2010年のツール・ド・フランスでBMCレーシングチームの主力機の一つとして、センセーショナルなデビューを果たしたIMPEC。2011年のツールでも同チームの多くの選手が駆り、エースのカデル・エヴァンスのマイヨジョーヌ獲得に貢献した。

ツール・ド・フランス2011を制し、マイヨジョーヌ仕様のBMC Impecを凱旋門に掲げるカデル・エヴァンスツール・ド・フランス2011を制し、マイヨジョーヌ仕様のBMC Impecを凱旋門に掲げるカデル・エヴァンス (c)Makoto.AYANO
そのIMPECが2012年のニューモデルとしていよいよ市販される。

BMCロードバイクのラインナップにおいては、SLR01と並ぶハイエンドモデルのひとつとして位置づけられるIMPEC。BMCレーシングには両者が供給され、選手たちはステージや好みに応じてマシンを使い分けた。

軽さと切れ味で勝負するSLR01に対し、IMPECは総合力とバランスに優れ、巡航性能の高さにも定評があるため、ペースを上げるのも脚を休ませるのも自在。そのため、エースのエヴァンスを支援するアシストの選手たちに好んで使われたという。

BMC IMPECBMC IMPEC IMPECは、同社のこれまでの製品とは全く異なる独創的な製法で作られる先進テクノロジーの塊である。SLR01とはキャラクターの異なるマシンに仕上がっている。

しかも、スイスの自社工場で生産・アッセンブルされる完全受注生産とあって、そのスペシャル感は格別だ。

完全受注生産だけに、発注時にはフレームカラーやサイズだけでなく、レースフィット(ワンデイレース向き)とパフォーマンスフィット(ロングライド向き)の2つのジオメトリーを選択できる。完成車販売のほか、フレームセットでの販売も行われる予定(フレームセットについては発売時期未定)。

完成車の場合は、パーツやコンポーネントもチョイス可能だ。中でもコンポーネントに関しては、シマノ・デュラエースDi2、カンパニョーロ・スーパーレコード、スラム・レッドなどの各ハイエンドコンポだけでなく、アルテグラDi2やワイヤー仕様のデュラエースやアルテグラも選べる。

IMPECの全体像をざっと一通り見たところで、IMPECを形作る先進テクノロジーの数々に迫ってみよう。

シェルでチューブをつなぐ、IMPECを象徴する技術 "SNC"

IMPECの外観をインパクトあるものにしているのが、フレームのヘッドチューブやBB周りにあるラグ状の物体だ。

これは、サーモプラスチックとカーボンによって成型されたシェルによってカーボンパイプを挟み込み、フレームの各チューブの特性を最大限に生かそうというSNCというテクノロジーによるもの。ちなみにSNCとはShell Node Conceptの頭文字から来ている。

このシェルは金型に注入成型することで作られ、精密にデザインされた外部構造、正確に処理された内部構造を持つ。パワー伝達効率を損なわず、内蔵ケーブル用の穴もあらかじめデザインされるなど、機能とデザインの両面で計算され尽くされているのが特徴だ。

SNCはフレームのヘッドチューブ回りとBB周辺、シートチューブ回り、リアエンドに採用されているほか、カーボンフォークのショルダー部分とエンド部にも採用されている。中でもシートチューブ回りはBMCバイクの象徴でもあるiSC(軽さと剛性を保ちながらシートチューブ接合部にかかる衝撃を分散させるシステム)独特のシートチューブ回りの形状を再現している。

サーモプラスチックとカーボンで成形したシェルでフレームを構成するカーボンチューブを挟み込むSNC。フレームの各チューブの特性を最大限に生かすテクノロジーだサーモプラスチックとカーボンで成形したシェルでフレームを構成するカーボンチューブを挟み込むSNC。フレームの各チューブの特性を最大限に生かすテクノロジーだ BB回りにもSNCを採用。BB30方式を採用し、BB回りの高剛性化と軽量化を同時に達成しているBB回りにもSNCを採用。BB30方式を採用し、BB回りの高剛性化と軽量化を同時に達成している

シートチューブ回り。BMCの特徴でもあるiSCに似た形状がSNCで再現されているシートチューブ回り。BMCの特徴でもあるiSCに似た形状がSNCで再現されている シートポストはカーボン製の専用品。固定方式は通常のクランプ止め方式で、サドル高の調整が誰でも簡単にできる。SNCがシートクランプの役割も果たしている点にも注目だシートポストはカーボン製の専用品。固定方式は通常のクランプ止め方式で、サドル高の調整が誰でも簡単にできる。SNCがシートクランプの役割も果たしている点にも注目だ IMPECのヘッドチューブ回り。SNCは往年のクロモリフレームのラグのような役割を担うだけでなく、ケーブルをフレームに内蔵するための導入口の役割も果たしていることがわかるIMPECのヘッドチューブ回り。SNCは往年のクロモリフレームのラグのような役割を担うだけでなく、ケーブルをフレームに内蔵するための導入口の役割も果たしていることがわかる


チューブを機能を持った構造体にするLSW

SNCというテクノロジーをさらに効果的にするのが、IMPECのテクノロジーのもう一つの要であるLSWだ。

LSW(Load Specific Weave)とは、通称スターゲイト(米国の映画でドラマにもなった『スターゲイト』に登場する、同名の星間移動装置と似ていることに由来)と呼ばれる特殊な機械によって実現したテクノロジーだ。継ぎ目のないカーボンチューブを編んで強度の平均化を保つことや、繊維の密度を変えることで、様々な特性を持たせることを可能にしている。

IMPECには、スターゲイトと呼ばれる特殊な機械によって様々な特性のカーボンチューブを生み出すLSWというテクノロジーが投入されているIMPECには、スターゲイトと呼ばれる特殊な機械によって様々な特性のカーボンチューブを生み出すLSWというテクノロジーが投入されている シートチューブの後ろ側はリアホイールのカーブに沿ってアーチを描くようにえぐれている。しかしBB回りはたくましく、剛性アップをねらっていることがうかがえるシートチューブの後ろ側はリアホイールのカーブに沿ってアーチを描くようにえぐれている。しかしBB回りはたくましく、剛性アップをねらっていることがうかがえる フロントフォークのエンド部。SNCと同様にサーモプラスチックとカーボンで成形されているフロントフォークのエンド部。SNCと同様にサーモプラスチックとカーボンで成形されている

LSWにより、フレームの各チューブごとの特性に応じ、最適なチューブを製造し、剛性やパワー伝達率の向上を図れるというわけだ。たとえば、ダウンチューブのヘッドチューブ側は縦横の長さがほぼ同じ格段面、BB側は横長の扁平形状とすることでBB周りの剛性を高めている。また、チェーンステーは縦長の断面形状とし、駆動伝達のロスを低減している。

これにさらにSNCが加わることで、IMPECはレースマシンとしての最高峰の性能を実現しているのだ。IMPECとは「Impeccable(非の打ち所のない)」の意味だ。高級時計に代表される精密機械工業の国・スイスが生み出した“走る精密機械”といえよう。

フォークコラムは上1-1/8インチ、下1-1/4インチのテーパードタイプ。フロント回りの剛性も高いフォークコラムは上1-1/8インチ、下1-1/4インチのテーパードタイプ。フロント回りの剛性も高い
リアエンドもシートステーとチェーンステーをつなぐラグの役割を果たしているリアエンドもシートステーとチェーンステーをつなぐラグの役割を果たしている impecは「Impeccable(非の打ち所のない)」の名に恥じない、唯一無二の最高峰バイクだimpecは「Impeccable(非の打ち所のない)」の名に恥じない、唯一無二の最高峰バイクだ



BMC IMPEC

スペック

BMC IMPECBMC IMPEC
フレームIMPEC LSW カーボンチューブ+SNC+BB30
フォークIMPECオリジナル LSW/SNCカーボン
メインコンポシマノ・デュラエースDi2、デュラエース、アルテグラDi2、アルテグラ、
カンパニョーロ・スーパーレコード、スラム・レッドから選択可能
カラーチームレッド、ノーブル、ホワイト(2012年春発売予定)
価格1,155,000円(デュラエースDi2仕様)、556,500円(フレームセット)
※パーツやコンポーネントの仕様により価格は変わります
※Di2仕様フレームもあり


インプレッション

「剛性の塊。しかしすべてのバランスが完璧なバイク」 岩島啓太

CW:フレームの第一印象はいかがでしたか?

岩島:剛性が非常に高く、「これは踏み負けそう」と思いました(笑)。以前試乗したときにはもうちょっとマイルドに感じたので、プロ向きに剛性がアップしたのかもしれません。しっかり乗ってみたのは今回が初めてですが、荒れた路面でもはねるような感じがなく、非常に安定感があったのが印象的でした。ただ、振動吸収性が高いわけではなく、フレームの特性としては剛性が際立っていると思います。

三宅:見た目は奇抜ですが、乗り味は非常に素直だというのが第一印象。突出した特徴はなく、上りのシッティングもダンシングもソツなくこなします。「尖った部分がなく、平凡。見た目ほどの個性がない」と言えなくはないですが、レーダーチャートで言うと、あらゆる項目の点数がすべて高く、総合力を示す面積は大きい。“すべての性能を究極まで極めた超優等生”という感じですね。

まさに剛性の塊。パワー系のライダーのスプリントにも動じない強靱さがある(岩島)まさに剛性の塊。パワー系のライダーのスプリントにも動じない強靱さがある(岩島)
CW:IMPECの魅力は?

岩島:フレーム構造はSNCというシェルを使ったラグ構造ですが、製法上、品質のムラが出にくいという点で好感が持てますね。さらにIMPECの場合、コンピューターシミュレーションを使って非常に精密なモノ作りをしているので、そのあたりの良さも感じられます。プロ選手と同じ機材に乗れるという点も魅力ですね。

三宅:乗り心地や加速も、BMCのもうひとつのハイエンドモデルであるSLR01ほど尖った感じはなく、むしろ柔和な感じ。最近の軽量バイクにありがちなピーキーさがなく、下りを攻めても安心感がありました。エリートレーサーだけでなく、どんな人にも乗りやすいのではないでしょうか。きちっと作られている感じや精密さも感じられました。

CW:どういうシチュエーションに向いていますか?

岩島:用途はとにかくレース向け。特にパワー系のライダーに向いていると思います。高出力でスプリントしても、フレームがガッチリと受け止めてくれる安心感がありますからね。値段は高いですが、最高のレーシング機材だと思います。

三宅:非常にレーシーなバイクなので、推奨用途はもちろんレース。軽さを求めるならSLR01に分がありますが、実業団レースで6.8kgという車両の最低重量規定の縛りがあるならIMPECはいいと思います。


見た目はインパクトが強いが、その印象に反して意外に乗りやすい(三宅)見た目はインパクトが強いが、その印象に反して意外に乗りやすい(三宅)

「バランスを究極まで極めた優等生」 三宅和真

CW:BMCではIMPECとSLR01をともにフラッグシップモデルと見なしていますが、両者の違いはいかがでしたか? 性能の棲み分けはあるのでしょうか。

岩島:全般的に乗りやすいのは、乗り心地にある程度しなやかさが感じられるSLR01だと思います。IMPECはフレームそのものは超軽量ではありませんが、実業団選手で6.8kgを下回らないバイクが必要な人にはいいと思います。好みの軽量ホイールが使えるなど、パーツの選択肢が広がるのはメリットになると思います。

CW:ショップスタッフとしての目線で気になったポイントは?

三宅:ひとつは価格。完全受注生産というスペシャル感はあるにせよ、予算が潤沢にある人でないとなかなか手は出せないかもしれません。同じBMCのSLR01と比較しても、コストパフォーマンスの面ではちょっと不利ですね。非常にいいバイクではありますが…。もう1点はサイズ展開。一番小さなサイズで50サイズなので、小柄な男性や女性にはちょっと大きいかも。日本人向けに小さなサイズが充実するといいですね。
編集:シクロワイアード 提供:フタバ商店