2016/01/03(日) - 10:57
ホビーレーサーでもパワーメーターを駆使して自身のパワー測定とより効率的なペダリングを探求することが一般化してきた。クランク内蔵型パワーメーター、ROTOR INPOWER(ローター・インパワー)はより手軽なパワー測定を可能にした。本企画では2篇に渡り徹底的に使い方を考察する。
トッププロ選手からホビーライダーまで幅広い層から人気を集める楕円チェーンリングのQ-Ringsと、より楕円率を高めたモデルQXLをラインナップするスペインのコンポーネントブランド、ROTOR(ローター)。このほど新型パワーメーター内蔵クランクINPOWERを発表し、待望の国内販売が始まった。
INPOWERは従来のパワーメーターと何が違うのか? 楕円チェーンリングとの相性は? 11月末に鹿児島県霧島市で行われたメディアキャンプで公開された資料も交えつつ、ROTOR製品のヘビーユーザーである自転車ライター・浅野真則が徹底的にテストし、インプレッションを行う。
センサーと電池がシャフトに内蔵され、破損リスクを低減
INPOWERは、2015年シーズン序盤からプロのレースシーンに投入され、ローターがサポートを行うMTNキュベカからのフィードバックを取り入れ開発された新型のクランク式パワーメーターだ。ROTORサポートチームのランプレ・メリダもINPOWERを使っている。
INPOWERはROTORとしては3種類めのパワーメーターとなる。両方のクランクで計測するROTOR POWER、片方のクランクで計測するROTOR POWER LT、そしてこのINPOWERだ。
いずれもクランクベースのパワーメーターだが、INPOWERは、これまでに発売されているROTORのパワーメーターとは明らかな違いがある。それはひずみセンサーをはじめとするパワーメーターの電子部品やバッテリーをクランクシャフトに内蔵している点だ。
クランクシャフトにセンサー類を内蔵することで、外観ではパワーメーターを搭載しない通常のクランクセットとほとんど見分けが付かなくなっている。数少ない違いは、クランクのロゴに「INPOWER」と入っている点と、左クランクのシャフト付近に少しだけアンテナの出っ張りがあるぐらいだ。
センサーと電池がクランクシャフトに内蔵されることによるメリットは何だろう? ひとつは、電子部品がクランクシャフトの中に収まることで、防水性が高まり、転倒時の破損のリスクが大幅に低減している点だろう。
バッテリーは防水キャップの中に収まっている。使用電池は単3型電池で、市販の電池はもちろん、充電池も使用可能だ。バッテリーライフは300時間とアナウンスされているので、バッテリーの残量をさほど気にせずに使えるはずだが、万一の電池切れの際にも単3電池ねらコンビニエンスストアなどでもすぐに入手できるので、非常にユーザーフレンドリーと言えよう。
センサー類もクランクシャフト内に収まっており、外からパワーメーターと認識できるのはアンテナのみだ。もともとROTORのパワーメーターは非常にスリムにできており、転倒時にもパワーメーターを破損することはほとんどなかったが、INPOWERではさらに転倒時の破損リスクは少なくなっていそうだ。
さらに防水対策が十分に施されたクランクシャフト内にセンサーを収めることで、INPOWERはロードバイクはもちろん、MTBやシクロクロスでも安心して使えるというメリットも獲得した。実際にINPOWERのラインナップには、シクロクロス用クランクやMTB用クランクも用意されている。
重量バランスもよく最も死角が少ないパワーメーター
INPOWERがセンサーや電池をクランクシャフトに内蔵したことのメリットは、もうひとつある。それは、重量バランスの向上に貢献していることだ。
クランクベース型のパワーメーターは、クランクというバイクの前後輪の間、かつ低い位置に搭載される。つまり、前後の重量バランスを乱すことなく、低重心化も図れるため、操縦安定性にも貢献するのだ。特に最近の超軽量バイクは、軽量なカーボンホイールを履くと腰高感が強調されてナーバスな乗り味になりがちだが、クランクにパワーメーターを搭載することで、バイクの低い位置の重量が増し、安定性向上につながるはずだ。
さらに、そのクランクベース型パワーメーターのメリットの上に、INPOWERは回転軸の中に重量物を収めることで、ペダリングにほとんど影響を与えないというメリットも獲得している。
例えばペダルベース型のパワーメーターを170mmクランクに装着した場合、クランクが1周する間にパワーメーターはクランクの円周運動の直径分、すなわち340mm上下に移動する。通常のペダルより片側だけで50gほど重いペダルを、レース中やイベント中何千回、何万回と持ち上げるという余分な“仕事”を強いられるわけだ。
これに対し、INPOWERはパワーメーターの重量物がほぼクランクシャフトの中に収まっており、余分な“仕事”はほぼ発生しない。
さらにホイールを変えても使えるので、練習でもレースでも常にパワーを計測できる。価格も最廉価モデルの3D30だと11万円台から手に入る。現在市販されている“パワーメーター”の中では、「最も死角が少ないパワーメーター」と言ってもいいかもしれない。
最新のソフトウェアにROTORのパワーメーターで唯一対応
ここで気になるのは、ROTORの従来のパワーメーターと何が違うのか? という点だ。一覧表にまとめてみたので参考にしてほしい。
ROTORパワーメーター3種の比較
こうしてみると、ROTOR POWERは両脚で計測できるため、左右のパワーバランスが表示されるいうメリットがあり、ROTOR POWER LTとINPOWERは左右のバランスと左右のペダリング効率が表示されないものの、その他の機能はほぼ継承しており、ROTOR POWERのほぼ半額という価格面での魅力がある。
だが、INPOWERはROTOR POWERにはない魅力も兼ね備えている。
それはINPOWERのソフトウェアでOC@とTORQUE360°という新しいテクノロジーに対応していることだ。
Q-RINGS/QXLと最高の相性を誇るパワーメーター
OC@とは、左クランクを1周させる間のどの角度で最大のパワーを発揮しているかを表示するもの。これを活用すれば、ROTORの楕円チェーンリングQ-RINGSやQXLをどの位相で楕円率が最大になるようにするかというOCPポジション(クランクの3時から5時の間で5段階に楕円率が最大となるポイントを変えられる機構)を決める際の有用な情報となる。
また、TORQUE360°は、左クランクの360°のペダリングトルクを表示するもの。大小2つの円からなり、大きな円はペダリングに有効に作用する正のペダリングトルク、小さい円は反対側の踏み込みの際に重りとなる負のペダリングトルク(ネガティブパワー)を表す。
大きい円は、真円に近いほどキレイなペダリングで、円の直径が大きくなるほど高いトルクが生み出されていることを表す。一方、小さい円は直径が小さくなるほどネガティブパワーが少ない効率のよいペダリングができていることを表す。
これらのデータは現時点ではPCのINPOWERソフトウェアでしか表示できず、実走では表示できない。また、INPOWERが左クランクのみの計測であるため、現在は左クランクの解析しかできない。この件に関して、ROTORの日本代理店のダイアテックプロダクツによると、「現在ROTORでは、左右のクランクで計測できるINPOWERの上級モデルを開発中」とのことだ。今後の展開に注目したい。
INPOWERソフトウェアは、PCにANT+ドングルを取り付け、PCと通信できる状態でINPOWERを使う必要がある。現実的にはインドアで固定ローラーとパソコンを組み合わせて使うことになるだろう。
ここまでINPOWERの機能について確認してきた。
次回は1000kmを超えるテストライドを通じて分かったINPOWERの特徴をインプレッションする。
Vol.2へ続く。
インプレライダープロフィール
浅野真則
シクロワイアードをはじめとするWEBや自転車専門誌で執筆活動を行いながら、実業団登録選手として活動する業界屈指の実走派自転車ライター。ROTOR製品、中でも楕円チェーンリングの使用歴は6年以上で、Q-RINGSはもちろん、2年前からは楕円率を高めたQXLを愛用している。
これに合わせるクランクベースのパワーメーターもROTOR POWERをチョイス。2014年にはQXLチェーンリングとROTOR POWERを搭載した写真のバイクで、実業団3days熊野E2新宮ステージを含めて2つのレースで優勝した。
トッププロ選手からホビーライダーまで幅広い層から人気を集める楕円チェーンリングのQ-Ringsと、より楕円率を高めたモデルQXLをラインナップするスペインのコンポーネントブランド、ROTOR(ローター)。このほど新型パワーメーター内蔵クランクINPOWERを発表し、待望の国内販売が始まった。
INPOWERは従来のパワーメーターと何が違うのか? 楕円チェーンリングとの相性は? 11月末に鹿児島県霧島市で行われたメディアキャンプで公開された資料も交えつつ、ROTOR製品のヘビーユーザーである自転車ライター・浅野真則が徹底的にテストし、インプレッションを行う。
センサーと電池がシャフトに内蔵され、破損リスクを低減
INPOWERは、2015年シーズン序盤からプロのレースシーンに投入され、ローターがサポートを行うMTNキュベカからのフィードバックを取り入れ開発された新型のクランク式パワーメーターだ。ROTORサポートチームのランプレ・メリダもINPOWERを使っている。
INPOWERはROTORとしては3種類めのパワーメーターとなる。両方のクランクで計測するROTOR POWER、片方のクランクで計測するROTOR POWER LT、そしてこのINPOWERだ。
いずれもクランクベースのパワーメーターだが、INPOWERは、これまでに発売されているROTORのパワーメーターとは明らかな違いがある。それはひずみセンサーをはじめとするパワーメーターの電子部品やバッテリーをクランクシャフトに内蔵している点だ。
クランクシャフトにセンサー類を内蔵することで、外観ではパワーメーターを搭載しない通常のクランクセットとほとんど見分けが付かなくなっている。数少ない違いは、クランクのロゴに「INPOWER」と入っている点と、左クランクのシャフト付近に少しだけアンテナの出っ張りがあるぐらいだ。
センサーと電池がクランクシャフトに内蔵されることによるメリットは何だろう? ひとつは、電子部品がクランクシャフトの中に収まることで、防水性が高まり、転倒時の破損のリスクが大幅に低減している点だろう。
バッテリーは防水キャップの中に収まっている。使用電池は単3型電池で、市販の電池はもちろん、充電池も使用可能だ。バッテリーライフは300時間とアナウンスされているので、バッテリーの残量をさほど気にせずに使えるはずだが、万一の電池切れの際にも単3電池ねらコンビニエンスストアなどでもすぐに入手できるので、非常にユーザーフレンドリーと言えよう。
センサー類もクランクシャフト内に収まっており、外からパワーメーターと認識できるのはアンテナのみだ。もともとROTORのパワーメーターは非常にスリムにできており、転倒時にもパワーメーターを破損することはほとんどなかったが、INPOWERではさらに転倒時の破損リスクは少なくなっていそうだ。
さらに防水対策が十分に施されたクランクシャフト内にセンサーを収めることで、INPOWERはロードバイクはもちろん、MTBやシクロクロスでも安心して使えるというメリットも獲得した。実際にINPOWERのラインナップには、シクロクロス用クランクやMTB用クランクも用意されている。
重量バランスもよく最も死角が少ないパワーメーター
INPOWERがセンサーや電池をクランクシャフトに内蔵したことのメリットは、もうひとつある。それは、重量バランスの向上に貢献していることだ。
クランクベース型のパワーメーターは、クランクというバイクの前後輪の間、かつ低い位置に搭載される。つまり、前後の重量バランスを乱すことなく、低重心化も図れるため、操縦安定性にも貢献するのだ。特に最近の超軽量バイクは、軽量なカーボンホイールを履くと腰高感が強調されてナーバスな乗り味になりがちだが、クランクにパワーメーターを搭載することで、バイクの低い位置の重量が増し、安定性向上につながるはずだ。
さらに、そのクランクベース型パワーメーターのメリットの上に、INPOWERは回転軸の中に重量物を収めることで、ペダリングにほとんど影響を与えないというメリットも獲得している。
例えばペダルベース型のパワーメーターを170mmクランクに装着した場合、クランクが1周する間にパワーメーターはクランクの円周運動の直径分、すなわち340mm上下に移動する。通常のペダルより片側だけで50gほど重いペダルを、レース中やイベント中何千回、何万回と持ち上げるという余分な“仕事”を強いられるわけだ。
これに対し、INPOWERはパワーメーターの重量物がほぼクランクシャフトの中に収まっており、余分な“仕事”はほぼ発生しない。
さらにホイールを変えても使えるので、練習でもレースでも常にパワーを計測できる。価格も最廉価モデルの3D30だと11万円台から手に入る。現在市販されている“パワーメーター”の中では、「最も死角が少ないパワーメーター」と言ってもいいかもしれない。
最新のソフトウェアにROTORのパワーメーターで唯一対応
ここで気になるのは、ROTORの従来のパワーメーターと何が違うのか? という点だ。一覧表にまとめてみたので参考にしてほしい。
ROTORパワーメーター3種の比較
こうしてみると、ROTOR POWERは両脚で計測できるため、左右のパワーバランスが表示されるいうメリットがあり、ROTOR POWER LTとINPOWERは左右のバランスと左右のペダリング効率が表示されないものの、その他の機能はほぼ継承しており、ROTOR POWERのほぼ半額という価格面での魅力がある。
だが、INPOWERはROTOR POWERにはない魅力も兼ね備えている。
それはINPOWERのソフトウェアでOC@とTORQUE360°という新しいテクノロジーに対応していることだ。
Q-RINGS/QXLと最高の相性を誇るパワーメーター
OC@とは、左クランクを1周させる間のどの角度で最大のパワーを発揮しているかを表示するもの。これを活用すれば、ROTORの楕円チェーンリングQ-RINGSやQXLをどの位相で楕円率が最大になるようにするかというOCPポジション(クランクの3時から5時の間で5段階に楕円率が最大となるポイントを変えられる機構)を決める際の有用な情報となる。
また、TORQUE360°は、左クランクの360°のペダリングトルクを表示するもの。大小2つの円からなり、大きな円はペダリングに有効に作用する正のペダリングトルク、小さい円は反対側の踏み込みの際に重りとなる負のペダリングトルク(ネガティブパワー)を表す。
大きい円は、真円に近いほどキレイなペダリングで、円の直径が大きくなるほど高いトルクが生み出されていることを表す。一方、小さい円は直径が小さくなるほどネガティブパワーが少ない効率のよいペダリングができていることを表す。
これらのデータは現時点ではPCのINPOWERソフトウェアでしか表示できず、実走では表示できない。また、INPOWERが左クランクのみの計測であるため、現在は左クランクの解析しかできない。この件に関して、ROTORの日本代理店のダイアテックプロダクツによると、「現在ROTORでは、左右のクランクで計測できるINPOWERの上級モデルを開発中」とのことだ。今後の展開に注目したい。
INPOWERソフトウェアは、PCにANT+ドングルを取り付け、PCと通信できる状態でINPOWERを使う必要がある。現実的にはインドアで固定ローラーとパソコンを組み合わせて使うことになるだろう。
ここまでINPOWERの機能について確認してきた。
次回は1000kmを超えるテストライドを通じて分かったINPOWERの特徴をインプレッションする。
Vol.2へ続く。
インプレライダープロフィール
浅野真則
シクロワイアードをはじめとするWEBや自転車専門誌で執筆活動を行いながら、実業団登録選手として活動する業界屈指の実走派自転車ライター。ROTOR製品、中でも楕円チェーンリングの使用歴は6年以上で、Q-RINGSはもちろん、2年前からは楕円率を高めたQXLを愛用している。
これに合わせるクランクベースのパワーメーターもROTOR POWERをチョイス。2014年にはQXLチェーンリングとROTOR POWERを搭載した写真のバイクで、実業団3days熊野E2新宮ステージを含めて2つのレースで優勝した。
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