ロードバイク界のトレンドを牽引するアメリカンブランド、スペシャライズド。全く新しいロード用サスペンション、”フューチャーショック”を搭載したエンデュランスモデルのミドルグレード「Roubaix Expert」をインプレッションした。



スペシャライズド Roubaix Expertスペシャライズド Roubaix Expert photo:MakotoAYANO/cyclowired.jp
エンデュランスロードのパイオニアとして名高いスペシャライズド「Roubaix(ルーベ)」。北の地獄として過酷な石畳のレースで有名なパリ~ルーベの名前を冠したシリーズだ。その名前が示す通り、荒れた石畳を誰よりも早く駆け抜けるためのスペシャルモデルであり、そのための高い振動吸収性と反応性を兼ね備えたバイクとして登場した。

2004年に登場後、2008年のパリ~ルーベで初勝利を飾り、その後4度にわたってパリ~ルーベを制してきたRoubaix。「ゼルツ」と言われるエストラマーをシートステーとフォークに配することで振動吸収性を高め、快適性を向上させるといった革新的なものだ。それこそ登場当初は懐疑感を持って受け入れられたが、勝利を重ねるごとにその性能は証明されていった。

リアトライアングルはコンパクトに仕上げられ柔軟性を高めたリアトライアングルはコンパクトに仕上げられ柔軟性を高めた 低い位置にシートクランプを配することで、シートポストのしなりを最大限に生かす低い位置にシートクランプを配することで、シートポストのしなりを最大限に生かす Tarmacと良く似たストレートフォークを採用しレーシーなハンドリングを実現Tarmacと良く似たストレートフォークを採用しレーシーなハンドリングを実現


このRoubaixの登場以来、他社も様々なギミックやマテリアルを使用したバイクを開発しレースに投入。それもあってかエンデュランスロードというカテゴリーのバイクは他のブランドにもラインアップされるようになり、発展を遂げてきた。Roubaixもその時代の流れに伴い、4度のマイナーチェンジをしてきたが、今回デビューした新しいRoubaixは発想を180度転換。ロードバイク界の歴史に残るであろう大きな革新的変化を遂げた。

17年モデルの新型「Roubaix」は「フューチャーショック」と呼ばれるサスペンション機構をヘッドチューブ内に搭載。これはステアリングコラムの内側にサスペンションカートリッジを挿入することでハンドルが沈み込み、振動を吸収するというもの。これにより前作の「Roubaix SL4」から垂直方向の追従性を2000%以上向上させるという圧倒的な数字を叩き出している。

シートポスト部分は雨やゴミが入らないようにゴムキャップが装備されるシートポスト部分は雨やゴミが入らないようにゴムキャップが装備される 革新的サスペンション機構「フューチャーショック」をヘッドチューブに搭載革新的サスペンション機構「フューチャーショック」をヘッドチューブに搭載

BB上にはSWATシステムストレージが付きチューブや工具等の必需品を収納できるBB上にはSWATシステムストレージが付きチューブや工具等の必需品を収納できる 32mmまで対応するタイヤクリアランスがある32mmまで対応するタイヤクリアランスがある


サスペンションカートリッジのストロークは20mmで、3面・33個のローラーベアリングによって滑らかに動くようになっている。入力された力に対して常に活発に動くように設定されており、体重や好みに合わせて3種類の硬さのスプリングが用意され、乗り味を調整できるようになっている。

サスペンションと聞いて気になる重量だが、カートリッジの重量は200g程度に抑えられており、重量増はほぼ気にならないだろう。フィッティングに関しても考えられており、標準で5mmのスペーサーが3枚用意されるほか、ヘッドセットカバーが0mmか20mmの2種から選択できるようになっており、30mmの範囲でハンドルの高さを調整できる。

ブレーキ台座はフラットマウントでブレーキング時の剛性を確保ブレーキ台座はフラットマウントでブレーキング時の剛性を確保 ハンドルを切るとヘッドパーツも一緒に動く構造だハンドルを切るとヘッドパーツも一緒に動く構造だ


フューチャーショックにばかり目がいきがちだが、もちろんフレーム自身も全く新しいモデルとして設計されている。2014年にデビューした「Tarmac」以降、新生スペシャライズドのアイコンともなりつつある「ライダーファーストエンジニアード」により、各サイズごとに設計や剛性を調整。全てのサイズで共通の乗り味を実現することで、フレームサイズによる剛性感の違いを無くした。

フロントセクションの絶大なクッション性能に負けないよう、リアバックはシートクランプの位置を低く設定。シートポストのたわみを最大限に発揮させる仕組みにより振動吸収性を高めている。そのためクランプ位置は「Tarmac」と比べると65mmも下げられるデザインとなっている。また、ダンパーが設けられたコブルコブラーシートピラーをアッセンブルすることで更なる快適性を確保しており、前は快適でも後ろは硬いということなくバランス良い乗り味を実現した。

コブルコブラーシートピラーが路面からの振動吸収の最後の砦だコブルコブラーシートピラーが路面からの振動吸収の最後の砦だ トップチューブには今までパリ~ルーベで勝利した年が刻まれるトップチューブには今までパリ~ルーベで勝利した年が刻まれる ヘッドチューブにはスペシャライズドのロゴマークヘッドチューブにはスペシャライズドのロゴマーク


その快適性とは裏腹に、ジオメトリーはレーシーなポジションを実現できるよう仕上げられている点はやはりレーシングバイクというところ。ディスクブレーキには主流規格となったフラットマウント、スルーアクスルを採用。タイヤ幅は32mmまで対応し、グラベルライドへの扉を開いてくれるだろう。

今回テストしたのはセカンドグレードとなる「Roubaix Expert」。フラッグシップとなる「S-WORKS Roubaix」と共通の設計で、カーボングレードのみ変更となったモデルだ。コンポーネントはシマノアルテグラ、ホイールにはDTスイスのR470をアッセンブル。ロードバイク界に革命をもたらした「フューチャーショック」を搭載した話題のバイク。早速インプレッションに移ろう。



ー インプレッション

「オンロードでもグラベルでも、フィールドを選ばない新感覚ロード」山崎嘉貴(ブレアサイクリング)

バイク全体にギャップの「いなし感」があり、オンロード・オフロード問わず安定した走りを見せてくれます。レースでもツーリングでもなく、キャノンデールのSLATEと似た感じで、ロードバイクでありながら自由なフィールドで走りを楽しむという乗り方にマッチしているバイクではないでしょうか。ヘッドに加わった新たなギミックも、不安を感じることなく乗ることができます。

「オンロードでもグラベルでも、フィールドを選ばない新感覚ロード」山崎嘉貴(ブレアサイクリング)「オンロードでもグラベルでも、フィールドを選ばない新感覚ロード」山崎嘉貴(ブレアサイクリング) 注目のフューチャーショックは違和感のない挙動を見せてくれますね。普通に走る分にはふにゃふにゃ動く感じもなく、乗りにくさは全く感じません。一番効果を発揮するのは路面の大きなギャップに対してですね。オフロードでの地面の石や舗装路をハイペースで下っているときのグレーチングの段差など、ハンドルを握る手が滑り落ちるような強い衝撃があっても、しっかりとサスペンションが効くことで衝撃をいなし、バイクを安定させてくれます。

ただ、そうでない場面ではマウンテンバイクのサスペンションのように、自分からハンドルをプッシュしギミックを活用していくことでより効果が出てくると思います。自動的にサスペンションが動いてくれると言う発想ではないかもしれません。細かい振動に対しては、フューチャーショックというよりタイヤの空気圧や太さで対応していくといったところでしょうか。

フレームの乗り味は硬さもなくナチュラルで、非常に乗りやすいバイクに仕上がっています。初速の乗りや加速感も悪くなく特段欠点は見当たりませんが、太めのタイヤやヘッドのギミック、パーツアッセンブル等で、ある程度バイクに重さを感じる点はありますね。登りではダンシングよりシッティングで踏んでいく乗り方が良いと思います。

組み合わさる油圧ディスクブレーキはかかりがいいですね。強いブレーキングをしてもフォークやフレームがよじれることもなく、しっかり効いてくれます。フロントブレーキをかけた際に、ヘッドのサスペンションも連動して沈み込み、特にグラベルを走っている場合にはそのフィーリングによりブレーキコントロールがしやすい印象を受けました。

ひとつ気になるのがバイクの乗車ポジション。ハンドルが遠すぎると前に荷重をかけることができず、フューチャーショックを十分に活かすことができないと思います。マウンテンバイクのように、ハンドル荷重ができるフレームのサイズ選びやステムの選択が必要でしょう。付属する純正のステムでポジションが出ないようであれば、交換の必要があると思います。

サスペンションを搭載したことで、その良さを活かす楽しみが得られる1台です。ちょっとした小道や田んぼの畦道などバイクで入っていくには躊躇するようなところも、このルーベなら攻めることができ、新しい道を探す冒険チックな走りが楽しめます。ロードバイクやマウンテンバイクなど、ある程度自転車を楽しみ尽くした人に、遊びの幅を広げる選択肢としては最適ではないでしょうか。

「今までのロードバイクからプラスアルファの走りをこの1台で」遠藤健太(サイクルワークス Fin’s)

ロードバイクなのにまるでマウンテンバイクのような高い安定感を感じられるバイクですね。路面追従性が非常に高く、普通のロードレーサーと比べたときの安心感が全然違います。その上で、ヘッド部分のサスペンションとディスクブレーキによりグラベルも難なくこなせる性能を持ち、ロードバイクを楽しむフィールドをさらに広げることができるバイクだと感じました。

「今までのロードバイクからプラスアルファの走りをこの1台で」遠藤健太(サイクルワークス Fin’s)「今までのロードバイクからプラスアルファの走りをこの1台で」遠藤健太(サイクルワークス Fin’s)
もちろん上位モデルのルーベは、この春のクラシックでも投入されることが予想され、レースバイクとしても問題ない性能を発揮すると思います。このモデルはカーボングレードを落としてあるので、多少剛性不足感は否めませんが、登り下りともに安定し、平地でのスプリントにもある程度対応してくれると感じました。ただレーシーな乗り味はなく、どちらかと言うとロードバイクを楽しむという用途にマッチした味付けがされていますね。

というのも、振動吸収性を高めるフューチャーショックとシートポストにしなりを生むクランプ構造により、身体への衝撃が抑えられ非常にラクに乗ることができます。荒れた路面を走ってもこれらのギミックにより、高い安定感を維持したまま走行が可能です。オンロード以外の場所にもロードバイクで楽しみを見いだせ、今までの走りプラスアルファをコレ1台で探求できる、全く新しいジャンルの乗り物とも言えるかもしれません。

シクロクロスではなく、ロードバイクでマウンテンバイク的な乗り方ができると表現しましょうか。ヘッド部のサスペンションがキッチリ仕事をし、路面の凹凸に応じて上下に動く感覚がはっきりと分かりますし、地面を捉えている感覚も強く感じられます。路面からの突き上げをいなしてくれるので、ハンドルからの嫌な振動はしっかり抑えられていますね。普通の舗装路を走っても余計にサスペンションが動く感じもないので、違和感なく走ることができるでしょう。

スペシャライズド Roubaix Expertスペシャライズド Roubaix Expert photo:MakotoAYANO/cyclowired.jp
標準で26Cのタイヤが装備され、太めのタイヤにより乗り味はマイルドになっています。オンロードを走るときは通常の6~7気圧が適していますし、グラベルを走るような時は5気圧くらいまで落とすと良いと思います。それでもしっかりパワーをかければ進むバイクですので、どのフィールドでも不満のない走行感が得られるはずです。

フレームはディスクブレーキの強い制動力にもしっかり対応しています。荒れた路面でバイクが跳ねても安定したブレーキングが行えますし、どの場面でもコントローラブルにバイクを操ることができるでしょう。BB上に装着されるフレーム一体設計のツールボックスもペダリングの邪魔になりません。泥跳ね等でサドルバッグが汚れる心配がなく、気分的に良いですね。

全体的にスペシャライズドのバイクは人間の身体を研究したジオメトリーにより、非常に乗りやすく作ってあります。このルーベは他のバイクよりも安定感が高く、初めてのロードバイクとして購入しても不安なくスポーツバイクを楽しむことができるでしょう。ある程度乗り慣れた人にとっては、今までと一味違う感覚が味わえ、新しい自転車の遊び方を楽しめる1台になると思います。


スペシャライズド Roubaix Expert
フレーム:Fact10rカーボン
フォーク:Fact11rカーボン
コンポーネント:シマノ アルテグラ
ホイール:DTスイス R470Disc
BB規格:JIS
カラー:SATIN TARMAC BLACK/CHARCOAL
価格:430,000円(税抜)



インプレッションライダーのプロフィール

山崎嘉貴(ブレアサイクリング)山崎嘉貴(ブレアサイクリング) 山崎嘉貴(ブレアサイクリング)

長野県飯田市にあるブレアサイクリング店主。ブリヂストンアンカーのサテライトチームに所属したのち、渡仏。自転車競技の本場であるフランスでのレース活動経験を生かして、南信州の地で自転車の楽しさを伝えている。サイクルスポーツ誌主催の最速店長選手権の初代優勝者でもあり、走れる店長として高い認知度を誇っている。オリジナルサイクルジャージ”GRIDE”の企画販売も手掛けており、オンラインストアで全国から注文が可能だ。

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ブレアサイクリングHP

遠藤健太(サイクルワークス Fin’s)遠藤健太(サイクルワークス Fin’s) 遠藤健太(サイクルワークス Fin’s)

新潟県長岡市に店舗を構えるサイクルワークス Fin’sの店長。学生時代にBMXから始まり、MTBやロードバイクまで幅広く自転車を楽しむ、バリバリの走れる系店長。スポーツバイク歴は18年にもなり、2012年には全日本選手権ロードに出場した経験も。お店は完璧なメカニックサービスを提供するべく、クオリティの高い整備が評判だ。ショップ主催のサイクリングやレース活動に積極的で、初めての人から実業団レースで活躍したい人まで手厚いサポートを心がける。

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サイクルワークス Fin’s HP

ウェア協力:rh+

text:Yuto.Murata
photo:Makoto.AYANO