今大会最高地点のガリビエ峠には暖かい太陽の光りが差し込んだ。沿道を沸かせたバルデのアタックとキッテルの衝撃的なリタイア、ルームメイトのバルギルとマシューズの活躍など、見どころが詰め込まれたツール第17ステージを振り返ります。



キッテルにパリの方向を示すドイツ人ファンキッテルにパリの方向を示すドイツ人ファン photo:Kei Tsuji / TDWsport
標高2,642mの超級山岳ガリビエ峠(全長17.7km/平均6.9%)標高2,642mの超級山岳ガリビエ峠(全長17.7km/平均6.9%) photo:Kei Tsuji / TDWsport
日本でも有名になったクレモン・ルロワさんも超級山岳ガリビエ峠に登場日本でも有名になったクレモン・ルロワさんも超級山岳ガリビエ峠に登場 photo:Kei Tsuji / TDWsport
超級山岳ガリビエ峠の上空にVIPヘリが舞う超級山岳ガリビエ峠の上空にVIPヘリが舞う photo:Kei Tsuji / TDWsport
超級山岳ガリビエ峠を登るクリストファー・フルーム(イギリス、チームスカイ)らメイン集団超級山岳ガリビエ峠を登るクリストファー・フルーム(イギリス、チームスカイ)らメイン集団 photo:Kei Tsuji / TDWsport
コースの交通規制を行っているフランスのジャンダルマリー(憲兵)は基本的に大会関係車両に寛容で、例えば1日に何か所も撮影したいフォトグラファーのプレスカーがコースに入りたいorコースを出たい時はバリアーを開けてくれる。「上に確認します」なんて作業はほぼなく、ジャンダルマリーそれぞれが状況を判断して動いてくれる。しかしその寛容さも年々薄れてきている感はある。

レース周辺のセキュリティが例年よりも厳しいことはこれまで常々言ってきたが、コース上の交通取り締まりも厳しくなりつつある。第17ステージはエマニュエル・マクロン大統領がツールを訪れた影響で規制はさらに厳しくなった。

車のハンドルを握るものとしては常識的なことだが、以下は大会開幕前に運転手に配られた冊子に記された禁止事項ならびに注意事項。

関係車両運転手の禁止事項
・血中アルコール濃度の上限は0.0g/l(つまり運転前の飲酒禁止)
・運転中の携帯電話の使用禁止
・コース上のUターン禁止

関係車両運転手への注意事項
・安全のためにシートベルトを常に締めること
・観客の多いエリアは30km/h以下で走ること
・コース上は全て最高速度80km/h
・常にヘッドライトを点けること
・交通規制を守り、標識に注意すること
・主催者の指示に従い、互いを尊重すること
・運転前に必ず車両を点検すること
・1週間ごとにタイヤの空気圧をチェックすること
・3週間よく寝て健康を保つこと(本当にそう書いてる)

特に禁止事項については厳密で、補給地点で数十メートルだけUターンして戻ったチームバンがステッカーを剥がされてレース除外になった例もある。何気なくコース脇に立っているジャンダルマリーがスピードガンで通過車両のスピードをチェックしていたりする。

フォトグラファーを乗せたモーターバイクのスピードも例外ではなく最高80km/h。今までは平坦ステージで残り5kmほどまで撮影して離脱し、アクセル全開で飛ばせば選手たちの到着数分前にフィニッシュにたどり着けたが、最高80km/hとなるとプロトンとそれほどスピードが変わらないので、かなり早めに離脱しないといけない。とは言ってもルールでがちがちに固めているわけではなく、現実的にレースの進行の妨げになるようであれば速度オーバーが黙認されている。

超級山岳ガリビエ峠でアタックを仕掛けるロマン・バルデ(フランス、アージェードゥーゼール)超級山岳ガリビエ峠でアタックを仕掛けるロマン・バルデ(フランス、アージェードゥーゼール) photo:Kei Tsuji / TDWsport
振り返ってライバルたちの位置を確認するロマン・バルデ(フランス、アージェードゥーゼール)振り返ってライバルたちの位置を確認するロマン・バルデ(フランス、アージェードゥーゼール) photo:Kei Tsuji / TDWsport
超級山岳ガリビエ峠で遅れたサイモン・イェーツ(イギリス、オリカ・スコット)超級山岳ガリビエ峠で遅れたサイモン・イェーツ(イギリス、オリカ・スコット) photo:Kei Tsuji / TDWsport
超級山岳ガリビエ峠を登るマイヨジョーヌ超級山岳ガリビエ峠を登るマイヨジョーヌ photo:Kei Tsuji / TDWsport
雨予報が出ていた標高2,642mの超級山岳ガリビエ峠は幸い晴れた。レース到着1時間前には雹混じりの雨が降ったが、路面はほぼドライの状態をキープ。岩がむき出しになった荒々しいアルプスの山々に大きな歓声がこだました。

観客の多くは当日入りだが、前夜から交通規制が行われているため、車を持ち込むためには標高2,642mの峠で一夜を過ごさなければならない。膨大な数のキャンピングカー(頂上手前の3kmだけでおよそ300台)はいい場所を取るためにもっと早めに現地入りしている。2〜3日前が平均的で、中には毎年の定番バカンスとして1週間近く前から沿道でツールを待ち続けている強者も。ちなみに峠に自走で観戦に向かう一般のサイクリストは100m間隔で立つジャンダルマリーに停止を求められ、バイクを押して徒歩での登山を指示される。

もちろんレース通過後がそれらの車両が一斉に麓を目指すので大混乱になる。レース最後尾のヴォワテュール・バレー(ほうき車)にくっついて下ればレースと同じスピードで下山できるが、少しでも下山のタイミングが遅れると一般車両やサイクリストの列に巻き込まれるので悲惨なことになる。

タイムオーバーを免れるためにグルペットは下りを鬼のようなスピードで走る、と言われる。実際に先頭グループとグルペットの下りスピードを比較すると、ステージ3位に入ったロマン・バルデ(フランス、アージェードゥーゼール)は超級山岳ガリビエ峠の頂上から28km先のフィニッシュまで26分52秒(平均62.1km/h・最高106.2km/h)で走破しているのに対し、グルペットの選手たちは概ね28分強(平均59.2km/h・最高91.1km/h)だった。この日は総合争いが下りでも展開されたことと、ガリビエ峠通過時点でタイムオーバーまでまだ余裕があったためグルペットがそこまで下り攻めなかったことが要因だと思われる。

連日自身のSTRAVAアカウントに走行データをアップして惜しげも無く公開しているバルデは、フランスの輝く星になりつつある。クリストファー・フルーム(イギリス、チームスカイ)を引き離すには至らなかったが、その攻撃的なスタイルが観客を魅了している。フランス国内の視聴率も高い数字を叩き出しており、レキップ紙は連日一面トップ扱い。ロードレースに興味のない宿の主人に立て続けに「今年はバルデが勝つかな」と聞かれるぐらい、フランスにバルデ人気が浸透している。

曇り空の超級山岳ガリビエ峠を登るマイヨジョーヌ曇り空の超級山岳ガリビエ峠を登るマイヨジョーヌ photo:Kei Tsuji / TDWsport
スーパーフルームマンスーパーフルームマン photo:Kei Tsuji / TDWsport
マイヨジョーヌ通過後は太陽が差し込むマイヨジョーヌ通過後は太陽が差し込む photo:Kei Tsuji / TDWsport
超級山岳ガリビエ峠の頂上付近で新城幸也(バーレーン・メリダ)を待つ超級山岳ガリビエ峠の頂上付近で新城幸也(バーレーン・メリダ)を待つ photo:Kei Tsuji / TDWsport
超級山岳ガリビエ峠を登るグルペット超級山岳ガリビエ峠を登るグルペット photo:Kei Tsuji / TDWsport
バルデに次いで沿道の応援が多いのがマイヨアポワを着るワレン・バルギル(フランス、サンウェブ)。この日はガリビエ峠3番手通過の12ポイント獲得にとどまったが、ステージ優勝を飾ったプリモシュ・ログリッチェ(スロベニア、ロットNLユンボ)と49ポイント差で山岳賞の首位を快走中。第18ステージと第19ステージで最大58ポイント獲得可能だが、もちろんログリッチェが動けばバルギルも動くので順位の変動は難しいと思われる。

そしてツール期間中バルギルとホテルの部屋をシェアしているマイケル・マシューズ(オーストラリア、サンウェブ)がマイヨヴェールを獲得した。「ライバルの落車リタイアでジャージを手に入れるのは決してナイスではないけど、自分はこのジャージ獲得のために全力を尽くしてきたのでもう誰にも渡したくない」というマシューズ。マルセル・キッテル(ドイツ、クイックステップフロアーズ)とポイント争いを繰り広げた結果として、ポイント賞2位のアンドレ・グライペル(ドイツ、ロット・ソウダル)との差は160ポイントまで拡大。仮にグライペルが平坦な2ステージで勝利しても追いつけない差がついている。

バルデとバルギルとともにフランスの期待を集めていたティボー・ピノ(フランス、エフデジ)はリタイア。これによりエフデジは6名がレースを去り、レースに残っているのは3名(チモライ、ルガック、モラール)だけという寂しい状態に。プロトンも169名まで人数を減らしている。

ガリビエ決戦に続いて翌日はイゾアール決戦。総合はフルーム+27秒でウランとバルデ。ずっと雨予報が出ていたので関係者全員が頭を抱えていたが、午後にかけて雨マークが消えて曇りの天気予報に変わっている。第18ステージに先立って、午前中にショートコースで女子レースのラ・コルス・バイ・ル・ツール・ド・フランス(與那嶺恵理出場)が開催されるため長い1日になりそうだ。

超級山岳ガリビエ峠の下りに突入する新城幸也(バーレーン・メリダ)超級山岳ガリビエ峠の下りに突入する新城幸也(バーレーン・メリダ) photo:Kei Tsuji / TDWsport
超級山岳ガリビエ峠の下りをこなすグルペット超級山岳ガリビエ峠の下りをこなすグルペット photo:Kei Tsuji / TDWsport
超級山岳ガリビエ峠の下りをこなすグルペット超級山岳ガリビエ峠の下りをこなすグルペット photo:Kei Tsuji / TDWsport
エマニュエル・マクロン大統領と握手するクリストファー・フルーム(イギリス、チームスカイ)エマニュエル・マクロン大統領と握手するクリストファー・フルーム(イギリス、チームスカイ) photo:Tim de Waele / TDWsport
念願のマイヨヴェールを手に入れたマイケル・マシューズ(オーストラリア、サンウェブ)念願のマイヨヴェールを手に入れたマイケル・マシューズ(オーストラリア、サンウェブ) photo:Tim de Waele / TDWsport

text&photo:Kei Tsuji
Amazon.co.jp

最新ニュース(全ジャンル)