2012年に鮮烈なデビューを飾ったキャノンデールのフラッグシップレーシングマシン、SUPERSIX EVO Hi-mod。4年目となる今でもなお、色あせることのない魅力を放ち続け、UCIワールドツアーの第一線で戦い続けるレーシングバイクの真髄に改めて迫った。



キャノンデール SUPERSIX EVO Hi-modキャノンデール SUPERSIX EVO Hi-mod photo:MakotoAYANO/cyclowired.jp
かつてアルミバイクがレーシングバイクの世界において一線級の立ち位置を保っていたころ、キャノンデールはアルミニウムを知り尽くした先鋭ブランドとしてその名を轟かせていた。大径チュービングを駆使し、軽量で高剛性の高性能フレームを生み出し、トップレーサーたちが駆ったCAADシリーズは輝かしい戦績を手にしてきた。

そうしてアルミバイクにおいて確固たる地位を築きあげてきたキャノンデールだが、時代はカーボンバイクへとその軸足を移していく。凡百のブランドであればこの変化についていけず姿を消してしまってもおかしくないが、それはキャノンデールにはあてはまらなかった。

細身のフロントフォーク細身のフロントフォーク ヘッドチューブもスリムな形状ヘッドチューブもスリムな形状 ヘッドチューブ付近のトップチューブはすこしボリュームを持たせられているヘッドチューブ付近のトップチューブはすこしボリュームを持たせられている


キャノンデールは2005年にフロント三角がカーボン、リア三角がアルミという独自の構造を採用したSIX13を発売。当時はサエコチームやランプレへ供給を行い、そのフィードバックからバイクの戦闘力は高められていった。次に発表されたシステムシックスを経て、キャノンデール初となるフルカーボンフレーム、SUPERSIXを2008年に発表する。

そして2012年に満を持してデビューさせたこのSUPERSIX EVOにおいて、キャノンデールはカーボンバイクの世界においても世界のトップブランドとして認知されることとなる。発表から4年が経過する今も、SUPERSIX EVOと並ぶだけの軽量フレームは数えるほどしか市場に存在しない。ワールドツアーを戦っているバイクの中では、依然として最軽量クラスである。極論すると、SUPERSIX EVOは他社の軽量バイクに対して4年以上先を行っているバイクだったと言っていいだろう。

アウター受けの位置も合理的だアウター受けの位置も合理的だ オーソドックな形状のヘッド周りオーソドックな形状のヘッド周り

チェーンステー、そしてリアエンドは極限までダイエットしている。チェーンステー、そしてリアエンドは極限までダイエットしている。 キャノンデールオリジナルのホログラムクランクがアッセンブルされるキャノンデールオリジナルのホログラムクランクがアッセンブルされる


また、とかく軽量性ばかりが語られがちなSUPERSIX EVOであるが、ただ軽いだけではなくプロライダーの踏力を受け止めるだけの高い剛性を持ったフレームであるということにも触れておかねばならない。それを証明するのは、デビューから現在に至るまでこのバイクが積み上げてきた輝かしい戦績の数々だ。

中でも、ペーター・サガン(スロバキア)による2012年から2014年の3年連続でのツール・ド・フランスのポイント賞獲得は代表的なものと言えるだろう。こう書くと、スプリンター向けの超高剛性バイクではないのかと思わせるような実績であり、事実SUPERSIX EVOはサガンのスプリントを受け止めるだけの剛性を有しているのだが、驚くべきはそれだけの剛性も備えるフレームの重量が695gしかないということ。

つまり、それは重量に対する剛性の割合が抜きんでて高いことを意味している。ドイツの第三者機関、ゼドラーラボで検査されたバイクの中でも最も高い数値である142.3Nm/deg/kgという重量剛性比を実現したSUPERSIX EVOはレーシングフレームとして理想的な性能を持っているといえる。

途中で絞り加工が施されるトップチューブ途中で絞り加工が施されるトップチューブ 非常に薄く成形されるリアエンド非常に薄く成形されるリアエンド


この夢のようなフレームを支えているのがキャノンデール独自のカーボンテクノロジーであるバリステックカーボン構造。ウルトラハイモジュラスカーボンの高張力を最適化し、耐衝撃性に優れた樹脂で成型するこのテクノロジーによって成型されるフレームは、軽量フレームにありがちな脆さを感じさせない頑丈なフレームに仕上がっている。

その強度についてもゼドラーラボのお墨付きが与えられている。同ラボがテストしてきたどのアルミフレームをも上回る、優れた耐久性と耐破壊製が確認されているのだ。つまり、極めて高いレーシング性能を持ちながら、頑丈で扱いやすいフレームとして完成しているということだ。

さらに、フォークエンドが手前方向にオフセットさせることや、チェーンステー中央部を横方向に扁平させることにより、ライダーの疲労を軽減する振動吸収性に加えて、タイヤを路面へと確実にグリップさせる路面追従性を得た。キャノンデールがSPEED SAVEと名付けるこのテクノロジーにより、長距離を快適に、そして効率的に走ることができるのだ。

リア三角は非常にスリムなチューブで構成されるリア三角は非常にスリムなチューブで構成される プレスフィット30を採用するBB周りプレスフィット30を採用するBB周り フォークエンドは少しバックオフセットをとることで衝撃吸収性を向上フォークエンドは少しバックオフセットをとることで衝撃吸収性を向上


そして、SUPERSIX EVOはオーソドックスなシルエットを持ちながらエアロダイナミクスにも長けている。極限までスリムにシェイプアップされたチューブは前方投影面積の減少にもつながっており、結果として翼断面形状を採用する他社のエアロフレームに比べても、最大で14gのドラッグ増加にとどまっているという。

軽量かつ高剛性でありながら、縦方向への柔軟性に長け、疲れづらいうえにエアロロード並みの空力効果を持つSUPERSIX EVO。まさに、レーシングバイクとしての理想を具現化したような存在といえるし、その後に続くオールラウンド系フレームに対し多大な影響を与えてきた。

さて、そんな名車であるSUPERSIX EVOを二人のインプレッションライダーはどう評価するのか。今回のインプレバイクはデュラエース仕様の完成車スペックで、ホイールはシマノ RS81-C24-CLをアッセンブル。タイヤはシュワルベ ワンを使用している。それでは、インプレッションに移ろう。




―インプレッション

「幅広いライディングスタイルを受けて入れてくれる柔軟性に富んだフレーム」小畑郁(なるしまフレンド)

全体的な剛性は抑え目で、非常に乗り心地の良いバイクです。一度ダッシュした際の最高速度や加速力といったポイントでは、他の高剛性を売りにするバイクに一歩譲りますが、このバイクの目指すのは違うところにあると感じました。適度な剛性に抑えられた結果、何度も何度もアタックをかけても、最後まで脚を残すような走り方ができるようになっています。

登りでも、このしなやかな乗り味を活かして、長くダンシングできますし、ペダリングの力をしっかりと受け止めてくれます。一定のパワーで淡々と登るような峠ではなく、勾配の変化が何度も続くようなシチュエーションで真価を発揮できるでしょう。ライバルたちに対して、距離が長ければ長いほど優位に立てるバイクと言えます。

「幅広いライディングスタイルを受けて入れてくれる柔軟性に富んだフレーム」小畑郁(なるしまフレンド)「幅広いライディングスタイルを受けて入れてくれる柔軟性に富んだフレーム」小畑郁(なるしまフレンド)
といってもただ柔らかいバイクではなく、しっかりと反応は返してくれます。チェーンステーやシートステー、ダウンチューブでしなりをだし、その跳ね返りで推進力を作っていくような進み方をしてくれますね。1か所だけがしなるのではなく、フレーム全体でそのウィップ感を演出しているので、引っ掛かるようなフィーリングもなく、非常に素直に進んでいきます。

「意外かもしれないですがクリテリウムなどでも武器になるでしょう」小畑郁(なるしまフレンド)「意外かもしれないですがクリテリウムなどでも武器になるでしょう」小畑郁(なるしまフレンド) その乗り味は、何度も加減速が繰り返され、脚が削られていくようなシチュエーションこそが、このバイクの最も得意とするフィールドです。何度もトライして、最後に全力で踏んだ時もしっかりと前に進んでくれる絶妙なバランスのバイクです。

逆に、組み合わせるパーツ類は硬めのものでまとめたほうが良いでしょうね。特にクランクはデュラエース、もしくは純正のホログラムクランクがベストマッチであり、メーカーの意図する性能を引き出しやすいでしょう。

コーナーでは、絶対的剛性が高くないのでスパッと切れ込むようなハンドリングと言うよりは、粘りながら曲がっていくような感覚なので、高剛性バイクからの乗り換えだと若干慣れが必要かもしれません。とはいえ、ニュートラルステアなので、慣れの範囲内です。ブレーキングもフォークが負けるようなことが無く、しっかり止まることができます。

回転系でもトルク系でも、幅広いライディングスタイルを受けて入れてくれる柔軟性に富んだフレームです。振動吸収性が高いうえ、ロードインフォメーションも把握しやすいですね。レーシングバイクとしては、必要十分なレベルです。ロングセラーになるだけの資質を備えたバランス重視のバイクとして、納得がいくだけの性能を持ったレーシングバイクです。

「キャノンデールカーボンバイクの集大成に位置するようなバイク」山崎嘉貴(ブレアサイクリング)

各社のハイエンドバイクのなかでは非常にしなやかで柔らかい乗り心地のバイクです。重量剛性比が高いということをメーカーは打ち出していますが、重量が軽いため、絶対的な剛性は高すぎず非常に踏みやすくて、疲れづらい自転車に仕上がっていると思います。

だれしも軽いバイクに乗りたいというのはあると思うのですが、最近の軽量バイクは結構硬いバイクが多くて、脚力的に辛い人も多いんです。このバイクはバランスの取れた適度な剛性感と、圧倒的に軽いフレーム重量ですごく乗りやすいモデルとして、確かな地位を築いているといえます。

「キャノンデールカーボンバイクの集大成に位置するようなバイク」山崎嘉貴(ブレアサイクリング)「キャノンデールカーボンバイクの集大成に位置するようなバイク」山崎嘉貴(ブレアサイクリング)
軽さと剛性感が相まって、登りが非常に楽になるので、走ることができる距離もぐっと伸びるんですよ。登りもアウターで我慢するのではなく、インナーでクルクルと回していく方が得意ですね。負荷を抑え目にして、筋力ではなく心肺能力で登っていく方が向いているでしょう。

短い距離で、ガツンと負荷をかけて登るような坂ではなく、斜度5~6%程度の坂が何kmも続くような大きな峠でこそ、このバイクは真価を発揮するでしょうね。一方、平坦路だと腰高感があるので、体重が軽い人はすこしふらついてしまうかもしれませんが、乗り慣れてくれば問題ない範囲でしょう。

一方、下りのコーナーでは、フロントフォークが路面に追従してくれることもあり不安を感じることはありません。フォークエンドが食い込むような形で路面のギャップをいなしてくれるため、はじかれず安定するのです。かといって、ブレーキングでビビるようなことはありませんし、極めて安心感が高いです。

路面のギャップに追従するといいましたが、快適性は非常に高いです。今回のインプレッション以前にも色々なホイールと組み合わせた試乗した経験がありますが、レーサーであれば可能な限り硬いホイールが、ゆったりと長く乗るのであれば振動吸収性に長けたホイールがいいでしょう。どちらも受け入れてくれる懐の深さがあるフレームです。

付け加えるなら、このフレームを手に入れた人はぜひホログラムクランクをアッセンブルしてみてほしいですね。専用クランクって、いかにもアメリカンブランドらしい発想じゃないですか。ぜひそのマッチングを楽しんでみてほしいです。

キャノンデールが剛性だけを追求するのではなく、ライダーの感覚に寄り添って、しなやかさや乗り心地とレーシング性能の両立を目指してきた技術的な系譜の中で、集大成に位置するようなバイクではないでしょうか。値段もこなれていますし、どんなレベルの人でもオススメできるバイクです。

キャノンデール SUPERSIX EVO Hi-modキャノンデール SUPERSIX EVO Hi-mod photo:MakotoAYANO/cyclowired.jp

キャノンデール SUPERSIX EVO Hi-MOD 2
サイズ:44、48、50、52、54、56、58
フレーム:Supersix Evo バリステックハイモッドカーボン、スピードセーブ、プレスフィット BB30
フォーク:Supersix Evo バリステックハイモッドカーボン、スピードセーブ
コンポーネント:シマノ デュラエース
クランクセット:キャノンデール ホログラムSI PRO
ホイール:シマノ RS81-C24
ハンドル、ステム、シートポスト:キャノンデール C1
タイヤ:シュワルベ ワン 700x23c
カラー:チームレプリカ
価 格:600,000円



インプレライダーのプロフィール

山崎嘉貴(ブレアサイクリング)山崎嘉貴(ブレアサイクリング) 山崎嘉貴(ブレアサイクリング)

長野県飯田市にある「ブレアサイクリング」店主。ブリヂストンアンカーのサテライトチームに所属したのち、渡仏。自転車競技の本場であるフランスでのレース活動経験を生かして、南信州の地で自転車の楽しさを伝えている。サイクルスポーツ誌主催の最速店長選手権の初代優勝者でもあり、走れる店長として高い認知度を誇っている。オリジナルサイクルジャージ”GRIDE”の企画販売も手掛けており、オンラインストアで全国から注文が可能だ。

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小畑郁(なるしまフレンド)小畑郁(なるしまフレンド) 小畑郁(なるしまフレンド)

その圧倒的な知識量と優れた技術力から国内No.1メカニックとの呼び声高いなるしまフレンド神宮店の技術チーフ。勤務の傍ら精力的に競技活動を行っており、ツール・ド・おきなわ市民210kmでは2010年に2位、2013年と2014年に8位に入った他、国内最高峰のJプロツアーではプロを相手に多数の入賞経験を持つ。現在もなお、メカニックと競技者の双方の視点から自転車のディープで果てしない世界を探求中。

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ウェア協力:GRIDE

text:Naoki.YASUOKA
photo:Makoto.AYANAO

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