初心者とか、このアプリでニュースを見てくれれば、自転車競技に興味があって始めた人じゃ無い人でも、こういう所を見ることで興味をもってもらえるようになるのかなと思います。

ーシクロワイアードもあるんですね。ありがとうございます(笑)次はハードウェアの面でいろいろお伺いしたいと思います。



前編はここまで。オルターロックは、サイクリストであるエンジニアが感じていた問題を解決するために開発された新サービスでした。ハードウェアの面でもサイクリストならではのこだわりが詰め込まれていました。後編も乞うご期待。

text : Gakuto Fujiwara
photo : Makoto AYANO
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