シクロクロス界だけではなく、自転車界全体に衝撃を与えたメカニカルドーピング。モーター内蔵バイクの持ち主とされる渦中のフェムケ・ファンデンドリーシュ(ベルギー)は潔白を主張している。疑惑発覚から4日が経ち、著名人からは厳罰を求める声が上がっている。



U23女子レースを走るフェムケ・ファンデンドリーシュ(ベルギー)U23女子レースを走るフェムケ・ファンデンドリーシュ(ベルギー) photo:Tim de Waele


U23女子レースを走るフェムケ・ファンデンドリーシュ(ベルギー)U23女子レースを走るフェムケ・ファンデンドリーシュ(ベルギー) photo:Tim de Waeleシクロクロス世界選手権のU23女子レース中に発覚したメカニカルドーピングは、自転車界に強い衝撃を与えたものの、その真相は不明瞭な部分が多い。モーターが見つかったバイクの持ち主とされるファンデンドリーシュは、ベルギーのテレビ局Sporzaのインタビューで不正行為を涙ながらに否定した。

ブライアン・クックソンUCI会長ブライアン・クックソンUCI会長 photo:Kei Tsuji「(モーターについて)私は何も知らない。どうしてそのバイクがそこ(ピットエリア)にあったのか分からない。そのバイクがそこにあるのを見て驚いた。私のバイクではない。何かのミスだ。自分が乗っていたバイクには何も入っていない。この世界選手権に向けて努力してきたのに、こんな批難の的になるなんて。彼らが真実を突き止めてくれると願っている。必要ならば全てをチェックしてほしい。自分のシクロクロスバイクだけでなく、すべてのロードバイクも。何も見つかるわけがないと100%言い切れる」とファンデンドリーシュは答えている。

U23女子のヨーロッパチャンピオンならびにベルギーチャンピオンのファンデンドリーシュは、優勝候補の一角としてシクロクロス世界選手権U23女子レースに出場。レース中にUCI(国際自転車競技連盟)のコミッセールがピットエリアでバイクチェックを行った結果、ファンデンドリーシュのスペアバイクに不正が見つかった。ファンデンドリーシュ自身はレース序盤からトップ争いに絡むことが出来ず、メカトラに見舞われて最終周回でリタイアしている。

当初UCIは該当バイクの持ち主を明らかにしなかったが、Sporzaがファンデンドリーシュであると特定し、後にベルギー自転車競技連盟がそれを認めた。

UCIのブライアン・クックソン会長はゾルダーで行われた記者会見で「モーターが発見されたことは事実であり、技術的なドーピングにあたる。技術的な詐称行為は決して許されるものではない。不正を企む少数派に対して『決して逃げ場はなく、自転車競技に与えるダメージの対価をいずれ払うことになる』と我々は主張したい」とコメント。また、クックソン会長は「2015年シーズンを通して、我々はメジャーレースで無作為にバイクチェックを行ってきた。新しい検査方法を用いて、2016年シーズンも引き続きバイクチェックを行う」とも。今後は競技問わずバイクチェックが強化されると見られる。

Sporzaのインタビューでファンデンドリーシュは、該当バイクは普段からトレーニングをともにしている友人の所有物であると述べている。ファンデンドリーシュは該当バイクを1年前に友人に売却。その友人が世界選手権のコースを試走した後にチームトラックに立てかけたバイクをメカニックが気づかず洗浄し、間違ってピットエリアに持ち込まれた可能性があると主張している。

ベルギーのヘットニュースブラッド紙は該当バイクの所有者ニコ・ファンメールダー氏にインタビューを行っており、その中で同氏は「自分のバイクだ」と事実を認めているが、モーターに関しては言及していない。

モーターの使用はUCIの競技規約「自転車の推進力は,チェーンセットを介して円運動する下肢の筋肉(脚)のみにより得られるもので,電気その他の補助があってはならない(条項1.3.010)」の違反にあたり、競技規約12章の「懲戒および手続き(条項12.1.013)」によると違反者にはレースの失格処分と6ヶ月以上の出場停止処分が与えられるとともに、20,000〜200,000スイスフラン(約235〜2,350万円)の罰金を課すとしている。

ファンデンドリーシュはモーターが見つかったバイクをレースで使用していないと主張しているが、該当バイクがピットエリアでファンデンドリーシュのスペアバイクとして扱われていたことから、処分は免れないと見られている。

今回のスキャンダルを受けて、ファンデンドリーシュの所属チームにバイクを提供していたウィリエール・トリエスティーナ社は法的措置を取る構えであることを公式サイトで発表。リリースの中でアンドレア・ガスタルデッロCEOは「我々は日々品質の高い製品を世界中に送り出している。渦中のバイクがウィリエール・トリエスティーナ社の製品であると知ってとても悲しい気持ちだ。該当する選手ならびにこの深刻な事態の責任者に対して、110年の歴史を誇る名声とイメージを守る為、我が社は法的な措置を取る」とコメントしている。

その他、レディース・ツアー・オブ・カタールに帯同中のエディ・メルクス氏が「違反者は生涯出場停止にすべき」と記者団に語っており、厳罰を求める声が各方面で上がっている。

UCIは現在も調査中であり、処分などの正式な発表はまだなされていない。

text:Kei Tsuji