多くのトップサイクリストを輩出している鹿屋体育大学自転車競技部。そのOB・OG会第1回総会が11月30日に都内で開催された。会の模様を同OB・OG会長・狩野和也さんのレポートで紹介する。

今年の全日本インカレで史上初の男女総合優勝を決めた鹿屋体育大学自転車競技部。鹿屋と言えば多くの支援者を味方に付けてハイレベルな活動を展開していることで知られる。インカレ優勝で多くの支援者を歓喜させたチームだが、最も喜んだのは同大学のOB・OG達であることは間違いない。そんなOB・OG34名が東京に集結し、初の正式大会が開催された。

総勢34名の鹿屋体育大学自転車競技部OBOGが集まった総勢34名の鹿屋体育大学自転車競技部OBOGが集まった 11月30日(土)、東京都内のミウラ・ドルフィンズにて鹿屋体育大学自転車競技部OB・OG会「通称:鹿輪党(かりんとう)」第1回総会(以下本会とする)が開催された。

開催場所であるミウラ・ドルフィンズは80歳でエベレスト登頂に成功した三浦雄一郎さんの所有施設である。この施設には、鹿屋体育大学大学院在学中に低酸素トレーニングの実践・研究に従事した自転車競技部OG安藤(旧姓:許斐(このみ))真由子が勤務する。その縁あって、同施設のスペースをお借りしての開催となった。

総会を企画するに当たり黒川監督のこだわりは、宴会のみの開催で終わらず、OB・OGの現状報告を実施する事。これは、「日本の自転車競技をメジャーにするために、創造し私欲を捨て社会貢献できる本物の人材育成」という創部理念にのっとり、現役選手のみならず卒業後も様々な形で自転車競技のメジャー化に貢献して欲しいという思いで人材育成に取り組んでいるためである。

今回は第1回目と言う事もあり、黒川監督自らが鹿屋体育大学自転車競技部の歴史を振り返ると共に、その他3名のOB・OGが現在の活動等について報告を行った。以下に、各プレゼンの概略を示す。

黒川剛監督(鹿屋体育大学体育学部 スポーツ武道実践科学系 助教)
「世界を目指した鹿屋の軌跡と奇跡」

黒川剛監督から創部にいたる経緯が説明される黒川剛監督から創部にいたる経緯が説明される 見た目と違い、ひょうきん者で知られる黒川監督、開口一番「最高に嬉しいので万歳三唱から始めます!」と全員を立たせて開会の挨拶と万歳三唱、爆笑の中でスタートを切った。黒川監督は全ての期間にわたりチームを育て上げてきた張本人。苦労話や裏話を含めて歴史を語った。

1992年、部員3名のサイクルスポーツ研究会として発足。当時はサイクリング、トライアスロン、MTB等を楽しむ程度の活動であった。それから3年後の1995年に正式な体育系サークルとして自転車競技部が誕生する。

当時は素人の登録選手1名で、大学から借りた畳一畳ほどの階段下倉庫からのスタートであったが、早い段階から地域密着活動、スポンサー広告入りウエアなどの民間支援、科学的トレーニングなどを取り入れ、活動環境を整え2000年には清水都貴(現:ブリヂストンアンカー所属)が国立大学初の個人TTおよびインカレ優勝を飾った。現役学生を含めこれまで本格的に競技に取り組んだ選手は約70名、そのうち42名が全国チャンピオンになっていて、日本一になることは特別難しい課題では無くなってきた。

女子選手の育成・強化にも力を注いできたが、2002年にはインカレ女子総合初優勝を達成、今年は10年連続11回目の総合優勝(この4年間は6種目完全優勝)、そして遂に念願の男女総合優勝を成し遂げた。今後はリオデジャネイロオリンピックに向けた選手強化および2020年の東京オリンピック向けた選手強化を成功させ、日本自転車界の競技力向上に貢献する事を熱く語った。

瀬尾幸也氏(元スポーツ振興センター・マルチサポート事業スタッフ、現トライアスロン・チームケンズコーチ)
「北京&ロンドン五輪マルチサポートを通じて」

瀬尾氏より東京オリンピックに向けて、提案がなされた瀬尾氏より東京オリンピックに向けて、提案がなされた 瀬尾氏は、2003年4月に3年次編入学生として入学し、自転車競技部に選手として入部した。その後大学院進学後は同部のコーチを務め、定期的な測定の結果をコーチングに活かしてきた。博士課程在学時に、日本マルチサポート事業科学スタッフとして参加、北京五輪では世界各国の取り組み等の調査に当たり、ロンドン五輪ではトライアスロンの科学スタッフとして活躍した。

今回はそこでのサポート経験や各国のオリンピックに向けた取り組みの紹介、さらに日本の取組体制についての問題提起がなされた。併せて2020年の東京オリンピックに向け鹿児島県からオリンピック選手を輩出するためのタレント発掘と選手強化の一貫システムの提案などが行われた。

安藤隼人氏(元ミウラ・ドルフィンズスタッフ、現Smart Coaching代表)
「ティーチングとコーチングの使い分け」

大学競技部のウェアにスポンサー名を入れたパイオニアでもある大学競技部のウェアにスポンサー名を入れたパイオニアでもある 安藤氏は、2001年、2002年に渡り自転車競技部の主将を務め、2005年に大学院修士課程を修了した。在学中は自転車競技部の元部長でもある山本正嘉教授のゼミに所属し低酸素トレーニング研究に取り組んでいた。安藤真由子と夫妻で勤務していたミウラ・ドルフィンズでは国内最先端の低酸素トレーニングのトレーナーをしていたが、今年から新宿に「プライベートコーチングスタジオSmart Coaching」を開業。

鹿屋体育大学自転車競技部の直近10年の成績は右肩上がりだ鹿屋体育大学自転車競技部の直近10年の成績は右肩上がりだ 既にその成果は噂となり競輪界、ロード界のトップ選手が訪れ、連日有名選手のパーソナル指導に従事している。安藤氏からは、Smart Coachingで行っているコーチングと、高校・大学の指導現場で行われているティーチングの違いや、コーチング実践例を基にしたビデオ分析方法、フィードバック方法等が紹介された。さらに、先日行われた日本体育協会公認自転車競技コーチ講習会の講師も務める立場から、日本自転車界における指導者連携体制について問題提起がなされた。

長島未央子氏(鹿屋体育大学 体育学部スポーツ生命科学系 講師)
「いよいよ始まる夢のアスリート食堂」

黒川剛監督には創部した1995年物のワインが贈呈された黒川剛監督には創部した1995年物のワインが贈呈された 瀬尾氏と同期として編入学し博士課程まで進んだ長島氏だが、学部学生時代は選手を経てトレーナースタッフを経験。現在は同大学講師として、スポーツ栄養学を教えている。長島氏からは、長年構想を温めてきた、スポーツ選手の食育を考慮した食事を低価格で提供できるアスリート食堂事業について紹介された。

本事業は、カフェなど約40店舗を展開する㈱バルニバービ(本社:大阪)が主体となり、アスリート向け食堂開店に向けた大学との産学連携事業で、鹿屋市の店舗を皮切りに、東京、大阪で店舗展開が計画されている。利益の一部を選手の育成支援奨学金とする取り組みも事業内に含まれる。バルニバービ社・大学・鹿屋市の三者で連携し、新しい形の産学官連携の取り組みとして今後注目される事だろう。


第2部「懇談会」

集まった鹿屋体育大学自転車競技部OB・OG全員で記念撮影集まった鹿屋体育大学自転車競技部OB・OG全員で記念撮影 第一部のプログラム終了後は、会場セッティングを変更し懇談会が開催された。第2代部長として創部4年目から10年間に渡り同部部長を務めた萩裕美子先生(現東海大学教授)が、挨拶と乾杯を行いスタートした。

会場には、ロンドン五輪日本代表の萩原麻由子(ウイグル・ホンダ)や、清水都貴(ブリヂストンアンカー)、中島康晴・伊藤雅和(愛三工業レーシング)、内間康平(NIPPOデローザ)、吉田隼人(シマノレーシング)等、プロロード界で活躍する豪華メンバーが姿をみせた。

他にも競輪選手、高校自転車競技指導者、スポーツ関連企業、理学療法士・鍼灸師、自転車関連企業に勤める者等35名の参加者があり、全員が自己紹介をして和やかな雰囲気で会は進み、終始盛り上がった。会の最後にサプライズとして黒川監督へ一同から自転車部が創部された1995年のワインが贈呈された。

黒川監督は「日本の自転車を変える人材が確実に育っていることを実感できて幸せ。この会はファミリーとして楽しむだけで無く、各人がクルーとして各分野で与えられた任務を全うして自転車界に貢献して欲しい」とエールを贈った。

もちろん1次会で終わるはずもなく、2次会は代々木にあるバルニバービ社経営の居酒屋「本家かのや」にて芋焼酎を飲みながら鹿屋での思い出を熱く語り合った。まだまだ若いOB・OG達ではあるが、近い将来日本自転車界、スポーツ界においてキーマンとなれる人材が現れる事を予感させ、本会は幕を閉じた。


photo&text:鹿屋体育大学自転車競技部OBOG会長・狩野和也