かつて存在した数多のドメステックブランドも、その多くが海外ブランドに押されて衰退した。しかし近年は商品力の強いブランドが再び現れている。新興ブランドのエヴァディオは、まさしくその筆頭だ。

エヴァディオ バッカスエヴァディオ バッカス (c)Makoto.AYANO/cyclowired.jp
エヴァディオの登場はカーボン時代ならではと言えるだろう。エヴァディオは現在のロードバイク界を席巻しているコンフォートロードではなく、硬派なピュアレーサーでその存在感を問うてきた。

処女作のフルカーボンバイク『ヴィーナス』は、重量からは想像できないほどの剛性を実現し、ロードバイカー達を驚かせた。そして今回テストしたのは、エントリーグレードのアルミバイク『バッカス』である。

高剛性とレーシーな走りがアイコンとなっているエヴァディオは、このグレードでいかなる主張を届けてくれるのか。

フロントの女神のモチーフがトレードマークだフロントの女神のモチーフがトレードマークだ 「あなたにバッカス神の勝利のウインクを」と書かれている「あなたにバッカス神の勝利のウインクを」と書かれている


今回の試乗車はカンパニョーロ・アテナがアッセンブルされている限定バージョン今回の試乗車はカンパニョーロ・アテナがアッセンブルされている限定バージョン ブリッジは省かれているが高い剛性を持つチェーンステーブリッジは省かれているが高い剛性を持つチェーンステー


バッカスは単純にセカンドグレードとしてコストパフォーマンスのためにアルミを採用したのではなく、積極的に走りを追求するための選択だ。シートステー、あるいはチェーンステーにカーボンを採用する『カーボンバック』が主流のこの価格帯において、バッカスがフルアルミの良さをどのようにアピールしてくるのか、興味深いところだ。

使用されるチューブは、アルミ合金のなかでも最強クラスの強度を持つ7005アルミチューブにトリプルバテッド加工を施す。レーシングフレームがカーボンの時代になっても、7000系アルミは一部のプロ選手が愛用したり、大柄の選手に対応するフレーム作りに用いられたりするなど、いまだに需要がある素材だ。重量と振動吸収性以外はカーボンに引けを取らない。

バッカスのメーンチューブは大口径化することで軽量化と高剛性を両立し、特にチェーンステーの37.1mmという外径でパワーライドに対応する。一方、シートステーは16mmにダウンサイジングすることで、長距離での快適性をねらっている。

縦方向に大胆につぶし加工が行われている縦方向に大胆につぶし加工が行われている ダウンチューブの形状が美しいダウンチューブの形状が美しい


フロントフォークはヴィーナスと共通のフルカーボン製だ。RPS(リブパワーシステム)と名付けられたチューブのセンターにリブを作り、高い剛性を実現する構造はこのバイクでも健在。D型のチューブを組み合わせて製作されており、横方向への力の逃げを防いでくれる。剛性の高いフロントフォークとアルミフレーム。そのスペックから単純に推測すれば、パワーライドをフォローするバイクとなるはずだ。

今回の車両には同社のインテグレーテッドシートクランプが搭載されている。100gほどあるが、動きやすいシートポストをしっかりと固定する役割を持つ。またフレームとシートポストが一体のように見えるのも、デザイナーが意図したところだろう。

ジオメトリーも興味深い。700Cホイールを採用したフレームでは、トップチューブが500mmを切るフレームは非常に珍しい。シートサイズ(C?T)において、499.8mm(仮想ホリゾンタル)というサイズを用意したのは、ドメステックブランドらしい配慮とセールスポイントと言えるだろう。身長150cmほどの女性や小柄なライダーにはこの上ない選択肢となるはずだ。

ヴィーナスと共通のフロントフォークヴィーナスと共通のフロントフォーク シンプルな造形美には感心させられるシンプルな造形美には感心させられる 径を細くし、ベンドさせることで快適性も確保している径を細くし、ベンドさせることで快適性も確保している


そして、グラフィックが豊富にしてデザイン性にあふれるのも見逃せない。ベーシックカラーの他にも、パール、ラメ、キャンディカラーなども選べる。さらに2,000色におよぶ膨大なカラーサンプルからの選択が可能だ(追加料金は仕様により異なる)。ロゴの位置も自在に設定でき、まさに自分仕様の1台を手に入れることが出来る。

走りにもグラフィックにもこだわりの見えるバッカス。テストライダー達はどのように受け止めたのだろうか?





― インプレッション


「ガンガン走る本格レース派の若者におすすめ。」 鈴木祐一(Rise Ride)


「ロードバイクの本質であるレーサーとして扱える自転車だ」 鈴木祐一「ロードバイクの本質であるレーサーとして扱える自転車だ」 鈴木祐一 自分の中ではすごくヒットだ。アルミフレームなので、カーボンと比較しては振動吸収性での硬さはある。突き上げ、路面からのゴツゴツ感と言えばいいだろうか。

しかしそれ以上にいいなと思ったのは、踏み込めばものすごくキビキビと走るところ。それはまさにアルミの硬さがあればこそだ。付いているパーツにも左右されるが、それらを差し引いて考えたとしても良いと思う。

ハイエンドモデルのカーボンフレームと比較するのは土俵が違いすぎるが、ミディアムモデルとなら十分に戦える。むしろそれ以上の戦闘力があり、走りに伸びがある。

値段がフレームのみで12万8000円ということで、競合するバイクが多い価格帯だ。しかし販売する立場から言えば、市場のこの価格帯のバイクの大体がコンフォート系に振ったカーボン、もしくはチタン、たまにクロモリで、「若い子がレースでガンガン使えるフレーム」というのが実はあまりない。

選択肢が少なくなってしまっていて、「安く買えてレースでも使える製品」が、このクラスの価格帯からなくなってしまっている。

そういう意味では、将来ロードレーサーのプロを目指そうというような高校生や大学生とか、お金に余裕のないレース派の人にとっては、このフレームは本当に良心的だと思う。それでいながらレースで勝てる性能は持っているので、好感が持てる。

今はアルミフレームだと、イメージ的に安モノということになり、だから入門用ということになる。例えばブリヂストンのフレームであっても、アルミモデルはコンフォートに振っている。「プロと同じスピードは出せないけれど、ゆったりと走れば同じような風は感じることは出来ますよ」という感じになっていて、ユルい方向に振っている。

でも中には「いや、オレは将来プロになるんだ! 自転車でメシを食っていくんだ!」という若くて元気の良い若者もいると思うので、そんな人にはバッカスはレーシーなスケルトンで良いと思う。乗り心地優先だとか、ロングライド優先だとかではなくて、ロードバイクの本質であるレーサーとして扱える自転車なのだ。
 
他に特徴といえば、セットされていたインテグレーテッドシートクランプだ。ノーマルシートポストを頑強なインテグレーテッドシステムのように変身させる後付けパーツだ。シート回りの強度が上がり、ずり下がりが防げるメリットはあるが、フレーム剛性が高いので体重が軽めの人は不要かもしれない。カーボンシートピラーの振動吸収性の良さを活かすのも方法だろう。好みで着脱すれば良いと思う。

「ガンガン走る本格レース派の若者におすすめ」 鈴木祐一「ガンガン走る本格レース派の若者におすすめ」 鈴木祐一
バイク全体としては、上級カーボンバイクなどと比較すれば確かに突き上げなどは存在するが、それらをねじ伏せられる元気やエネルギーでレースやトレーニングに取り組んでもらえれば、このフレームも生きてくると思う。ボロボロになるまで走り込んでほしい、そう思ったほどよく走る良い自転車だ。

この走りの良さにどの部分が影響しているのかといえば、それはスケルトンと、何より良いと思ったのはフォークの出来映えだ。芯がしっかりしている。スプリントでダッシュでもヨレず、コーナーリングでも安定している。とにかく色々な場面でフォークの優秀さを感じるのだ。

バランスの取れたフレームとフォークが相まって、突き上げは確かにあるものの、レースで勝てる性能を持っている製品に仕上がっている。戦闘的でガンガン走る姿が似合う、良いフレームだ。是非レースマン&ウーマンに乗ってもらいたい。



「加速性と反応性の素晴らしさ。アルミの良さが最大限発揮されている」 浅見和洋(なるしまフレンド)


「スパルタンなレーサーに乗ってほしい」 浅見和洋「スパルタンなレーサーに乗ってほしい」 浅見和洋 自分はショップ店員なので、立場としてどういう人に乗ってほしいかというと……。予算にシビアな制限はあるけれど、体のパフォーマンスを最大限に発揮したい人だろうか。スパルタンなレーサーに乗ってほしい、そんなフレームだ。

その理由は、まず体のパフォーマンスを最大限発揮する上で、サイズ展開が豊富なこと。従来の6サイズから7サイズに増え、より選べるようになったので、一層自分の体に合わせることが出来る。

フレーム単体でアンダー13万円なので、シマノ・105ベースで組むと23万円くらいで仕上がる。入門用レース機材は価格の要素は外すことの出来ない問題なので、バッカスは非常に優秀と言うことが出来る。

運動性能に対しては、剛性が非常に高い。これはアルミフレームの良い性質が最大限発揮されていると思う。他にもアルミの良いところ、加速性の良さ、反応性の良さ、キビキビとした部分が良くでていると思う。

振動吸収性で考えると、フルアルミフレームという物は荒々しくて、とげのある乗り心地を想像するが、このバッカスに関しては、フルアルミにしては絶妙なバランスで吸収すると思う。背伸びして中途半端なカーボンフレームを購入するよりは、高い運動性能をもつバッカスのほうが、ユーザーに対して走る喜びを与えてくれるのではないかと思う。

レースに使うに際して一言アドバイスをするとすれば、加速性が必要とされるクリテリウムがいいのではないか。

かつ個性的な一台が作れるところにも注目してほしい。カラーオーダーが出来ることによって自分だけのバイクが作れる。これはバイクを組む上で重要な魅力だ。今回の試乗車はカンパニョーロ・アテナで組まれた限定車だったのだが、国産メーカーでは非常に珍しいと思う。走る楽しさだけでなく、見た目も重視するエヴァディオであればこそ、うまく調和していると思った。





エヴァディオ バッカスエヴァディオ バッカス (c)Makoto.AYANO/cyclowired.jp

エヴァディオ バッカス
フレーム素材:7005アルミトリプルバテッド
フォーク:エヴァディオ・フォークRPS(オフセット:45mm 重量:327g(コラム長300mm))
フレームサイズ(C-T、mm)/重量:400/1230g、440/1250g、480/1290g、520/1370g、540/1390g
カラー:カルマブラック、パールホワイト(アップチャージでオーダー可能)
希望小売価格 :12万8000円(税別・フレームセット)

カンパニョーロ・アテナ+フルクラムレーシング7限定完成車(写真)
フレームセット付属品:(シートピラー、カーボトップキャップ(ステンレスボルト付、カーボンヘッドコラム用アンカーナット、ヘッドセット、カーボンスぺーサー、シートクランプ 34.9φ用CNC製/カーボンフレーム用)
価格:税込 260,400円(税抜 248,000円)
限定70台




インプレライダーのプロフィール


鈴木祐一(Rise Ride)鈴木祐一(Rise Ride) 鈴木祐一(Rise Ride)

サイクルショップ・ライズライド代表。バイシクルトライアル、シクロクロス、MTB-XCの3つで世界選手権日本代表となった経歴を持つ。元ブリヂストンMTBクロスカントリーチーム選手としても活躍した。2007年春、神奈川県橋本市にショップをオープン。クラブ員ともにバイクライドを楽しみながらショップを経営中。各種レースにも参戦中。セルフディスカバリー王滝100Km覇者。
サイクルショップ・ライズライド


浅見和洋(なるしまフレンド)浅見和洋(なるしまフレンド) 浅見和洋(なるしまフレンド)

プロショップ「なるしまフレンド原宿店」スタッフ。身長175cm、体重65kg。かつては実業団トップカテゴリーで走った経歴をもつ。脚質は厳しい上りがあるコースでの活躍が目立つクライマータイプだ。ダンシングでパワフルに走るのが得意。最近の嗜好は日帰りロングランにあり、例えば東京から伊豆といった、距離にして300kmオーバーをクラブ員らと楽しんでいる。




text:吉本 司
photo&edit:綾野 真

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