明日、明後日に迫るCX東京に向けて、過去にアージェードゥーゼルやコフィディスに所属したスティーブ・シェネルが来日。自分のため、後進のためフランスに真のシクロクロス文化を根付かせるべく活動している彼に、その内容やCX東京への意気込みを聞いてみた。



来日したクロスチームバイG4の3人衆。右がスティーブ・シェネル、隣は妻のルーシー・シェネル。左はマッサーのジュリアン氏来日したクロスチームバイG4の3人衆。右がスティーブ・シェネル、隣は妻のルーシー・シェネル。左はマッサーのジュリアン氏


「日本のレースを走るのが楽しみ。砂が好きだから良いレースを見せたい」スティーブ・シェネル(クロスチームバイG4)「日本のレースを走るのが楽しみ。砂が好きだから良いレースを見せたい」スティーブ・シェネル(クロスチームバイG4) 多摩川河川敷を走るスティーブ・シェネル(クロスチームバイG4)多摩川河川敷を走るスティーブ・シェネル(クロスチームバイG4) フレーム下側には自身が立ち上げたチーム名が入るフレーム下側には自身が立ち上げたチーム名が入る 今年の世界選手権に合わせてカスタムペイントしたというヘルメット今年の世界選手権に合わせてカスタムペイントしたというヘルメット 夫と共にに出場予定のルーシー・シェネル。2013年の世界選手権では3位に入っている夫と共にに出場予定のルーシー・シェネル。2013年の世界選手権では3位に入っている 日本人の感覚からするとちょっと騒々しいくらい賑やかで、誰とでも気軽に話せるフレンドリーさ。けれど自分の活動について話す時には一転真面目な表情になって、深いシクロクロス愛を喋り出すと止まらなくなる…。それが元シクロクロスフランスチャンピオンの妻ルーシー、そしてマッサーのジュリアン氏と共にやってきたスティーブ・シェネル(クロスチームバイG4)の第一印象だった。

2008年にプロ入りした翌年にブイグテレコムへと加入し、エフデジやアージェードゥーゼル、コフィディスと9シーズンをシクロクロス&ロード兼業選手として活躍し、シクロクロスとしては2006年に世界選手権エリートで4位に食い込んだ実績を持つシェネルは、間違いなくシクロクロス東京の日曜日の優勝候補筆頭だ。

インタビューを行ったのは、今回彼のアテンド役を務めている諏訪孝浩さん(SNEL BIKE SHOP)が開催した足慣らしライドの途中にて。シクロクロス東京への参戦を決めた理由について聞くと、シェネルは「招待を受けたことはもちろんだけれど、ユキヤと仲が良かったし、世界中のレースシーンを見てみたいと思っているから」と言う。

「2年前に中国で行われたUCIレースで孝浩(SNEL CYCLOCROSS TEAM監督の諏訪孝浩さん)に会って、日本でのシクロクロスレースについて知り興味を持った。それからすぐのクロスベガス(アメリカで行われたUCIワールドカップ初戦)で亮二(チャンピオンシステム・ジャパン代表/シクロクロス東京オーガナイザーの棈木亮二さん)と話して招待を受けたんだ。

自転車を通して世界を旅するのが好きだし、常々世界各国のシクロクロスの現場を見て知りたいと思っているので、断る理由なんてどこにもなかった。それからブイグテレコム時代に仲の良かったユキヤ(新城幸也)ともチームメイトだったこともあって、日本の文化に触れてみたいと思っていたことも理由の一つ。だからレースはもとより、日本に来ることができて本当に嬉しいんだ」

砂や泥などテクニカルなコースを得意としているシェネルは来日前から動画を探してイメージトレーニングを行い、東京到着後はすぐにお台場海浜公園へと向かい砂の感触を確かめた。暴風でキャンセルになったコクサイデのワールドカップがとても残念だったので、その気持ちをぶつけたいとも。

「お台場のコースは(砂で有名な)コクサイデよりも少しだけ簡単だと思う。コクサイデは砂が柔らかくて深い一方、お台場の砂は沈み込みが少なくペダリングを止めても惰性で走れる。ナイスコースだと思った。ちなみに言うと、僕のように砂を得意と言うフランス人は少ないんだ。ベルギーだとほとんどのコースが砂を含んだテクニカルなものだけれど、フランスはイージーコースばかりでパワーに優れるだけのロード選手でも対応できてしまう」

「フランスにはベルギーやオランダのような真のシクロクロスカルチャーは存在しない」と言い切るシェネル。彼がトップチームを辞めてまで自分のシクロクロスチームを立ち上げた裏側には、そんな環境を変えたいと言う思いがある。



2010年のデパンヌ3日間レースでステージ優勝したスティーブ・シェネル(フランス、当時Bboxブイグテレコム)2010年のデパンヌ3日間レースでステージ優勝したスティーブ・シェネル(フランス、当時Bboxブイグテレコム) photo:CorVosロード選手として最後に所属したのがコフィディス。2015年までロード兼業選手として走ったロード選手として最後に所属したのがコフィディス。2015年までロード兼業選手として走った photo:CorVos




「若手がシクロクロスだけで収入を得られるように環境を変えていきたい」「若手がシクロクロスだけで収入を得られるように環境を変えていきたい」 今年の世界選手権はメカトラに悩まされ、不本意な成績に終わったという今年の世界選手権はメカトラに悩まされ、不本意な成績に終わったという photo:CorVos「監督やコーチたちはロードのオフトレーニングとしてシクロクロスを勧めるだけで、シクロクロスだけでは十分な稼ぎが得られない。だからこれまでフランスのトップ選手といえば、フランシス・ムレーや現王者のクレメン・ヴェンチュリーニ(コフィディス)などロード兼業選手だけで、CXスペシャリストがいなかった。僕は自分のことをシクロクロス選手だと思っているので、正直ブイグテレコムやエフデジ、アージェードゥーゼル、コフィディスに所属していた9年間はフラストレーションの連続だった。そこで自分自身のため、そして後に続く若手のために専門チームを立ち上げたんだ。

僕はエリートに初挑戦した2006年、世界選手権で4位に食い込んだけれど、その後はロードのプログラムの関係上全力でシクロクロスに集中できないまま選手として一番良い時期を過ぎてしまった。でもベルギーの選手は2月でシクロクロスシーズンを終え、3月から5月まではロードレースやMTBを走ってオフシーズンに入るので効率的だ。ロードとシクロクロスをフルシーズン走り通すなんて不可能だし、ベルギーのスタイルで稼げない、かつ認められにくいフランスでは有望な若手が多いにも関わらず、スーパースターが誕生しにくい現状がある。ヴェンチュリーニは確かに物凄く強いし、ワールドカップで勝つ資質もある。でもこのままでは単にトップ選手の一人、として終わってしまう。

僕は幸いスポンサーにも恵まれてCrossteambyG4という専門チームを立ち上げたけれど、これからが正念場だと思っている。自分はユーロスポーツ(ヨーロッパ最大のスポーツ専門放送局)にコンサルタントやコメンテーター、インタビュワーとしても関わっているので、その中で活動を伝えながら5年後、10年後に続く基盤を築いている段階なんだ」

「驚くほど強くて素晴らしいレースを繰り広げる、フレンドリーなナイスガイだけど」。そう前置きしながらシェネルはヨーロッパサーキットを席巻しているワウト・ファンアールト(ベルギー)とマテュー・ファンデルポール(オランダ)について、「まだまだスヴェン・ネイス(ベルギー、現テレネット・フィデア監督)ほどのスーパースターではない」と斬った。シクロクロスへの愛の深さがネイスとは違う、と付け加える。

「ネイスはロードに転向していればもっと稼げたと思うけれど、ずっとシクロクロスにこだわり続けたからこそ皆に認められ、今の地位を築いた。ラース・ボーム(オランダ、ロットNLユンボ)やゼネク・スティバル(チェコ、クイックステップフロアーズ)も世界王者になった後にロード転向してしまったので、シクロクロスを愛する自分としては、完全なる転向は競技としての地位を下げているような気がしてならない。マテューやワウトには例えロード転向したとしても、シクロクロスには本気で取り組み続けて欲しいと思うよ」。



今回の足慣らしライドに同行したメンバーで記念撮影今回の足慣らしライドに同行したメンバーで記念撮影


「楽しみながら練習することが一番大事。楽しめていないと強くなれない」「楽しみながら練習することが一番大事。楽しめていないと強くなれない」 遅れたメンバーを待つ間に突如始まったミニレース遅れたメンバーを待つ間に突如始まったミニレース インタビュー前後では共に多摩川河川敷のダートを走ったが、縦に横に、自由自在にバイクを操って遊ぶ彼の表情は、初めての日本ということも加わってかこれ以上ないほどに楽しげな印象だった。「楽しみながら練習することが一番大事」と言い切った。

「どんな競技にも通じるけれど、楽しめていないと強くなれないし、結果的に勝てない。それにもし強くなくても楽しんでいる選手の周りには良いスパイラルが生まれて、そこに魅力を感じてスポンサーやスタッフが集まってくれるようになる。そうすればとてもクリアなモチベーションでレースに臨めるし、プライベートも充実してくるよ。

偉大なチャンピオンではない自分が今こうして日本に来ているのも、もともとのポジティブ思考による部分が大きいと思っている。これはいつもチームの若手に伝えていることだけれど、日本の選手にアドバイスするとしたら、その部分かな。苦しんでいるだけでは絶対にダメなんだ。

だからこそ今回のシクロクロス東京を楽しみにしているし、そこでファンを沸かせる走りをしたい。一応2006年には世界選手権で4位に入っているし、パリ〜ルーベでトップ15位完走、ジロ・デ・イタリアとブエルタ・ア・エスパーニャに出場など、経歴的にも少しはキャッチーだと思う(笑)。妻分も含めてポストカードを用意してきたし、会場で見かけたら是非声をかけてほしいね」

text&photo:So.Isobe