イタリアで半世紀の歴史を持つバイクブランド、グエルチョッティ。上位グレードと同じテクノロジーを採用しつつ、カーボングレードを調整することで振動吸収性を高めたミドルグレード「EUREKA SX50」をインプレッションした。



グエルチョッティ EUREKA SX50グエルチョッティ EUREKA SX50 photo:MakotoAYANO/cyclowired.jp
多くの自転車ブランドが林立するイタリアで、1964年に創業した半世紀以上の歴史を持つ老舗がグエルチョッティだ。シクロクロス選手であったグエルチョッティ兄弟がイタリア・ミラノに小さなショップを開業したのを起源とし、日本での知名度は必ずしも高くはないが、1975年からアメリカをはじめグローバル展開を行っているブランドでもある。

シクロクロスに情熱を燃やすメーカーとしても知られており、1977年には自社のシクロクロスチームを立ち上げ、現在に至るまで世界選手権を10回以上優勝するなど、輝かしい歴史を持っている。そのためイタリアを初め世界中にコアなファンが存在し、2014年の野辺山CXを圧倒的な力で制したジョエーレ・ベルトリーニ(イタリア)もグエルチョッティを駆る1人である。

シートステーは細く扁平されており、振動を吸収するシートステーは細く扁平されており、振動を吸収する トップチューブにはEUREKAの文字が大人しく配されるトップチューブにはEUREKAの文字が大人しく配される フロントフォークはボリュームある造形で剛性を強化フロントフォークはボリュームある造形で剛性を強化


ロードレースの現場では1976年以降、多くのプロロードチームに機材供給を行い、1979年にはジロ・デ・イタリアでステージ5勝を挙げる結果を残している。現在は今年のジロ・デ・イタリア出場を確定させたポーランドのチーム、CCCスプランディ・ポルコウィチェにサポートを行っており、世界各地のレースでグエルチョッティのバイクは選手の走りを支えている。

そんな同社から今回紹介するのは、CCCスプランディ・ポルコウィチェが駆るオールラウンドモデル「EUREKA SHM50」の流れを汲むミドルグレードの「EUREKA SX50」だ。上位モデルからのテクノロジーをフレーム各所に受け継ぎつつも、カーボングレードを見直すことでコストパフォーマンスを高めたレーシングモデルだ。

美しいフォルムは流石イタリアンデザインだ美しいフォルムは流石イタリアンデザインだ インテグレーテッド・フォーク・システムによって、空力性能の向上を図るインテグレーテッド・フォーク・システムによって、空力性能の向上を図る

ボトムブラケットは幅広のBB86を採用ボトムブラケットは幅広のBB86を採用 エンド部分は精巧に作られているエンド部分は精巧に作られている


素材は全体の約75%に柔軟性に優れた24トンのインターミディエイトモデュラスUTS50カーボンを採用。20%は弾性率の高い30トンのハイモデュラスIMS60カーボン、残り5%は高強度で耐衝撃性に優れた3Kカーボンシートプリプレグを使用している。これらの素材を適材適所に使い分けることで、しなやかで振動吸収性の高いフレームへと仕上げた。

ダウンチューブはスクエア形状を採用し、チューブ自体の剛性を上げると共に、ヘッドチューブとBB側の接続部の断面積を広げることでねじれ剛性を強化しパワー伝達性と直進安定性を向上させている。シートステーは最近のトレンドに従い薄く扁平させた形状であり、積極的にしならせることで振動吸収性の向上に貢献。逆にリアエンド部はボリュームを出し剛性を上げることでパワー伝達性を上げている。

各分野のスペシャリストを集めてイタリアで製造されるノーリミットカーボンエンジニアリングを導入各分野のスペシャリストを集めてイタリアで製造されるノーリミットカーボンエンジニアリングを導入 ヘッドチューブには星型のブランドロゴが入るヘッドチューブには星型のブランドロゴが入る


上位グレードのバイクにも採用されるインテグレーテッド・フォーク・システム(IFS)により、ダウンチューブとフロントフォークの隙間を埋めるように設計され、空力性能の向上に貢献。ヘッドベアリングは上側1-1/8で下側1-1/4のテーパードヘッドを採用し、ヘッド部分の剛性強化により、安定したコーナリングを実現している。

変速系統のワイヤーはダウンチューブから内装され、ボトムブラケットはシマノの提唱するプレスフィット規格であるBB86を採用。上位グレードではダイレクトマウントであったブレーキもノーマルマウントに変更されている。

グレーの塗装が艶やかに光るグレーの塗装が艶やかに光る ダウンチューブには大きくグエルチョッティのロゴが入るダウンチューブには大きくグエルチョッティのロゴが入る ヘッドチューブは上下異径のテーパードでハンドリング性能を高めたヘッドチューブは上下異径のテーパードでハンドリング性能を高めた


販売はフレームセットでのみ行われ、サイズはXS、S、M、L、の4種類展開。カラーはシックな色合いのマットブラックグレーと鮮やかな蛍光イエローのラインが入るマットブラックフローイエローの2種類だ。今回インプレッションを行った車両はR9100系デュラエースをインストールし、ホイールは同WH-R9100-C24-CL。イタリアの老舗バイクブランドが放つミドルグレードレーシングバイクは、2人のインプレライダーの目にはどう映ったのだろうか。



ー インプレッション

「イタリアの自転車文化を感じるレースバイク」山崎嘉貴(ブレアサイクリング)

踏み味が非常に硬く、「踏めてこそ正義」というヨーロッパのレーサーバイクらしい印象を受けました。その分、踏んだ分だけスピードが伸びてくれる加速感がありますが、剛性ゆえに十分に脚力がある方がロードレースに出場するためのバイクだと感じました。

「イタリアの自転車文化に触れる事ができるレースバイク」山崎嘉貴(ブレアサイクリング)「イタリアの自転車文化に触れる事ができるレースバイク」山崎嘉貴(ブレアサイクリング) 一方衝撃吸収性を含めた全体的な乗り味は最近のバイクには珍しく、昔のクロモリフレームのようなしっとりしたフィーリングで、ヨーロッパのクロモリフレームの乗り心地が好きな人には心地良いかもしれません。ブランドとしても50年以上の歴史を持つ老舗ですので、昔からのファンの方にはツボにはまることがあるでしょう。

ハンドリングは落ち着いたニュートラルな感覚です。他の多くのイタリアンバイクと似ている印象で、フォークは硬く、衝撃吸収より推進力に貢献しているように感じます。フォークがヘッドチューブにインテグレーテッドされた部分など、空力に配慮している部分も見えます。

このバイクはシートステーが細くしなりやすい形状ですので、荒れた路面を余裕でクリア出来るしなやかさがあります。コンクリートが痛んで荒れた路面でも問題なく走ることができますし、例えば群馬サイクルスポーツセンターのように多少路面が荒れているコースでも快適性は高いままだと感じます。

踏み心地が硬いレーシングバイクですが、逆説的に考えればヨーロッパのアマチュアレースのレベルがそれだけ高いことを表しているとも言えます。そういった本物の自転車文化というものに触れる事ができるバイクという意味での価値は高いでしょう。

この性能でフレームセット23万円というのはとてもコストパフォーマンスが良いと思います。あまり大々的に量産するメーカーではなく、それこそフルオーダーバイクのような雰囲気すら漂うバイクがこの価格で購入できるのはとても嬉しいですね。

「振動吸収性が高くロングライド向けのエンデュランスバイク」遠藤健太(サイクルワークス Fin’s)

振動吸収性が高くロングライドに適する快適性がありますが、BB周辺は程よい剛性感で登りも下りもオールマイティに楽しめるバイクです。マイナーメーカーだからと言って癖がある訳ではなく、スタンダードな乗り味です。昨今では様々なメーカーがエンデュランス系のバイクを出していますが、他の人とは違うメーカーのバイクに乗りたいという人にとっては価値のあるバイクになるでしょう。

「振動吸収性が高くロングライド向けのエンデュランスバイク」遠藤健太(サイクルワークス Fin’s)「振動吸収性が高くロングライド向けのエンデュランスバイク」遠藤健太(サイクルワークス Fin’s)
特にシートステーが薄く扁平した形状でしなるため、ダンシングすると適度にねじれが生まれ、路面からの衝撃を吸収してくれます。身体へのダメージが少ないのが確実に分かるため、このバイクは長時間乗っても疲れにくいだろうと想像することができます。また快適性を高めるために24tと30tという2種類の弾性率の異なるカーボンを使い分けて使用し、振動吸収性を高めるように設計されてるのも乗ってみると感じ取ることができます。

柔軟性のある剛性感ゆえ、トップモデルと比較すればアタック時に少し遅れる感じがあります。ですが、踏みやすくスピードに乗りやすい印象を受けるので、平坦や若干のアップダウンがあるコースを走る場合はスピードを維持しながら気持ち良く踏む走れるはずです。

快適性を重視するならば太めのタイヤを履かせるのも一つの手ですね。ホイールはカーボンクリンチャーの軽量な物を合わせると、ロングライドでも気持ちいいペースで走れるでしょう。セッティング次第で様々な楽しみ方が出来ると思います。

グエルチョッティはイタリアの老舗メーカーですが、日本での取り扱いが開始されたのはここ最近で、あまり馴染みがないかもしれません。ですが、トップモデルに関してはプロコンチネンタルチームに供給している実績もあり、選ぶ価値は十分あります。他の人とはちょっと変わったメーカーのバイクに乗りたいという方で、ロングライド派の方にはぴったりな選択だと思います。

グエルチョッティ EUREKA SX50グエルチョッティ EUREKA SX50 photo:MakotoAYANO/cyclowired.jp
グエルチョッティ EUREKA SX50 フレームセット
フレーム:UTS50 カーボン(24t)、IMS60 カーボン(30t)
フォーク:カーボンモノコック
BB規格:BB86
シートポスト径:27.2mm
シートクランプ径:31.8mm
FD台座:直付
サイズ:XS、S、M、L
カラー:マットブラックグレー、マットブラックフローイエロー
価格:230,000円(税抜)



インプレッションライダーのプロフィール

山崎嘉貴(ブレアサイクリング)山崎嘉貴(ブレアサイクリング) 山崎嘉貴(ブレアサイクリング)

長野県飯田市にあるブレアサイクリング店主。ブリヂストンアンカーのサテライトチームに所属したのち、渡仏。自転車競技の本場であるフランスでのレース活動経験を生かして、南信州の地で自転車の楽しさを伝えている。サイクルスポーツ誌主催の最速店長選手権の初代優勝者でもあり、走れる店長として高い認知度を誇っている。オリジナルサイクルジャージ”GRIDE”の企画販売も手掛けており、オンラインストアで全国から注文が可能だ。

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ブレアサイクリングHP

遠藤健太(サイクルワークス Fin’s)遠藤健太(サイクルワークス Fin’s) 遠藤健太(サイクルワークス Fin’s)

新潟県長岡市に店舗を構えるサイクルワークス Fin’sの店長。学生時代にBMXから始まり、MTBやロードバイクまで幅広く自転車を楽しむ、バリバリの走れる系店長。スポーツバイク歴は18年にもなり、2012年には全日本選手権ロードに出場した経験も。お店は完璧なメカニックサービスを提供するべく、クオリティの高い整備が評判だ。ショップ主催のサイクリングやレース活動に積極的で、初めての人から実業団レースで活躍したい人まで手厚いサポートを心がける。

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サイクルワークス Fin’s HP

ウェア協力:rh+

text:Kosuke.Kamata
photo:Makoto.AYANO