盗難を抑止するアラームとスマホへの通知、GPSによるバイクの現在位置を知らせてくれるオルターロック。スポーツ自転車にもITを組み込む先進的なサービスを開発した照山聖岳さんにお話を伺ったインタビューの後編です。

※前編はこちら



オルターロックの開発者である照山聖岳さんオルターロックの開発者である照山聖岳さん
ーここまで開発経緯や馴染みのないsigfoxについて解説をしていただきました。ここからはハードウェアの面でこだわっているポイントなどがあれば教えていただきたいです。

開発の初期段階ではフレーム内蔵型を検討しており、ダウンチューブやシートポストなど空間の中を考えていました。スポーツバイクと一言で言っても、アルミやクロモリといった金属フレームもあるため、中に入れてしまうと電波は遮断されてしまい通信ができないんですよね。カーボンも導電性なので電波を吸収してしまい、GPSからの位置情報を取得することができません。

ただ電波感度を犠牲にして内蔵ということも可能ですが、そうするとGPSの精度が悪くなってしまいます。なので外付けという判断を行いました。次に何処につけるかとなりますが、ディレイラーのバンドなど規格があるものを検討を重ねていきました。クロスバイクなどにも対応するためにある程度規格が共通しており、ほとんどの物に採用されているものがボトルケージという結論になりました。

この製品版の形状に落ち着くのには1年近くかかっています。最初はボトルケージに完全に隠れるスティック状も検討していましたが、シートチューブとの干渉を受けて電波強度が落ちてしまうこともあったので、フランジ部分を設けることにしました。

ーロードバイクに物を取り付ける際に、軽量性やらエアロやら見た目やらを気にしてしまうんですよね。

フランジ部分は一応、風を受け流せるような角度には設定しています。とはいえボトルを差してしまえばフランジ部分がエアロに影響することはないと思います。エアロ形状フレームの場合はシートポストに取り付けるボトルケージマウントなどを利用するのも一つの手かなと思います。サドルバッグに収納しても問題なくオルターロックは作動しますよ。

非常に薄型のボディに様々なチップなどが埋め込まれている非常に薄型のボディに様々なチップなどが埋め込まれている
クランクとは逆側にフランジが出る設計は見た目を重視して行っています。反ドライブサイドから見ると目立つデバイスですが、ドライブサイドから見ると存在感を主張してこないようにしています。自転車の写真はドライブサイドから撮影するじゃないですか。その時にデバイスが気にならないようにしています。

現状は強度を保ちながら8mmという薄さの中にバッテリーや基盤、アンテナを収納していてギッシリと詰まっています。今の技術でできることは全てやっているので、薄くしていくのにはまだ時間が必要ですね。

ークランク側から自転車を撮影した時に目立たないというのは嬉しいですね(笑)ただ、ボトルケージ台座の場合、工具さえ持っていれば取り外されるという可能性もあると思います。

振動検知の設定をどうするかによっても変わってきますが、最も敏感な状態にしておくとボルトを回すだけでもアラームは鳴るはずです。ただ、デバイスそのものが簡単に外されて、捨てられてしまう危険は確かにありますので、盗難防止用の特殊なボルトを使うことを検討しています。

採用する特殊ボルトは決定しており、今後は全国の販売店さんでボルトの付け外し作業を行ってもらえるようになる予定です。このボルトを使用すると自分で着け外しができなくなるので、レースとかで頻繁に着け外しをしたい人は普通のボルトを使用していただくことになります。

自転車の横位置写真は撮る機会は少ないため、アプリを入れた時に撮影すれば万が一の時に困らない自転車の横位置写真は撮る機会は少ないため、アプリを入れた時に撮影すれば万が一の時に困らない
対応してもらえる店舗は、オルターロックを扱いたいと声をかけていただいているプロショップさんを中心に、全国にチェーン展開している店舗に協力してもらおうとしています。ボルトの交換に際しては工賃程度の負担になるようにしたいですね。

ーバッテリーの持続時間もオルターロックの特徴だと思いますが、長寿命化はどのようにして実現しているのでしょうか。

ガーミンなどのサイコンは、1秒間隔でトラッキングして軌跡を記録していますが、8時間〜10時間ぐらいしか電池が持ちません。盗難の場合はそれでは足りず、1週間や1ヶ月という長期間追跡をしたいので、動きを検知するたびにトラッキングをするのではなく、一度動きを検知し情報をあげた後は1分から数分程度休み、その後再び動きを検知した時に位置情報を取得するようにしています。そうすることによって、細かい追跡はできませんが、長期間自転車のありかを追跡することが可能としています。

開発段階ではデバイスが位置情報を取得し続ける状態を維持させながら、車でアチラコチラを走り回るという実験も行いました。結果は数週間はバッテリーが持つという印象でした。長い時間駆動しますが、バッテリー容量自体は大きくないので、充電時間は約3時間程度です。

デバイスが装着されたロードバイク 一見するとどこにあるのかわからないスマートさデバイスが装着されたロードバイク 一見するとどこにあるのかわからないスマートさ
ー開発経緯からソフト、ハード面のお話を聞いてきましたが、ずばりオルターロックはどのようなシチュエーションで活躍してくれるでしょうか。

まず現時点ではロードバイクを長時間駐輪すること、駅の駐輪場に停めて会社へ行くというケースは難しいと思っています。オルターロックは、1人でサイクリングに行った時にコンビニに寄る時や、複数人でサイクリングしててもご飯のためにファミレスによるシチュエーションなど短時間でも目を離すようなシチュエーションがマッチしていると考えています。

今までは鍵をかけていても、無くなっているかもしれない、いつ無くなったかもわからない、誰かが触っているかもしれないという不安を抱えていたと思います。オルターロックが振動を検知しアラームを鳴らすことで、イタズラであっても犯人が逃げてくれる可能性が高いです。

付属のステッカーを貼り付け、あえてオルターロックの存在を主張することもできる付属のステッカーを貼り付け、あえてオルターロックの存在を主張することもできる
また、異変を検知したら直ぐにスマホで知ることができるため、ご飯を食べていても駆けつけられ、盗難やイタズラを防げるはずです。まずはアラームが鳴る、直ぐに気がつけることの安心感がオルターロックのポイントだと思います。

ー名前はオルタナティブ・ロック(※ここでは"代替の鍵"の意)ですが、使い方としては従来のロックと併用することが良さそうですね。

はい。それは確かにそうだと思いますし、そういう使い方をしてもらいたいです。ですが将来的には、オルターロック単体でも抑止力としての効果を十分に発揮できることを最終目標としています。

ママチャリも含めてですが、自転車は万引きよりも盗難件数が多いという現状があります。その理由は、盗むことに対するハードルが低くなっているのかなと思っていますし、犯人の半数近くは中高生という数字も出ています。組織犯罪とも言われていますが、実際には中高生が気軽にボルトカッターで鍵を切り、メルカリやヤフオクで転売しているケースの方が多いのではないかと思っています。

オルターロックの開発者である照山聖岳さんオルターロックの開発者である照山聖岳さん
そこでオルターロックを使い、ロードバイクを触ると音がなるという意識をつけることが目標です。自動車の車上荒らしもやろうと思えばできてしまうはずです。しかし発生件数として少ないのは、犯罪を試みようと思っても大きな音がなる可能性があるかもしれないということが抑止力になっているのでしょう。触ると音がなる物として認知されれば、盗難件数も変わってくるのではないかなと思います。

ーどのような人に使ってもらいたいですか。

頻繁に自転車に乗るサイクリストには是非使用してもらいたいです。開発を行うに当たり、私の方でも市場調査を行っていて、スポーツバイクに1ヶ月で数回乗るという人は300万人ほどいて、1週間で数回乗るという人が100万人もいるという結果が出ています。そういった人たちに使用して頂きたいです。

デバイスの価格は非常に頑張っています。私自身、盗難防止・対策のために1万円以上を費やすのは難しいので、私も試してみようかなと思えるところまで抑えています。サイクルコンピュータをつけるのと同じくらいのハードルになると嬉しいですね。

ーありがとうございました。



text : Gakuto Fujiwara