2017/10/04(水) - 09:37
ワイヤレス電動変速とともに油圧ディスクブレーキを使用可能とするスラムの新型コンポーネント「RED eTap HRD」をテスト。昨夏の発表から約1年を経て、遂に国内でも入手可能となる話題のモデルを紹介しよう。
独自の「ダブルタップ」インターフェースを引っ提げ、2005年よりロードバイク用コンポーネントへ本格参入を果たしたスラム。2015年には同社初となる電動変速、かつ世界初となるワイヤレス変速を可能としたコンポーネント「RED eTap」を発表。シフトケーブルを通さずに済むインストールのし易さや、ブレーキケーブルのみとなるすっきりとしたバイクのルックス、より直感的な操作感などから、瞬く間に世界中のサイクリストたちに受け入れられた。
スラムはその1年後となる2016年、その革新的な変速システムに油圧ディスクブレーキを組み込んだ「RED eTap HRD」を発表し、その年のユーロバイクにて製品版を世界初披露するに至った。同年秋からは世界王者ワウト・ファンアールト(ベルギー、ヴェランダスヴィレムス・クレラン)を始めとするシクロクロスのトッププロ選手へ同コンポーネントの供給を開始。ファンアールトの世界選手権2連覇を支えるなど、その高い性能はすでに証明済みである。
元々マウンテンバイク用コンポーネントで高いシェアを誇っていた同社が、そのテクノロジーを存分に活かして開発したロード用の油圧ブレーキシステム「HRD(Hydraulic Road Disc brakes)」シリーズ。昨年、シマノが満を持して最上位グレードDURA-ACEに油圧ディスクブレーキを投入したが、その時点でスラムは既にRED eTapを除くロード用コンポーネントの全てのグレードに、油圧ディスクブレーキモデルをラインアップしてきた。
従来は「HydroR」と呼ばれるロードバイクとシクロクロスバイクに最適化した独自の油圧ディスクブレーキプラットフォームをREDから末弟モデルのAPEXまで共通で採用してきた。そんな中、今回RED eTapに油圧ディスクブレーキを組み込むにあたっては、「HydroHC」という新たなプラットフォームを開発・投入したことが大きなポイントとなる。
注目すべきはブラケットの形状変更、ブレーキタッチの改善、ブレーキキャリパーの冷却効果向上の3点であろう。ブレーキレバーの真上に油圧のマスターシリンダーを搭載する方式は変わらないが、それまでレバーに対し垂直にせり上がっていたブラケットヘッド部が、やや斜め前に突き出したエルゴノミックな形状に変更されている。ブラケットサイズも握りやすさを追求し、やや小さめな形状へアップデートが加わった。
より軽い力で操作できるようブレーキのタッチも改善されている。従来よりもコントローラブルなブレーキフィーリングを実現するとともに、新たに「Contact Point Adjustment」という調整機能も追加された。これはブラケット上部に配された調整ネジによって、ブレーキが掛かり始めるまでのレバーストロークを調整できるというもの。キャリパーやパッドをいじらずとも好みのブレーキフィーリングへカスタムできるシステムとなっている。従来通りブレーキレバーとのリーチも、ライダーの手のサイズに合わせ調整可能だ。
新たに設計されたブレーキキャリパーは、ブレーキングによって発生する熱に対し3つのテクノロジーで冷却性能を高めている。ステンレススチール製の遮熱シールドは油圧ラインに熱が伝わらないようガードし、アルミのピストンはフェノール樹脂によるカバーを纏うことで断熱性を上げている。加えてパッドポケットをより広くデザインすることで、空気の抜けを良くし排熱性を向上させている。
ディスクローターには変更はなく、従来からラインアップする”CenterLine X Rotor”と”CenterLine Rotor”の2種類が揃う。前者は中央をアルミ合金、ブレーキトラックにスチールを使用することで軽量性と放熱性を追求したモデルで、6ボルトタイプとセンターロックタイプの2種類が選べる。後者はステンレススチール1枚で構成された普及モデルで6ボルトタイプのみとなっている。
通常のRED eTapと同じくシフトブレーキレバー(キャリパーもセット)や前後ディレーラー、バッテリー等がセットになったパッケージ販売のみで展開。ブレーキキャリパーはフラットマウントだけでなく、従来型のフレームに合わせポストマウントタイプも用意されるほか、リアディレーラーがミディアムケージとなったWiFLiタイプもラインアップする。セット価格は269,400円(税抜)(WiFLiタイプ272,400円(税抜))だ。
今回はこのRED eTap HRDを、アルゴン18のGALLIUM PRO DISCにインストールした試乗車にてテストした。早速、インプレッションへ移ろう。
― インプレッション
錦織:今までシマノのロードディスクブレーキコンポーネントは、どのモデルも触らせてもらっているのですが、このスラムのRED eTap HRDに関しては今回が初めてでした。RED eTapのワイヤレス電動変速に加え、MTBコンポーネントの流れを汲む積極的なストッピングパワーが高次元で両立されており、完成度の高さを感じることができましたね。
奥村:私は先日購入したトレックのÉmondaが、実際にこのRED eTap HRDで組んであるため普段から使用しているのですが、スラムのMTBコンポーネントのようなメカっぽいルックスがまず格好良いですよね。スラムらしいブレーキブラケットの尖り具合などが他のバイクとは違う雰囲気を醸し出していて、個人的には非常に好みです。その上でMTB譲りのブレーキフィーリングとなっていて、MTBレースをしていた私として馴染みやすかったですね。
錦織:そうですね。スラムというブランドは、今までの機械式REDの時点でブレーキワイヤーの引きの軽さがアピールポイントとしてあったのですが、ディスクブレーキに関しては制動力をとことん追求しているように感じます。それこそMTBコンポーネントメーカーとして始まったことや、シクロクロスバイクでのシェアが大きい事が影響していると思いますが、ストッピングパワーを出すという事に対しては非常に積極的ですね。逆に言えばユーザーとしてはその制動性能を大いに信頼してコントロールしていけば良いのですから、ブレーキワークをしっかり理解している人にとっては使いやすい製品となっています。
奥村:そうなんです。シマノのディスクブレーキはMTBだとしっかりハードに効くイメージで、ロードは少しソフトな味付けになるよう調整されている感じがします。ですが、スラムだとMTBもロードも同じくハードにしっかり効くようになっているのが特徴ですね。ですのでブレーキコントロールに関しては、ある程度慣れが必要だと感じますね。
錦織:確かに少し止まりすぎる感はあります。ですが、DURA-ACEもRECORDもREDも調整次第では同様の制動力を発揮すると思いますし、このRED eTap HRDのみが突出した制動力をもっているというわけではないかもしれません。よく言われるディスクブレーキが”止まりすぎる”という感覚は、頭の中で考える制動のイメージと実際のバイクの挙動がシンクロしていないからだと思います。ですので、乗り手がコントロールできないような、例えば指が触れただけで急制動がかかるようなことは無いですし、リムブレーキとのフィーリングの違いは慣れで対応できる範囲です。
今はカーボンホイールが低価格化してきて、レースやイベントから普段使いまで常用する人が多くなってきたこともあり、ブレーキの熱でリムを壊す人も増えてきましたし、逆にそれを懸念してダウンヒルの最中に予期せぬタイミングでブレーキを緩める人なども現れてきました。そういった方々にとってもディスクブレーキの存在意義は十分にあると思います。
奥村:今ではディスクブレーキに慣れてしまったので、リムブレーキのバイクに乗ると長い下りでは少し恐怖感を覚える事があります。ディスクブレーキであれば、より軽い力で安全に下れますし、ロングブレーキをかける時のメリットは確実に感じます。雨の日にカーボンホイールでリムブレーキのバイクに乗った時はブレーキがかからなくて非常に怖い思いをしますが、それに対してディスクブレーキであればレインコンディションでもしっかりブレーキがかかり安心して走ることができますね。
ブラケットの形はDURA-ACEよりも若干大きめなサイズ感ではありますが、ブレーキレバーのリーチは適宜調整することができるので問題はありません。私も少し手が小さめなのですがしっかり握れますし、女性の方にも不満のないレバー操作が可能だと思います。
錦織:ブラケットに関しては私も現実的なサイズだと思います。もっと小さいものは確かに市場に出回っていますが、このRED eTap HRDも抱え込んで掴める大きさまでサイズダウンされていますし、リーチアジャスト機構も用意され、指掛かりが特段悪いわけでもありません。
変速に関しては今までのRED eTapそのままですね。ワイヤレスのせいでシフトレスポンスが遅いのではないかという心配をされるユーザーもいますが、そんなことは全くありません。これより速くなったところで人間に感知できるレベルではないでしょう。変速操作は今までシマノのSTIに慣れ親しんだ人にとっては最初は違和感を感じるかもしれませんが、これも使っていけばすぐに慣れると思います。
奥村:そうですね。私も購入してからまだあまり時間が経っていないのですが、すぐに慣れましたね。それとバッテリーがリアディレイラーとフロントディレイラーについているため、すぐに取り外しが出来るのも良いですね。飛行機輪行する場合などでもシートポストを外したりせず、セッティングも容易です。全てワイヤレスで動いているため、リアディレイラーを取り外すこともでき、組み付けも調整も簡単なのは非常にメリットだと感じます。
錦織:昨今のエアロフレームなどは、組む時の手間を考えていない設計のフレームも多いですから、ワイヤレスというのはインストール時やその後のメンテナンス含めて作業が簡素化されるため、そういったメカニック視点からのメリットも大きいですね。油圧ディスクブレーキに至ってはホースが通りさえすれば使えるのですから。
ただ、スラムのディスクブレーキはDOTフルードを使用しているため、湿気に対する耐性が低く定期的なオイルの交換が必要になってきます。劣化したオイルとホースの状態だと膨張してしまいブレーキがかかりっぱなしの状態になってしまいますので、最低でも1年に1回はメンテナンスが必要になります。
奥村:といってもメンテナンスはどのバイクにも必要ですよね。確かにミネラルオイルを使用したシマノではまず起きない現象ではありますが、それでも各部のメンテナンスは必要になってくると思いますし、デメリットというほどのものではないと思います。
錦織:ワイヤー引きのブレーキでも劣化はしますし、交換もしなければいけないのでそれと同じですね。逆に油圧ブレーキはメンテナンスフリーと勘違いしている人もいると思いますので、それは間違った考えだとここで一言申し上げておきましょう。
ロードバイクの世界において、リムブレーキが完成形に近づいているのは間違いないと思います。ですがディスクブレーキも世の中に出回ってから車やバイクに搭載されて長い年月が経っているシステムです。だからこそ今の時点で相当なレベルまで仕上がった製品が出てきているのであって、廉価版とハイエンドモデルでその差もしっかり出ているのだと思います。
コンポーネントの高性能化もあり、ディスクロードも少しずつ広がりを見せていると感じます。現に私のショップでは18年モデル先行予約の段階でディスクロードを選択している人が増えています。ロードバイクが楽しいのは分かったけど、下りや雨のブレーキングは怖い。そういった方々がこのブレーキシステムならいつでもどこでも楽しむことが出来るんだと理解して選んでくれていますね。
奥村:ディスクロードはショップの店頭にも置いていますし、興味のある人はどんどん増えていると感じます。実際に試してもらうと、皆さんその性能にビックリされるので、特にこれからはディスクブレーキロードがより深く浸透していくのではないかと思いますね。スラムのRED eTap HRDも含めディスクロードコンポーネントは要注目ではないでしょうか。
スラム RED eTap HRD
セット内容:HRDシフトブレーキコントロールレバー、前後ブレーキキャリパー、前後ディレーラー、バッテリー、バッテリーチャージャー、アップデート用USBドングル
価格:269,400円(税抜)、WiFLiタイプ272,400円(税抜)
インプレッションライダーのプロフィール
奥村貴(正屋)
福岡市東区千早の自転車店、正屋千早店の店長を務める。10代半ばからMTBの魅力に取り付かれ、2001年から2006年まではMTBジャパンシリーズのエリートクラスで全国を転戦。現在はロードバイクを中心として、ビギナーの方に自転車の楽しさを伝えるよう活動する一方、若きライダーをサポートするMASAYA YOUNG RIDERS PROGRAMで若手選手の育成に取り組んでいる。
CWレコメンドショップページ
正屋 HP
錦織大祐(フォーチュンバイク)
幼少のころより自転車屋を志し、都内の大型プロショップで店長として経験を積んだ後、2010年に東京錦糸町にフォーチュンバイクをオープンさせた新進気鋭の若手店主。世界各国の自転車メーカーと繋がりを持ち、実際に海外の製造現場で得た見聞をユーザーに伝えることを信条としている。シマノ鈴鹿ロードへ20年以上に渡り連続出場する一方、普段はロングライドやスローペースでのサイクリングを楽しむ。
CWレコメンドショップページ
フォーチュンバイク HP
ウェア協力:カペルミュール
text:Yuto.Murata
photo:Makoto.AYANO
独自の「ダブルタップ」インターフェースを引っ提げ、2005年よりロードバイク用コンポーネントへ本格参入を果たしたスラム。2015年には同社初となる電動変速、かつ世界初となるワイヤレス変速を可能としたコンポーネント「RED eTap」を発表。シフトケーブルを通さずに済むインストールのし易さや、ブレーキケーブルのみとなるすっきりとしたバイクのルックス、より直感的な操作感などから、瞬く間に世界中のサイクリストたちに受け入れられた。
スラムはその1年後となる2016年、その革新的な変速システムに油圧ディスクブレーキを組み込んだ「RED eTap HRD」を発表し、その年のユーロバイクにて製品版を世界初披露するに至った。同年秋からは世界王者ワウト・ファンアールト(ベルギー、ヴェランダスヴィレムス・クレラン)を始めとするシクロクロスのトッププロ選手へ同コンポーネントの供給を開始。ファンアールトの世界選手権2連覇を支えるなど、その高い性能はすでに証明済みである。
元々マウンテンバイク用コンポーネントで高いシェアを誇っていた同社が、そのテクノロジーを存分に活かして開発したロード用の油圧ブレーキシステム「HRD(Hydraulic Road Disc brakes)」シリーズ。昨年、シマノが満を持して最上位グレードDURA-ACEに油圧ディスクブレーキを投入したが、その時点でスラムは既にRED eTapを除くロード用コンポーネントの全てのグレードに、油圧ディスクブレーキモデルをラインアップしてきた。
従来は「HydroR」と呼ばれるロードバイクとシクロクロスバイクに最適化した独自の油圧ディスクブレーキプラットフォームをREDから末弟モデルのAPEXまで共通で採用してきた。そんな中、今回RED eTapに油圧ディスクブレーキを組み込むにあたっては、「HydroHC」という新たなプラットフォームを開発・投入したことが大きなポイントとなる。
注目すべきはブラケットの形状変更、ブレーキタッチの改善、ブレーキキャリパーの冷却効果向上の3点であろう。ブレーキレバーの真上に油圧のマスターシリンダーを搭載する方式は変わらないが、それまでレバーに対し垂直にせり上がっていたブラケットヘッド部が、やや斜め前に突き出したエルゴノミックな形状に変更されている。ブラケットサイズも握りやすさを追求し、やや小さめな形状へアップデートが加わった。
より軽い力で操作できるようブレーキのタッチも改善されている。従来よりもコントローラブルなブレーキフィーリングを実現するとともに、新たに「Contact Point Adjustment」という調整機能も追加された。これはブラケット上部に配された調整ネジによって、ブレーキが掛かり始めるまでのレバーストロークを調整できるというもの。キャリパーやパッドをいじらずとも好みのブレーキフィーリングへカスタムできるシステムとなっている。従来通りブレーキレバーとのリーチも、ライダーの手のサイズに合わせ調整可能だ。
新たに設計されたブレーキキャリパーは、ブレーキングによって発生する熱に対し3つのテクノロジーで冷却性能を高めている。ステンレススチール製の遮熱シールドは油圧ラインに熱が伝わらないようガードし、アルミのピストンはフェノール樹脂によるカバーを纏うことで断熱性を上げている。加えてパッドポケットをより広くデザインすることで、空気の抜けを良くし排熱性を向上させている。
ディスクローターには変更はなく、従来からラインアップする”CenterLine X Rotor”と”CenterLine Rotor”の2種類が揃う。前者は中央をアルミ合金、ブレーキトラックにスチールを使用することで軽量性と放熱性を追求したモデルで、6ボルトタイプとセンターロックタイプの2種類が選べる。後者はステンレススチール1枚で構成された普及モデルで6ボルトタイプのみとなっている。
通常のRED eTapと同じくシフトブレーキレバー(キャリパーもセット)や前後ディレーラー、バッテリー等がセットになったパッケージ販売のみで展開。ブレーキキャリパーはフラットマウントだけでなく、従来型のフレームに合わせポストマウントタイプも用意されるほか、リアディレーラーがミディアムケージとなったWiFLiタイプもラインアップする。セット価格は269,400円(税抜)(WiFLiタイプ272,400円(税抜))だ。
今回はこのRED eTap HRDを、アルゴン18のGALLIUM PRO DISCにインストールした試乗車にてテストした。早速、インプレッションへ移ろう。
― インプレッション
錦織:今までシマノのロードディスクブレーキコンポーネントは、どのモデルも触らせてもらっているのですが、このスラムのRED eTap HRDに関しては今回が初めてでした。RED eTapのワイヤレス電動変速に加え、MTBコンポーネントの流れを汲む積極的なストッピングパワーが高次元で両立されており、完成度の高さを感じることができましたね。
奥村:私は先日購入したトレックのÉmondaが、実際にこのRED eTap HRDで組んであるため普段から使用しているのですが、スラムのMTBコンポーネントのようなメカっぽいルックスがまず格好良いですよね。スラムらしいブレーキブラケットの尖り具合などが他のバイクとは違う雰囲気を醸し出していて、個人的には非常に好みです。その上でMTB譲りのブレーキフィーリングとなっていて、MTBレースをしていた私として馴染みやすかったですね。
錦織:そうですね。スラムというブランドは、今までの機械式REDの時点でブレーキワイヤーの引きの軽さがアピールポイントとしてあったのですが、ディスクブレーキに関しては制動力をとことん追求しているように感じます。それこそMTBコンポーネントメーカーとして始まったことや、シクロクロスバイクでのシェアが大きい事が影響していると思いますが、ストッピングパワーを出すという事に対しては非常に積極的ですね。逆に言えばユーザーとしてはその制動性能を大いに信頼してコントロールしていけば良いのですから、ブレーキワークをしっかり理解している人にとっては使いやすい製品となっています。
奥村:そうなんです。シマノのディスクブレーキはMTBだとしっかりハードに効くイメージで、ロードは少しソフトな味付けになるよう調整されている感じがします。ですが、スラムだとMTBもロードも同じくハードにしっかり効くようになっているのが特徴ですね。ですのでブレーキコントロールに関しては、ある程度慣れが必要だと感じますね。
錦織:確かに少し止まりすぎる感はあります。ですが、DURA-ACEもRECORDもREDも調整次第では同様の制動力を発揮すると思いますし、このRED eTap HRDのみが突出した制動力をもっているというわけではないかもしれません。よく言われるディスクブレーキが”止まりすぎる”という感覚は、頭の中で考える制動のイメージと実際のバイクの挙動がシンクロしていないからだと思います。ですので、乗り手がコントロールできないような、例えば指が触れただけで急制動がかかるようなことは無いですし、リムブレーキとのフィーリングの違いは慣れで対応できる範囲です。
今はカーボンホイールが低価格化してきて、レースやイベントから普段使いまで常用する人が多くなってきたこともあり、ブレーキの熱でリムを壊す人も増えてきましたし、逆にそれを懸念してダウンヒルの最中に予期せぬタイミングでブレーキを緩める人なども現れてきました。そういった方々にとってもディスクブレーキの存在意義は十分にあると思います。
奥村:今ではディスクブレーキに慣れてしまったので、リムブレーキのバイクに乗ると長い下りでは少し恐怖感を覚える事があります。ディスクブレーキであれば、より軽い力で安全に下れますし、ロングブレーキをかける時のメリットは確実に感じます。雨の日にカーボンホイールでリムブレーキのバイクに乗った時はブレーキがかからなくて非常に怖い思いをしますが、それに対してディスクブレーキであればレインコンディションでもしっかりブレーキがかかり安心して走ることができますね。
ブラケットの形はDURA-ACEよりも若干大きめなサイズ感ではありますが、ブレーキレバーのリーチは適宜調整することができるので問題はありません。私も少し手が小さめなのですがしっかり握れますし、女性の方にも不満のないレバー操作が可能だと思います。
錦織:ブラケットに関しては私も現実的なサイズだと思います。もっと小さいものは確かに市場に出回っていますが、このRED eTap HRDも抱え込んで掴める大きさまでサイズダウンされていますし、リーチアジャスト機構も用意され、指掛かりが特段悪いわけでもありません。
変速に関しては今までのRED eTapそのままですね。ワイヤレスのせいでシフトレスポンスが遅いのではないかという心配をされるユーザーもいますが、そんなことは全くありません。これより速くなったところで人間に感知できるレベルではないでしょう。変速操作は今までシマノのSTIに慣れ親しんだ人にとっては最初は違和感を感じるかもしれませんが、これも使っていけばすぐに慣れると思います。
奥村:そうですね。私も購入してからまだあまり時間が経っていないのですが、すぐに慣れましたね。それとバッテリーがリアディレイラーとフロントディレイラーについているため、すぐに取り外しが出来るのも良いですね。飛行機輪行する場合などでもシートポストを外したりせず、セッティングも容易です。全てワイヤレスで動いているため、リアディレイラーを取り外すこともでき、組み付けも調整も簡単なのは非常にメリットだと感じます。
錦織:昨今のエアロフレームなどは、組む時の手間を考えていない設計のフレームも多いですから、ワイヤレスというのはインストール時やその後のメンテナンス含めて作業が簡素化されるため、そういったメカニック視点からのメリットも大きいですね。油圧ディスクブレーキに至ってはホースが通りさえすれば使えるのですから。
ただ、スラムのディスクブレーキはDOTフルードを使用しているため、湿気に対する耐性が低く定期的なオイルの交換が必要になってきます。劣化したオイルとホースの状態だと膨張してしまいブレーキがかかりっぱなしの状態になってしまいますので、最低でも1年に1回はメンテナンスが必要になります。
奥村:といってもメンテナンスはどのバイクにも必要ですよね。確かにミネラルオイルを使用したシマノではまず起きない現象ではありますが、それでも各部のメンテナンスは必要になってくると思いますし、デメリットというほどのものではないと思います。
錦織:ワイヤー引きのブレーキでも劣化はしますし、交換もしなければいけないのでそれと同じですね。逆に油圧ブレーキはメンテナンスフリーと勘違いしている人もいると思いますので、それは間違った考えだとここで一言申し上げておきましょう。
ロードバイクの世界において、リムブレーキが完成形に近づいているのは間違いないと思います。ですがディスクブレーキも世の中に出回ってから車やバイクに搭載されて長い年月が経っているシステムです。だからこそ今の時点で相当なレベルまで仕上がった製品が出てきているのであって、廉価版とハイエンドモデルでその差もしっかり出ているのだと思います。
コンポーネントの高性能化もあり、ディスクロードも少しずつ広がりを見せていると感じます。現に私のショップでは18年モデル先行予約の段階でディスクロードを選択している人が増えています。ロードバイクが楽しいのは分かったけど、下りや雨のブレーキングは怖い。そういった方々がこのブレーキシステムならいつでもどこでも楽しむことが出来るんだと理解して選んでくれていますね。
奥村:ディスクロードはショップの店頭にも置いていますし、興味のある人はどんどん増えていると感じます。実際に試してもらうと、皆さんその性能にビックリされるので、特にこれからはディスクブレーキロードがより深く浸透していくのではないかと思いますね。スラムのRED eTap HRDも含めディスクロードコンポーネントは要注目ではないでしょうか。
スラム RED eTap HRD
セット内容:HRDシフトブレーキコントロールレバー、前後ブレーキキャリパー、前後ディレーラー、バッテリー、バッテリーチャージャー、アップデート用USBドングル
価格:269,400円(税抜)、WiFLiタイプ272,400円(税抜)
インプレッションライダーのプロフィール
奥村貴(正屋)
福岡市東区千早の自転車店、正屋千早店の店長を務める。10代半ばからMTBの魅力に取り付かれ、2001年から2006年まではMTBジャパンシリーズのエリートクラスで全国を転戦。現在はロードバイクを中心として、ビギナーの方に自転車の楽しさを伝えるよう活動する一方、若きライダーをサポートするMASAYA YOUNG RIDERS PROGRAMで若手選手の育成に取り組んでいる。
CWレコメンドショップページ
正屋 HP
錦織大祐(フォーチュンバイク)
幼少のころより自転車屋を志し、都内の大型プロショップで店長として経験を積んだ後、2010年に東京錦糸町にフォーチュンバイクをオープンさせた新進気鋭の若手店主。世界各国の自転車メーカーと繋がりを持ち、実際に海外の製造現場で得た見聞をユーザーに伝えることを信条としている。シマノ鈴鹿ロードへ20年以上に渡り連続出場する一方、普段はロングライドやスローペースでのサイクリングを楽しむ。
CWレコメンドショップページ
フォーチュンバイク HP
ウェア協力:カペルミュール
text:Yuto.Murata
photo:Makoto.AYANO
Amazon.co.jp