スイスの総合バイクブランド、BMCから初となるレーシングディスクロード「SLR01 DISC」をインプレッション。ディスクブレーキに最適化された設計を持つ最先端の一台が持つ実力に迫ろう。



BMC SLR01 DISCBMC SLR01 DISC (c)Makoto.AYANO/cyclowired.jp
高級時計や光学機器など精密機械産業を得意とするスイスを拠点とし、他のブランドとは一味違う設計思想を感じさせるバイクブランド、BMC。カデル・エヴァンス(オーストラリア)によるマイヨジョーヌ獲得やグレッグ・ヴァンアーヴェルマート(ベルギー)によるリオオリンピックでの金メダルなど、レースシーンにおいても大きな存在感を放ち続けてきたブランドだ。

そんな中、同社のロードバイクラインアップの中核を担うオールラウンドレーサー、「SLR」シリーズが2018年にフルモデルチェンジを果たした。2013年にデビューした先代から4年という期間は、前作が完成された性能を有していたレーシングバイクであった証明でもあるだろう。そして、このモデルチェンジによって、その性能は更新されることとなる。

ブレーキのオイルラインとDi2ケーブルをフル内装する「ICSステム」ブレーキのオイルラインとDi2ケーブルをフル内装する「ICSステム」 余計な造形は施されない質実剛健なフロントフォーク余計な造形は施されない質実剛健なフロントフォーク フォークの前側から直接ボルトを通してマウントするフォークの前側から直接ボルトを通してマウントする


新型SLR01の開発にあたって、最も重要視された要素が「ブレーキング」だった。サポートするBMCレーシングの選手たちにとって、剛性や軽量性、快適性といった「走るため」の性能は、前作の時点でほぼ不満が無かったのだという。

その求めに対する回答として、BMCは二つのモデルを新型SLRに用意した。一つはダイレクトマウント仕様のリムブレーキモデル、そしてもう一つが今回紹介するディスクブレーキモデルだ。これまで、エンデュランスバイクのGranfondoシリーズ、そしてその後継となるRoadmachineシリーズにはディスクブレーキを奢ってきたBMCだが、レーシングラインへの投入は今回が初めてとなる。

クリーンなデザインのヘッド周りクリーンなデザインのヘッド周り 専用のコンピューターマウントも用意される専用のコンピューターマウントも用意される


ダイレクトマウント方式のリアエンドダイレクトマウント方式のリアエンド アダプターなどを一切介さないディスブレーキマウントアダプターなどを一切介さないディスブレーキマウント


高い評価を得ていた前作の走行性能を損なうことなく、新たにディスクブレーキという武器を与えるためにどうすればいいのか。この問題を解決するためにBMCのエンジニアたちが用いたテクノロジーが、独自の開発・解析ソフトウェアであるACE(Accelerated Composites Evolution)テクノロジーだった。

ありとあらゆるフレーム形状とカーボン積層をシミュレーションすることで、理想的なカーボンフレームを作り上げるためのアプローチがACEテクノロジーなのだが、BMCはチューリッヒ大学と共同で開発したプログラムをスーパーコンピューター上で走らせることによって、その理想を実現した。

前作の開発段階で既に行われていた3万回を超える試行回数に加え、この新型を開発するにあたり18000回の演算が行われたという。その結果生み出された新型SLR01は、自転車のフレームという有限の変数の中から導き出された、最も正解に近い一台だと言える。

BMCらしいシート集合部BMCらしいシート集合部 推進力の要となるBB集合部はボリュームたっぷりだ推進力の要となるBB集合部はボリュームたっぷりだ


最も大きな進化は、フレームの左右非対称設計が一歩踏み込んだものへと進化したことだろう。特に、制動装置が左側へと集中するディスクブレーキモデルは、フレームだけではなくフロントフォークに至るまでアシンメトリックな設計が施されている。

ブレーキキャリパーが搭載される左側のフォークブレードは、右側のそれに対して、20%もボリュームアップ。より太く強いブレードによって、ディスクブレーキが生み出す強大なストッピングパワーを受け止めるよう設計されている。

マウント方式は、現在ディスクブレーキロードの主流となったフラットマウントを採用するが、他社のバイクではアダプターを介するものが多い中、SLR01 DISCは余計なものを一切必要とせず、直接台座へとボルトオン可能な設計となる。このような細やかな工夫の積み重ねによって、ディスクブレーキ対応ながらも重量増を最小減に抑え、先代モデルからわずか25g増のフレーム重量815gという数値をマークする。

細身の扁平シートステーが快適性を発揮する細身の扁平シートステーが快適性を発揮する D型断面のシートピラーによって快適性を確保するD型断面のシートピラーによって快適性を確保する 剛性を担保するダウンチューブ剛性を担保するダウンチューブ

また、ブレーキのオイルラインとDi2ケーブルをフル内装する「ICSステム」やD型断面のコンプライアンスシートポストなど、BMCが誇る様々なテクノロジーはこのディスクモデルにももちろん搭載されることとなる。クリーンなルックスに上質な乗り味をも手に入れ、ハイエンドバイクにふさわしい一台として更なる進化を果たすこととなった。

ディスクブレーキロードという新たなフロンティアへ、ACEテクノロジーという羅針盤と共に漕ぎ出したBMC SLR01 DISC。今回のインプレッションバイクは機械式アルテグラにDTスイスのPR1600、タイヤにヴィットリア CORSAを組み合わせた一台だ。それではインプレッションをお届けしよう。



― インプレッション

「過渡期にあるディスクロードのメルクマールとなる一台」錦織大祐(フォーチュンバイク)

数あるディスクロードの中でいま僕が一番好きな一台ですね。以上!というとお話が終わってしまうので、続けます(笑)。さて、今ディスクロードというカテゴリーは過渡期にあって、各社様々なアプローチを模索している段階だと思います。その中でも、一つの到達点でありベンチマーク的な存在となる一台に位置付けることが出来るでしょう。それほど完成度の高いバイクです。

今はまだディスクロードという括りに対して「ブレーキが利きすぎる」「乗り手のコントロール領域から逸脱しているんじゃないか」というように、いろいろネガティブな感想があると思います。もちろん好き嫌いもありますが、ディスクロードに対して多くの人が感じている漠然とした不安はこのバイクに乗れば払拭されるはず。それほどの実力を持っています。

「過渡期にあるディスクロードのメルクマールとなる一台」錦織大祐(フォーチュンバイク)「過渡期にあるディスクロードのメルクマールとなる一台」錦織大祐(フォーチュンバイク)
歴代のSLRシリーズはすべて乗ってきていますが、それぞれのモデルに長所と短所があり、それぞれ味付けされていました。最新モデルだからといって、その性能が全方位的に強化されているということではなく、明らかな意図を持った性格づけがされています。今回で言えば、抜群の接地感と安定感が最も大きな特徴でしょうね。そこに加えて、BMC全体の通奏低音である脚残りの良さはこのバイクでも感じられました。

乗り味自体は、かなりマイルドともいえます。前作と比べると加減速などの挙動は穏やかに感じられるでしょう。一方、ディスクブレーキによるオールウェザー性能やコントローラブルなフィーリングはプラスですね。レーシングな味付けのハイエンドバイクだと、ピーキーな性能に自分がついていけないと感じる方もいるでしょう。ですが、このバイクはそんな性格は一切ありません、とても扱いやすい。

いわゆるパワーコアと呼ばれるBB周辺部からシートへかけたバイクの中心部分の安定感が大幅に向上したことと、ディスクブレーキのコントロール性能が合わさることで、意のままに操ることが出来る操作性を手に入れています。ライダーが理想とする走り方に自然とついてきてくれるばかりか、助けてくれるような包容力がありますね。

それはハンドリングだけでなく、バイクの全体的な走行性能についても同様です。剃刀のような切れ味ではなく、スムースに加速し脚へダメージを残さない乗り味が身上です。レーシングバイクの中ではペダリングのスイートスポットが異常とも言える広さを持っていて、どんなケイデンス、トルクで踏んでも応えてくれます。そんな懐の深さが魅力的な一台です。

インテグレートデザインのハンドル周りも、見た目から受ける印象よりずっと組み付けしやすい。ステムの高さも調整しやすいですし、ユーティリティーの面から見ても完成度の高い一台ですね。スムースネスな乗り味はロングライドにも向いていますし、脚残りの良さはボリュームを稼ぎたいシリアスライダーにとってもぴったり。ディスクブレーキロードを考えている人にとって、最も有力な候補となるでしょう。

「どんな踏み方、乗り方をしても受け入れてくれる度量の大きな一台」飯島悠(バイシクルセオ 新松戸店)

「どんな踏み方、乗り方をしても受け入れてくれる度量の大きな一台」飯島悠(バイシクルセオ 新松戸店)「どんな踏み方、乗り方をしても受け入れてくれる度量の大きな一台」飯島悠(バイシクルセオ 新松戸店) 一枚岩のような素晴らしい剛性感で、強く踏み込めばそれだけ反応良く進んでくれるレーシーなバイクです。その一方で、優しく踏んでもスルスルと進んでいくスムースさも持っています。とはいえ、過剰な剛性だと感じることが無いのは乗り心地の良さが寄与しているのでしょう。

とにかく、フレームがよじれないのでまっすぐ前へと進んでくれる。フロントフォークからBBに至るまでのラインが歪むようなことが無いので、踏んだ力を余すところなく推進力へと変換できるのでしょう。フレーム全体の剛性レベルが高次元でバランスされているので、ディスクロードにありがちな末端部分の硬さが目立つようなこともありません。

むしろ、その部分の強化はブレーキングだけではなくハンドリングへも好影響を与えています。つま先部分が強固なので、ハンドルに対する入力に対して反応が遅れることがありません。例えば、集団前方で落車が発生しても、すぐに反応して回避できるような機敏さがあります。

走行感の軽さも際立っていて、クライミングでも気持ちいい。加減速も得意でありつつ、脚へのダメージも少ないので、集団からアタックしてそのまま逃げ続けるというようなシチュエーションが自然と思い浮かぶような乗り味です。この性格は剛性の高さはもちろんですが、しなやかなリアバックが優れたトラクションを発揮してくれるからこそでしょう。

とにかく、どんな踏み方、乗り方をしても受け入れてくれる許容範囲の広さが楽しい自転車ですね。BMCのバイクにしっかりと乗ったのは、初めてなのですが、フレームの形状やカーボンの積層といった全ての要素が絡み合って、この乗り味を実現しているのだと思います。

パーツの組み合わせでいうならば、かかりの良いディープリムなどを組み合わせて、スピードバイクに仕上げるのも面白いでしょうね。もちろん完成車の状態でも十分ですが、フレームの安定感が大きいので軽いホイールを組み合わせても不安を感じることなく、メリットを受け取ることができるはず。

オリジナルの内装システムもクリーンなルックスでカッコいいですね。できれば電動コンポーネントで組み上げたいところです。機敏な動きを得意とするフレームですので、コンポーネントも変速速度の速い電動コンポーネントがぴったりでしょうね。

BMC SLR01 DISCBMC SLR01 DISC (c)Makoto.AYANO/cyclowired.jp
BMC SLR01 DISC
サイズ:47、51、54、56
価格:SLR01 DISC ONE(シマノR8070アルテグラDi2完成車)890,000円
   SLR01 DISC TWO(シマノR8020アルテグラ完成車)640,000円
   SLR01 DISC MOD(フレームセット+パーツキット)540,000円



インプレッションライダーのプロフィール

錦織大祐(フォーチュンバイク)錦織大祐(フォーチュンバイク) 錦織大祐(フォーチュンバイク)

幼少のころより自転車屋を志し、都内の大型プロショップで店長として経験を積んだ後、2010年に東京錦糸町にフォーチュンバイクをオープンさせた新進気鋭の若手店主。世界各国の自転車メーカーと繋がりを持ち、実際に海外の製造現場で得た見聞をユーザーに伝えることを信条としている。シマノ鈴鹿ロードへ20年以上に渡り連続出場する一方、普段はロングライドやスローペースでのサイクリングを楽しむ。

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フォーチュンバイク HP

飯島悠(バイシクルセオ 新松戸店)飯島悠(バイシクルセオ 新松戸店) 飯島悠(バイシクルセオ 新松戸店)

高校大学と自転車競技部に所属し、国体に通算4回出場した経歴を持つ競技派。国体ではロードと短距離トラック種目に出場しており、豊かな体格を活かしたスプリントを得意とする。過去にはメッセンジャーやスポーツジムでのパーソナルトレーナーなどの経験も持ち、自転車に対する多方面からの知見をユーザーに還元している。現在はメカニックや接客の他に、クラブチームでの走り方やトレーニング指導も行う。

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バイシクルセオ 新松戸店 HP

ウェア協力:マヴィック(今回着用モデルはこちら

text:Naoki.Yasuoka
photo:Makoto.AYANO
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